↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/50

第31話「湖上の神殿」

「到着です!」


 某国の湖にて、カナタの声が響く。役に立てたことが嬉しいのか、彼女は珍しく胸を張って得意げにしていた。


「……まさか、本当になんとかなるとはねぇ」


 拠点を移してから、一ヶ月後。メイド長による手配が完了したことで、四人は海を越えて新たな迷宮の攻略へと乗り出していた。


「どんな手を使ったの?」


「内緒です」


 カナタが人差し指を自身の唇に当て、ウインクする。可愛らしいはずのその仕草に、セイカは何故か恐怖を感じさせられた。


「お金持ちって怖いっスね……」


「アタシはそうは思わんがな」


 食い気味に発言したランセが、カナタの前方に回り込んで膝をつく。そして彼女の手をそっと取ってから、続けた。


「カナタ、アタシのパートナーになってくれ」


「ら、ランセさん⁉︎」


 唐突に行われた、大胆な告白。

 だが、セイカにはロマンチックの欠片もないように感じられた。ランセの瞳が、カナタではなく彼女の資産を見つめていると気づいたためだ。

 だからこそ、驚きも狼狽えもせず便乗することに決める。


「駄目だよランセ。カナタはウチのなんだから」


「セイカさんまで……⁉︎」


 後ろから抱きしめられたことで、カナタの動揺が加速した。聡い彼女であれば揶揄われていることに気づいているはずだが、それはそれとして恥ずかしいものは恥ずかしいらしい。


「せ、先輩! 大先輩が困ってるっスよ! ほら、離れて……!」


 悪乗りせずに、タタラが事態の収拾へと動き出す。彼女に引き剥がされる形で、セイカはカナタから手を放した。

 それを見たランセもまた、立ち上がって迷宮の方へと視線を戻す。先の行動は、緊張を解そうと彼女なりに考えた結果なのかもしれい。


「……あれが、迷宮の入り口か」


 そう言ってランセが指差したのは、湖の中心。そこには、赤い神殿のような建造物が存在していた。


「迷宮と言う割には、些か手狭に見えますが……」


「内部の空間が圧縮されているのか、あるいは単純に別の亜空間へと飛ばされるのか……なんにしても、見たままの面積は当てにならないっスね」


 取り乱していたはずの二人が、冷静に分析する。切り替えの早さに、セイカの方が驚かされる程だ。


「今回は迷宮の調査に協力するって建前になってるんスよね?」


「ええ。既に何度か調査隊が派遣されていますが、誰一人として生還できていないようで……」


「……それで、日本にお鉢が回ってきた、ってわけね」


 迷宮攻略において、能力者がいるといないとでは結果が大違いだ。だが、能力を保有しているのは基本的に日本人のみ。現時点では能力の発現方法は共有されていないため、諸外国も日本に頼らざるを得なくなったのだろう。


