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外れスキル《棚卸し》の俺、物資不足で滅びかけた王国を倉庫から立て直す 〜追放した勇者たちは補給切れで泣きついてきたが、もう遅い〜  作者: のむ


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第29話 都市補給官レン・アスター

 都市補給官代理になった翌日、レンの仕事は増えた。


 減ると思っていたわけではない。


 だが、増え方がひどかった。


 倉庫学校の初回。


 神殿回収班の記録。


 馬車組合の休養表。


 ヴェルナー大商会リンドホルム支店の在庫監督。


 乾燥炉の燃料配分。


 王都召喚への資料作成。


 共同倉庫の作業台には、朝から木札と帳簿が山になっていた。


 ミナは手押し車を押しながら言った。


「偉くなったのに忙しいんだね」


「偉くなっていません」


「代理ってついてるから?」


「それもあります」


「じゃあ、代理じゃなくなったら暇?」


「たぶん、もっと忙しい」


 ミナは嫌そうな顔をした。


「偉くなるの、やめた方がいいね」


「同感です」


 最初の仕事は、馬車組合の休養表だった。


 馬の名前、年齢、担当御者、昨日の走行距離、飼葉の量、次に使える時間。


 代表は最初、そんなものを書いてどうするという顔をした。


 だが、レンが一頭ずつ休養札を下げていくと、御者たちの表情が変わった。


「今日は休ませるって、ちゃんと札に出るのか」


「はい」


「なら、市場の連中に文句を言われても見せられる」


 馬を休ませることにも、記録が必要だった。


 次は神殿回収班。


 ミナたちは、古着、空瓶、清潔布、伝言、軽い塩袋を運ぶ順番を確認した。


「途中で頼まれたら?」


 レンが聞くと、ミナは胸を張る。


「勝手に順番を変えない。急ぎなら札をもらう。困ったらガルドさん」


「よし」


「褒め方が地味」


「大事です」


 回収班の子供たちは笑った。


 その笑い声が、倉庫の中に自然に混じっている。


 数日前まで、彼らは正式な荷札に名前を書けなかった。


 今は、街の軽配送を支えている。


 それでも、街は変わり始めていた。


 共同倉庫には仮分類棚が常設された。


 神殿の古着には札がついた。


 旧倉庫街では回収班が働き、修理材と燃料材を分けている。


 乾燥炉からは、保存食の匂いが戻った。


 馬車組合の厩舎には、休養中の札が下がった。


 市場には、塩と薪が少量ずつだが並んでいる。


 完璧ではない。


 でも、昨日より届いている。


 昼前、倉庫学校の初回が始まった。


 場所は共同倉庫の空き区画。生徒は若い人夫、回収班、神殿の若者、馬車組合の見習い、なぜかユリウスまでいた。


 ガルドが腕を組んで怒鳴る。


「荷札を読む前に持つな! 重いものを上に積むな! 湿った箱は壁際に置くな!」


 レンは横で補足する。


「記録に残してください。見た人だけが知っている状態だと、次の人に届きません」


 人夫の一人が言った。


「面倒です」


「面倒です」


 レンは即答した。


「でも、面倒を省くと、後で薬箱の底が濡れます」


 誰も笑わなかった。


 その話は、もう街のあちこちに伝わっている。


 薬はあったのに届かなかった。


 その言葉は、リンドホルムの人々の中にも少しずつ残り始めていた。


 ユリウスが手を上げる。


「商会の帳簿も、倉庫学校の対象に?」


 ガルドが嫌そうな顔をする。


「商人まで教えるのか」


「逆です」


 レンは言った。


「商会の帳簿からも学びます。荷がどう売られ、どこで止まり、どこで価格が変わるか。倉庫だけ見ても流れはわかりません」


 ユリウスは少しだけ笑った。


「では、私も教師側に回れるよう、信用を取り戻しましょう」


 ミナが小声で言う。


「まだ見張るけどね」


「それで構いません」


 ユリウスは真面目に答えた。


 夕方、アルヴィンが共同倉庫を訪れた。


 彼は鎧ではなく、簡素な旅装だった。


「王都へ戻る」


「遠征報告ですか」


「ああ。それと、補給担当の権限について進言する」


 レンは頷いた。


「お願いします」


 アルヴィンは少し迷い、言った。


「レン。お前の名前を出していいか」


「仕組みの話としてなら」


「わかった」


 彼は深く頭を下げた。


 勇者が、倉庫の中で頭を下げた。


 周囲がざわつく。


「助かった。俺たちだけじゃない。ラト村もだ」


 レンは静かに答えた。


「届いたからです」


 アルヴィンは顔を上げる。


「次は、届く前に止めないようにする」


「それが大事です」


「王都が聞くかはわからない」


「はい」


「だが、聞かせる」


 その言葉には、以前の勇者らしい強さが少し戻っていた。


 ただし、前へ進む強さだけではない。


 帰り道を持つための強さだった。


 アルヴィンは去っていった。


 その背を見送りながら、レンは思った。


 これは終わりではない。


 勇者が学んでも、王都が学ぶとは限らない。


 商会が従っても、本店が黙るとは限らない。


 リンドホルムが立ち直っても、王国全体が無事とは限らない。


 夜、王都召喚用の資料を整理していたレンの視界に、初めて見た規模の表示が浮かんだ。


 それはリンドホルムの外へ広がっていた。


 街道。


 港。


 王都。


 北方軍。


 南部薬草地。


 レンは椅子から立ち上がった。


 《棚卸し》が、街の外を見始めている。

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