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第7話「機械の迷宮」

「なんでジブンまで……」


 次なる迷宮を攻略することになったこの日。入り口の前で嘆いていたのは、セイカでもカナタでもなく、タタラだった。


「まあまあ、そう言わずに。今回は少しでも戦力が欲しいからさ」


「すみません、タタラさん……無理を言ってしまって」


「ううっ、大先輩にそう言われると、あまり強く言えない……」


 でも、とタタラが食い下がる。申し訳なさそうに目を伏せているカナタではなく、元凶であるセイカ相手に。


「やっぱり怖いっスよ! 最近は迷宮の核を破壊して回ってる人らもいるみたいじゃないっスか! そんなのに出くわしたらと思うと、もう……!」


「あ、あー、その件ね……」


 身に覚えしかない言葉を受け、さすがのセイカも目を逸らしてしまう。

 だが、これ以上隠しているわけにもいかない。自身の頬を人差し指で掻きながらも、彼女は真実を打ち明けることにした。


「それ、ウチらのことなんだよね」


「……は?」


 そんな声を漏らした後、タタラの体が硬直する。恐らくは、それだけでなく思考も停止していることだろう。

 彼女が活動を再開したのは、数秒程が経過してからのことだった。


「な、な、な、何やってるんスかああああっ⁉︎」


 タタラに肩を掴まれ、大きく揺らされるセイカ。いつにも増して取り乱した様子の後輩を落ち着けるため、彼女はにやけながらも口を開くことにした。


「いやさー、ウチもまずいとは思ったんだよ? でもさー、カナタパイセンがさー、ロマンだなんて言っちゃうもんだからさー」


 その返事を受け、タタラがカナタの方へと視線を向ける。怒りの矛先を変えたというよりは、単に事実を確認しているだけのようだった。


「タタラさん。セイカさんは悪くないんです。私のわがままに付き合ってくれただけで……ですから、全責任は私にあります」


 そう告げ、カナタは深々と頭を下げる。


「説明が遅くなってしまったこと、謝罪します。すみませんでした……そして同時にお願いです。どうか、私に力を貸していただけないでしょうか」


「大先輩……」


「虫のいい願いだと、理解しています。それでも、私には……私たちには、タタラさんの力が必要なのです。どうか、お願いします」


 その言動から感じられる覚悟に、気圧されてしまったのだろう。タタラは言葉に詰まっているようだった。

 ただ、悪い印象を抱きはしなかったらしい。彼女は観念したかのように、大きなため息を吐いてから答えた。


「わかったっスよ、もう……」


「よろしいのですか⁉︎」


 カナタにずいと顔を近づけられたことで、タタラが肩を震わせる。それを誤魔化すためか、はたまた無意識によるものか、彼女は視線を何度か左右へと動かした。


「も、もし先輩たちが捕まったら、ジブンも危なくなるっスからね……仕方ないっス」


「タタラさん……! ありがとうございます!」


「い、いいっスから! 顔上げてください!」


 出会ってから数日しか経っていないが、仲は良好なようだ。これなら、迷宮の攻略も問題なく進められるだろう。

 二人のやり取りを見たセイカはそんなことを考えながら、人知れず微笑んでいた。

 ただ、いつまでもそうしているわけにはいかない。


「さて! タタラも共犯者になるって決まったことだし、そろそろ攻略を始めよっか」


「今回は……工場、ですか」


 現在、三人はとある工業団地の一角にいた。既に迷宮が出現しているはずだが、外からではこれといった異常は見受けられない。


「実は、前に一人で潜ったことがあるんだけど……広すぎて最深部まで行けなかったんだよね」


「迷宮と化しているのは、この棟だけですよね? セイカさんが断念する程の広さには見えませんが……造りが難解だった、とかでしょうか」


「……ま、入ればわかるよ。百聞は一見にしかず、ってね」


 先陣を切るように、セイカは通用口へと近づく。ドアノブに手を掛けつつも、準備ができているか確認するため二人の方へと振り向いた。


「二人とも、行ける?」


「問題ありません」


「……うぅ、やっぱり緊張するっス」


 対照的な返事をする二人。ただ、想像どおりの反応だったため、セイカが出鼻を挫かれることはなかった。


「先輩は知ってるはずっスけど……ジブン、戦いはあんま得意じゃないっスからね?」


「だいじょぶだいじょぶ。基本はウチとカナタでなんとかするから。ね!」


「ええ。お任せください」


 カナタは先日、初めての迷宮攻略を終えたばかりだ。自信をつけることができたかもしれないが、少なからず不安は残っているだろう。

