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『転生したのに転移で地球に戻っちゃった?! しかも何故43歳?! 王国の魔法革命児 〜爆鳴の鬼と呼ばれた男Ⅱ』  作者: だい


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第4話:宇宙の真理と、トカゲの消えない嫌な予感

「ひぃぃぃっ!?」

 極道の取り立てよりも恐ろしい形相で迫るレナを前にして、トカゲ――かつて大国シンの奥地で俺たちを全滅寸前まで追い詰めた神話の生物『真龍』は、涙目でブルブルと震え上がった。

 レナに首根っこを摘ままれ、空中でブラブラと揺れながら、その小さな口が人間の言葉を紡ぎ出す。


「ま、待つんだ娘! 乱暴はよせ! 我輩がすべてを説明するから!」

「……ほう? 言い訳によっては、そのまま窓から東京湾に投げ捨てるけど」

「東京湾が何かは知らんが、絶対に死ぬ予感がするからやめるのだ!」


 必死にジタバタと暴れるイグアナサイズの真龍を、レナは容赦なくデスクの上に放り投げた。

 俺はカタカタと叩いていたキーボードの手を止め、ザラとセリーナ、そして妖精のスーもまた、その小さな生き物を囲むようにして腕を組んだ。

 コホン、と咳払いを一つして、真龍はどこか偉ぶった、それでいて今の姿のせいで全く威厳のない声で語り始めた。


「……そもそも貴様らは、我輩という存在を根本的に勘違いしている。各地の次元や世界に存在する『龍』とは、すべて我輩が生み出したかりそめの端末に過ぎないのだ。我輩は真理。かりそめの肉体が滅びようと、次元を超えて再誕を繰り返す、高貴にして誇り高きメスであるぞ!」


「「……メス?」」


 その言葉を聞いた瞬間。俺とレナの動きが完全にシンクロした。

 無言で顔を見合わせ、頷き合う。そして、俺がサッとトカゲの上半身を押さえつけ、レナがその下半身をガバッとひっくり返して、二人で容赦なくその小さな股間をマジマジと覗き込んだ。


「ひゃああっ!? な、なにをする貴様ら!」

「おー。なんか爬虫類特有の総排泄孔っぽいのが……」

「へえ、本当ですねケント様。でもなんかプニプニしてますよ」

「やめろぉぉぉっ! 誇り高き乙女の純潔がぁぁぁ!!」

 屈辱と羞恥に涙をボロボロと流しながら、短い後ろ足をジタバタさせて泣き叫ぶ真龍。

 直後、俺とレナの頭に、凄まじい威力のチョップが振り下ろされた。


「痛っ!?」

「何やってるのよ二人とも! 相手がトカゲの姿だからって、女の子に対してデリカシーがなさすぎるでしょ!」

 般若のような顔で激怒するセリーナママの横で、ザラは腹を抱えて「あっはっは! 旦那もレナも馬鹿だねえ!」と涙を流して大爆笑している。

 カオス極まる狭い2DK。ひとしきり俺とレナが正座で説教を受けた後、鼻をすする真龍の尋問が再開された。


「……ぐすっ。と、とにかく! 貴様がいらん事をしたせいで、すべてが狂ったのだ! 貴様、自らの血液を水素と酸素に分解して、我輩の体内で自爆したであろう!」

「ああ。外側の鱗が硬すぎて魔法が通らないからな。中からなら効くと思って」

「そのせいで、我輩が次の次元へ跳躍する瞬間に、貴様らの細胞レベルの肉体情報が我輩の魂に混ざってしまったのだ!」


 真龍の説明によれば、こうだ。

 肉体が滅び、他の次元へ跳躍しようとした真龍のシステムの中に、自爆によって細胞レベルで混ざり合った俺たち四人とスーの存在が、バグとして一緒に取り込まれてしまった。

 本来ならば、何の接点もないランダムな別次元に生まれ変わるはずだった。

 しかし、俺という『地球の記憶』と『強烈な未練』を持つ異物が混入していたせいで、次元跳躍の座標が俺の死ぬ日、死ぬはずだった時間の地球へと強烈に引っ張られてしまったのだという。


「……なるほど。お前の次元移動タクシーに、俺たちが細胞レベルで密航した結果、俺の故郷に強制送還されたってわけか」

「その通りだ! さらに最悪なのはここからだぞ! この次元に到着し、いざ新しい肉体を構築しようとした際……なぜかシステムが、異物である貴様らの肉体の再構築を優先しおったのだ!」

「あー……」

 俺は少し申し訳ない気分になった。

「結果、我輩の莫大な真龍のエネルギーの大半は、貴様ら四人と妖精一匹の完璧な肉体構築に吸い取られ……いざ我輩の番になった時には、リソースがスッカラカンだったのだ! ゆえに、こんなひ弱なトカゲの姿に……!」

