↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『転生したのに転移で地球に戻っちゃった?! しかも何故43歳?! 王国の魔法革命児 〜爆鳴の鬼と呼ばれた男Ⅱ』  作者: だい
宮司になった社畜、魔王と呼ばれだす

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/76

第38話:次元の揺らぎと、届かない刃

ハリス大尉にとって、この地下区画への「報告業務」は、軍歴の中で最も気の重い任務だった。


「――交渉は、失敗した、だと?」


ソファに腰掛けて窓の外の夜景を眺めたまま、少年はこちらを一瞥もしない。


「は……。相手側は、こちらの制裁カードを一切意に介さず……」


「くだらん」


パミルが、くるりと振り返った。


無邪気な笑顔だった。同年代の子供が、誕生日の朝に浮かべるような。だからこそ、ハリスの背筋は凍りついた。


「東洋の島国の、まがい物の神。あんなものに我が国が譲歩するなど、あってはならん。……案ずるな。我が行けば、それで済む話だ」


(まずい)


「し、しかし! 貴殿の出動は、上層部がまだ許可を――」


「許可?」


声が、わずかに低くなった。


同時に、ハリスの足元の床が、音もなく円形に消え失せた。


切断ではない。破壊でもない。そこにあったはずのコンクリートが、削られた形跡も、破片も、粉塵も残さず、「最初から無かったこと」になっていた。爪先が数センチずれていたら、自分の足も同じようになっていただろう。


「ひっ……」


「私は神を理解した者だ。我が国の意志こそが、我が意志。それ以上の許可が、どこに要る」


ハリスは敬礼すらできず、ただ首を縦に振った。


その夜。


一機のSR-71ブラックバードが、いかなる記録にも残らぬまま、静かに極東の島国へと針路を向けた。


---


「――未確認の飛行体が、太平洋上から日本領空に侵入しました。速度がおかしいです、マッハ三以上。自衛隊のレーダーは捉えていますが、追える機体がありません」


タブレットを握りしめた沙織ちゃんが、本殿に駆け込んできて早口にまくし立てた。


「降下地点の予測は、この近辺です。……間違いなく、合衆国からの『返事』かと」


「へえ。交渉決裂から三日で武力行使か。せっかちな国だな」


俺は湯呑みを置いて、のんびりと立ち上がった。


正直に言えば、こうなるだろうとは思っていた。金で殴って通じない相手に次に何をするかなんて、どこの国も同じだ。


「ちえちゃん、職員は全員屋内退避な。ヘルとナミちゃんは託児所から絶対に動かすなよ。……行くぞ、お前ら」


---


神子神社から二キロほど離れた、廃工場の跡地。


割れたコンクリートから雑草が突き抜けた荒れ地の真ん中に、そいつは立っていた。


サイズの合わない軍用コートを羽織った、十二歳ほどの少年。金髪が、風もないのに微かに揺れている。


「――ここら辺で良いか」


一目見て、背筋の産毛が逆立った。


異世界で真龍と殺し合った時に似ている。いや、違う。あの時は少なくとも「巨大な生き物と戦っている」という実感があった。目の前のこれは、人の形をしているのに、そこだけ世界の縫い目がほつれているような、据わりの悪い気配がする。


