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第16話「再訪」

 基地に逃げ帰ってから、二日後。可能な限りの準備をして体調も万全の状態に整えたセイカは、再び『火山の迷宮』を訪れていた。

 目的は一つ。捕らわれた仲間を、救い出すため。


『大先輩の現在地は、最深部で間違いなさそうっス。でも、罠の可能性が高いんで気をつけてくださいね』


「了解」


 セイカは耳元に取り付けた機器を介して、この場にいないタタラとやり取りをする。感度は良好だが、使い慣れていないために違和感が拭えなかった。


(……罠だとしても、見るだけ見ておかないとね)


 カナタの位置情報はあの日、一度この迷宮を離れている。恐らくは相手の拠点へと連れ去られてしまったのだろう。

 だが何故か、数時間程前に同じ場所で反応を見せていた。

 発信源に気づいた相手がそれを利用して二人を誘き出そうとしている、と考えるのが妥当だ。そう理解していても、自力で脱出している可能性が少しでもある以上、無視するわけにはいかなかった。


「確か、この辺りだったよね……」


 前回の攻略を思い出しながら進み、目当ての場所へと辿り着く。程なくして、セイカの周囲に例の蒸気が充満していった。


「……到着、っと」


 数秒程で蒸気が晴れ、周囲の景色も一変する。どうやら、無事に最深部への再訪を果たせたらしい。

 ただ、迷い込んだ獲物を狙うようにして出現するはずの獣たちは、一向にその姿を見せなかった。

 その代わりに見えるのは、一つの人影。


「やはり、『これ』は位置情報を発信していたか……だが、まさか本当に釣れるとはな」


 腰に差した刀が特徴的な、あの少女だ。彼女の手にはカナタの拳銃が握られている。

 口ぶりからして、先の反応はやはり罠だったらしい。ただ、まんまと現れたセイカを嘲るような様子はなかった。


「色々と、気になることがあってね」


 周囲に、以前連れていた部下たちの気配はない。問答無用で少女が襲いかかってくることもなかったため、セイカは話を引き出せないか試してみることにした。


「カナタはどこ?」


「言うはずがないだろう」


「……ま、そうだよね」


 冷たく一蹴されるが、セイカにとっては想像どおりの反応だ。彼女は構わず次の質問をぶつける。


「なんで、わざわざこの場所に誘き出したの? しかも一人で」


「……別に。ただの気まぐれだ」


 ほんの一瞬、少女が視線を逸らした。それを見逃さなかったセイカは、ここぞとばかりに畳み掛ける。


「じゃあ、最後に聞くけど……この迷宮の核に閉じ込められてる子、まだ救出しないの?」


 その問いによって、少女の目が大きく見開かれた。まるで、不都合なことを聞かれたかのように。

 その反応が、セイカにとっては答えだ。


「迷宮が消えてないってことは、核もそのままってことだよね。いつ助けてあげるの? 助ける方法、知ってるって言ってなかったっけ?」


「……お前たちの対応をしているせいで、遅れているだけだ」


「よく知らないけど、丸一日以上あればできるんじゃない? それにウチら、隠れてただけだし。言う程、あんたらの邪魔にはなってないと思うよ」


 本当に時間がかかるのであれば、少女以外の人員も最深部に残って何かしらの作業をしているはずだ。

 だが、今この場にいるのは二人だけ。道中でも、彼女の同僚や部下らしき人物の姿は見受けられなかった。

 考えられる理由など、そう多くはない。確信めいたものを感じながら、セイカは更に踏み込んだ。


「この間言ってたこと、嘘なんじゃないの」


 そう指摘した直後、セイカは少女に斬りかかられる。口を動かしながらも警戒は緩めていなかったため、即座に反応して大鎌で受け止めることができた。


「嘘、だと……? アタシが?」


「……もっと大事に扱ってくんない? 仲間の愛用品なんだけど」


 苦言を呈しながら、セイカは雑に放り投げられた拳銃をちらりと見る。幸い、遠目で見た限りでは破損はしていないようだった。


「嘘など、つくものか……!」


(……やっぱり、変だな)