「……真龍が自分でトカゲって認めんなよ」


 要するに、俺たちがコイツのエネルギーを横取りして若返り、完璧な健康体を手に入れたせいで、大元のコイツがポンコツ化してしまったらしい。


「だったら、アタシたちを殺してエネルギーを取り返せばいいじゃないか。なんでしないんだい?」

 ザラが純粋な疑問を口にすると、真龍は親の仇でも見るような目でザラを睨んだ。

「できるわけがなかろう! 貴様らの肉体は我輩の細胞とエネルギーでできているのだ! もし我輩が貴様らを殺したり、誰かを使って殺させた場合、宇宙の真理はそれを『自死(自己破壊)』と見なす! 自死した魂は、二度と転生の輪に戻れず完全に消滅するのだ!! それに、今はお前らの方が強いではないか!」


 つまり、コイツは俺たちを傷つけることが絶対にできない。

 それどころか、俺たちが天寿を全うして自然死し、そのエネルギーが解放されるのを待たなければ、二度と元の真龍の姿には戻れないというのだ。


 ……次元を超えた宇宙の真理。生命の神秘。そして、真龍という神のごとき存在の壮大な悲劇。

 普通ならば、ひれ伏して驚愕するような凄まじい真実の開示である。

 しかし、俺たちは魔王とその妻たちだ。


「……そうか。まあ、大変だったな。とりあえず俺は明日の会議の資料作ってから寝るわ」

 俺は完全に興味を失い、パソコンの画面に向き直ってエクセルを開いた。宇宙の真理よりも、有給明けの社畜にとっては明日のプレゼンの方が余程生死に関わる大問題である。


「なるほどねー。まあ、アタシの目も綺麗に直ったし、旦那も喜んでくれてるし、細かいことはどうでもいいや!」

 ザラは大あくびを一つして、ベッドに寝転がりながらゴロゴロとストレッチを始めた。次元がどうとか、彼女の脳筋フィルターを通せば「なんかよくわかんないけど健康になった」で終わりである。


「ええ、本当に素晴らしいわ」

 セリーナは、俺が買ってきたティーカップで優雅に紅茶を啜りながら、心の底から安堵したように微笑んだ。

「あっちにいたら、私がシーナの婚約者を寝取っただの、母親としてどうなんだだのと陰口を叩かれていたけど……ここなら、そんな煩わしい世間体も関係ないもの。最高の気分よ」

 次元跳躍の壮大なロマンよりも、ドロドロとしたご近所トラブルから解放された喜びを噛み締める、俺の元婚約者の母の生々しすぎる本音であった。


「ケント様! この世界の魔道具スマホって凄いです!」

 そして極めつけは、先ほどから俺のスマホを勝手にいじっていたレナである。

「なんか、画面の中にすごい情報量があります! この『D〇M』だの『FAN〇A』だのっていう動画サイト、もう芸術の域ですよ! 異世界じゃ見たこともないような、あんな体位やこんなプレイが無料で見放題……! 最高! フフフ、デュフフフフフ……!」

 絶世の美少女が、地球のインターネットの深淵に秒で染まり、よだれを垂らしながら怪しい笑い声を上げている。完全に終わっていた。


「…………」

 誰も、自分の話(宇宙の真理)をまともに聞いていない。

 真龍は呆然とし、そしてガックリと小さな肩を落とした。


(……まあ、よい。相手は人間。どれほど長くとも、寿命などせいぜいあと四、五十年。我輩の悠久の時に比べれば、瞬きのようなもの。こいつらが死ぬまで、大人しくペットとして飼われてやろうではないか)


 真龍は己の心を慰めるように、そう結論づけた。

 しかし――その時、トカゲの脳裏に、ある『嫌な事実』が閃いた。


(……待てよ? こいつら……我輩の『真龍の細胞』とエネルギーを丸ごと使って肉体が再構築されている……。おまけに、息をするように常時『インナーバフ』という魔力強化を細胞にかけ続けているし、異世界ではポーションを水のように飲んでおった……)


 真龍の細胞。それに加え、バグレベルの強化とアンチエイジング。

 それがもたらす相乗効果を、真龍の優れた頭脳は瞬時に計算してしまった。


(こ、こいつらの寿命……まさか、四、五十年どころか……数百……いや、数千年単位で生きるのでは……!?)

 トカゲの顔から、一気に血の気が引いた。背筋に冷たい汗が伝う。

 数十年なら我慢できる。だが、この傍若無人な社畜と脳筋と変態たちと数千年も同居生活を強制されるなど、それはもはや神に与えられた無間地獄ではないか。


(……い、いやいやいや! まさか、そんなはずがなかろう! いくらなんでも相手はただの人間と妖精! 寿命が来ればポックリ逝くはずだ! は、ハハハハ……!)


 真龍は、頭をよぎった最悪の可能性を、全力で打ち消した。

 そうだ、考えすぎだ。数十年で終わる。終わってくれ。

 必死に現実逃避を試みる真龍の耳に、呑気な声が響く。


「デュフフフ……あ、これ課金しないと続き見れないんですか? ケント様、あの金色のカード貸してください……」

「ダメに決まってんだろ! アメックス一括でFAN〇Aに課金する気か! 殺すぞ!」

「あはは! 旦那もケチくさいねえ!」

「ウフフ、平和ね」

「そ、その中年太りの姿で殺すぞって…殺してくださぁい♡」


 日常の喧騒が続く狭い2DKの片隅で。

 誇り高き真龍は、決して消えることのない嫌な予感を胸の奥に封印しながら、マイハウス(段ボール箱)で震えるのだった。

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