第27話:狂女神の慈悲と、暴食のメイス
「明日からの犯罪は、神子神社の処罰対象となります。速やかに武装を解除し、投降してください」
そんな最後通告がマスコミやネットを通じて大々的に警告された翌日。
半年の間に無法地帯で甘い汁を吸い尽くした犯罪者集団や野良神子たちが、素直にその言葉に従うはずもない。
彼らは「たかが神社が」と鼻で笑い、集めた武器と異能を頼りに徹底抗戦の構えを見せていた。
その驕りこそが、彼らの命日となることも知らずに。
かつての県庁舎。現在、この街で最大勢力を誇る犯罪集団の巣窟となっているその場所へ、神子神社から派遣された『巫女』セリーナは、百名の神子部隊を引き連れて優雅な足取りで向かっていた。
「撃てぇっ!! あんなコスプレ女、蜂の巣にしてやれ!」
県庁のバリケードから怒号が響く。一部の腐敗した自衛隊員を引き込んだ彼らの武装は、警察相手とは次元が違った。
ズドドドドドッ!!
陣地に据え付けられたM2ブローニング重機関銃が火を噴き、さらに建物の窓からはカールグスタフ無反動砲の砲弾が放たれる。対戦車兵器すら持ち出した過剰な弾幕が、セリーナたちを飲み込み、凄まじい爆発と土煙が巻き上がった。
だが、硝煙が晴れた後に立っていたのは、半透明の美しい障壁の中でクスクスと優雅に笑うセリーナの姿だった。
「……もう、いいかしら?」
セリーナがパチンと指を鳴らした瞬間。県庁舎の周囲の空間が陽炎のように歪み、文字通り『業火』が建物を包み込んだ。
コンクリートすら容易く融解させる青白い炎の檻。
「お、お待ちください巫女様! あの建物の中には、奴らに捕まった一般人の人質が……!」
後ろに控えていた神子部隊の一人が、慌てて声を上げた。
しかし、セリーナは振り返りもせず、慈愛に満ちた女神の微笑みを浮かべたまま言い放った。
「男なら、自力で逃げ出せないのが悪いわ。女なら……ええ、あいつらのような汚らわしい獣に、焼けて灰になった方が良いほど辱められているでしょうから」
それは、究極の救済であり、極北の狂気だった。
セリーナがふわりと両手を掲げ、さらに温度を上げると、建物からは悲鳴すら上がる間もなく、すべてが真っ白な灰へと変わっていった。
数時間後。
完全に白く焼け落ち、巨大な更地と化した県庁舎の跡地で、セリーナは目を閉じて静かに祈りを捧げ、両手から上空へ向けて美しい炎の柱を撃ち出した。それはまるで、天へと魂を導く儀式のようだった。
「あら、皆さんごめんなさい? 私一人で済ませてしまって」
セリーナは、背後でガタガタと震え上がり、一歩も動けずにいた百名の神子たちを振り返り、花が咲くように微笑んだ。
「じゃあ、この辺りに隠れている虫たちを、炙り出して頂戴ね?」
「は、はいぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
神子たちは、敵への恐怖など完全に忘れ去り、この『狂女神』から逃げるようにダッシュで街中へと散っていった。
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同じ頃、別の区画。
もう一人の『巫女』であるレナは、彼女の護衛についていた金髪のギャル神子――通称『きーちゃん』と、キャイキャイと楽しそうに雑談しながら街を歩いていた。
「レナさん危ないっ!」
きーちゃんの鋭い声が響いた直後、ビルの上から巨大な大理石の定礎モニュメントがレナの頭上へと落下してきた。
咄嗟にレナを突き飛ばして庇ったきーちゃんの腕に、鈍い音を立ててモニュメントが直撃する。
「きーちゃん!」
「……ぅっ、腕が折れたみたいっすけど、全然大丈夫っす! それよりレナさんは!?」
「うん、大丈夫……。みんな、ここで固まって待機。きーちゃん守ってて」
痛みを堪えて笑うきーちゃんを他の神子たちに任せ、レナは一人、ぐるりと周囲を見渡した。
周囲のビルや建物の窓という窓から、薄汚い犯罪者や半グレたちが、下卑た笑いを浮かべてレナを見下ろしていた。
「おー、アンタが神子神社の『巫女』かぁ。良い肉付きじゃんか。強気な顔してるけどよぉ、ここにいる全員でたっぷり使ってやるぜ?」
「アンタがいくら強くても、これだけ完全に包囲されて銃で狙われりゃ、さっきみたいな攻撃は防げねえぜ! 諦めな!」
下劣な挑発と、一斉にレナへ向けられる無数の銃口。
しかし、レナは気にする素振りすら見せず、無表情のままゆっくりと歩み出た。
そして、空間収納から、彼女の『得物』を取り出した。
それは、元第二課の神子たちが射撃訓練の的に使っていた『74式戦車の砲塔』に、無数の鉄鋼スパイクを溶接し、さらに内部に鉄筋を組んで高密度コンクリートを流し込んだ代物だった。
総重量、優に二十トンを超える狂気の巨大メイス。
「な、何だそりゃ……?」
犯罪者たちが呆然と呟く声も、レナの耳には届かない。
地球にやってきて以来、この星の魔力と恐ろしく波長が合ったレナは、無尽蔵の魔力吸収によって身体強化と属性魔法が飛躍的に伸びていた。純粋な筋力と物理破壊力だけで言えば、あのザラすらも遥かに凌駕するほどのゴリラ……もとい、規格外の怪物へと変貌していたのだ。
レナは、両足を風と水の魔力で幾重にも覆い、遠心力で自分が吹き飛ばないように、土魔法を使って足裏のスパイクをアスファルトの地中深くにガッチリと突き刺して固定した。
「どりゃああああああああああああああああっ!!」
レナの華奢な腕が、二十トンのメイスをフルスイングした。
直後、空気が弾け飛ぶような爆音。
メイスが叩きつけられたビルは、爆弾を仕掛けられたかのように一瞬で粉砕され、中にいたはずの人間たちは文字通り『赤い霧』となって空中に散った。
レナはそのまま止まらず、目につくすべての建物、包囲していた敵の陣地を、ただ無心に粉砕しながら歩き続けた。
数分後。
その区画にあったすべての建造物がサラサラの砂と瓦礫に変わり、赤い霧が風に流されていく中。
連れてこられた神子部隊が、あまりの光景に完全に声を失って震えていると。
「きーちゃん、大丈夫!? 痛くなーい!?」
レナは、メイスをポイッと放り捨てると、先ほどの破壊神のような姿から一転してワタワタと焦りながら、腕を折ったギャル神子の元へと駆け寄っていたのだ。




