第17話「リベンジ」
「いいかげん諦めろ」
「それは、こっちの台詞、だあっ!」
剣戟を再開する二人。互いの顔を睨みつけ合いながら、一瞬の隙が命取りになるような激しい応酬を繰り広げていく。
(土の能力も、もう使ってこないか……)
風も、土も、少女は使う素ぶりを見せようとはしない。対応されたとは言え、セイカを追い詰められるだけの練度であると確認できたにもかかわらず。
『先輩! わかったっス!』
突如、耳元から声が発される。セイカにとっては喧しく感じられるが、相手に聞かれる心配はない程度の音量だ。
『解析した結果……お相手は、それぞれの能力を最長でも十秒程度しか行使できない可能性が高いっス!』
どうやら、戦いの邪魔にならないよう黙っていただけではないらしい。セイカは返事をすることなく、タタラの声に耳を傾け続けることにした。
『恐らく、各能力は使い切り。この分だと、今使える能力はあと一つだけと思われるっス!』
(……思われる、ねぇ)
斬り合いでは相手に分がある。セイカは終始押され気味だったが、そんな状況でもタタラの解析結果について自分なりの意見を持つことはできた。
『とは言え、あくまで推測っス。変に危険視しすぎるのは良くないっスけど、油断はもっと駄目っス。参考程度に留めてほしいっス!』
(……了解)
同じ懸念を、タタラも抱いていたらしい。彼女の方が賢いのだから当然かと、セイカは自嘲しながらも意識を相手の方へと戻す。
(つってもなぁ……能力なしでも、充分強敵なんだよね)
少女は刀の扱いが異様に上手かった。これが能力によるものであれば、どれ程良かっただろう。
実戦向きではない大鎌に拘っていることもあり、セイカは苦戦を強いられ続けている。このままでは、いつ刀の錆にされてもおかしくない。
故に、どう転ぶかわからなくとも変化をもたらす必要があった。
「あんたさぁ、おかしいと思わないの?」
「……何がだ」
「迷宮の核だよ。同化させられた人間を本当に救出できるなら、なんで政府はそれを発表しないのさ」
それは、先程タタラとの話し合いでも上がった疑問。
その件が少女にとっての地雷であることは明らかだった。だが怒りを買うことになろうと、相手の心を揺さぶることで隙を作れる可能性があるのなら、それに賭けずにはいられない。
「……あの女も、同じことを言っていたな」
(あの女……?)
捕らわれている彼女か、あるいは第三者か。誰を指しているのか気になったが、セイカは口を挟まずに続きを待つことにする。
現時点ではさほど重要ではないと思えたためだ。疑問を端からぶつけていく程の余裕は、今の彼女にはなかった。
「上には上の考えがある、というだけだろう。気にする程のことでもない」
「……そうかな?」
攻防の最中、セイカは相手の目を見つめて不敵に微笑む。まるで、挑発するかのように。
「騙されてるだけでしょ」
直後の一撃は、かつてない程に重いものだった。受け止めることができず、セイカは後方へと吹き飛ばされる。体勢を大きく崩されることがなかったのは、不幸中の幸いか。
「アタシ自身が、証拠だ」
ゆらり、と少女が近づく。構えが崩れていたが、隙はどこにも感じられない。むしろ、放つ威圧感がより一層増しているようだった。
「迷宮の核から救われた……この記憶が、偽りであるものか!」
大振りでありながらも、素早い一撃。セイカは一旦受け止めてから反撃の隙を窺おうとした。
だが。
「なっ……!」
一瞬で、大鎌が斬り裂かれてしまう。そしてそのまま、刃はセイカのもとへ。
(能力の限界……じゃない。原因は向こうだ)
複数の能力を相手するために多少無理をしたが、まだ限界に達してはいない。自らの体になんら異変が生じていないことから、セイカは相手が新たな能力を行使したのだと判断した。
(肉体を強化した? それとも、武器自体の硬度を上昇させる能力……? いや、大鎌かウチに直接干渉できる能力の可能性も……)
刹那に、セイカは推測を繰り返していく。
考えている暇はないが、相手の能力を見抜けなければ的確な対応を取れないこともまた事実だった。
(とりあえず、一旦距離を取って……)
能力の応用で距離を取れば、ある程度余裕が生まれる。それから態勢を立て直し、再び相手の隙を狙うことが最善手であるかのように思えた。
(……いや、違う!)
