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第13話「奥義」

「奥義、ですか……?」


「そ!」


 セイカは短く頷き、二人の前に立つ。カナタの疑問を解消したい気持ちはあったが、これ以上会話に時間を割くわけにはいかなかった。


「次、距離を取れてからが勝負。それまではさっきの要領で戦って!」


「しょ、承知しました!」


「同じくっス!」


 同時に走り出し、三人は戦闘を再開する。セイカが単独で、他二人は連携を取る形で、それぞれ獣を相手取った。


(やっぱ、なんか変だな……!)


 危なげなく戦いを運びながらも、セイカは違和感を覚える。

 獣が、明らかに手強くなっていたのだ。ただ三人の動きに慣れただけ、とはとても思えない程に。


(そういう特性ってこと……?)


 時間経過によるものか、あるいは他に何か条件があるのか。いずれにせよ、戦いを長引かせることは得策ではないようだった。


(……来る!)


 再び、巨大な獣が大地を蹴って迫る。

 先程のように足場を伸ばせば回避できるだろうが、問題はその方向だ。今回は他の獣たちが逃げ道を塞ぐように立っていて、直線的に移動しようものなら衝突は避けられなかった。


「集まって!」


 その合図で二人が集合する。直後、セイカは足場を形成し、真上に伸ばすことで一気に高度を上げた。

 ひとまず相手の間合いから脱せたが、まだ安心することはできない。足場を破壊されてしまえば転落死は免れないからだ。


「しっかり掴まっててよ!」


 柱のようになった足場と繋げる形で、セイカは新たな足場を形成して斜め下方向へと伸ばしていく。さながら、滑り台のように。


「お、おおおおっ⁉︎」


「く、うぅ……」


「し、死んじゃうっスぅ!」


 足場を壊される前に地面へと帰還しなければならないため、全速力で形成を続ける必要があった。その分、着地時に衝撃を和らげることが難しくなってしまったが、止むを得ないだろう。


「ちゃんと受け身取ってね!」


「こ、ここまで来て最後は知らんぷりっスか⁉︎」


「これ以上ウチにどうしろってのさ!」


 着地の瞬間が、刻一刻と迫っている。小競り合いを続けそうになったセイカとタタラだが、極度の緊張に襲われたためか二人は同時に口を噤んだ。


「……じゃあ、降りるよ! せーのっ!」


 合図の後、三者三様の叫びを上げながらそれぞれ飛び降りる。楽観的なセイカですら、今回ばかりは恐怖を強く覚えていた。


「んげっ!」


「きゃっ」


「っス⁉︎」


 間の抜けた声が、続けて三回上がる。その後に、悶えるような声が聞こえてきた。少なくとも即死はしていないらしい。


「ふ、二人とも……大丈夫?」


 真っ先に立ち上がったのは、セイカだ。全身がひどく痛むが、気合いで立ち上がれる程度の負傷に留めることができていた。


「な、なんとか……」


「死んではないっスぅ……」


 セイカに続き、二人もその身を起こす。どうやら、全員無事に受け身を取ることができたようだった。

 だが、肝心なのはここからだ。


「タタラ、さっきのお願い!」


「りょ、りょー……かいっス!」


 戦いの邪魔にならないよう、収納していたのだろう。タタラは例の発明品を再び出現させると、セイカの方へと放り投げた。


「これを……こう!」


 セイカはそれらを掴むことなく、そのまま自身の能力に巻き込む。そうして形成したのは当然大鎌だが、彼女が握りしめていたのは使い慣れたそれとはまた別の武器だった。


「完、成!」


 三本の大鎌と一本の柄を繋げた、巨大な風車のような武器。それぞれの柄の先端に、先程の発明品が取り付けられている。鎌一本あたりの重量を大して落とさずに形成したため、セイカでも持ち上げるのがやっとだった。


