第20話:報道の自由と、魔王の絶対法(物理)
第四課の非道な人体実験と、隠蔽されてきた神子たちの真実。
そのすべてがネットに流出したことで、日本社会は完全に二分されていた。
最初は、世論もマスコミも「国家に異能を搾取されていた悲劇の被害者たち」という論調で神子たちを擁護した。政府や宮内庁への激しい反発が起き、ただでさえ機能不全に陥っていた第二課は完全に身動きが取れなくなっていた。
だが、国家の締め付けが消えたことで、これまで息を潜めていたフリーの神子や不良グループが、ここぞとばかりに蠢き始めた。
異能を使った強盗、破壊活動、一般人への横暴な振る舞い。
それらが日常茶飯事になっても、マスコミは相変わらず左翼的な偏向報道を繰り返し、「彼らもまた社会の被害者である」と神子の犯罪を一切報道しなかった。
そんな歪んだ状況に、一般市民の不満とヘイトは限界まで膨れ上がっていた。
そんな中。
国家の枠組みから外れた謎の独立組織『神子神社』の設立を嗅ぎつけたマスコミ各社が、代表に祭り上げられた沙織と安倍に一斉に群がった。
「三木代表! 神子を武力で統制するというのは、明らかな人権侵害ではないですか!」
「宮内庁の天下り組織という見方もありますが、説明をお願いします!」
フラッシュの瞬く中、マイクを突きつけられ、沙織と安倍は胃を押さえて青ざめていた。
しかし、運が悪いことに、そこへたまたまお菓子を食べながら通りかかったレナの姿があった。
「そこのあなた! あなたも神子神社の所属ですか! 暴力的な支配についてどうお考えで――」
スクープに目の色を変えた一人の記者が、無遠慮にズカズカと歩み寄り、レナの顔面に勢いよくマイクを突きつけたのだ。
ゴッ、と。マイクの先端が、レナの鼻先に当たった。
その瞬間、世界が凍りついた。
「……あっ」
レナが持っていたクレープが地面に落ちる。
直後、隣を歩いていたセリーナの笑顔がスッと消え、ザラが「あーあ」と深くため息をついた。
「アタシの、クレープ……」
ドゴォォォォォォンッ!!!
悲鳴すら上がる暇はなかった。
ザラ、セリーナ、そして激怒したレナの三人が、一切の魔法も武器も使わず、ただの『素手』でマスコミ陣のド真ん中へと突撃したのだ。
「ぎゃあああああっ!」
「ひぃぃっ、腕が、腕がああぁっ!!」
カメラは粉砕され、マイクはへし折られ、いい大人の記者たちが次々と宙を舞う。過剰防衛などという生易しいものではない。文字通りの『半殺し』である。
数分後。
血の海と化し、うめき声を上げてピクピクと痙攣するマスコミの山を前にして、沙織は世界一嫌そうな顔で、震える手に一枚のペーパーを握りしめていた。
賢人から渡された『声明文』である。
「え、えー……コホン」
血まみれの記者たちを見下ろし、沙織は半泣きになりながらマイクを通した。
「本日から活動を開始する『神子神社』より、声明を発表します。……当組織に与さない神子、およびそれを是とする政治家、機関、団体は、すべて当組織の『敵対勢力』とみなし、実力で排除します。これに関する苦情も請願も、一切受け付けません」
あまりにも理不尽な独裁宣言に、倒れている記者たちが絶望の表情を浮かべる。
「ただし」
沙織は、胃薬を噛み砕きながら続けた。
「過去の罪については、当神社の設立前であるため『不問』とします。しかし、本日以降に発生した神子による犯罪については、当神社に所属している・いないに関わらず、独自のコールセンターにて通報を受け付けます」
沙織は、用意されたフリップを掲げた。そこにはフリーダイヤルの番号がデカデカと書かれている。
「イキった神子が暴れていたら、こちらにご連絡ください。警察の法令より遥かに重度の罰を、我々『神子神社』が直接執り行います」
それはつまり、警察権や国家の治安維持など完全に無視して、この国を魔王のルールで支配するという『新たな法』の宣言だった。
当然、世論とマスコミは激しく沸騰した。
権力に驕った某政党の幹部が「あんなテロリストまがいの連中、警察を動かして潰せ!」と息巻いた。
だがその日の夜、その政党本部の巨大なビルは、レナと彼女に従う神子たちによって、物理的に跡形もなく『更地』に変えられた。
さらに、「神子神社の横暴を報道するな」という事前通達を無視し、正義面で偏向報道を強行したテレビ局にも容赦のない鉄槌が下された。
厳重な警備網など紙くず同然。セリーナは単身で正面から局内に乗り込み、立ち塞がる警備員たちを次々と物理的に無力化しながら、生放送中のスタジオの扉を吹き飛ばしたのだ。
数分後。
全国ネットの生放送の画面に映し出されたのは、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして震えるキャスターたちの姿だった。
テレビの前の視聴者には、彼らがなぜそこまで異常に怯えきっているのか、画面の映像からは分からない。
だが、カメラの枠外――ニュースデスクのすぐ目の前には、あまりにも異様で凄惨な光景が広がっていた。
報道の決裁を下したテレビ局の管理職たちの、綺麗な切り口で斬り落とされた生首。それがスタジオの床に無造作に積み上げられているのだ。
その首の山に足を乗せ、用意させた椅子に深く腰掛けたセリーナが、退屈そうに靴の先で首を揺らしていた。
『わ、我々は……こ、これまでの偏向報道を……ふか、深く反省し……っ』
キャスターたちは、目の前の地獄を直視させられながら、発狂するのを必死に堪えて生放送の謝罪番組をやらされていた。
直接的な血を映すよりも遥かに生々しい『真の恐怖』が、ブラウン管を通して日本中に決定的なトラウマを植え付けた。
逆らえば、問答無用で死ぬ。
マスコミも、政府も、警察も、魔王の圧倒的な暴力の前に完全に屈服した。
「まずは半年、黙ってろ」
賢人は、政府高官とマスコミ各社のトップを集めた極秘会議の席で、ニッコリと笑って言い放った。
「その間の犯罪件数と、ウチがどう対応したかは、特定の視点を交えない『事実と数字』のみなら報道を許可する。半年後に改めて政府と協議してやるよ。……あ、文句があるならいつでもどうぞ?」
魔王の言葉に、反論できる者など一人もいなかった。
こうして、日本という国家の裏社会を完全に掌握した『神子神社』は、絶対的な恐怖と共に、本格的な活動を開始したのである。




