第11話 就職の面接
『王立総合市民相談所』は、東側――住宅地区に近い方にある。
住宅地区に住んでいる市民が通いやすいように、ということなのだろう。
1階部分は窓口が7つ並んでいる。
窓口の向かい側には待合場所があって、長椅子がいくつか並んでいた。
窓口は全部埋まっていて、長椅子にも数十の人が順番待ちをしている。
今はちょうど昼ごはんの時間帯。
昼食を食べに行くために、こういう場所には人が集まらないはず。
それでここまで混んでるってことは……そういうことだ。
職員の人も大変だな。
窓口にいる大体の人は、戸籍関係の手続きだったり、海外に送る手紙なんかの発送手続きだったりをしている。
一方、60歳くらいのおじさんが、窓口の役員相手に怒鳴っていたりもする。
あれ、大丈夫かな。
ここの国王政だから、あんなふうに暴れたりしてたら……。
あ、おじさん連れていかれた。
あーあ、言わんこっちゃない。
滑稽滑稽。
少し興味のある風景だったけど、今日は1階部分には要はない。
本来なら、ロステルに来たことによる戸籍の手続きをしないといけないんだろう。
ただ、それはクレ姉が代わりにやってくれるって言っていた。
やっぱりクレ姉は頼りになるな。
だから、今日用があるのは2階部分。
王務員の就職用の窓口だ。
2階にあるのは個室型の窓口。
ちょっとソワソワするな。
ノックは3回。
クレ姉によると、これはどこの国でも常識らしい。
「はい、どうぞ」
という返事が返ってきた。
う……男だ。
しかも中年っぽい声。
なんだか嫌な予感がする……。
……。
入るしかないか……。
「失礼します」
室内は、テーブルが1つとイスが2つ。
それと観葉植物が置いてあるだけの、簡素な空間。
そして……
「ほっほー! よう来てくれたねえ、おじょっちゃん! はぁはぁ、今日は何用かァい!?」
食い入るように絡んでくる、興奮したおじさん。
うっわこいつが面接官!?
どうしよ、こんなやつと二人きりなんて嫌すぎるんだけど。
さわるなさわるなさわるな!
気持ち悪い!
既に帰りたい……。
「こんにちは。本日は王務員の採用試験に来ました」
はあ……なんでボクの口からはきれいな言葉しかでないんだよ……。
もう嫌……。
そんでおじさんの嬉しそうな顔。
普通に答えただけなのになんでそんな顔するかなぁ。
意味が分からない。
「はぁ、はぁ、具体的には、どの職に就きたいんだい!?」
「王立図書館で、司書の補佐のような形で雇用していただきたいのです」
「なるほど、はあはあ、そいつはおもしれェ!」
鼻息がうざい!
かかってるかかってる!
汚い!
「はぁはぁ、おじさんに任せときなァ! 全部うまくやっててやるよォ!」
「そうですか。ありがとうございます」
「うっほほーい!! じゃ、じゃあ、こっちのだァいじな書類に、はぁはぁ、いろいろ書いてってねェ」
いちいち喋り方がうざったいおじさんは置いとくとして。
書かないといけないのが、氏名、住所、年齢……それと、志望動機と希望給与?
最初の方は、クレ姉が言ってた通りに書けばいいよね。
プリムラ、ウエストチェビオット3区の5の6番地に、9歳っと。
てか今更だけど、ボク見た目9歳なんだな……。
身長も低い方だし……。
この体、嫌になるんだよな。
男に群がられるから。
目の前のこいつみたいに……。
こらこら、足を見るな足を。
ジロジロ見てくれるなよ、このおじい……。
で、なんだっけ。志望理由と希望給与?
