↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『転生したのに転移で地球に戻っちゃった?! しかも何故43歳?! 王国の魔法革命児 〜爆鳴の鬼と呼ばれた男Ⅱ』  作者: だい
宮司になった社畜、魔王と呼ばれだす

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
68/75

第67話:黒猫の帰還と、エルフの秘薬

ミーナが姿を消してから三日目の昼過ぎ、ケントはようやく部屋から這い出してきた。


ロビーのソファに沈み込み、ナルが作ってくれたスープをすする。まだ顔色は悪く、スプーンを持つ手も少し震えていた。


向かいのテーブルでは、同じくぐったりとしたレナが、頬をテーブルに押しつけて突っ伏している。


「……腰が……腰が……」


その横では、子供の姿に戻ったシューメルが、肌をつやつやさせながら、上機嫌で果物をかじっていた。


「あら、人間って本当に体力がないのね」


「……お前が異常なんだよ」


ケントがかすれた声で言い返した時、窓からスーが飛び込んできた。


「ケント! ミーナ、倉から出たよ!」


「本当か!?」


「うん。熱もすっかり下がってた。着る服がなかったから、セリーナの服を一着持ってってあげたの。もうすぐこっちに来ると思う」


ケントは胸をなで下ろした。


「そうか……良かった」


だが、スーはなぜか口元をむずむずさせて、ケントの顔をじっと見ている。


「なんだよ」


「ふふっ。ケント、たぶんびっくりすると思うよ」


スーはそれだけ言うと、それ以上は何も教えてくれなかった。


しばらくして、ホテルの扉が静かに開いた。


入ってきたのは、見たことのない女だった。艶のある黒髪を肩の下まで伸ばし、頭には黒い猫耳がぴんと立っている。腰から伸びた長い尻尾が、歩くたびにゆらりと揺れていた。セリーナの服をすらりと着こなした、二十歳くらいの細身の美女だった。


