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『転生したのに転移で地球に戻っちゃった?! しかも何故43歳?! 王国の魔法革命児 〜爆鳴の鬼と呼ばれた男Ⅱ』  作者: だい


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第25話:日陰者と陽キャ、そして神子神社の台所事情

「ふざけんじゃねえぞ……!」


神子神社の新たな拠点となった巨大な和風建築の広間。

そこに集められた元第二課の課員や、実力で屈服させられた野良の神子たちは、ギリギリと歯を食いしばりながら怒りを堪えていた。


彼らは皆、良くも悪くも『特殊』な人間だった。

常人にはない異能を持ち、一般社会の枠組みから外れた存在。


それゆえに、これまでは「俺たちは表舞台を歩けない日陰者だ」と世間を恨むようなポーズをとりつつも、その実、内輪では「法に縛られず、闇で生きる俺たちって最高にクールだぜ(ドヤッ)」と、特権意識と中二病をひどく拗らせていたのだ。


俺たちは一般人とは違う。裏社会で血と暴力にまみれて生きる、危険で特別な存在なのだと。


ところが、賢人たちに圧倒的な暴力でボコボコにされて躾けられた挙句、新しくやってきた『葵神商事』なる運営会社の連中は、彼らの薄暗いプライドとアイデンティティを完全にへし折ってきたのだ。


「えー、今日から皆さんはこちらの制服を着用してください。左胸にネームタグも忘れずに」

「経費は月末締めです。事前申請のない領収書、および宛名が『上様』のものは一切認めませんので注意してください」

「出退勤は必ずスマホのアプリで打刻を。遅刻三回で減給、無断欠勤は始末書です。それから、来週はコンプライアンス研修とハラスメント講習を行いますから、全員参加するように」


元葵商事の管理部門を率いるちえが持ち込んだのは、裏社会の掟でも弱肉強食のルールでもない。ゴリゴリの『一般企業の事務ルール』だった。

渡されたのは、背中にダサいロゴがプリントされたお揃いのナイロンジャンパー。


闇の住人気取りだった神子たちは、急に蛍光灯の下に引きずり出され、普通のサラリーマンのような規律を押し付けられてストレスが爆発寸前だった。


「俺たちは戦闘狂だぜ!? 領収書だと? ふざけんな!」

「血で血を洗う戦いが俺たちの日常だったんだぞ! なんでハラスメント講習なんて受けなきゃなんねえんだ!」

「あんな一般人の女ども、俺たちの異能でちょっと脅かして泣かしてやる……!」


彼らが立ち上がり、薄暗い殺気を放ってちえたちのオフィスへ文句を言いに行こうとした、その時だった。



---



「あーっ! 皆さんお疲れ様でーす♡」


パタパタと小走りでやってきたのは、元葵商事の受付嬢チームだった。彼女たちの手には、人数分のお茶と差し入れのクッキーが抱えられている。

「どーもー、初めまして! 私たち、最近こちらでお世話になることになったんですけど、今まで裏社会の犯罪者から、陰で皆さんみたいに強い人たちが私たち一般人を守ってくれてたんですねぇ! ありがとうございますぅ♡」


パァァァッ、と。

広間を埋め尽くしていた陰惨な殺気が、彼女たちの放つ強烈な『陽のオーラ』によって一瞬で浄化された。


「えっ、その腕の傷、戦いでついたんですか!? めっちゃ痛そう……でも、誰かを守るための名誉の負傷なんですよね? すっごくカッコいいです!」

「女性の方もいるんですねぇ! わぁ、お肌綺麗! 普段どんなケアしてるんですか? 戦う女性ってめっちゃカッコよくて憧れちゃいます!」

「そうだ! これから一緒に働くんだし、親睦を図るために今週末、合同で歓迎会の飲み会しましょうよ! 私たち、美味しい焼肉屋さん予約しちゃいますね!」

「松本さーん! 百田本部長ー! 経費で焼肉落としていいですかー!?」


神子たちは、完全に毒気を抜かれて固まっていた。

彼らがこれまで相手にしてきたのは、恐怖で怯えるか、憎悪を向けてくる人間ばかりだった。こんな風に、純度百パーセントの善意と「チヤホヤ」を向けられたことなど、一度たりともなかったのだ。


「…………あ、はい。よろしくオナシャス」

「や、焼肉……いいっすね。あ、俺、ホルモン焼くの上手いッスよ」

「……ジャンパー、意外とあったかいわね」


神子たちの薄暗い殺気と中二病は、陽キャ女子たちの圧倒的な『コミュニケーション能力』の前に、開始三分で完全敗北した。

彼らは顔を真っ赤にしながら大人しくお揃いのジャンパーを着込み、「交通費ってどこに書けばいいんスか?」と受付嬢に教わりながら、経費精算の書類に慎重にハンコを押し始めたのである。