咄嗟に思い直したセイカは攻撃を躱しつつ、自身の足元を基点にして能力を行使する。
作り出したのは、直径十メートル程の円柱。異変を察知した相手に飛び降りられるよりも早く、形成を続けてそのまま真上へと伸ばしていった。
「なんのつもりだ……」
「そりゃあとでのお楽しみだよ!」
セイカは新たな大鎌を握り直し、少女の方へと向かっていく。足場が充分な高度に上昇するまでの時間稼ぎをするためだ。
「無駄な足掻きを……!」
少女の能力はなおも続いているようで、またしても大鎌が容易く切断される。そこからの回避も困難でセイカは負傷させられるが、構わず相手の妨害に励み続けた。
「無駄かどうか、その目で、確かめてみな!」
ただ足場を上に伸ばすだけでなく、適宜相手の体勢を崩すように形成していくことでどうにか食らいつく。果てしなく感じられる数秒のために、セイカは全力を尽くしていった。
(……来た!)
努力の甲斐あって、ついに足場が天井付近へと達する。直後、セイカは能力を部分的に解除した。
相手だけが、円柱の内部へ落下するように。
「ちっ」
舌打ちしつつ、暗闇の中に落ちていく少女。その姿を確認すると、セイカは円柱の空洞を広げて自身も落下を開始した。
(確実に、仕留める……!)
ただ相手を落下させただけでは、なんらかの能力で凌がれる可能性がある。妨害を続けるため、セイカは危険を承知で少女の後を追っていた。
「まだだ!」
空中で身を翻した少女から、刀が振るわれる。だが、セイカは能力を行使して円柱から棒のようなものを伸ばし、相手に衝突させて体勢を崩すことで難を逃れた。
(絶対、勝つ……)
その後も同じことを繰り返し、二人は重力に従って高度を下げていく。このままでは、今の状況を作り出したセイカですら衝撃を受け流せずに転落死することだろう。
だが、そうはならなかった。
(……! ここだ!)
偶然か、それとも努力の賜物か。少女に、決定的な隙が生まれていた。それを見逃すことなく、セイカは大鎌を強く握りしめる。
「今までの……お返しじゃああい!」
躊躇なく振り抜かれた大鎌が、相手の脳天に直撃して鈍い音を発した。刃の部分こそ触れていないが、重傷は免れないだろう。
少女の体は、更に加速して落下していった。刀を手放しているため、完全に意識を失ったと思われる。
「……しょうがない」
死なれては寝覚めが悪くなると考え、セイカは能力を行使して相手が受ける衝撃を極力緩和した。当然、自分の安全が最優先ではあったが。
「────これでよし、っと」
無事に着地できたことで、円柱を消滅させる。
鼻から既に血が流れ出していたが、セイカは必要経費だと割り切っていた。能力が強制的に解除されなかっただけでも、儲け物だと考えたためだ。
「生きてる……よね?」
倒れる少女を、大鎌の柄で雑につつく。反応が見られなかったため、セイカはその場にしゃがみ込んで脈の有無を確認した。
「良かった。気絶してるだけだ」
敵だからと言って、殺したいとまでは思えない。セイカはほっと胸を撫で下ろしてから、少女の肩を担いで立ち上がった。
「あ、タタラ? なんとか倒せたよ。今からこいつ連れて戻るから、手当ての準備しといて」
『お疲れ様っス……って、え、マジっスか⁉︎』
「カナタが今どうなってるのか、聞かなきゃでしょ? ただ、いつ起きるかわかんないし、それをここで待ってんのも馬鹿らしいからさ。んじゃ、そういうことで」
セイカは言うだけ言って通信を切る。それから、懐に入れていたタタラの発明品を取り出し、その機能で少女と共に基地へと帰還するのだった。