「こ、これは……」


「大先輩、離れますよ! あと、ジブンが合図を出したら、先輩の武器に電気を放出してほしいっス!」


「ま、任せてください!」


 圧倒されながらも、カナタはタタラの指示に従う。この作戦の鍵になるのが本当に自分なら、驚いてばかりいられないと考えたのかもしれない。


「……じゃあ、始めようか」


 巻き込まれない位置まで二人が移動したことを確認し、セイカも動く。地面と平行になるよう武器を持ち上げると、そのまま横方向への回転を始めた。


「お、おおおおっ……⁉︎」


 セイカの身体能力は、人間離れしているわけではない。当然、腕がちぎれてしまうのではないかという程の痛みに襲われるが、持ち前の気合いとロマンへの執着で踏ん張る。

 そして。


「く、ら、ええええ!」


 充分に勢いがついたそれを、セイカは獣の群れ目掛けて放り投げた。

 同時に、形成を再開して一本の柄に刃を付け足す。これで、四本の大鎌が繋ぎ合わさった形となった。大鎌の手裏剣、とでも呼ぶべきか。

 だが、これだけでは相手を仕留めることはできないだろう。彼女が繰り出した奥義は、重力に負けて早くも落下し始めていた。


「大先輩、お願いします!」


「い、行きます!」


 合図に従い、カナタが大鎌を狙撃する。直後、放出された電気は四つの発明品へと分散して吸収された。


「バッチシっス!」


 大鎌の回転速度が上昇し、重力に逆らって高度を上げていく。電気を取り込んだことでそれが引き起こされたのは、誰が見ても明らかだった。


「ウチが形成した武器の回転を、タタラの発明品で加速させて……」


「発明品の電力供給を大先輩に補ってもらうことで、長時間稼働させる。それが……」


 説明の後、示し合わせたわけではなかったが二人の声が重なる。


「奥義、『浪漫旋風』!」


「っス!」


 唸りを上げ、獣たちへと飛来する大鎌。相手の反撃を許すことなく、一頭、また一頭と切り裂いていく様は、『奥義』の名に相応しいものだった。


「先輩、火球に当てちゃ駄目っスからね! 回路がいかれるかもしんないんで!」


「わかってる!」


 返事をしながら、セイカは手を振る。その動きに従うかのように、大鎌が旋回して無数の火球から逃れていった。


「遠隔操作ができるのですか?」


「先輩の脳波を受信して、ある程度コントロールできるようにしてるっス。あんまり複雑な指示はできないっスけどね」


「……二人とも、見物してる余裕はないみたいだよ」


 奥義を放ったからと言って、すぐに決着をつけられるわけではない。火球は大鎌だけでなく、依然として三人のことも狙っていた。


「なんだか、火球の速度が上がっているような……」


「……どうも、獣の数が減ると速くなるみたいっスね」


「あー、そういうことか」


 共に走りながら、セイカは一人納得する。

 火球と同様で、獣自体が強化されるための条件も『個体数の減少』だったのだ。それを裏付けるかのように、大鎌が獣を一頭倒しきるまでの時間が徐々に伸びている。もっとも、誤差と呼んで問題ない程度だが。


「獣をまとめて消し飛ばすのが、最適解だったっぽいね」


「そんな方法が、あったのですか……?」


「ない!」


 少なくとも、この三人には。

 とは言え、今回の攻略法が邪道というわけではないだろう。

 奥義は既にほぼ全ての敵を討ち倒し、残るは巨大な獣のみという状況を作り出せているのだから。


「さあ、いよいよ大詰め!」


 大鎌と獣が、相手を行動不能にせんと攻撃を繰り出し合う。両者一歩も引かないその戦いを、三人は火球を躱しながら見守った。

 そして、ついに。


「いっけええええ!」


 三人が、同時に叫ぶ。その想いに応えるかのように、大鎌はより速く回転して獣の肉体を断ち切った。


「よし!」


「やりましたね、お二人とも!」


「や、やったっス……」


 全ての敵を葬り去った大鎌は、役目を終えたと言わんばかりに速度と高度を落とし、大地へと突き刺さる。形状も相まって、それは今しがた消滅した獣の墓のようにも感じられた。


「あ、回収しなきゃ……先輩!」


「ほいほーい」


 タタラからの呼びかけに、セイカは指を鳴らして返す。直後、能力を解除されたことで発明品が転がり落ちた。


「でもそれ、まだ使えんの?」


「だいぶ酷使したんで、多分無理っスね……一応、使える部品がないか分解して確認するつもりっス」


 そう言って、タタラが発明品を手早く収納する。能力の利便性に関心しながらも、セイカは恒例のお楽しみを享受することにした。


「おっ、たっから! おっ、たっから! 今日のお宝はどーこっ、かな〜?」


 セイカは勝利の喜びで浮かれながら周囲を見回すが、財宝が隠れていそうな場所は見当たらない。唯一出現しているのは、先程まではなかったはずの通路らしきものぐらいだ。


「これだけ苦労させられて、なんもなしってのはさすがに勘弁してほしいけど……お?」


 突如、地震に襲われたことで口を噤む。立っていられない程ではなかったが、何が起こっても反応できるよう三人は身構えた。

 そうして次に発生したのは、大地の隆起。空間の中央部あたりで、二箇所、地中から何かが出てきていた。


「これは……」


 揺れが収まり、セイカは恐る恐るそのうちの一つに近づいていく。正体が判明した直後、彼女の瞳はまたしても強く輝いた。


「お、お宝だあっ!」


「マジっスか⁉︎」


「マジっスマジっス!」


 口調を真似されたことになんのツッコミも入れず、タタラが財宝のもとへと駆け寄る。そしてセイカと同様に、その目を大きく見開いた。


「タタラ、全部しまえる?」


「もちろんっス!」


 三人がかりでも手に抱えきれない程の量だったが、タタラの能力があれば問題はない。彼女は特に苦労する様子を見せることなく、全て収納してみせた。


「……こちらは、迷宮の核のようです」


 もう一方の隆起を確認していたらしいカナタから、情報が共有される。

 目的の一つではあるが興奮するような話題でもないため、セイカは一度息を整えてから彼女のもとへと向かった。


「これは……酷いね」


 今回、水晶の中に閉じ込められていたのは、年端もいかない子供だ。迷宮によるものか、その肌には痛々しい火傷の跡が残っている。


「今回はウチがやるよ。前回も、カナタがやってくれたんでしょ?」


「ですが……」


「たまにはウチにも背負わせてよ」


 微笑みながら、セイカは大鎌を出現させる。そして核の方へと向き直り、振りかぶろうとした、その瞬間。


「待て」


 カナタでもタタラでもない声が後方から聞こえたことで、動きを止める。何やら嫌な予感がしたものの、聞き馴染みがないその声の主を確認しないわけにはいかず、セイカはゆっくりと振り返るのだった。

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