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『転生したのに転移で地球に戻っちゃった?! しかも何故43歳?! 王国の魔法革命児 〜爆鳴の鬼と呼ばれた男Ⅱ』  作者: だい
宮司になった社畜、魔王と呼ばれだす

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第60話: 放送事故と特区構想

大通りを埋め尽くす異形と毛並みの群れ。マゼンタホテルの正面に立ち塞がるのは、ざっと目測を立てても数百を超える獣人たちだ。


押し殺した吐息と熱気が夜の冷気を塗りつぶし、重苦しい沈黙となってケントたちの肌を叩く。ホテルの二階窓から覗く支配人の顔は完全に引きつり、泡を吹いて失神しそうな有様である。


「……おい白竜」


ケントの低く短い呼びかけに、レナの指先でミチミチと締め上げられている白竜が、涙目で必死に羽を羽ばたかせる。


「ひ、ひぃん! わかっている、声だな!? 街全体に通せば良いのであろう!?」


白い鱗から淡い光の波紋が拡散し、街の空間そのものを共鳴させる魔法陣が展開されていく。ケントは喉の奥を一度鳴らし、群衆の視線を正面から受け止めた。


『——ホテル前に集まった奴らに言っておく。俺は別に、奴隷解放運動家でも何でもねぇ』


街全体へ朗々と響き渡るケントの声。その第一声に、ホテル前に詰めかけた獣人たちの間に冷ややかな失望の気が伝染していく。肩を落とし、うつむく者がポロポロと目につき始める。


『奴隷だからこそ、どうにか食いぶちを繋げて生きられてる奴もいるだろうよ。他国の文化や制度に、いちいち首を突っ込む趣味はねぇんだ』


静まり返る群衆。失望は次第に諦念へと変わり、去ろうと足を動かす者すら現れかける。だが、ケントの言葉はそこで終わらない。


『——だがな、それと不当な虐待や尊厳の蹂躙は別問題だ。俺の下にも獣人奴隷がいるが、メシも食わせるし服も着せる。人間としての最低限の扱いすら保障しねぇような真似は許さねえ』


ケントの鋭い眼光が、群衆の奥、暗がりから様子を窺う人間たちの気配を射貫く。


『良く聞け。いまここに集まっている者のうち、ただ解放されたいだけで、主人からそれなりの待遇を与えられている連中は、さっさと自分の家に帰れ』


ざわ、と獣人たちの間に激しい動揺が走る。


『だが……まともな飯も与えられず、不法な暴力を振るわれ、人としての尊厳を踏みにじられている奴は、そのままホテルに残れ。俺がそのクソみたいな主人どもから、キチンと『落とし前』を取ってやる』


一拍の置きを挟み、ケントの声に底知れぬ冷気が混じる。


『おい、街の主人連中。聞こえているか? お前たちが奴隷にしてきた仕打ちと同じ目にあわせてやるから、首を洗って待っていろ。……あと、自分の奴隷がここへ来るのを力づくで阻んだ奴らは、明日以降生きていられると思うなよ』


脅迫以外の何物でもない宣言が、夜の街の隅々まで行き渡る。


静寂の中、ホテル前の群衆の中から、数人の犬耳や猫耳の獣人たちが静かに列を離れ始めた。逃げ出すわけでもなく、どこか穏やかな顔つきでケントへ向けて深く頭を下げ、元いた家へと歩みを進めていく。


「……そこのアンタ」


ケントは立ち去ろうとした年配の犬獣人に声をかけた。


「戻るのか? ここに残れば自由にしてやれるかもしれんぞ」


年配の獣人は振り返り、噛みしめるように温かい笑みを浮かべる。


「いいえ、お心遣い感謝いたします。私の主人は、先代のころから私たち家族を身内のように扱ってくださるお方なのです。私だけでなく、この幼い娘にまで字や計算を教えてくださいました」


