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『転生したのに転移で地球に戻っちゃった?! しかも何故43歳?! 王国の魔法革命児 〜爆鳴の鬼と呼ばれた男Ⅱ』  作者: だい
宮司になった社畜、魔王と呼ばれだす

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第61話 怒りの鉄槌と、歪んだ門前

朝の冷たい空気が、肌を刺すように痛かった。

石畳の路面には薄っすらと朝露が降り、踏みしめるたびに湿った靴音が静かな街に響く。


目指すは領主館。この街を裏から牛耳り、獣人たちを酷使している元凶――領主コネグの屋敷だ。


「みんな、油断するなよ」


俺の言葉に、後ろを歩くミーナ、スー、ザラがそれぞれ引き締まった顔で頷く。


大通りを進む俺たちの遠巻きには、何事かと気になった街の獣人たちが、建物の影や路地の奥から恐る恐るこちらを伺っていた。


まだ彼らは解放されたわけではない。ただ、異様な殺気を纏って領主館へと向かう俺たちの様子を、希望と不安が入り混じった目で見つめているのだ。


だが、領主館へと向かう大通りの中ほどまで差し掛かった時だった。


「待て! 止まれ!!」


不意に怒号が上がり、豪奢な門構えの屋敷から、武装した男たちが一斉に飛び出してきた。

二十人近い私兵を従え、その後ろから上質な服を着た肥満体の男――見るからに権力を笠に着た悪徳貴族が歩み出てくる。


「何事かと思えば、薄汚い獣どもを引き連れて我が屋敷の前を練り歩くとはな! 生意気にも我らに仇名す愚か者どもめ、叩き潰してしまえ!」


貴族の男が下品な笑みを浮かべて指示を出すと、私兵たちがニヤついた顔で武器を構えて襲いかかってきた。


「やれやれ……向こうから名乗り出てくれるなら好都合だ」


俺がため息をつく間もなく、ザラが一歩前へ出た。

閃光のような一閃。

一瞬で先頭の私兵数人の首が叩き落とされ、男たちが地面に転がる。

俺も間髪入れずに極小の指向性爆鳴気を放ち、残りの私兵たちをまとめて吹き飛ばした。


「ひ、ひぃっ!? な、なんだこいつらは!?」


腰を抜かした悪徳貴族が、這いずるようにして自分の屋敷へと逃げ込んでいく。


「逃がすかよ。中に入るぞ」


俺たちは屋敷の大きな扉を蹴り開け、中へと足を踏み入れる。

そして、屋敷の奥――地下へと続く階段を降りた先にあった部屋で、その惨劇を目にすることになった。


「……うそ、でしょ……?」


ミーナが絶句し、思わず口元を両手で覆う。

薄暗くカビ臭い部屋の床に、幼い子供と男性の獣人が息絶えて転がっていた。そしてその傍らには、見るも無惨な拷問の跡が残る獣人の女性が、かすかな息を吐きながら倒れていたのだ。


「スー! 早く、回復魔法を!」


俺の要請に、スーがすぐさま駆け寄る。

スーは真剣な表情で両手をかざし、温かな緑色の治癒光を女性の身体全体へと注ぎ込んだ。


スーの魔法は完璧だった。


裂けた皮膚が綺麗に塞がり、不自然に曲がっていた骨が元通りに接合されていく。

全身を覆っていた生々しい傷や火傷の跡は影も形もなく消え去り、肉体的な損傷は完全に治癒した。


だが――女性がうっすらと目を開けた瞬間、その瞳に光は宿っていなかった。


「あ……ぁ……」


身体は傷一つない健康な状態に戻っているのに、彼女の瞳は焦点を結ばず、まるで虚無を見つめているようだった。


度重なる凄惨な虐待と、目の前で夫と我が子を殺されたあまりのショックに、彼女の心は完全に壊れてしまっていたのだ。


「そんな……お姉さん? わかる? もう大丈夫だよ……!」


ミーナが彼女の手を握りしめ、必死に声をかける。

だが、女性の唇から漏れ出たのは、血の気の引いた掠れ声だった。


『……おねがい……ころして……。かぞくの……もとへ……いかせて……』


心が出せる唯一の拒絶。

死という名の解放だけを、彼女の魂は求めていた。


「ミーナ……手を離してやりな」


俺は静かにと言った。ミーナが涙を溢れさせながら、悔しそうに唇を噛み締めて手を離す。


俺は女性の前に片膝をつき、その頭にそっと手を置いた。


「……すまない。苦しかったな」


俺は土魔法を、静かに彼女の脳幹へと流し込んだ。


女性の瞳からすっと力が抜け、まるで穏やかな眠りにつくように、静かに息を引き取った。

すでに壊れていた心に添うような、静かな介錯だった。


「……ふざけやがって」


胸の奥から、ドロリとした重苦しい怒りが沸き上がってくる。


この国では獣人を物のように使い捨てるのが「普通」らしい。

だが、こんな胸糞悪い虐待を行う奴らを、俺は絶対に許さない。


俺は立ち上がり、屋敷の廊下へ戻った。怯えて物陰に隠れていたさっきの悪徳貴族が、俺の姿を見て震え上がる。


「お、おい! 命だけは助けて――」


「消えろ」


詠唱も、気取った技名もいらない。

俺はただ、貴族の男の頭を極小の爆鳴気で吹き飛ばした。

俺は外に出てから、上向きに爆鳴気をセットして圧縮点火する。



ズドォォォォォンッ!!!!


