第19話:第四課の最期と、生命の過ち(ミソル)
男から吐かせた座標を元に、俺たちが東京の地下深く――巨大な下水道施設をさらに下った先に隠されていた『第四課メインラボ』へ足を踏み入れた時、そこはすでに凄惨な血の海と化していた。
「ひぃっ、た、助け……!」
「無駄だ。全データはすでに我々のサーバーに転送した。お前たちモルモットに用はない」
無機質な銃声が響き、白衣を着た第四課の研究者が頭を撃ち抜かれて崩れ落ちる。
広大なラボの奥に立っていたのは、完全武装した迷彩服の部隊だった。
部隊を率いる金髪の白人――CIAの特務指揮官は、床に転がる第四課の死体を見下ろして鼻で笑った。
「まったく、手間をかけさせやがって。……我々が少し資金と政治のバックアップをしてやれば、黄色い猿どもが同じ猿を使って勝手に研究を進める。濡れ手に粟とはまさにこのことだったんだがな」
その言葉は、絶命しかけていた第四課の生き残りにとって、何よりも残酷な真実だった。
自分たちこそが国家の裏を牛耳るエリートだと思い上がっていた彼らは、実はアメリカの手のひらの上で踊らされ、神子のデータを吸い上げるための『都合の良い猿』として利用されていただけのピエロだったのだ。
真の黒幕の姿を知り、第四課の連中は惨めな絶望の中で息絶えていった。
「……随分と悪趣味な猿芝居じゃないか」
俺が静かに声をかけると、CIAの指揮官が鋭く振り返った。
「何者だ!? なぜここに……いや、お前たちが第二課の連中か。ちょうどいい、目撃者はここで消す。やれ」
指揮官が指を鳴らすと、ラボの暗がりから『それら』がズラリと姿を現した。
人間の形はしている。だが、皮膚の半分以上が金属の装甲に覆われ、瞳には一切のハイライトがなく、生気というものが全く感じられない。
「紹介しよう。神子の肉体にサイボーグ技術を掛け合わせた、我々CIAの先行量産型兵器だ。神話(Myth)の力と、生命の倫理を外れた過ち(Miss)。ダブルミーニングを込めて、我々はこいつらを『ミソル(Miss-soldier)』と呼んでいる」
感情も痛覚も持たない、機械と肉体のハイブリッド。
数十体のミソルたちが、一糸乱れぬ動きで不気味な殺意を放ちながら、俺たちを包囲した。
「ふん。機械のオモチャが、アタシたちに通用すると思ってんのかい」
ザラが一歩前に出て、愛用の大剣を構えた。
「目標捕捉。制圧開始」
機械音声と共に、数体のミソルが常人離れした速度でザラに襲いかかる。彼らの電脳は、ザラの筋肉の動きから次の太刀筋を完全に予測演算していた。
だが。
ザラはここに至って、異世界時代すらも超える『剣の極意』を掴んでいた。
「遅いね」
予測演算? 合理的な死角への攻撃?
そんなものは、ザラの神速の見切りと直感の前では止まっているも同然だった。
ザラは、ミソルが攻撃モーションに入るその刹那、すでに敵の懐に潜り込んでいた。サイボーグの強固な装甲を力任せに叩き割るのではなく、関節のわずかな隙間、装甲の継ぎ目を、大剣の切っ先で撫でるように滑らせる。
スッ、と。
なんの抵抗もなく、ミソルたちの首や腕が音もなく滑り落ちた。機械の演算を凌駕する、まさに技の極致であった。
「なっ……!?」
驚愕するCIA指揮官の横で、セリーナが優雅にため息をついた。
「いくら機械を埋め込んでも、所詮は燃えるモノでしょう?」
セリーナが指を鳴らすと、ラボの空間を埋め尽くすほどの青白い炎が爆発的に燃え上がった。火力レベル10。もはや熱という概念を超えた地獄の業火が、ミソルたちを強固なサイボーグ装甲ごと瞬時にドロドロの飴細工のように溶かし尽くしていく。
そして。
「ふふーん! アタシのバッティング練習の的にちょうどいいですぅ!」
レナは、自分の背丈ほどもある超質量の鉄柱を構え、ウキウキと打席に入っていた。
「まずは、一番打者から特大アーチを狙う、シュワーバーのスイングですぅ!」
強引なまでのアッパースイング。
ドゴォォォォンッ!!
突っ込んできたミソル数体が、凄まじい衝撃波と共にまとめて天井へとカチ上げられ、スクラップとなってひしゃげる。
「次は、規格外のパワー! ジャッジのフォーム!」
バキィィィィンッ!!
今度は大上段からの強烈な叩きつけ。受け止めようとしたミソルの腕ごと、チタン合金の頭蓋骨がペチャンコに叩き潰された。
その時、他のミソルよりも一回り大きく、重武装を施された『中ボス』らしき個体が、地響きを立てながらレナに突進してきた。
「 危険度MAX… 最大出力で排除」
「おっ、強そうですねぇ。それなら……」
レナはメイスをスッと引き、右足を高く、高く空高くへと持ち上げた。
「伝家の宝刀! 世界のホームラン王の『一本足打法』ですぅ!!」
ピタリと静止した一本足から、全身の魔力と捻りを解放した、究極のフルスイング。
カアァァァァァァンッ!!!!
まるでスタジアムに響くような快音と共に、中ボスミソルの巨体がボールのように圧縮され、ラボの分厚いコンクリートの壁を何枚もぶち抜きながら、遥か彼方の地層の奥底へと消し飛んでいった。
「よしっ! 場外ホームランですぅ!」
バットフリップをキメてガッツポーズをするレナの周囲には、もはや一体のミソルも立っていなかった。
「ば、馬鹿な……我々の最高傑作のミソル部隊が……数十億円の兵器が、たった数分で……!」
CIAの指揮官は腰を抜かし、ガタガタと震えながら後ずさった。
俺は、無造作に歩み寄ると、逃げようとした指揮官の首根っこを片手でガシッと掴み上げ、空中に吊るし上げた。
「ひっ、あ、悪かった! 命だけは……!」
俺は一切の表情を浮かべず、底冷えする魔王の声で告げた。
「俺たちはこれから、国から独立した『神子神社』って組織を名乗る。……アメリカの親玉に伝えておけ」
俺は指揮官の耳元に顔を寄せ、冷酷に囁いた。
「次にウチのシマを荒らしたら、国ごと地図から消すぞ」
その圧倒的な殺気と威圧感に、CIAの指揮官は完全に白目を剥いて気絶した。
こうして、日本の闇に巣食っていた第四課は壊滅し。
俺たち『神子神社』と、世界の超大国との、新たな狂った戦いの幕が上がったのである。




