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『転生したのに転移で地球に戻っちゃった?! しかも何故43歳?! 王国の魔法革命児 〜爆鳴の鬼と呼ばれた男Ⅱ』  作者: だい
宮司になった社畜、魔王と呼ばれだす

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第83話 安全のしおり

光の門をくぐると、目の前に見慣れた景色が広がった。


神子神社の境内だった。朱色の鳥居も、拝殿の屋根も、ケントたちが出て行った時のままだった。


ケントたちの後ろから、移住者たちが次々と門をくぐってくる。境内だけでは到底収まりきらないので、ちえは神社の裏山を丸ごと切り開いて、十八万人が降り立てる広場を用意していた。門から溢れ出した人の波は、境内から参道へ、参道から裏山の広場へと、途切れることなく流れていった。


神社の周りは、とんでもないことになっていた。


山の斜面という斜面に、観光客と報道陣が詰めかけていた。空には、何十機ものヘリコプターが旋回している。プロペラの音が、腹に響くほどうるさかった。


白龍が、ケントの頭の上で縮こまった。


「ケ、ケント殿! あれは何でございますか! 鉄の鳥が、群れをなして飛んでおります!」


「ヘリコプターだ。お前を撮りに来てんだよ」


「撮る……? 喰らうのではなく……?」


白龍はそれでも怖いのか、翼を畳んで体を小さくしていた。十メートルの巨体が縮こまっても、大して小さくはならなかった。


◇


移住者たちは、広場に降り立つと、きょろきょろと周りを見回していた。


最初に気づいたのは、エルフの年長者だった。


「……ねえ。何か、空気が薄くない?」


「息が苦しいわけじゃないんだけど……スカスカする感じ」


獣人たちも、鼻をひくひくさせて首を傾げていた。ノピアの空気には、魔素がたっぷりと含まれていた。それが当たり前だった者たちにとって、地球の空気は、味のない水のように感じられたのだ。


若いエルフの一人が、何の気なしに指を弾いた。


ノピアでは、指先で小さな火を起こす程度の、ただの癖だった。外に出た魔法は、魔素にぶつかってすぐに消えてしまう。だから、誰も気にしたことがなかった。


ところが、指先から飛び出した火の玉は、消えなかった。


火の玉はまっすぐに飛んでいって、参道の脇に立っていた石の灯篭に命中した。どかん、と大きな音がして、灯篭が粉々に吹き飛んだ。


広場が、静まり返った。


指を弾いたエルフは、自分の指を見つめたまま固まっていた。


「……え? 今の、私?」


ケントが溜め息をついて、前に出た。


「全員、動くな。手も上げるな。指も弾くな」


ケントは、白龍に頼んで声を広場全体に届けさせた。


「いいか。こっちの世界は魔素が薄い。だから、向こうじゃすぐに消えてた魔法が、消えずにまっすぐ飛んでいく。お前らが向こうでやってた癖みたいなもんでも、こっちじゃ立派な攻撃魔法になる」


移住者たちが、ざわざわと顔を見合わせた。


「つまりだ。お前ら全員、地球に来て初めて、本物の魔法が使えるようになったってことだ。……その代わり、気をつけないと、今みたいに何かを吹っ飛ばす」


灯篭を吹き飛ばしたエルフが、青い顔で縮こまった。ケントは、そのエルフに手をひらひらと振った。


「怒ってねえよ。説明しなかった俺が悪い。……ちえ、灯篭一個、弁償な」


境内の方から、ちえの「経費で落としますー!」という声が返ってきた。


◇


「というわけで、今から安全の説明をする。ヘル、頼む」


ケントがそう言うと、境内の方からヘルパンギーナが、のそのそと歩いてきた。まだ足が痺れているのか、少しだけ歩き方がぎこちない。


「まったく、人使いの荒い……」


ヘルパンギーナがぶつぶつ言いながら手をかざすと、広場の上空に、巨大な画面が浮かび上がった。十八万人の誰からでも見えるくらいの大きさだった。


画面に映ったのは、制服姿のセリーナとレナだった。紺色の制服に、首元にはスカーフを巻いている。地球の飛行機で、客室乗務員が着ているものとそっくりだった。


二人は画面の中で並んで立つと、にっこりと笑って頭を下げた。


「皆様、本日は真龍神子国へようこそお越しくださいました」


セリーナが、落ち着いた声で話し始めた。


「これより、地球での魔法の使い方について、ご説明いたします」


レナが、手のひらを上に向けて、前に差し出した。


「地球では、魔法がまっすぐ遠くまで飛んでいきます。決められた場所以外では、絶対に魔法を使わないでくださいねぇ」


レナはそう言って、手のひらから小さな火の玉を出してみせた。火の玉はすうっと飛んでいって、画面の外へ消えた。少し遅れて、遠くの方からどかんと音が聞こえた。


「……このように、なりますので」


セリーナが、何事もなかったように続けた。


「練習は、各地区に用意された練習場でお願いいたします」


画面が切り替わって、今度はザラが映った。ザラは、制服ではなくいつもの格好のまま、大きな看板を両手で掲げていた。看板には、太い字で『練習はここで』と書かれている。ザラは無言で、看板をぐいっと前に突き出した。


広場のあちこちで、くすくすと笑い声が上がった。


再び画面がセリーナとレナに戻った。二人は、客室乗務員がやるように、両手を揃えて広場の各方向を順番に指し示した。


「なお、獣人の皆様につきましては」


セリーナがそう言うと、広場の獣人たちが、一斉に耳をぴんと立てた。


「皆様も、魔法をお使いになれます」


獣人たちが、ざわめいた。そんなはずはない、という顔をしている者がほとんどだった。


ケントが、白龍の声で付け足した。


「獣人の連中は、使い方にちょっとコツがいる。字が読めない奴でも分かるように、絵入りの手引き書を作って配るから、今は試すな。部屋に着いてから、練習場でやれ。いいな」


獣人たちの中で、ミーナが自分の手のひらをじっと見つめていた。ケントの袖をつかんだまま、黙って手のひらを見つめ続けていた。


その後ろで、ドワーフの族長が、腕を組んで鼻を鳴らした。


「ふん。魔法など要らん。我らには拳がある」


周りのドワーフたちも、「そうだ」「拳だ」と頷いた。ただ一人、エリンだけが、何も言わずに画面のザラを見上げていた。


画面の中で、セリーナとレナがもう一度並んで、深々と頭を下げた。


「それでは皆様、地球での新しい暮らしを、どうぞお楽しみくださいませ」


二人が顔を上げた瞬間、山の斜面を埋め尽くした観光客たちから、割れんばかりの拍手が起きた。上空のヘリコプターが、慌てたように高度を下げて、画面に寄っていく。


ヘルパンギーナは、手をかざしたまま、げんなりした顔でケントを見た。


「……のう、ケント。これは我がやる必要があったのか」


「お前が一番でかい画面出せるだろ」


「我は真龍じゃぞ。映写機ではない」


ヘルパンギーナは、ぶつぶつ言いながらも、拍手が鳴り止むまで画面を消さずにいた。

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