第9話「秘策」
合図の後、セイカとカナタは距離を詰めるように走り出す。当然、それぞれが相手していた機械に追いかけられるが、どうにか邪魔をされる前に合流することができた。
「任せた」
「そちらは頼みます」
短く言葉を交わし、互いに立ち止まることなく走り抜ける。
それにより、セイカは多脚の機械と。カナタは多腕の機械と。それぞれ相対することとなった。
「おらっ!」
相手の砲身目掛けて、セイカは大鎌を投擲する。光線によって一瞬で迎撃されてしまったが、むしろ狙い通りの流れと言えた。
(少しでも、処理を重くできれば……)
これら二体は、機械的な制御、あるいはそれに近しい方法で稼働している。ならば、処理が重くなるような動きを誘発することで負荷を与えられるのではないかと、セイカはそう考えたのだ。
障害物の設置やカナタとの入れ替わりも、その一環だった。
(ちょっとでも、タタラの援護をしないとね)
タタラの試みが成功しなければ、勝利はないだろう。セイカは早くもそう確信させられていた。
だがそれは、頼りきりになっていい理由にはならない。その相手が可愛い後輩ともなれば、余計に。
「ほら、ちゃんと狙わなきゃ当たんないよ」
挑発しながら、セイカは反撃を繰り出す。だがやはり、先程まで相手していた個体と同様で傷を与えるには至らない。
「やばっ」
脚はそのままに、砲身だけがセイカの方へと向く。
今から回避に移っても、致命傷は避けられないだろう。そう判断した彼女は、あえて砲身に近づいて手を伸ばした。
「うあっ⁉︎」
刹那、凄まじい衝撃が発生してセイカは後方へと吹き飛ばされる。
光線は発射されなかった。先の一瞬で彼女が能力を行使し、砲身の中を満たしたためだ。ただ、攻撃の暴発と、それによって発生する衝撃までは防ぐことができなかったが。
「いっ……だぁ」
背面に障害物を形成し、強引に静止する。体を強く打ちつけてしまったが、止むを得ないだろう。
痛みを堪えながら、セイカは即座に動き出した。
「……カナタ、平気⁉︎」
戦う相手を入れ替えても、なお苦戦させられている。自分でこうなのだから、経験の浅いカナタはより劣勢かもしれないと不安に駆られたのだ。
セイカの指示で動きを変えた分、余計に。
「大丈夫です! 変わらず、有効打はありませんが……まだ持ち堪えられます!」
意外にも前向きな言葉が返ってきたことにより、セイカはひとまず安堵する。もっと仲間を信頼しなければと自戒しつつ、周辺の障害物を形成し直した。
「こっちも、まだまだ……」
言いかけて、セイカは鼻の下あたりに違和感を覚える。深く考えずに拭った彼女の袖には、赤が滲んでいた。
(……体は正直だねぇ)
能力方面において、限界が訪れているらしい。これだけの広範囲で形成を繰り返していれば、無理もないだろう。
能力も、無限に行使できるわけではないのだ。このまま大した休息も取らずに使い続ければ、鼻血どころでは済まなくなる。
だが、まだ止まるわけにはいかない。
そんなことでは、ロマンは語れないのだから。
「まだまだ行けるよ!」
セイカは足場を次々と飛び移り、相手の後を追う。天井へ逃げられると攻撃が届かなくなってしまうため、時折放たれる光線を回避しながらも可能な限り最短経路で進むよう心がけた。
(届け……!)