希望理由については、ここに来るまでに考えてたことを書くだけでいいよね。
本が好きで、文字も読めるし計算もできるから、この能力を王に捧げたいと思ったから、と。
本が好きなのは本音だけど、もちろん最後はデタラメだ。
王にこの能力を捧げたい、なんて嘘千万。
どうせ王もロリコンなんでしょ。
そんなやつに人生を捧げてたまるか。
まあでも、こういう建前は書くに越したことはない。
本当のところは、お金が稼げそうで、情報収集もできそうだから……っていうのは、ちょっと赤裸々すぎるからね。
さすがにそこまでは書けない。
で、希望給与か。
最低ノルマは60万ライト。
でもそれは最低でもだから、100万ライトは欲しい。
シュリ、アイリスと合わせて100万となると、ボクは50万くらい稼いどいた方が良いかな。
飲食業は月給安いし。
うーん、でもこういうのは吹っ掛けるに限るか。
月収150万ライト、と。
どうせ希望金額より、結局手に入る給料は下がるんだしね。
これくらい吹っ掛けても罰は当たらないでしょ。
「できました。念のため、確認をお願いします」
できた書類をおじさんに渡す。
どうやらボクが記入している間は、ボクの足と腰と首とをじろじろ見ていたらしい。
いい趣味してるなこの野郎。
おじさんは書類を受け取ると、それをなめるように見た。
鼻息も荒い。
最後まで確認すると、相槌を1つ。
「はぁはぁ、きれいな字だね、おじょっちゃん! よォし、おじさんが、何を捨ててもこの書類を通したらァ! 行ってくるけェなァ! まってろォ!」
バァン!
ドタドタドタ!
おじさんは乱暴にドアを開閉し、奥へと消えていった。
……このおじさんを経由して、本当に書類審査に通るのかな……?
おじさんが気持ち悪いせいで、審査に落ちるとか嫌なんだけど……。
……でも、待つしかな――。
ドタドタドタ!
あれ、なんか足音が……。
バァン!
「もどったよォ! はぁはぁ」
勢いよく開け放たれた扉の前にいたのは、やはりあの気持ち悪いおじさん。
さっきより鼻息が荒くてキモい。
「えっと、どうされたのですか?」
「書類、渡してきたよォ!」
え、早くない!?
アイリスが1回起きてから、二度寝に入るまでの時間くらい短かったよ!?
あ、いやでも、渡すだけならそれくらい短い時間でも良いのか。
10秒もなかった気がするけど。
「それで、書類通りそうですか?」
「おゥ、もう通ったぞォ!」
「え!?」
あ、やば、声に出ちゃった。
「はあはあはあはあ! 俺はそのかんわいいいい悲鳴が聞けただけで満足だよォ!」
「そうですか。ありがとうございました」
「はぁはぁ、明日朝、王立図書館のディアンという職員と話してくれェ。私服でいい。気難しいやつだからなァ、それだけは気ィつけろよォ!
それと、ここにもまた来てくれよォ! じゃあなァ!」
二度と来るかよこんなとこ。
「ボクの方は、そんな感じかな」
「大変だったねー……」
なんか、どっと疲れた。
これだからロリコンと話すのは嫌なんだよ……。
……でも、よくよく考えれば、あのおじさん意外といい人だったのかもな。
態度こそ気持ち悪かったけど、いま考えると、仕事はしっかりしてくれた。
ちょっと吹っ掛けたつもりでも何も文句を言わなかったし、書類の審査も一瞬で通してくれた。
それはもう、10秒もかからず。
『何を捨てても通す』的なことも言ってたし、やってることは全部ボクのためだったんだよな……。
こっちが一方的に悪感情を抱くのが、失礼に感じて来るくらいだけど……。
うん、深く考えないようにしよう。
おじさんは気持ち悪かったけど、書類は通った。
明日、王立図書館に行って、ディアンって人と話す。
それだけだ。
気難しい人って言ってたから、不安じゃないと言えば嘘になるけど……。
こういうことを話そう、みたいなことは事前に決めといたほうが良いかもしれない。
……奴隷生活から解放されて、あっという間にここまで来てしまった。
明日はボク達3人の初仕事だ。
なんだかんだ言って、今この忙しい時間が楽しく感じている自分がいる。
まだこれからだっていうときに、楽しいなんて感情を抱くのは良くないかもしれない。
けど、あの奴隷生活に比べると楽しくて。
この時間がかけがえのないもののように思える。
……なんて思うのは、仲間の少女達の死に、気持ちの整理がついてきたからなのかも知れない。
そうだといいな。
明日からの一週間で、なんとか仕事を手に入れるんだ。
あの子達に恥じないようにも。