地響きとともに凄まじい衝撃波が吹き荒れ、悪徳貴族の豪邸は家人もろとも一瞬間で粉砕された。豪奢な屋敷が爆風とともに吹き飛び、広大な瓦礫の山へと変わり果てる。


外で見守っていた街の獣人たちが、その圧倒的な破壊力を前に息を呑むのが分かった。


「次だ。コネグのところへ行くぞ」


俺は溢れる怒りをそのまま足に込め、領主館へと向かって突き進んだ。


そして俺たちは、頑丈な外壁に囲まれたコネグ邸の巨大な鉄門の前へと辿り着いた。


「そこまでだ! これ以上進むことは許さん!」


門を固めていた警備兵たちが、必死の様相で槍や剣を構えて立ち塞がる。

だが、その警備兵たちの姿を見た瞬間、俺も、後ろのミーナたちも息を呑んだ。


立ち塞がっている衛兵たちのほとんどが――獣人だったのだ。


ガタイのいい筋肉質の男性獣人たち。彼らには怪我も拷問の痕もなく、手入れされた重厚な鎧を身につけている。だが、その顔は恐怖で青ざめ、手に持った槍の穂先はカタカタと小さく震えていた。


「な……なんで獣人が、領主の護衛をしてるの……!?」


ミーナが困惑した声をあげる。

すると、通りから遠巻きに様子を見ていた街の獣人たちから、怒りの混じった罵声が飛んだ。


「裏切り者どもが! 貴族の犬になり下がりやがったか!」

「同胞がどんな目に遭ってきたか知らねえわけじゃねえだろ!」

「どけ! その悪徳領主を引っ張り出せ!」


容赦のない同胞からの罵声。

それを浴びた獣人衛兵のひとりが、唇を噛み締め、血が滲むほど強く槍を握り直した。

彼の膝は、俺たちに対する恐怖と罵声への屈辱で激しく震えている。逃げ出したいはずだった。投降したいはずだった。


だが、彼は一歩も引かなかった。


「……引き下がれるかよ……!」


獣人衛兵が、血の滲むような叫び声をあげる。


「俺たちがここを通したら……屋敷の中にいるみんなはどうなる! コネグ様はどうなるんだ! 俺たちの命に代えても、ここから先へは一歩たりとも通さん!!」


その叫びには、命を投げ打つ覚悟が宿っていた。

無理やり従わされている顔ではない。恐怖に怯えながらも、後ろにいる「何か」を守るために、死を覚悟して立ちふさがっている顔だった。


「……なんなんだ、こいつら?」


俺の胸の中に、強烈な違和感が渦巻き始める。

悪徳貴族を成敗し、虐待される獣人を助けに来たはずだ。

なのに、なぜ目の前の獣人たちが、命がけで領主を守ろうとしているんだ?


緊張が極限まで高まり、いつ戦闘が始まってもおかしくないその時――。


「そこまでにしなさい。皆、武器を下ろしなさい」


屋敷の重厚な扉が開き、落ち着いた老人の声が門前へ響き渡った。


現れたのは、隙なく執事服を着こなした一人の老爺だった。白髪を綺麗に整え、深い皺の刻まれた顔には、覚悟を決めたような静かな笑みが浮かんでいる。


「ジョーンズ様……! しかし!」


「良いのです。彼らがここまで辿り着いたということは、もはや逃れられぬということ。……どうぞ、中へお進みください」


ジョーンズと呼ばれた老家令は、静かに深々と頭を下げた。そして、震える獣人衛兵たちを制しながら、自らの手で重い鉄門を開けたのだ。


俺たちは眉をひそめながらも油断なく武器を構え、ジョーンズの導くままに門をくぐり、屋敷の正面玄関前にある広い庭へと踏み込んだ。


そして、俺は息を呑んだ。


屋敷の玄関前――そこに広がっていたのは、俺が想像していた「戦闘の配置」でも「悲鳴を上げて逃げ惑う人々」でもなかった。


数十人におよぶ屋敷の使用人たち。掃除や料理の服を着た者、そして綺麗なお仕着せを着せられた幼い獣人の子供たちまでが、整然と列をなしていた。

そして彼らは、俺たちが庭に入ってきた瞬間、一斉に地面に膝をつき、深く頭を垂れたのだ。


誰一人として逃げようとせず、誰一人として叫ばず、ただ静かに、揃って平伏していた。


「……え?」


あまりにも予想外すぎる光景に、俺の口から間抜けた声が漏れた。

さっきまで胸の中で燃え盛っていた怒りが、急速に冷ややかな困惑へと塗り替えられていくのを、俺はただ呆然と感じていた。

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