大鎌が届かない程度には距離が遠かったが、セイカは相手の足下を基点に能力の行使を試みる。
「しゃっ!」
幸い無事に障害物が形成され、相手の走行を僅かに乱すことができた。
ただ、無茶な行動だったことは否めない。反動が大きく、鼻血は止まるどころか勢いを増していたのだから。
「タタラ、あとどれくらいかかる?」
追走を続けながら、問いかける。
光線の暴発があっても、相手は大して破損していなかった。どれだけ試しても、セイカとカナタでは決定打を作り出せないという事実が覆ることはないらしい。
「あとジャスト十秒っス!」
「……最っ高じゃん」
思わず、口角が吊り上がる。優秀な後輩の頑張りを無駄にしてはいけないと、セイカは大鎌を強く握り直した。
「気合い入れるよ、カナタ!」
「はい!」
カナタの無事を確認しつつ、今日何度目かもわからない形成を行う。大量の血を撒き散らすはめになろうと、知ったことではない。
セイカは乱れそうになる意識を執念で留め、時間稼ぎに注力する。もはや五感すら怪しくなっていたが、不思議と『その時』の訪れだけははっきりと聞き取ることができた。
「完了っス!」
タタラの声が聞こえた後、二体の機械が急激に動作を変える。目の前にいた標的など見向きもせずに、球体が鎮座している方へと駆けていった。
制御権の奪取に、成功したということだろう。
「ナイス、タタラ!」
目的を達成した今、二体の機械を妨害する必要はない。セイカはタタラのもとへと戻りつつ、全ての障害物を消滅させた。
「行くっスよお!」
打鍵音が、高速で鳴り響く。能力が無関係だとは思えない程の速度だ。
それに追従する形で、指示されたであろう位置に到達した二体の機械も元の管理者へ激しい攻撃を繰り出す。
「おお、すごっ! ゴリゴリ削れてくじゃん!」
「……ですが」
いつの間にか、カナタも合流していた。そんな彼女が憂いている様子だったのは、状況がどう転ぶか予測できなかったためだろう。
「もしかしたら、二体の活動限界が先に訪れてしまうかもしれません」
反撃手段を持ち合わせていないのか、球体の機械はされるがままだ。
ただ、その装甲が硬すぎるらしい。一方は次々と武器が破損していき、もう一方は放出し続ける光線の勢いが弱まっていた。
「まだっス! 先輩!」
「およ?」
この局面で頼られることになるとは考えていなかったため、セイカはつい素っ頓狂な声を漏らしてしまう。
「こんな感じで、形成してほしいっス!」
そう言って、タタラは自身のパソコンを差し出した。その画面には、設計図のようなものが描かれている。
「……んじゃ、もうひと頑張りしてみますか!」
かなりの規模感ではあったが、嫌とは言えない。セイカは指示どおり、いくつかの物体を形成した。
「あざっス! そしたら、これをこうして……」
形成した物体に、タタラが何やら細工を始める。それが完了すると、彼女は再びパソコンへと向き直った。
「さあ、しかと見るっスよ!」
一際大きな打鍵音の後、形成した物体が二体の機械目掛けて飛んでいく。恐らくは、先程の細工が関係しているのだろう。
器用なものだとセイカが感心した、直後。
「変形!」
タタラの声に従うかのように、二体の機械がばらばらになる。飛来した数個の物体を迎え入れると、再び組み合わさって今度は一つの機械へと変貌した。
「が、合体ロボ⁉︎」
好みの差こそあれど、セイカがロマンを感じる対象は多い。多腕と多脚を組み合わせたことで随分と奇抜な外観になってしまったが、生まれて初めて見るその存在に彼女は目を輝かせていた。
「いっけええ!」
タタラの高速入力が再開される。
組み替えられた機械は、その拳を武器にして敵と相対していた。歪もうと、砕けようと、同じ動作を延々と繰り返し続ける。
そして、ついに。
「これで、とどめっス!」
拳が、球体を貫く。
直後、爆発が起こったことで三人は煙と衝撃に襲われた。
(────どうだ?)
なんとか意識を保てていたセイカ。煙が薄くなったことで、彼女はゆっくりと目を開ける。
映ったのは、機械の残骸だった。三種全てが、見事なまでに大破している。強度の問題か、能力で形成した分は跡形もなく消え去っていた。
「やっ……たあ!」
セイカは両腕を上げ、全身で喜びを表現する。
それが、まずかった。
「あ、れ……?」
緊張の糸が切れたのだろう。全身に力が入らなくなり、視界は急激に霞んでいった。
仲間から呼びかけられていることはわかったが、上手く返事ができない。結局、核の破壊を見届けることができないまま、セイカは意識を手放してしまうのだった。




