第44話:血塗られた祝宴
*今日08:10より再開です!ミクとアツシがなぜか戦国に!?
『ただの収納スキルですが、時間は止まるし、生物もしまえます。――さて、邪魔者はどこですか? 帰還戦国編!』
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東京の中心部にそびえ立つ、超高級ホテルのメインバンケット。
天井を飾る巨大なシャンデリアが眩い光を放中、優雅なオーケストラの生演奏が響き渡っていた。
神子神社が主導して設立した『神子財団』の設立記念チャリティーパーティー。
会場には日本の政財界のトップや海外の要人たちが顔を揃え、壁際では複数のテレビ局がその華やかな模様を全世界に向けて生中継している。
「あー、ネクタイ苦しい……。なんで俺がこんな格好しなきゃなんねえんだよ」
オーダーメイドのタキシードに身を包んだケントは、シャンパングラスを片手にひっそりと愚痴をこぼした。
「我慢してください、ケント様。これが神子神社を『公的でクリーンな絶対的保護者』として世界に認知させるための最終仕上げなんですから」
隣で美しいイブニングドレスを着飾ったちえが、完璧な営業スマイルを振りまきながら小声で釘を刺す。
その背後では、フリルのついたドレスを着たレナが「ケント様のタキシード姿……眼福です♡」と身悶えし、慣れないドレス姿に窮屈そうなザラが「早く帰って肉食いてぇ」とぼやいている。
スーとセリーナも華やかな装いで談笑し、少し離れたテーブルでは、ナミの口元を母親が優しく拭いてやっている。
安倍や神子、沙織といった面々も、財界人たちと和やかにグラスを傾け談笑中だ。
アメリカという最大の脅威を退け、巨万の富を得た彼らにとって、それは完全なる勝利と平和を象徴する、輝かしい夜になるはずだった。
――バァァァァァァンッ!!
突如、バンケットの重厚な扉が爆発音と共に吹き飛んだ。
悲鳴が上がる間もない。硝煙と土埃の中から、漆黒の完全武装を施した特殊部隊が雪崩れ込み、アサルトライフルの銃口を無差別に会場へと向けた。
タタタタタタタタタタッ!!
鼓膜を劈く銃声。
最前列にいた政治家や企業のトップたちが、文字通り血だまりの中に崩れ落ちる。
阿鼻叫喚の地獄へと変貌した会場。悲鳴を上げて逃げ惑う一般人たちを踏み躙るようにして、ゆっくりと二人の男女が歩み出てきた。
金髪碧眼の男、エドワード。
冷ややかな青い瞳の美女、レイチェル。
彼らは、血の海と化した会場を見渡しながら、心底楽しそうにクスクスと笑い合った。
「やあ、こんばんは、極東のサルども。ずいぶんと猿芝居が板についているじゃないか」
エドワードの声はマイクを通していないにも関わらず、不思議な共鳴を伴って会場全体を圧した。
テレビカメラの赤いランプが、その惨劇と傲慢な姿を全世界へと配信し続けている。
「てめえら、何者だ……!」
ケントが前に出た。ザラとレナが即座に戦闘態勢に入り、ケントの両脇を固める。
「おっと、吠えるなよ。見せしめに来てやったのさ。道化《大統領》の耳を取ったくらいで、飼い主に勝った気になっている下等生物のサルを躾けにな」
「ケント様! ダメです、ここでは……っ!」
ちえが悲痛な声を上げる。
周囲には逃げ遅れた民間人が大量にいる。おまけにテレビの生中継中だ。ここでケントが広範囲の『爆鳴気』を使えば、民間人もろともホテルが吹き飛ぶ。レナの戦車砲塔メイスも、振り回す空間がない。
ちえが作り上げた『クリーンな一般社会との繋がり』が、最悪の形でケントたちの火力を縛る足かせとなっていた。
「チッ……なら、周りを巻き込まないであの金髪だけ殺す」
ザラが一瞬でエドワードの懐へと踏み込んだ。