ロビーで食事をしていた獣人たちが、思わず手を止めて見とれている。


ケントはスプーンを置いて、慌てて立ち上がった。寝癖のついた頭を手で押さえつけながら、愛想笑いを浮かべる。


「あ、あの……どちら様で? ここ、今ちょっと貸し切りでして……」


だらしなく鼻の下を伸ばしかけたケントを見て、女は少しむっとしたように頬をふくらませた。


「……ご主人様、ひどいです」


その声と、拗ねた時にぺたんと伏せる耳の形には、見覚えがあった。


「ミ、ミーナ!?」


ミーナはこくりと頷くと、ケントの前まで歩いてきて、少し照れたように笑った。


「はい。ちゃんと大人になりました」


「お、おう……いや、すげえな、本当に……」


ケントがしどろもどろになっていると、ミーナはそっと声を落とした。


「屋根の上に、ずっと白竜様とスー様がいてくださいましたよね」


「……気づいてたのか」


「猫の耳は、いいんですよ」


ミーナは小さく笑った。


「ご主人様が見張らせてくれたんでしょう? 熱でずっと苦しかったけど、一人じゃないって分かってたから、怖くなかったです。……ありがとうございました」


「いや、まあ、その……」


ケントは照れくさそうに頭をかいて、目を逸らした。


そこへ、騒ぎを聞きつけたセリーナとザラがやってきた。


セリーナはミーナを上から下まで眺めると、額を押さえて溜め息をついた。


「……本当に大人になったのね。私の服、ちょっと丈が足りないじゃない」


ザラは遠慮なくミーナの背中をバシバシ叩いて、大声で笑った。


「いい女になったじゃないか! こりゃ旦那も大変だね!」


テーブルに突っ伏していたレナは、がばっと顔を上げた。そして、収納からウサギの耳がついたカチューシャを取り出し、自分の頭に装着した。


「わ、私だって負けませんからねっ!」


勢いよく立ち上がろうとしたが、腰が抜けていて立ち上がれず、そのままずるずるとソファに沈んでいった。


シューメルは果物をかじりながら、楽しそうにミーナを眺めている。


「あら、可愛い子。番を見つけた獣人って、匂いが変わるのよねえ」


ミーナは、そんな周りの騒ぎには構わなかった。ケントの袖をそっとつまむと、上目遣いで見上げる。


「ご主人様。私、ちゃんと大人になりました」


「お、おう。さっき聞いた」


「……だから、今夜は私の番ですよね?」


ケントの顔から、さっと血の気が引いた。


昨夜の記憶が一気によみがえり、膝ががくがくと震え出す。


「い、いや、ミーナ、それはだな、その……」


その時、窓から白竜が転がり込んできた。


「我が主ーっ! 大変であります!」


「どうした!」


「街の東門に、武装した傭兵どもが五十人ほど押し寄せているであります! バーデン侯爵の紋章入りの旗を掲げているであります!」


ロビーの空気が、一気に引き締まった。ザラは大剣に手をかけ、セリーナも双剣の柄を握る。


そしてケントは、明らかにほっとした顔で、勢いよく立ち上がった。


「ま、まずはアイツらの相手だ! ミーナ、残念だけど今日は無理だな! 戦だからな! 仕方ないよな!」


誰よりも早く玄関へ向かおうとするケントの背中に、セリーナとザラの冷たい視線が突き刺さった。


すると、シューメルがひょいと椅子から降りて、ケントの前に回り込んだ。そして、怪しげな緑色の液体が入った小瓶を、ケントの手にぽんと握らせた。


「ゴメンゴメン、昨日はやりすぎちゃった。その子の相手するなら、これ飲んどいてねー」


ケントは小瓶を見つめて、顔を引きつらせた。


「……おい、これ、まさか獣人を無理やり変化させる薬じゃないだろうな!?」


「失礼ね。エルフ秘伝の精力剤よ。効き目は保証するわ」


シューメルはひらひらと手を振って、レナの隣のソファに戻っていった。


ケントは小瓶をポケットに押し込むと、ミーナの視線から逃げるように、ホテルを飛び出した。


◇


東門へ走りながら、ケントは心の中で必死に祈っていた。


(頼む……! 頼むから、傭兵の中にとんでもない強敵がいてくれ……! ちょっとでいい、腕の一本でも怪我すれば、今夜は安静にしてなきゃいけないって言い訳が立つ……! 頼む、神様、ヘル様……!)


真龍の分体を連れている男とは思えない、情けない祈りだった。


ところが、東門が見えてきたところで、ケントの足が止まった。


門の前には、すでに傭兵たちが転がっていた。立っている者は一人もいない。バーデン侯爵の紋章入りの旗は、根元からへし折られて泥にまみれている。


その真ん中で、返り血を浴びたザラが、大剣を肩に担いで振り返った。いつの間にか、ケントより先に飛び出していたらしい。


「旦那ー! こいつら弱い弱い! 話にならないよ!」


ザラはそう言って、楽しそうに嗤った。


その隣では、エリンがどこから持ち出したのか、トゲだらけの巨大な金棒を地面に突き立てて、不満そうに鼻を鳴らしている。


「準備運動にもならんな。皇国の傭兵というのは、この程度か」


少し離れた門の脇では、セリーナが縛り上げた傭兵を何人か地面に座らせて、静かに話を聞いていた。その足元には、傭兵団の頭らしい男の首が転がっている。


「それで? 侯爵はあなたたちに、何をしろって言ったのかしら」


セリーナは双剣の先で、転がった首を傭兵たちの方へ軽く押しやった。生き残りの傭兵たちは真っ青になって、先を争うように喋り始めた。


「…………」


ケントは門の前で、立ち尽くした。


強敵どころか、自分の出番すら一つも残っていなかった。


ちなみにレナは、腰が抜けたまま、ホテルのソファで寝ている。


背後から、軽い足音が近づいてきた。振り返ると、追いかけてきたミーナが、黒い尻尾をゆらゆらと揺らしながら、にっこりと笑っていた。


「ご主人様、もう終わったみたいですね」


「……そう、みたいだな」


「じゃあ、今夜は大丈夫ですよね?」


ケントは黙って、ポケットの中の小瓶を握りしめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。