---



そんな平和的(?)なドタバタを経て、逆らって叩き潰した悪徳宗教法人の豪華な本殿をそのまま居抜きで乗っ取った『神子神社』は、ついに本格始動の日を迎えた。


組織の構造は二段構えだ。

表向きは、超法規的な治安維持を行う宗教法人『神子神社』。しかし、その実務と運営、資金管理のすべては、委託先である新設会社『葵神商事』が担う。

葵神商事の代表取締役兼事業本部長には、当然のごとくちえが就任。専務には受付嬢をかばって大怪我をしていた沢田が、システム部長には二木が据えられ、完璧なバックオフィスが構築された。


一方の宗教法人『神子神社』。

「宮司は、絶対に松本さんがやってください。これは決定事項です」

ちえと沙織(三木ちゃん)から、土下座せんばかりの勢いで懇願された賢人は、やむなくトップである『宮司』の座に就いていた。


「いや、俺ただのサラリーマンだし、宮司って柄じゃ……」

「ダメです。野良を含め、神子という生き物は結局のところ『一番強い奴』の言うことしか聞きません。松本さんがトップに立って睨みを効かせないと、必ず造反する人間が出ます!」

理詰めで逃げ道を塞がれた賢人は、立派な狩衣を身に纏い、ため息をつきながら玉座に座ることになった。


そして、最強の『巫女』たち。

ザラは紅白の巫女服を身に纏いながらも、背中には大剣を背負い、尋常ではない殺気を放っている。セリーナはその美貌と相まって本当に神々しい女神のように見えたが、指先で青白い炎を弄んでおり、レナに至っては巫女服の袖にお菓子を隠し持ち、モグモグと咀嚼を続けていた。

さらに、安倍課長はすっかりやつれた顔のまま『権禰宜ごんねぎ』に就任し、沙織は実務を取り仕切る『事務局長』という肩書きで収まった。



---



そして今日。

詐欺で集めた金で建てられた無駄に豪華な本殿の大広間にて、神子神社グループの記念すべき初会議が開かれていた。


上座に座る宮司の賢人。その横に控える、圧倒的強者の巫女三人。

下座には、スーツをビシッと着こなした葵神商事の幹部たちと、お揃いのジャンパーを着て完全に牙を抜かれた元第二課の神子たちが、行儀良く正座でズラリと並んでいる。

誰もが、この新たな国家の影の支配組織の門出に、厳粛な緊張感を抱いていた。


「……さて。じゃあ、最初の議題に入ろうか」

賢人が重々しく口を開く。その声には、魔王としての底知れぬ威圧感と、元社畜としての進行の慣れが絶妙に混ざり合っていた。


「はい。宮司」

ちえが、手元のタブレットを持ってスッと立ち上がった。

彼女の凛とした佇まいに、元葵商事の面々は「さすがおらが村の女傑だ」と深く頷き、神子たちは「あの人が一番怒らせちゃヤバい人だ」と冷や汗を流して居住まいを正した。


ちえは、広間の全員を見渡し、極めて冷静な、氷のような声で宣告した。


「お金がありません」


「…………は?」

厳粛な空気が、一瞬で凍りついた。

賢人は間抜けな声を漏らし、玉座から身を乗り出した。


「いやいや、ちょっと待て。俺、設立資金で百億くらいポンと出したよな? 俺の虎の子のポケットマネーだけど」

「ええ。確かに百億円の出資は確認いたしました。ですが」

ちえはタブレットの画面をフリックし、背後の巨大モニターに恐ろしいグラフを映し出した。


「この本殿の改装費、および全国の神子犯罪に対応する最新鋭のコールセンターの拡充。これがまずデカいです。さらに、捕らえた神子を収容するための独自の刑務所の建設費、それを維持する監視員の給与。加えて、政府や警察の口を塞ぐための工作資金……。初期投資だけで、すでに八十億が吹き飛んでいます」

「は、八十……!?」

「残る二十億も、現在の人件費と活動経費を計算すれば、一月も経たずに見事にショートします」


ちえは無慈悲に宣告した。

「松本さん。現在の私たちの組織は、治安維持という『無償の奉仕』を圧倒的な武力と持ち出しの資金で行う、ただの超特大ボランティア集団になってしまっています。このままでは、早晩立ち行かなくなりますよ?」


ちえの冷徹な正論に、大広間が水を打ったように静まり返る。

賢人は、静かに天を仰ぎ、両手で顔を覆った。


「……マジかぁ。あの百億、後できっちり利子つけて返してもらうつもりだったのに。俺の老後の資金が……。どうすんの、これ」

「決まっています」

ちえは、眼鏡の奥をキラリと光らせ、悪魔のような微笑みを浮かべた。


「我々の圧倒的な武力と庇護によって、治安の安定という『利益』を享受している者たち。すなわち、政府、各自治体、そして富裕層の企業から、正当な『対価』を支払っていただきましょう」


それは、実質的なみかじめ料の請求宣言だった。

かくして、日本最凶の武闘派組織『神子神社』の、血で血を洗う『マネタイズ(集金)作戦』の幕が、静かに上がったのである。

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