「この国でも、迷宮が次々に出現しているようだ。その対応に追われて手が回らないから、といった理由もあるのだろうな」


「海外でまでコソコソしなくて済むのは助かるっスけど、それも今だけって感じっスよね……」


 タタラが、ため息混じりにそう返す。

 日本のように国ぐるみかどうかは不明だが、迷宮の経済的利用を企んでいる者は一定数いるだろう。

 迷宮を消滅させれば、そのような勢力からも狙われることになる。今まで以上に、細心の注意を払って立ち回る必要が出てくるということだ。


「それでも、やらねばなりません。人命第一ですから」


「……まあ、とりあえず行ってみようよ。タタラ、お願い」


「はいっス!」


 返事の後、タタラが能力で収納していたものを出現させる。

 モーターボートだ。彼女による改造が施されてはいるものの、それもまたカナタの財力に頼って用意した代物だった。


「行くぞ」


 ランセが先に乗り込んで、操縦席に立つ。三人もその後に続き、振り落とされることのないようそれぞれしがみついた。


「ってか、なんでそんな色々免許持ってんのさ」


「仕事柄だ」


 短く答え、ランセはボートを発進させる。勢い良く上がった水飛沫が、四人の衣服に容赦なく襲いかかった。

 ただ、そんなことに腹を立てる程セイカも潔癖ではない。すぐに身を乗り出し、滅多にできない経験を満喫し始めた。


「おおおおっ、すごっ⁉︎」


 轟音を発しながら、ボートが迷宮へと突き進んでいく。冷たい水と風に晒されるが、興奮気味なセイカにはむしろ心地良く感じられた。


「ちょっ、危ないっスよ先輩!」


「大丈夫大丈夫。ほら、タタラも縮こまってないで! もっと風を感じなきゃ!」


「無理っス無理っス無理っスう⁉︎」


 手招きに対し、タタラが首を横に振って返す。大袈裟に思えるその反応すら非日常を引き立たせるスパイスとなり、セイカの気分を更に高揚させた。

 だからだろうか。彼女の体感時間数秒程で、四人は目的の場所へと到達することになった。


「……よし、降りていいぞ」


 ボートを停止させたランセの合図により、次々と神殿へ降り立っていく。運転手である彼女が最後に降りた直後、それはタタラの手によって再び収納された。


「近くで見ると、壮観だね……」


 見上げたセイカが、感嘆の声を漏らす。宗教に縁がない彼女でも神への信仰心が芽生えそうになる程、その神殿は精巧に造られていた。


「……全く別の建造物として出現する迷宮も、存在するのですね」


「そう、みたいだね……ウチもこのタイプの迷宮は初めて見るよ。タタラ、海外の迷宮は全部こんな感じなの?」


「えっと……いや、各国の『原初の迷宮』に当たると思われるものだけっスね。それ以外は、日本国内で出現してた迷宮と変わりないみたいっス」


 原初の迷宮。その単語を聞いて、セイカの体は強張った。まだ記憶に新しいあの激戦をもう一度、いや、これから何度も繰り返す必要があるとなれば、無理はないだろう。

 ただ、気後れしているわけにもいかない。


「……よし」


 自身の両頬を、思い切り叩く。そして全員の顔を視界に入れてから、セイカは続けた。


「行こう、みんな」


 数秒程の間を置いた後、返事がなされる。セイカが先導する形で、一行は迷宮の中へと足を踏み入れた。


(────ここ、は)


 突入早々、最深部のような広い空間へと辿り着く。迷宮、という呼称が相応しくない程の単純な造りだ。

 とは言え、先日と同様だったためそれ自体は特筆すべきことでもない。

 問題は、そこにいるはずのない存在がいるということ。


「おいおい。久しぶりに挑戦者が来たと思って見てみれば……今度は小娘どもかよ」


 四人から発されることのない低い声が聞こえたことで、セイカは視線を上げる。

 その先では、一人の人間が浮遊していた。遠目には中性的に見えるが、声の高さからして恐らくは男性と思われる。


「あれ、人、だよね……」


「あるいは、それを模した『何か』か」


 後者の方が、可能性としては高いだろう。人間が空中に浮遊し続けるなど、能力でも使わない限り不可能なのだから。


「ねえ、あんたいったい……」


「……ちっ、そういうことかよ」


 海外であるにもかかわらず、何故か日本語が通じるようだった。ひとまず言葉を交わしてみるべきかと、セイカは意思の疎通を試みる。

 だが、その声は相手の舌打ちによって遮られてしまった。


「どいつもこいつも不甲斐ねえなあっ!」


 男がそう声を荒げた直後、辺り一面が火の海と化す。突然の出来事で対応が間に合わず、全員が灼熱に晒されることとなった。


(ま、まずい! どうにか、しなきゃ……!)


 叫び声を上げながらも、セイカは必死に思考を巡らせる。だが、熱のせいかこの状況を覆す程の妙案は出せなかった。


「全員まとめて……消し炭になりやがれえっ!」


 炎の勢いが、更に激化する。それに伴い、四人の悲鳴もより一層響き渡った。

 特に深刻なのは、カナタとタタラだ。意識こそ保てているが、二人は既に膝をついていて動くことさえままならないようだった。


「ランセ!」


 もはや、戦うことなどできはしない。そう判断したセイカは、すぐ近くにいたカナタの身を抱えつつランセに呼びかけた。


「タタラをお願い! 逃げるよ!」


「了解!」


 幸い、通路は塞がれていない。それぞれ仲間を抱えながら、二人は来た道を全力で引き返すのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。