民間人を巻き込まない最適解。パミル戦で編み出した『相手が防御を展開する前に、体内に直接魔法を撃ち込む』必殺の一撃。
ザラはエドワードの胸に手をかざし、その内臓を焼き尽くすための座標を指定した。
「――なんだ?」
ザラが驚愕に見開いた目を向ける。
魔法が発動しない。エドワードの体内座標を指定した瞬間、魔力が底なしの虚無に吸い込まれるように霧散したのだ。
「お前の腹の中、どうなって――」
「サルと同じ構造だと思ったのかい? 浅ましいね」
エドワードが冷たく嗤う。
彼らは人間ではない。何世代にもわたってオーパーツの中核と融合を繰り返した、人間の形をした『生きたオーパーツ』そのものだった。内臓など存在せず、その体内は異次元の高次空間で満たされている。
「あ……」
ザラが声を上げるより早く。
エドワードの手刀が、無造作に振るわれた。
ゴトン、と。
何かの冗談のように、ザラの首が宙を舞い、床に転がった。
「ザラァァァァァァァァァッ!!」
ケントの絶叫が響く。
ドレスを引き裂き、虚空から二十トンの『戦車砲塔メイス』を取り出したレナが、血走った目でレイチェルへと襲いかかった。
「殺す!! 殺してやるッ!!」
民間人の被害など度外視した、怒り狂うレナのフルスイング。直撃すれば巨大なクレーターができるほどの一撃。
「汚い。近寄らないで」
レイチェルが、ため息をつきながら人差し指をスッと前に出した。
その華奢な指先が、二十トンのメイスに触れた瞬間――ゴンッ!! という異様な激音と共に、レナの体が反対方向へと凄まじい速度で弾け飛んだ。
オーパーツの権能『ベクトルの完全支配』。
レナの放った運動エネルギーは完全に反射され、数倍の威力となってレナ自身を強打したのだ。
壁を何枚もぶち抜き、瓦礫の中に叩きつけられたレナの体は、ひどく歪み、原型を留めないほどに砕け散っていた。
「レナっ!! ザラっ!!」
スーが狂乱しながら、最高位の『治癒魔法』を放つ。
だが、二人の体に触れた治癒の光は、パリンッとガラスのように音を立てて砕け散った。
「なんで……! 魔法が、効かない……っ!?」
エドワードたちの攻撃は物理的な損傷ではなく、次元レベルでの『存在の書き換え』だった。破壊されたという状態が空間法則として固定化されており、治癒の概念すら干渉できない。
「さて、次はどのサルからミンチにしてやろうか」
エドワードがケントへ向けてゆっくりと歩みを進める。
その前へ、セリーナが立ちはだかった。
「ケント君、下がって!」
彼女は魔力を全て注ぎ込み、絶対防御の魔道を二重に発動し、さらに帝国の『魔法封じの魔道具』も展開した。
「綺麗なガラス細工ね。でも、脆すぎるわ」
レイチェルが結界に指を触れる。
ただそれだけで、空間の法則を書き換えられた絶対防御はパラパラとあっけなく崩壊した。
「かはっ……!」
魔力を強制解除され、解除された魔力を逆流させられて、セリーナが大量の血を吐いて膝をつく。
今は勝てない。
レベルや魔力の問題ではない。相手は前提となる物理法則や世界のルールそのものを無視するバケモノだ。
対策を練って反撃方法を確立する時間がいる。
ケントは周りを見回し、震える足で立ち尽くした。
時間が止まったかのように、床に転がるザラの生首と、瓦礫の中で動かないレナの肉塊が見える。
「逃げ……て……」
血まみれのセリーナが、ケントの足元で微かに唇を動かした。
彼女は防御を完全に放棄し、自らの命と魂を削りながら、神子神社の本殿にいるヘルパンギーナへと自分の視界を繋いでいた。
自身を空間座標の『ビーコン』として、ヘルの強制転移を誘導するための、決死のアシスト。
空間が歪み始める。転移の光が、ケント、スー、セリーナを包み込もうとしていた。
ケントは、震える手を伸ばし、自らの魔力を振り絞った。
