誕生日
二人はグラスを傾けながら、夜の静かな時間を楽しんでいた。少し酒が回ってきた頃、カナがグラスを弄びながら唐突に聞いてきた。
「恭介さん、コスプレに興味ある?」
(ん? カナってアニメに興味あったっけな)
恭介が首を傾げていると、カナは上目遣いでニヤリと笑った。
「ナースとか」
(あぁ……アニメじゃなくて、そっちのほうか)
思惑を察した恭介は、グラスを置いて素っ気なく答える。
「いや、特にないけど」
「なーんだ、つまんない」
つまらなさそうに唇を尖らせるカナに、恭介は尋ねた。
「着たことあるの?」
「ないよ!」
即答するカナ。どうやら昼間に友達と話していて、そういう話題で盛り上がったらしい。
「着たいのか?」
「うん、着てみたい! 私って似合いそうじゃない?」
自信満々に微笑むカナを見て、恭介は思わず苦笑した。
(着たとこでおばさんナースだろw)
心の中でそうツッコミを入れつつ、恭介は口には出さずに酒を煽る。
カナは顎に手を当てて「ふーむ」と考え込み始めた。
「みんなそういうのってどこで買うんだろうね」
「さぁな、仕事がそういう仕事なんじゃないか?」
「カナだって制服があるじゃん」
「制服は持って帰らないから。今度持って帰ってこようかなー」
「いや、いいだろ」
恭介が即座に踏みとどまらせると、カナは「えー」と不満そうに声を漏らした。
「そういうナース服ってミニスカなんだって。可愛いよね」
カナはグラスを傾けながら、どこかわくわくした様子で楽しそうに言った。
「へー、そうなんだ」
恭介は平然を装い、何も知らないフリをして素っ気なく返事をした。
実際には、若い頃にネットでそういう画像や動画なんて山ほど見ている。
ミニスカだのなんだのと言われても、恭介からすれば今さら驚くような知識でもなかった。
だが、チラリと横目で目の前の上品なメイクを施したカナを盗み見る。
(……たしかに、カナは似合うかもしれない)
スタイルもいいし、立ち振る舞いにも華がある。正直なところ、ナース服どころか、カナならどんな服を着てもそれなり以上に似合ってしまうのだろうと、恭介は胸の中で密かに認めざるを得なかった。
「あ、そうだ!」
急に思い出したように声を上げると、カナが立ち上がって奥の部屋へと向かった。
戻ってきたカナの手には、見たこともない瓶やチューブ状の化粧品が山ほど抱えられていた。どうやら自分の勤め先や扱っているブランドの品らしい。
「これね、アンチエイジングがすごくて! このシワ予防の成分がさぁ……」
テーブルの上にずらりと並べながら、カナは熱弁を振るい始めた。完全に仕事モードだ。そしてそのまま、ターゲットは当然のように恭介へと向けられた。
「はい、じっとして!」
「おい、俺かよ——」
制止する間もなく、手に取られた化粧水やら、用途のよく分からない謎のクリームやらが、次々と恭介の顔に手際よく塗られていく。カナの手つきは無駄がなく、完全にプロのそれだった。
「おい、顔がベタベタじゃないか」
「いいのいいの。それが浸透してくるんだから」
カナは満足そうに恭介の頬をぺたぺたと叩きながら、顔を覗き込んできた。
「なんか顔が上がってきてる感じわかる?」
「いや、特に変わらないけど」
素直に答えると、カナは少し不満そうに唇を尖らせた。
「これ高いんだからね」
(……高いのか)
そんな高級品を塗られておいて、まったくの無反応というのも角が立つ気がする。
「あぁ……なんか、皮膚が張ってきたような……」
「でしょ! そうなのよ!」
恭介の適当な言いに合わせた相槌に、カナは待ってましたとばかりにパッと表情を輝かせた。
「お買い上げありがとうございまーす」
