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第14話「発覚」

「そこで何をしている」


 続けてそう尋ねてきたのは、セイカたちと同年代と思われる少女だった。迷宮攻略に使うであろう、腰に差した刀が特徴的だ。

 そんな彼女の後方には、同一の制服を着用した部下らしき存在が十名程控えていて、開けたこの空間でも圧迫感を覚えさせてくる。


「……ちょうど最深部の攻略が終わって、帰ろうとしてたとこだよ」


 セイカは大鎌を消滅させ、素知らぬ顔でそう答えた。攻撃の動作に移る直前で声をかけられていたため、今ならまだ誤魔化せると判断したのだ。


「じゃ、ウチらはこれで。帰るよ、二人とも」


 そそくさと歩き出したセイカだが、手を掴まれたことで足を止める。振り向くと、明らかに戸惑った様子のカナタと目が合った。


「せ、セイカさん! よろしいのですか……?」


 迷宮の核を破壊できていないのに。カナタはそう言いたいのだろう。

 だが、他人に見られている状況でそれを実行するわけにはいかない。二度手間になろうと退くしかないのだ。

 更に言えば、今回は相手が悪かった。


「……あいつら、政府直属の攻略部隊だよ。少しでも怪しい動きを見せたら、多分問答無用で取り押さえてくる」


 迷宮が次々に消滅していることを、政府が問題視していないわけはないだろう。その件の調査や犯人の捜索および確保を、直属の攻略部隊に一任していてもおかしくはない。


「また今度にしよう。今、強行突破するメリットはないよ」


「……そう、ですね」


 俯きながら、カナタが答える。セイカを放したその手は、強く握りしめられていた。


「内緒話に耽っているところ悪いが……」


 そんな言葉とともに、後方から一人分の足音が近づいてくる。

 距離からして、今の会話は聞かれていないはずだ。何か怪しまれる点はあったかと、セイカは内心焦りながら少女へと視線を向けた。


「一つ、聞きたいことがある」


「……何?」


 催促せずとも、既に予想はついている。だが、少しでも自然な振る舞いができるようにセイカは細心の注意を払っていた。


「迷宮が消滅している件について、何か知らないか?」


「……さあ、特に何も」


 大袈裟な身振り手振りを交えて返す。動揺を声にも顔にも出さずに答えられたのだから、及第点と言っていいだろう。


「そうか」


 頷きもせずに短く返してから、少女は迷宮の核へと近づいていく。水晶の中に、子供が閉じ込められているのがはっきりと視認できるような位置にまで。


(何が狙いなんだろ……)


 セイカがそんな疑問を抱いた、直後のこと。


「ふっ」


 少女が突然腰の刀を抜き、核目掛けて振り下ろした。

 あまりに予想外の出来事だったためか、すぐ近くにいたはずの三人は誰一人として反応することができずにいる。

 それが、まずかった。


「……やはりそうか」


 核に触れる寸前で、少女は刀を引き戻す。そして鞘に納めることなく、今度はセイカに向けてそれを構えた。


「迷宮を破壊して回っているのは、お前たちだな」


 ようやく、セイカは自身の過ちに気づく。

 だが、肯定はしない。まだ取り返しがつくかもしれないと考えていたからだ。


「……なんのこと言ってるか、わかんないなぁ」


「まだ、しらを切るつもりか……」


 気怠げに長いため息を吐いてから、少女は続けた。


「最深部を攻略できる程の実力を持つ者が、核の秘密について知らないわけがない。故に普通、核が破壊されそうな場面に遭遇すれば、咄嗟にそれを阻止するはずだ……だが、お前たちは動かなかった」


