全問正解
いつも通り二人で家でお酒を飲みながらテレビを見ていると、バラエティ番組でカップル企画が流れていた。「二人が初めて出会った場所は?」というクイズに、フリップで同時に答えている。
「ねえ! 恭介さん! 私たちもこれやろうよ!」 カナが急に目を輝かせ、裏紙とペンを二本持ってきた。
「はいはい、原点チェックね。でも合わなかったら怒るだろ、お前」 「怒らないよ! ほら、書いた?」
一斉に紙を掲げる。
【第1問:初めて出会った場所は?】
恭介:『アンカー』
カナ:『アンカー』
「わ! すごい! 正解!」 カナは手を叩いて喜んだ。
【第2問:初めてキスした場所は?】
恭介:『ホテル』
カナ:『ホテル』
「え! すごくない!? 完璧じゃん!」
【第3問:初めて二人で旅行に行った場所は?】
恭介:『温泉』
カナ:『温泉』
「きゃー! やっぱり私達、運命で結ばれてるんだわ!」 思い出の全問正解に、カナのテンションは爆上がりした。
「よーし、じゃあ次は私についての問題ね!」 調子に乗ったカナが、身乗り出して出題する。
【第4問:私の得意料理は?】
恭介:『カレー』
カナ:『親子丼』
「はー!? 誰と間違えてるのよ! 誰のカレー食べてるの!?」 「いや、カレーよく作るだろ……」
【第5問:私の嫌いな食べ物は?】
恭介:『トマト』
カナ:『セロリ』
「はい? それ私じゃない! トマトなんてむしろ大好きですけど! セロリだし!」 「あれ? そうだったか……?」
【第6問:私の好きな色は?】
恭介:『赤』
カナ:『白』
「ちょっと!! 普段私の何を見てるのよ! そんなに関心がないわけ!?」
徐々にカナの顔から笑みが消え、声のトーンが本格的に上がっていく。
【第7問:私が自分で自信があるところは?】
恭介:『胸』
カナ:『脚』
「……ほんとにもういいわ。恭介さんにとって私はその程度の存在なのね! 最悪だわ!」 ついに本気でキレたカナは、フリップをバシッとテーブルに叩きつけ、ソファーの上で完全に恭介を睨みつけた。
「おいおい、じゃあカナは俺のこと当てられるのかよ!」 本気で不機嫌になったカナに、恭介が反撃の出題をする。
【第8問:俺の嫌いな食べ物は?】
カナ:『しいたけ』
恭介:『しいたけ』
「ほらね!」
【第9問:俺の好きな色は?】
カナ:『青』
恭介:『青』
「私はなんでも知ってるんだから!」
【第10問:俺の口癖は?】
恭介:『だるー』
カナ:『カナ、愛してるよ』
「は? そんなの言ったことねぇだろ!」 「これからはそうして。」
ドヤ顔で自分の願望を答えるカナ。
恭介が意地になって、自分でも意識したことのない超難問を出した。
【第11問:俺は体を洗う時、どこから洗う?】
恭介自身、普段の自分を思い浮かべながら書く。
カナ:『左腕』
恭介:『左腕』
「……え」 恭介の手が止まった。自分でも無意識だったが、確かに毎回左腕からスポンジを当てている。
難問を完璧に正解したカナを、恭介はマジマジと見つめた。さっきまでキレていたカナは一転、ふふんと胸を張り、誇らしげな笑みを浮かべている。
「へへへ。私に知らないことはないんだよ」
「……ほんとに怖いんだけど。ゾッとするわ……」
「よし、じゃあ、これは?」 恭介がニヤニヤしながら、意地悪な顔でペンを走らせる。
【第12問:カナの性感帯は?】
「ちょっと! 何書いてんのよ!」 「いいから書けって」
「え……うーん……」 カナは赤くなりながら、おそるおそる紙を開いた。
恭介:『乳首』
カナ:『乳首?』
「お、すごいじゃん! 当たった!」 恭介がニヤッと笑ってフリップを指さす。
「ま、まぁ、自分の体だから……」 カナは恥ずかしそうに下を向き、蚊の鳴くような小さな声で答えた。
「じゃあ次な」 恭介は容赦なく次の問題へ進む。
【第13問:やってみたいと思うプレイは?】
一斉に紙を開く。
恭介:『野外で』