「なんでだよ」
恭介がすかさずツッコミを入れると、カナはいたずらっぽく「くすくす」と笑いながら、テーブルに散らばった高級そうな化粧品を手際よくポーチへ片付け始めた。
さっきまで顔に塗られていた謎のクリームのベタつきと、ほのかに甘いコスメの香りが、恭介の肌に残っている。
「でも本当に、恭介さんお肌キレイになったよ? 明日の朝、顔洗うときびっくりするからね」
「へいへい。楽しみにしておくよ」
満足そうにポーチのチャックを閉めたカナは、完全に仕事モードをオフにして、再びグラスを手に取った。
「で? さっきのナース服の話だけどさー」
「まだその話続いてたのかよ」
片付けが終わってもなお、夜の二人の酒席は終わる気配を見せない。
一転してコロコロと表情を変えるカナのペースに振り回されながらも、恭介はどこか心地よさを感じつつ、減った分のお酒を自分のグラスへと注ぎ足した。
恭介は、片付けを終えてグラスを傾けるカナの顔をまじまじと見つめた。
女は化粧で大きく変わる。ましてやカナは美容業界に身を置く、いわゆるプロだ。
ムラひとつなく綺麗に塗られた肌、丁寧にラインが引かれた形のいい唇。スキのない美しさを前にして、恭介の頭にはふと余計な例えが浮かんだ。
(ここまで綺麗に塗るんだから、もはや左官屋だな……)
職人技のような手際に、思わず心の中で苦笑する。
視線に気づいたカナが、首を少し傾げてグラスを止めた。
「ん? なに?」
「綺麗だなと思って見てた」
本音を素直に口にすると、カナは一瞬だけ目を丸くしたあと、勝ち誇ったような笑みを浮かべて胸を張った。
「今気付いたのー? 遅い」
カレンダーを眺めていて、ふとカナの誕生日が近づいていることに気がついた。
恭介としては、どこか気の利いたレストランでも予約して、それなりのディナーを用意するつもりでいた。
「もうすぐ誕生日だけど、何がしたい?」
雑誌をめくっていたカナは、顔を上げて少し考える素振りを見せた後、あっけらかんと言った。
「うーん……家でゆっくりしたいな」
「え? せっかくの誕生日なのに?」
てっきり、どこそこのお店に行きたいだの、なになにが欲しいだのと言い出すと思っていた恭介は、予想外の返答に思わず聞き返した。
「うん。家で、二人で豪華に何かやりたい」
「家で豪華に? なんだよそれ」
「デパ地下とかで何か美味しいものいっぱいテイクアウトして、持ち寄ってさ。それで、いいお酒飲んでゆっくりするの」
カナは雑誌を閉じ、嬉しそうに身を乗り出して恭介を見た。
「……それでいいの?」
「それがいいの!」
外で着飾って特別な時間を過ごすのもいいが、カナにとっては、誰の目も気にせず恭介と二人きりで、好きなものを飲み食いして過ごす時間こそが一番の贅沢らしい。
「わかったよ。じゃあ、当日は美味い酒と、テイクアウトの買い出しだな」
「やった! 楽しみー!」
◇
誕生日当日。
恭介は一人、高級デパートのデパ地下へ足を運んでいた。
目当てはカナの大好物であるローストビーフだ。
ショーケースに並ぶ色鮮やかな惣菜の中から、美味そうなオカズや珍しいおつまみをいくつか厳選し、酒売り場で高級なシャンパンを手に入れた。
さらに、ポケットの中にはサプライズで用意したネックレスの箱。そして、カバンにはもう一つ——後輩のタクヤに無理を言ってコソコソ手配させたナース服が忍ばせてある。
(タクヤに頼んで買ってもらったなんて言ったら、カナは絶対ブチギレるな……そこは墓場まで持っていくか)
両手にずっしりとした買い出しの袋を下げ、恭介は自宅のドアを開けた。
「ただいま」
「おかえりー」