 迫る刃を次々と弾きながら、セイカは思考を巡らせる。

 冷静沈着。それが以前の戦いで相手に抱いた印象だったが、今は見る影もない。昂りを隠そうともせずに猛攻を繰り出すその姿は、まるで別人のようにも感じられた。


(こいつが嘘をついてるようには、どうしても思えない)


 ならば、考えられる可能性は何か。セイカは足りない頭を懸命に働かせて答えを導き出そうとしたものの、即座に中断する。

 動きが鈍ってきたことを自覚したためだ。物思いに耽った状態で勝てる相手ではないと判断し、今一度気を引き締め直すことにした。


「どうした、この程度か?」


「なわけないで、しょっ!」


 互いが武器を引き戻すその瞬間、セイカは大鎌を消滅させる。負荷が少なくなった腕を素早く相手の方へと振り直し、再度大鎌を形成することで奇襲を仕掛けた。


「くっ……」


 顔を歪めながらも、少女は一歩下がってその攻撃を回避する。衣服が僅かに裂けた程度で、本人は負傷していないようだった。


「そっちこそ、そんなもん? とっとと能力使った方がいいんじゃない?」


 一矢報いたと言うには尚早だが、セイカは強気に相手を煽る。言葉でも暴力でも、『やられたらやり返す』が彼女の信条だった。


「……いいだろう」


 その一言の後、辺り一帯に風が吹き荒れる。十中八九、彼女の能力によるものだろう。


「お、おおおおっ⁉︎」


 セイカの体が、風に持ち上げられる。彼女は手足を振って抵抗するが、地面との距離は開くばかりだった。


「これまでだ」


 対照的に、少女は自由自在に宙を舞ってセイカへと接近する。流れるような動作で刀を振り、早々にこの戦いを終わらせようとしていた。


「そ、う、は……いかん!」


 セイカは身を捻り、相手の攻撃を大鎌でなんとか受け止める。同時に自身の足裏から形成を開始し、素早く地面まで繋げることで簡易的な足場を用意した。


「なかなかやるようだが……いつまで持つかな」


「あんたを、倒すまで!」


 言い切るセイカ。なおも続く攻撃を捌きながら、複数の足場を連続で形成してゆっくりと高度を下げていった。


(……よし、戻れた!)


 窮地を脱せたことで、セイカは安堵する。

 受け身を上手く取れば打撲程度の負傷で済みそうな高さではあったが、相手がそれを黙って眺めていてくれるはずもないだろう。そのため、一秒でも早く大地へと帰還する必要があったのだ。


「なら、次はこれだ」


 悠然と降り立った少女が、地面に手を翳す。直後、人を模した土塊が数個、セイカの周囲に出現した。


(風の能力はおしまい……?)


 あれだけ優位に戦いを進められていたのに、何故。そう疑問を覚えたセイカだが、自我を持ったかのような土塊に襲いかかられたことですぐに意識をそちらへと戻す。


「大鎌の硬さ、ナメんなっ!」


 土塊の動きは鈍重で、狙いをつけるまでもなかった。いつかの樹木を思い出す程だ。正面から向かってきていた個体に、セイカは大振りの一撃を放つ。

 だが。


「な、なんかネチョネチョしてるぅ⁉︎」


 さほど硬くはなかったが代わりに粘度が高く、大鎌で切り裂くことができなかった。力を込め直しても、一向に刃が進んでいかない。


「やばっ」


 苦戦している間に、セイカは他の土塊に包囲されてしまった。間を縫うようにして通り抜けたいところだが、その隙を作り出すことはできそうにない。


「ったくもう……!」


 セイカは大鎌を消滅させ、地面に手をつく。能力の準備だ。

 まず、自分だけを閉じ込めるように箱を形成する。そして、それを拡大するイメージで能力の行使を続けた。

 その結果誕生するのは当然、巨大な箱。中にいるのもまた、彼女のみだ。咄嗟の思いつきではあったが、上手い具合に土塊を押し出すことができた。


(ひとまず距離は取れた。あとは……)


 次の行動へ移ろうとするも、その前に状況が一変する。

 形成した箱に、次々と亀裂が走っていったのだ。当然、セイカの能力による現象ではない。


「嫌になるな、もう……!」


 数秒とかからず、箱が破壊される。そして、舞い落ちる破片の向こうから少女が勢い良く接近してきた。

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