カナ:『先生と生徒』
「は……?」 恭介の動きがピタッと止まる。
「え……、あ、いや、違う……!」 自分の書いた文字を見つめ、カナの顔が一瞬で引きつった。
「そういうのが好きなの?」
「い、いや、違うからっ! 恭介さんがやってみたいことを考えて書いたの!」
恭介はニヤニヤしながらじっとカナを見つめた。
「カナが先生役か?」 「違うよ、恭介さんだよ」 「考えてるんじゃねーか」 「違う違う!」と焦って顔を真っ赤にするカナ。
「でも、先生と生徒っていうシチュエーションは女の人に人気があるらしいよ。漫画とか」 カナがなんとか言い訳しようと、真っ赤な顔のまま必死に弁明する。
「じゃあ、カナが先生役でもいいだろ」 「いや、先生役は恭介さん」 「……決まってるんだ? 考えたことあるだろ…?」 「え? ないよっ!ないないっ!」
図星を突かれて焦ったカナは、半ばキレ気味に声を荒らげる。
「そんなに怒ることか?」
「だって……」
赤面しながらも言葉に詰まるカナをじっと見つめ、恭介はクッと息を漏らしてソファーの背もたれに体を預けた。
「まぁ、俺が先生役でもいいけどな」
ポツリと落とされたその一言に、さっきまでキャンキャン怒っていたカナの動きがピタッと止まる。 怒り顔だった頬がぽっとほんのり朱に染まり、カナは視線を泳がせながらモジモジと指先を弄び始めた。
「今度、友達に聞いてみるわ。先生役ってどうやるんだ?って」
恭介が冗談めかして平然と言い放つと、カナは一瞬固まり、次の瞬間には弾かれたように身を乗り出した。
「ちょっと! それは二人だけの秘密でしょっ!」
真っ赤な顔で必死に叫ぶカナの姿に、恭介は思わず吹いた。
「ま、やらないけどな」
呆れたように肩をすくめてグラスをあおぐ恭介。 すると、さっきまで恥ずかしさで爆発しそうだったカナが、急にポカンとした顔になる。
「え、あ、そう……」
ほんのり落胆したような、どこか拍子抜けしたようなカナの声。 そのわかりやすすぎる反応に、恭介は心の中で「本当にわかりやすい奴だな」と苦笑しつつ、そっとグラスをテーブルに置いた。
「恭介さんだって、『野外で』って書いてるじゃん!」
自分の妄想を散々弄られたカナが、逆襲とばかりに恭介のフリップを指さした。
「あぁ、開放感がありそうでいいよな!」
意に介さず、平然と肯く恭介に、カナは呆れたように目を丸くする。
「誰かに見られたらどうするのよ。恥ずかしい。捕まるよ!」
「じゃあ、逆に誰もいなかったらいいのか?」
「そういう問題じゃないでしょ!」
プンプンと怒るカナを横目に、恭介はグラスを回しながら言葉を続けた。
「例えば、綺麗な砂浜で、とか。星空の下でロマンチックじゃないか?」
そう口にした瞬間、恭介の脳裏にハッとある光景が蘇った。 ――以前のグランピング。夜の静かな海辺で、波の音を聞きながら雰囲気に流されたあの夜のことだ。
「……まぁ、そうかもだけど。なに? やったことあるの?」
ジト目になって、勘ぐり深い視線を向けてくるカナ。
「は? ないよ。あるわけないだろ」
恭介は素知らぬ顔で目を逸らし、冷えたお酒を一口煽った。
「自然はいいよな」
恭介がお酒を口に含みながら、ポツリと呟く。
「キャンプ行こうよ!」
カナが待ってましたと言わんばかりに身を乗り出した。
「キャンプって難しいだろ。道具もないし」
「あ、じゃあ、グランピングでいいじゃん! 恭介さん、前、仕事で行ってたよね?」
「あ、あぁ、そうだね」 恭介の背中に、冷や汗がすっと伝う。
「行こう行こう!」
完全に行く気満々で目を輝かせるカナ。
「う、うん、わかった」
「恭介さん、調べといて! わかるでしょ?」
「オッケー……」
さすがに同じ場所へカナを連れて行くのは、気まずいどころの話ではない。 恭介は平静を装いながらポケットからスマホを取り出し、画面をタップして別のグランピング施設を調べ始めた。