奥からカナの明るい声が返ってくる。 買ってきた食材やシャンパンは、中身が見えないよう袋のまま手早く冷蔵庫へ押し込んだ。見ると、野菜室にはカナが買ってきたらしい袋も同じように入れられている。中身はまったく分からない。
一息ついた恭介は、まずお風呂へ向かった。 湯を浴びてさっぱりしたあと、せっかくの誕生日なのにいつものヨレたTシャツじゃ味気ないと思い、パリッとした白いシャツに袖を通した。鏡の前で軽く髪を整える。
その頃、カナも寝室にこもって着替えと準備をしているようだった。
「さて、始めようか」
リビングの照明を少し落とし、テーブルを整えていると、パタリと寝室のドアが開いた。
恭介は思わず手を止め、息をのんだ。
出てきたカナは、隙のない完璧なメイクを施し、体のラインが美しく出るセクシーなワンピースを身にまとっていた。計算し尽くされた装い。まさに外で見せる「完全体」のカナだった。
綺麗さに一瞬圧倒されながらも、恭介は素知らぬ顔でシャンパンの準備へと向かった。
シャンパンの栓をポンと抜くと、部屋中に軽やかな音が響いた。グラスに注がれた黄金色の泡が、パチパチと弾ける。
「誕生日おめでとう」
「ありがとう!」
カチン、とグラスを合わせ、二人はシャンパンを口に含んだ。
「じゃあ、買ってきたやつ出そうか」
恭介が冷蔵庫から袋を取り出し、カナも自分の袋を引き寄せた。お互い何を買ってきたのか楽しみにしながら、せーのでテーブルの上に並べたその瞬間——
「……あ」
テーブルの上に鎮座したのは、二つのローストビーフだった。
「えー! なんで!?」
カナが目を丸くして叫んだ。
「なんでって……誕生日つったらローストビーフだろ」
「恭介さんも買ってくるなんて聞いてないよー!」
かぶってしまった大本命に、二人は顔を見合わせて大笑いした。
「まあいいや、ローストビーフ祭りだね! 食べ比べしよう!」
カナが買ってきた色とりどりの惣菜や、恭介が選んだ珍しいおつまみも次々とパックから出され、テーブルの上はあっという間に豪華な料理で埋め尽くされた。完全体のセクシーなカナと、白シャツ姿の恭介。二人の少し特別な家飲みが、賑やかに始まった。
恭介は小さな箱を取り出し、何でもないことのようにテーブルの上に置いた。
「えっ、なにこれ……?」
カナは目を丸くし、手にとった箱をそっと開けた。中に収まっていた繊細な輝きを放つネックレスを目にした瞬間、その表情がパーッと華やぐ。
「わ! すごい……ありがとう! ねぇ、付けてもいい?」
カナは嬉しそうに首元へ手を伸ばし、留め具と格闘しながらネックレスを身につけた。胸元で揺れる小さな輝きが、セクシーなワンピースと相まって恐ろしいほどに様になっている。
「どう? 似合ってる?」
ご機嫌を最高潮に達させたカナは、何度も鏡や胸元を確かめては、満足そうに微笑んでいる。
テーブルいっぱいに広がったローストビーフに箸を伸ばした。ラベルを見比べると、デパ地下の中でも入っている専門店が微妙に違っている。
「……俺のほうが美味しいな」
一枚口に運んだ恭介がニヤリとしながら言うと、カナは自分の買ったほうをパクッと口に含み、負けじと反論した。
「そんなことないよ! 私のほうがさっぱりしてるでしょ? タレもフルーティーだし」恭介は自分が買ってきた珍しい総菜のパックを突いた。
「これなに? 野菜?」
カナが興味津々に覗き込んでくる。
「何か知らないけど、美味そうだろ?」
「本当だ、食べてみる……ん! 美味しい!」
「だろ?」
シャンパンを傾けながら、二人は次々とオカズをつまんでいく。どれもデパ地下の高級惣菜だけあって、酒のつまみには申し分ない。
「いろいろつまむの楽しいね! あ、これ美味しいね!」