「……『収納』……っ!!」
その魔法は、本来『生きている者』には決して使えない。
生体を拒絶するはずの無機質な空間。
だが、ザラの首と体、そしてレナの残骸は、なんの抵抗もなくすんなりと虚空へと吸い込まれ、消えた。
――それは、二人がもはや『物(死体)』であるという、残酷すぎる事実の証明だった。
「あああああああああああああああああっ!!」
ケントの絶望の慟哭が響き渡る中、転移の光が弾け、三人の姿は完全にその場から掻き消えた。
後には、血の海となったパーティー会場と、逃げ遅れた人々だけが残された。
特殊部隊が銃口を構え、ちえ、安倍、神子、そして沙織とナミたちを壁際へと追い詰める。
「つまらない手品だ。しっぽを巻いて逃げたか」
エドワードは心底退屈そうに肩をすくめると、生中継を続けているテレビカメラのレンズを真っ直ぐに見据えた。
「全世界の愚者どもに告ぐ。これが我々、アメリカ合衆国――いや、世界を統べる真の支配者の力だ。我々に牙を剥いた猿どもは死に絶えた。ここに残った関係者もすべて、見せしめとして処分する。我々に逆らう者は、国境を問わずこうなると思え」
傲慢極まりない勝利宣言。
特殊部隊の一人が、泣き叫ぶナミへと銃床を振り下ろした。
沙織が身を挺してそれを庇い、額から血を流して倒れ込む。
「いやぁぁぁぁっ!!」
ナミの悲痛な泣き声が、惨劇の会場に響き渡った。
――その瞬間だった。
ゴゴゴゴゴゴゴッ!! と、世界そのものが震えるような地鳴りが起きた。
ホテルの堅牢な天井が、まるで紙屑のように吹き飛んだ。
剥き出しになった夜空から、圧倒的な質量と、神の如き威圧感が叩きつけられる。
特殊部隊の男たちが、目に見えない重圧に押し潰され、次々と泡を吹いて気絶していく。エドワードとレイチェルでさえ、その異様な気配に顔色を変えて後退った。
月光を背に降り立ったのは、ザラとレナのリソースが戻り、白銀の鱗を輝かせる巨大になった『真龍』。
最愛のナミを泣かされたことで、完全に逆鱗に触れ、ブチギレたヘルパンギーナだった。
『――下等な羽虫どもが。我が家族に何をした』
ヘルの声は物理的な震動となって空気を震わせた。
彼女は巨大な翼で沙織たちを優しく包み込み、守るように退避させると、カメラのレンズ――いや、その向こう側にいる全てのアメリカ国民へと向けて、黄金の瞳を爛々と輝かせた。
『全世界の者ども、そしてアメリカの連中に告ぐ。お前らが自分たちでこの羽虫どもを正さないというのならば――アメリカから、人間を一人残さず殺す』
それは、真龍による国家そのものへの滅亡宣告だった。
『貴様らの国も残さん。歴史も名も残さん。ただ、絶望の中で死んでいけ』
世界中がその圧倒的な神の宣告に凍りついた、その直後。
スピーカー越しに、別の声が割り込んだ。
『――待てよ、ヘル』
それは、神子神社へと帰還したケントの声だった。
先ほどまでの絶望の慟哭ではない。感情の一切を削ぎ落としたような、底冷えするほどに暗く、静かで、純粋な殺意の塊。
『お前じゃ、殺し方が優しすぎる』
画面の向こうのアメリカ全土に、世界中に、そして目の前にいるエドワードたちに向けて、魔王の宣告が響き渡る。
『……生きててごめんなさいと言いながら、死なせてやる。待ってろ』
プツン、と。
そこで中継の電波は完全に途絶え、世界は暗闇と静寂に包まれた。
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*ヒューマンドラマや愛の物語、切ない話だけ集めました
『夜の終わりに胸を刺す、人間と愛の物語 ~風の通り道、そして「月が綺麗ですね」』
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