「アンタが、うちの経理に泣かされて帰った特使サマの、後始末かい?」


ザラが大剣を担いで一歩前に出る。緊張感がまるでない。いつものことだ。


「後始末? いいや」


少年は、無邪気に首を傾げてみせた。


「私は、私の意志で来た。お前たちが、我がアメリカに逆らったと聞いてな。……安心しろ。この国を滅ぼしはしない。神に逆らった者だけを、正しく片付けに来ただけだ」


「はっ。餓鬼が、大した口だね」


ザラが笑い、地を蹴った。


音より速い踏み込み。ノキア時代を超える極意に到達した、災厄の女帝の一閃。首から胴を、鎖骨ごと断つ軌道。


――斬った、と思った。


「は?」


ザラの大剣は、何の手応えもなく空を薙いでいた。


俺の目にもはっきり見えた。刃は確かに通った。通ったのに、その通り道にあったはずの空間だけが、一瞬だけこの世から抜け落ちていた。


「ふむ。良い踏み込みだ。だが無駄だ」


少年が、掌をゆるく開く。


「これが我が権能――『次元の揺らぎ』。私に届く座標は、私が消す。お前たちの物理法則など、私の前では前提から成立しない」


「言ってろォッ!」


レナが飛び込み、二十トンの鉄柱メイスを地面ごと薙ぎ払った。


凄まじい破砕音。コンクリートが数十メートルにわたって砕け、瓦礫が噴水のように舞い上がる。


その中心で、少年は埃ひとつ被らずに立っていた。


「同じことだ」


「……嘘でしょ」


レナの顔から笑みが消える。


「じゃあ、これはどうかしら」


セリーナが指を鳴らした。


少年の全身を、青白い業火が包む。コンクリートを飴のように溶かす火力レベル10。宮内庁の神子を数秒で灰にした、狂女神の本気だ。


だが炎は、肌に触れる寸前で不自然に軌道を折り曲げた。


燃えるべき場所そのものが剥ぎ取られて、別の場所に貼り直されたように。


「え――」


セリーナの右腕が、火を噴いた。


「あぐっ……!?」


「セリーナ!」 「ちっ、下がりな!」


ザラが庇って前に出て、レナがセリーナを引きずり下げる。白い腕が炭化し、袖が燃え落ちていた。


(……炎の逃げ場を、術者の座標に繋ぎ直しやがった)


「レナ! 挟むよ!」


ザラが吼えた。


さすがに嫁たちも、まともにやって通じる相手ではないと理解したらしい。ここからは、異世界で幾度となく修羅場を潜り抜けてきた連携だ。


ザラが正面、レナが背後。同時に踏み込み、大剣とメイスが前後から少年を挟み込む。どちらか一方を消したなら、もう一方は必ず届く――はずだった。


「ふむ。数を増やせば良いと?」


少年は、動かなかった。動く必要がなかった。


ザラの刃が消え、同時にレナのメイスも空を切る。


それだけではない。振り抜いた勢いのまま、二人の得物は互いに向かって走った。


「――ぐっ!?」


咄嗟にザラが大剣を引き戻し、レナがメイスの軌道を無理やり地面に叩きつける。二人は自らの武器で相打ちになりかけ、体勢を大きく崩した。


「そら。踊りが雑になってきたぞ」


さらに、セリーナが放った追撃の炎の槍が、途中で消え――今度は倒れかけたレナの足元から噴き上がった。


「あっつ……! ちょっと、セリーナ!」 「私じゃないわ!」


滅茶苦茶だ。


こいつは、攻撃を防いでいるんじゃない。攻撃の「行き先」を書き換えて、こちらの攻撃をこちらの味方に配り直している。手数を増やせば増やすほど、自分たちが自分たちを削る。


三人がかりが、三人がかりであるほど不利になる。そんな戦場は、異世界にも無かった。


「下がれ、お前ら」


俺は前に出た。


物理も、魔法も通らない。当たる直前に「当たる場所」が消えるなら、威力も精度も意味がない。


ならば。俺は片手を上げた。


俺の真骨頂、『座標指定』。相手の体内に直接座標を打ち込み、そこに魔法を発生させる。鱗も装甲も硬化も関係なく、内側から殺す。魔王としての俺の必殺技だ。


心臓の座標を指定し、爆鳴気を叩き込む。


――発動しなかった。


正確には、発動する直前に「指定した座標」そのものが揺らいで、消えた。


「ほう。今のは面白い技だ」


少年が、初めて感心したように目を細める。


「内側から殺すか。なるほど、私がいなければ、この星で最も厄介な男だったろうな」


「……厄介なのは、お前の方だよ」


じりじりと足を送りながら、俺は頭の中で必死に計算を回していた。


(座標指定が消される。物理も魔法も届かない。だが――消せるってことは、こいつは「そこに何かが発生する」と認識してから消してる。つまり、認識できないものは消せない)


その思考を断ち切るように。


目の前の空間が、ぐにゃりと歪んだ。


「――ッ!!」


インナーバフ全開、全力で後方へ跳ぶ。コンマ数秒。


避けた。避けた、はずだった。


ずるり、と。


左足が、元の場所に立ったままだった。


「……は?」


膝から下じゃない。太腿の半ばから先が、俺の身体から切り離されて、切断面を上に向けたまま、その場に直立している。


痛みは、一拍遅れてやってきた。


「ぐ、が……ああああああああっ!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。