「どれ? ……お、美味いな。酒が進むわ」
「でしょー! 今度はこれ食べてみてよ!」
「はいはい」
セクシーなワンピースを着た「完全体」のカナが、まるで子供のように目を輝かせて皿を差し出してくる。そのギャップを楽しみながら、恭介のグラスも順調に空になっていった。
シャンパンのボトルが空になり、二人は心地よい酔いに包まれていた。
「あ、そうだ! 私もお酒買ってきたよー」
そう言ってカナが冷蔵庫の袋から出してきたのは、重厚なガラスボトルだった。
「お、これは……」
恭介は思わず目を見張った。ボトルに輝くラベルは、見たことはあるものの、なかなか手を出さずにいた高めのウィスキーだった。
「ふふ、驚いた? 用意するね」
カナは手際よくグラスに大きな氷を浮かべ、トクトクと琥珀色の液体を注いでいく。手つきの鮮やかさといい、セクシーなワンピース姿といい、絵になりすぎていた。
「キャバ嬢みたいだな。服もそれっぽいし」
恭介が半ば呆れつつ、半ば見惚れながら言うと、カナはグラスを恭介の手元へそっと置き、悪ノリするように首をかしげて見せた。
「働けるかな?」
「……ナンバーワンになれるかもな」
恭介が本音混じりに返すと、カナは「やったー!」と満足そうに笑い、自分にもウィスキーを注いでグラスを掲げた。
「いらっしゃいませー」
カナはノリノリで乗っかり、キャバ嬢になりきって少し首をかしげて見せた。
「このお店は初めて?」
「はい。いい店ですね」
「カナです。よろしくお願いします」
そう言って、グラスを恭介の前にそっと差し出す手つきまで様になっている。カナは上目遣いで恭介の顔を覗き込んだ。
「お兄さん、かっこいい。彼女とかいるんですか?」
「いや、今はいませんけど」
すました顔で恭介が嘘をついた瞬間、カナの表情が一変した。
「はー? いるでしょ!」
完全体メイクの綺麗な目が、一瞬でジロリと恭介を睨みつける。さっきまでのノリノリな接客モードから、一気に本気の彼女の顔に戻っていた。
「目の前にいるでしょーが!」
「あ、はい、います」
慌てて仕切り直した恭介の言葉に、カナはわざとらしく「へぇー」と相槌を打つ。
「やっぱりそうですよねー。彼女って可愛い?」
「いや、そうでもないですよ」
「は?」
再びカナの目が鋭く光り、一瞬で部屋の空気が凍りついた。
「あ、可愛いですよ。自慢の彼女です」
恭介が素早く前言を撤回すると、カナは一転して満足そうに鼻を鳴らし、自慢げに胸を張った。
「でしょうねー!」
即答するカナのドヤ顔に、恭介は思わず苦笑いを浮かべた。
カナは上機嫌でウィスキーのグラスを傾け、氷をカラランと鳴らした。
完全にカナのペースに巻き込まれっぱなしの夜だったが、目の前でコロコロと表情を変える「自慢の彼女」を眺める時間は、悪くないものだった。
もう一つ「真のサプライズ」が控えていた。
(……これをどのタイミングで出すべきか)
意を決して、恭介は素っ気ない仕草でバッグからビニール袋を取り出した。
「カナ、もう1つプレゼントがあるんだ」
「えー! なになに!? まだあるの!?」
目を輝かせるカナの前に、恭介はその袋をポンと置いた。
パッケージの表面には、過激なセクシーなお姉さんの着用写真が堂々とプリントされている。
「……なにこれ」
一瞬、カナの動きが止まり、あからさまに怪訝な顔でパッケージと恭介を交互に見つめた。恭介の背中に嫌な汗が伝う。
だが次の瞬間、パッケージのタイトルを目にしたカナの表情がパッと切り替わった。
「あ! ナースじゃん! えー!」
呆れるどころか、どこか楽しそうな声を上げるカナ。先日の酒の席での会話を覚えていた恭介の「仕込み」に、案外ノリノリの様子だった。