 まだ、言い訳自体は可能だ。だが少女から放たれた殺気にも近い敵意が、それを許さないと告げている。


「全員捕える。事実確認はその後だ」


 宣言の後、少女から斬撃が繰り出された。素早い動き出しではあったが、セイカも備えはしていたため大鎌で応戦することに成功する。


「抵抗するということは、罪を認めるということか?」


「……罪?」


 少女の物言いに、セイカは眉をひそめた。相手の猛攻をどうにか凌ぎながら、気持ちだけは負けまいと力強い眼差しを向ける。


「核と同化させられた人間を放置して、甘い蜜啜り続ける方が、よっぽど罪でしょ!」


「……ほう」


 興味深そうな相槌。ただ、意識を逸らすまでには至らず、依然として苦しい状況は続いていた。

 いや、むしろ。


「無知とは罪なものだな」


 少女の一振りで、大鎌を弾かれる。一瞬だが、セイカは大きな隙を相手に与えてしまった。

 防御は間に合わない。回避しても、致命傷は避けられないだろう。故に、彼女は第三の選択肢に縋った。


「何……?」


 少女の視点が、上昇する。

 セイカの能力だ。相手の真下を基点に足場を形成することで、自身との高低差を生み出して強引に攻撃を空振らせていた。

 更に。


(カナタ、お願い……!)


 自身と相手を挟む形で立っていたカナタから、電気が放出される。背面からの狙撃にはさすがに対応できないだろうと、セイカは期待した。

 だが、二人の連携は予想もしなかったような方法で打ち破られることとなる。


(そんなんあり……⁉︎)


 少女の後方で大地が隆起し、壁のようになってその身を守ったのだ。恐らくは、迷宮の特性ではなく彼女の能力によるものだろう。


「ま、まだっス!」


 めげずに次なる攻撃を仕掛けたのは、タタラだ。発明品と思われる球体を三つ、少女に向けて投げつけていた。


「結構だ。お返ししよう」


 少女は動じることなく、左腕を振るう。直後、突風が発生したことで発明品はタタラのもとに戻っていった。


「ううぇっ⁉︎」


「タタラ!」


 セイカは咄嗟に飛び出し、タタラの首根っこを掴んで引き離す。

 自分の回避行動は間に合わないが、身代わりで終わる気も毛頭ない。自身と発明品の間に壁を形成し、生じるであろうなんらかの不都合を最小限に留めようとした。


「くっ……」


 発明品によって引き起こされたのは、爆発。連続的に発生した衝撃が、セイカの形成した壁を容易く粉砕する。

 そして舞い上がった煙の中から、再び少女が現れて刃を振るってきた。


(こいつの能力、どうなってんの……?)


 斬り合いに応じながら、セイカは思考を巡らせる。

 基本的に、能力は一人一つしか保有することができない。だが目の前の少女は、少なくとも二つの能力を行使していた。

 土と、風。一方の能力を応用することでもう一方を再現している、などとは到底思えない。


「救済者気取りのお前たちに、一つ、教えてやろう」


 集中が乱れているセイカ。続く少女の言葉で、彼女は更に惑わされることとなった。


「政府は既に、迷宮の核と同化させられた人間を救出するための手段を確立している」


「……は?」


 間の抜けた声を漏らしたのは、セイカだ。ただ、他二人も彼女と同じ気持ちだったことだろう。

 少女の言葉が真実ならば、自分たちはとんでもない思い違いをしていたことになるのだから。


「信じられないといった様子だな。だが、事実だ」


 言葉に詰まったセイカを見てか、少女が畳み掛ける。


「アタシもまた、核から救出されたうちの一人だ」


「そ、そんなわけ……」


「きゃあっ⁉︎」


 叫び声が聞こえたことで、セイカは我に返った。

 いつの間にか、カナタが少女の部下らしき人員に拘束されている。彼女は武器を取り上げられた状態でもなお抵抗の意志を見せていたが、ガスのようなものを吸入させられたことで気絶してしまった。


「カナタ……!」


「動くな」


 部下の一人が、カナタの喉元に刃物を突きつける。

 ただ相手に従うだけなど悪手でしかないと、セイカも理解できていた。だが、仲間を失う恐怖で足が竦んでしまい、身動きを取れずにいる。


(どうしよう、ウチが、ウチのせいで、助けないと、でも、カナタ、ごめん、カナタ……!)


 ぐるぐると回って、思考がまとまらない。

 呼吸が荒くなり、視界は狭まってきた。

 心臓の鼓動が、やけに大きく聞こえる。

 手足に、上手く力が入らない。

 このままでは────


「────先輩!」


 その呼びかけに、セイカは意識を引き戻される。そしてタタラに手を掴まれたと理解した直後、彼女の視界に映る景色は一瞬で切り替わったのだった。

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