傍らの小さな少女の手を優しく握りしめ、言葉を継ぐ。


「ここへ来たのは興味半分と……主人が『もし本当にあの人間たちが街を変えるなら、お前の未来のために見ておいで』と背中を押してくれたからです。あのお方は常々言っておられました。『本当は奴隷制など段階的に失くすべきだ。だが、受け皿のないまま放り出せば、野良犬のように野垂れ死にするだけだ』と……」


「なるほどな……」


ケントは顎を擦り、深く納得する。


自由という名の放棄。生きる術も職もない者をただ野に放つのは、優しさではなく単なる無責任だ。その主人は、制度の限界と現実の厳しさを誰よりも理解していたのだろう。


話を聞けば、戻っていく獣人たちの多くが似たような境遇だった。ケントたちの行動に希望を抱きつつも、現在の主人に恩義を感じている者も一定数存在する。


去っていく背中を見送りながら、ケントはぽつりと呟く。


「……なあセリーナ」

「なに、ケント?」

「俺、この街獲るわ」


唐突な開城宣言に、背後の女性陣からドッと軽やかな笑いが漏れ出す。


「ハハッ、だと思ったよ旦那!」

「まあ、ケント様ならそうおっしゃると思いました」

「で? 獲ったあと、どうするつもりなの?」


あきれ顔のセリーナに、ケントは腕を組んで不敵に口角を上げた。


「この街においてのみ、不当な奴隷を認めず、自由歩行を解禁する。……名付けて『獣人特区』だ!」

「つまり……この街の中限定で、獣人が主人なしで歩いていても咎められないようにするってことね?」

「ああ。さらに獣人にちゃんとした仕事を与えて、給料を払うことも義務付ける。だがな、主人側だって金を払って買い取った資産だ。全額無料で解放しろなんて無茶を言えば経済が死ぬ」


ケントの頭の中で、現実的な算段が素早く組み上がっていく。


「今いる奴隷は公定の奴隷商にキチンと査定をさせて、奴隷として働いた年数に応じて買い取り額を割り引かせる。そのうえで、本人が働いて年単位で元の主人に買い戻し資金を返済する仕組みを作るんだ」


完璧な構想だと自負するように頷くケント。しかし、隣でミーナがひたすら青ざめた顔で袖を引っ張ってくる。


「あ、あのご主人様……!」

「ん? どうしたミーナ、腹でも減ったか?」

「違いますよ! 今の特区構想のお話……白竜様の魔法、まだ繋がったまま町中に丸聞こえになってます……!!」


「あらっ!?」


ケントは思わず間抜けな声を上げた。通信の術式を切ったと思い込んでいたが、白竜はレナに絞め落とされかけてそれどころではなかったらしい。


つまり、街の征服宣言も、既存の経済体制を揺るがす特区構想も、すべて領主コネグ子爵を含めた全住人に筒抜けというわけだ。


(……まあ、聞かれちまったもんは仕方ねえか)


ケントは一瞬で開き直ると、空に向かって再び声を張った。


『あー……聞こえてたなら話が早いや。おいコネグ! それと衛兵の連中! 明日俺たちが領主館へ向かう。素直に降伏してすべてを差し出すなら命だけは助けてやる。逆らうなら……まあ、皆殺しだな』


ついでとばかりに、容赦のない脅迫を追加する。


『兵士諸君、別に俺たちもお前らを殺したいわけじゃない。死にたくなかったら、明日までにコネグをどうにかしておけよ』


「おい白竜、いい加減その口を閉じさせろ!」


レナが白竜の首元をぺしぺしと小突くと、ようやく空中への音声拡散が途絶えた。


「相変わらずえげつないねぇ旦那。あんな宣言されたら、コネグ子爵も朝まで生きてるか…」

「さあな。明日行ってみりゃ嫌でもわかるさ」


ザラの呆れ交じりの言葉に、ケントはケラケラと笑い飛ばす。


だが、笑ってばかりもいられない。ホテルへ入ろうとすると、入口でガタガタと震える支配人が通せんぼをするように立っていた。


「ひ、ひぃぃ……! お客さま、冗談じゃありませんよ! こんな大量の異種族を連れ込まれたら、当ホテルは廃業です! 第一、領主様に知られたら私の首が——」

「おいおい、うるせえな」


ケントは面倒そうに吐き捨てると、空間収納からズシリと重い袋を取り出し、支配人の胸元へ叩きつけた。


中身は大量の金貨。支配人の目が飛び出さんばかりに見開かれる。


「これで今日からここを全館貸し切りだ。外にいる連中の分も、厨房にある食料を全部引っ張り出してスープでも作ってやれ。足りねぇ分は俺たちの持ち込みの食糧を出す。……文句はあるか?」