「着てみてもいい?」
「う、うん……好きにしろよ」
恭介が少し拍子抜けしながら頷くと、カナはパッケージを大事そうに抱え込み、悪戯っぽく微笑んだ。
「待ってて、うふふ」
どこか艶っぽい笑みを残し、カナはナース服を手に寝室へと消えて行った。
パタンとドアが閉まる音を聞きながら、恭介は残ったウィスキーをぐっと喉に流し込み、静かにその時を待った。
「え? あれ? うわー……」
寝室の奥から、戸惑いと焦りが混ざったカナの声が漏れ聞こえてくる。
数分後、ゆっくりとドアが開いた。
そこに立っていたのは、顔を真っ赤にしてモジモジしているカナだった。完璧にキメた「完全体」のメイクと、先ほどまでの余裕たっぷりの態度はどこへやら、完全に恥ずかしさに飲み込まれている。
その姿を見た瞬間、恭介は思わず「ぶふっ」と吹き出してしまった。
「なんで笑うの!? 変かな……?」
変どころか、破壊力は抜群だった。ただ、後輩のタクヤが選んだだけあって、あまりにもサイズ感が攻めすぎている。
「いや、変じゃないけど……丈が短すぎるんだよ。普通にしてても下着が少し見えてるぞ」
ワンピースの比ではない短さに、恭介も思わず目のやり場に困る。
恥ずかしそうに裾を引っ張って隠そうとするカナに、恭介はウィスキーのグラスを置いて、まっすぐに視線を合わせた。
「似合ってるよ」
「……え、そう?」
恭介の素直な一言に、カナの表情が一気にパッと華やいだ。
さっきまでの恥ずかしさはどこへ行ったのか、嬉しそうに照れ笑いを浮かべると、そのままくるりとその場で一回転してみせた。
「セクシーな感じが出ていいと思うよ」
恭介が素直に感想を口にすると、カナは自信を取り戻したように調子に乗ってきた。
「えー、やっぱり? 似合ってる?」
そう告げてグラスを持ち上げると、カナは「もう、恭介さんたら……」と上目遣いで微笑み、恭介の隣へとすり寄ってきた。
氷を取りに立ち上がったカナの後ろ姿を、恭介は何気なく追った。
冷蔵庫の前で少し屈み込み、冷凍室をのぞき込むカナ。丈が短すぎるナース服の裾が完全に持ち上がる——というか、ほぼ剥き出しのお尻のラインが恭介の視界に飛び込んできた。
(カナ、Tバックなんだな……)
思わず心の中で呟いたつもりが、酒のせいでうっかり口から漏れてしまっていた。
「え! 見えてる!?」
ハッとしたカナが勢いよく振り返り、顔を真っ赤にして必死に裾を手で押さえた。
「いや、見えてないから大丈夫」
あからさまな嘘をつきながら恭介が素知らぬ顔でウィスキーを煽ると、カナはジト目で睨みつけてきた。
「ま、いいけど。今日は特別サービスね。興奮した?」
お尻を押さえながら上目遣いで覗き込んでくる。
「うん、お尻が綺麗だな」
恭介が素直に、どこか生返事のように答えると、カナは少し不満そうに整った眉をひそめた。
「お尻『も』、でしょ!」
そう言い放つやいなや、カナは膝をついて恭介の膝の上に乗り上げ、そのまま腰に跨ってきた。
丈の短いナース服から覗く脚の肌触りと、胸元で揺れる小さなネックレス。完璧にメイクされた綺麗な顔がすぐ至近距離に迫り、甘いお酒の香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
悪戯っぽく微笑みながら胸元に手を回してくるカナの重みを感じながら、恭介は観念したように息を吐き、その細い腰を引き寄せた。
「ああ、全部綺麗だよ。誕生日おめでとう」
「ふふ、合格」
耳元で囁くような声とともに、部屋に流れるメロウな音楽に溶け込むようにして、二人の特別な夜が深く深くなっていった。