 それでもそう答えたのは、可愛い後輩を少しでも安心させるためか。なんにせよ、セイカにとっては頼もしいことこの上ない。


「じゃ、行こっか!」


 セイカがドアを開き、工場の中へと足を踏み入れる。他の二人も、それに続いた。


「これは……!」


 動揺を隠せない様子で声を漏らしたのは、カナタだ。

 無理もない。何しろ、外観から推測できる造りとは全く別の空間が構成されていたのだから。


「最深部……ではありませんよね?」


 そう誤認しても仕方がない程に、今回の迷宮は広大だった。およそ、一つの棟に収まりきる範囲ではない。


「最深部はまた別っスね。迷宮の侵食が進むと、他の所まで最深部みたいに作り変えられちゃうことがあるんスよ」


「広すぎて、というのはこういうことでしたか……」


「それも数ヶ月前のことだからね。多分、今はもっと攻略しづらくなってるんじゃないかな」


 現時点では周囲の光景と記憶の中にあるそれは大して剥離していないが、少し進めばセイカの経験は当てにならなくなるだろう。

 故に、タタラを同行させたのだ。


「まずは……お、早速お出迎えだ」


 奥の方から、白い球体が数個、不規則な軌道を描きながら三人のもとへ飛来している。

 化物だ。工場に因んでいるのか、それらは金属に近しい何かで構成されているようだった。


「カナタ、攻撃が通じるか試してみてくんない? あ、射撃だけね。近接は一旦なしで」


「承知しました」


 突然の指示にも動揺することなく、カナタは慣れた手つきで引き金を絞っていく。以前よりも速度と精度が向上しているようで、数秒とかけずに相手の制圧を終えてしまった。


「ひゅう、やるねぇ」


「すごいっス、大先輩!」


「恐縮です……タタラさんの武器があってこそ、ですから」


 そう返され、タタラがにやけながら後頭部を掻く。気の弱さに隠れがちだが、彼女の腕は本物だ。

 カナタの拳銃。能力を発現させる装置。それ以外にも、彼女が手掛けた多くの発明品にセイカは幾度となく救われてきた。

 そんな頼れる後輩に、注文の多い先輩はもう一仕事こなしてもらうことにする。


「タタラ。あの、機械の化物……解析できたりしない?」


「えぇ? 見た目がそれっぽいってだけで、回路とか信号とかはないんじゃないっスか……?」


「とりあえず試してみてよ。ね?」


 引く気がないと察したのだろう。まだ何か言いたげだったが、タタラは渋々といった様子で化物の亡骸へと近づいていった。


「うーん。当たり前だけど、やっぱり端子はないか……なら、別のアプローチで……」


 どこからか取り出したノートパソコンと謎の装置を使い、タタラが作業を進めていく。興味津々といった様子のカナタから視線を向けられていることには、どうやら気づいていないようだ。


「……タタラさんも、セイカさんと似た能力をお持ちなのですか?」


 カナタが、隣に立つセイカへそう尋ねた。恐らくは、タタラの能力によってパソコンと装置が作り出されたと思ったのだろう。本人に聞かなかったのは、気を散らすまいと慮ったためか。


「いや、違うよ。タタラの能力は『収納』」


「収納?」


「名前のとおり、いろんなものの出し入れがある程度自由にできるんだ。便利だよねぇ」


 日常生活はもちろんのこと、迷宮攻略でも大いに役立てられる能力だ。ただ、タタラ自身が危険な場所に赴きたがらないため、活躍の機会は少なかった。


「……完了っス!」


 打鍵音の後に、タタラの声が響く。二人はそんな彼女に近づき、『何か』が表示されている画面を覗き込んだ。


「どう? 何かわかった?」


「ふっふっふっ、それがっスねぇ……」


 もったいぶるかのように、タタラは間を開ける。幸い、セイカが痺れを切らす前に回答は再開された。


「なんと、迷宮内部の経路図が抽出できたっス!」


「本当ですか⁉︎」


「すごっ、大手柄じゃん!」


 照れ臭さよりも嬉しさが勝ったのだろう。タタラは鼻をふふんと鳴らしてから更に続けた。


「まだ一部だけっスけど……化物たちをどんどん倒して、その都度解析していけば、最深部までの道のりがわかるようになるはずっスよ!」


 さすがに、今の一回だけで最短経路を導き出せはしないらしい。だが、化物から経路図を抽出できるとわかったことは大きな収穫だった。


「……次、来ます」


 真っ先に気づいたのは、カナタだ。

 視線の先。今しがた倒したものと同種の新手が、都合良く出現していた。


「よし、それじゃ……」


 カナタにタタラの護衛を任せ、セイカは一人で相手の方へと進んでいく。そして、大鎌を形成すると同時に叫んだ。


「経路図抽出作戦、開始っ!」

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