「も、文句だなんて滅相もない! ただちに最高の準備を整えさせます!!」


金貨の輝きに目がくらんだ支配人は、手のひらを返して奥へと飛んでいった。


ロビーのソファへ、気絶したままの二メートル超えのドワーフ女性をドスンと横たえさせる。傍らでは、十二歳ほどの見た目をしたエルフの少女が不満そうに鼻を鳴らしていた。


「なによ、こんな汚いホテルに押し込めるつもり? 助けてくれたことには感謝するけれど、もっとちゃんとした部屋を用意しなさいよ!」

「はー、いいか、俺は『エルフはスレンダー美人しか認めん』派閥だ。メスガキエルフは黙って隅っこでスープでも飲んでろ」


ケントがあしらうように言うと、エルフは「ガキじゃないわよ! 私の方がずっと年上なんだから!」とキーキー叫び立てる。


その横で、気絶していたドワーフが「……う……む……」と唸り声を上げ、巨体を揺らしてむくりと起き上がった。


「ぬ……ここはどこだ? 私は……倒されたのか……?」

「あ、起きた。おい、大人しくしてろよ。暴れたらまたレナのサンドバッグが飛んでくるぞ」


ザラが肩をすくめて注意すると、ドワーフの女性は己の身を見下ろし、ガシガシと頭を掻いた。


「私を殺さず、介抱したというのか……。武人の情けのつもりか!?」

「いや、ただの邪魔だから気絶させただけだ」

「なに……!?」


怒りで顔を赤くするドワーフだったが、通りかかったセリーナが双剣の柄に手をかけ、冷ややかに見下ろす。


「静かにしなさい。騒ぐなら今度は首を落とすわよ」

「……くっ」


底知れぬ剣気を察したのか、ドワーフは大人しく口をつぐんだ。頑固だが、相手の実力を見抜く眼力はあるらしい。


そうして夜が深まる中、ケントたちはホテル前に残り続けた獣人たちの元へと向かった。


冷え込む路上に座り込む者たちへ、温かいスープと毛布を配りながら、彼らの口から直接『街の実態』を聞き出していく。


「私の夫は……領主の兵に目をつけられ、見せしめに街頭で殴り殺されました……」

「娘は……名目のない税を払えなかったというだけで、奴隷商会へ無理やり売られて……」

「毎日、食事は腐ったパンくずひとつだけ……失敗すれば鞭で叩かれ……」


漏れ聞こえてくるのは、あまりにも凄惨で無慈悲な虐待の記録。耳の一部を削ぎ落とされた猫耳の少年や、体中に焼き印を押された若い女性の姿に、ミーナは涙をボロボロとこぼし、セリーナやザラの目にも静かな怒りの火が灯っていく。


ただの不運や貧困ではない。この街に巣食う権力者どもが、自らの欲望と虐待嗜好を満たすために、獣人たちを無残に打ちのめしてきた不当な歴史。


ケントは温かいスープの器を握りしめ、冷え切った夜空を見上げた。


「……なるほどな。綺麗事だけじゃ、どうにもならん訳だ」


自分がやろうとしている『特区』の設置。それは単なる気まぐれでも親切でもなく、この街の歪んだ腐肉を根こそぎ削ぎ落とすための暴力に他ならない。


「明日だ。明日になれば、全部ケリをつけてやる」


暗闇の中で小さく呟いたケントの言葉に、周囲の獣人たちが固唾を呑んで見守る。


こうして、マゼンタホテルを包む騒乱の夜は更け、決戦の朝が刻一刻と近づいていくのだった。

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