32. 魔法学園の特別依頼
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レミアからの依頼をアイリィが解決して、一週間程度経過した頃。
カルドラフ国境を超えて都市国家に豪華な宝飾に飾られた白い馬車が入ってきた。
関所を紋章の提示だけで通り抜け、馬車は商店街を通りながら、人通りが少ない路地を抜けると魔法屋タリスマンの前で停止した。
そして秘書と思われる黒いスーツに身を纏った麗人とも言える女性が馬車の扉を開け、中にいる人物が表に出てくるのを待ち構える。
扉の中から身分の高そうな、灰青のドレスを着用した年配の女性が静かに降りてきた。
秘書が先にタリスマンへの入口へと向かい、年配の女性が近づくと扉を開けて中へと導き秘書も続けて店内へと入り横で待つ。
扉の鐘が鳴りアイリィが何時ものように来客に対して歓迎の挨拶を伝える。
「いらっしゃいませ!何かお探しでしょうか」
年配の女性は静かに落ち着いた声で眼の前の少女を静かに見据え問いかけた。
「失礼、貴方がこの店舗のアイリィさんでお間違いないでしょうか?」
「はい、私がアイリィですが…何か御用でしょうか?」
「もし、こちらで一番偉い方と含めてお話というか相談したい事があり馳せ参じました。少しお時間をいただけないでしょうか?」
「はい、わかりました。店長ちょっといいですか?」
店の奥に居て忙しそうに何かの図面を引いていたリナは呼び出されて何時もの魔法使いの格好をして表に出ていく。
「いらっしゃい、何か御用ですかね」
「貴方がこちらの責任者の方でしょうか?」
「ああ、私がこの魔法屋タリスマン店長のリナリア・フローリアスです、リナと呼んでください」
「イグロニス王立魔法官学院の学院長を務めている、エメラルダ・スフィオニールと申します。実は内密な話がありまして、そちらのアイリィさんも含めて少々お時間をいただきたいのです」
「わかりました。アイリィ入口に離席中の看板かけて鍵閉めておいてくれ」
「はい」
アイリィは店の入口に『ただいま離席中』の看板をかけて、入口の扉に施錠を行う。
リナは二人を奥の部屋へ案内し、比較的豪華なソファのような椅子に案内して伝える。
「狭い場所ですがこちらにお掛けください」
学園長は腰掛けたが秘書は立ったままであった。
恐らくこれが彼女が取る秘書としての振る舞いなのであろう。
学院長の前に小さな椅子を用意して二人が座り、相手へと会話を促し要件を伺おうとリナが口火を切る。
「どうぞお話しください」
「実は貴方達に重要な相談があり参った次第です。ひとつお約束頂きたいのですがこれからお話することは内密にお願いいたします」
相手からの内密な話と聞き、リナは左手を上に翳し何かの魔法を放つ。
「今この店内に音声遮断の魔法結界を張った。これで外には一切ここでの会話は漏れない、続きをお願いします」
「はい、実は我が魔法学校にある生徒を受け入れる事になっています。その方はイグロニス王家第四皇女の『アメリア・イグロニス』様です。それについてのご相談です」
「王女が自分たちの国の魔法学校に入学する…特に問題ないように思えるが、ここにそのような相談を持ち込むということはそんな簡単な話じゃないんだろう」
「はい、実はここ最近王家周辺で不穏な動きがあり、王派閥周辺で国王様含め家族全員の護衛を強化して警戒している最中なのです」
「なるほど、でも娘を学校に通わせるなら護衛を付ければ済むことでないか?」
「それが皇女様の希望で王族ではなく普通の生徒として通いたいと願われているようなのです、従者を付けるならいいが護衛は付けたくないとも」
「よく解らないな、何故王族である事を隠すんだ?」
「皇女様の幼少期は王国とは離れた別地域で学校に通って居たのですが、常に護衛が付いて友達も作れないと嘆いておりました。国王様も末っ子の皇女様に甘くてですね…普通の生徒として通いたいとお願いを断れずに、こちらに何か方法がないかと相談してきたのです」
「大体の話は読めてきたな、つまり皇女に近づいて護衛役として圧倒的な強さを持った人物を側に置いておきたい。つまりアイリィを学園に連れていって皇女の守りに置きたいというのが目的か」
「お察しのとおりです、アイリィさんを我が学園に迎え入れたいのです」
「話はわかった、だけどアイリィはこの店の大事な店員だ。どれくらいの期間で護衛が必要なんだ?
「わが魔法学院は二年生です、そのため最長二年間は学院に所属していただくことになります」
「貴重で優秀なウチの人材を二年間も他国へ向かわせるだって!?それは無理な相談だよ」
「もちろん、十分な報酬は支払わせて頂きます。今回の報酬として金貨八千枚を用意しました、事前契約四千で完遂報酬で四千です。もちろん魔法学校で必要な学費、寮費、食事にかかる費用は全て免除、その他必要な経費があれば申請いただくことでこちらから提供します」
「ちょっと待て、魔法屋の店員一人に対して報酬が破格すぎないか?」
「当学校の生徒からアイリィさんの能力を伺っております、彼女はマエストロに匹敵する力を持っているのでしょう?それならばこれでも破格だと思っておりますが…」
リナは相手からの提案を受けて考えた。
アイリィはタリスマンになくてはならない人材だ。
家の事も全部やってくれるし、魔法に関しても立て込んだもの以外は任せられる。
二年間も店を空けるとなると売上にも影響出そうだし、そう簡単には判断できない。
「ちょっと返答は一日待ってくれ、即決で回答は出しかねる。明日の開店後にまた来てもらえないだろうか?」
「わかりました、確かに即断は難しいでしょうね。それではまた明日お伺いします」
学園長は席を立ち外に出ようと扉へ向かう。
リナは指を鳴らしタリスマンに掛かっていた結界を解き送り出す。
外に出る前に軽く会釈をして二人は外に出て馬車に乗り宿舎外へと向かっていた。
静かになった店内でリナは、学園長が言った言葉が気になりアイリィへと問いかける。
「アイリィ…前回の依頼で魔法の指導したと言ったけど色々漏らしたな?」
「え…ええと…久しぶりのソロ依頼で魔法の先生になったので、つい喋りすぎたかもしれません…」
「ったく、自分の首を締めることになるから。ここではちょっと出来る店員位で振る舞っておけと釘をさしてたろ。もし何か問題が起きた時には、私が引き受けるんだからさ」
「…ごめんなさい師匠」
「それで、どうする?」
「どうするとは?」
「学校に行くかどうかって事だ、私としては行って欲しくはないところではあるが…行くかどうかはアイリィの意見を尊重する」
「それは、行ってもいいって事ですか?」
「アイリィをここに連れてきてから、ずっと魔法の特訓とお店に関する勉強ばかりだっただろ。例の件でこの国の学校に通わせられなかったのは少し悪いとは思ってたんだ。イグロニス国内なら恐らく問題ない、行きたいなら止めないよ」
「でも、師匠は私を助けてくれたじゃないですか。あのまま残っていたら今頃どうなっていたか想像もしたくもありません。それに修行は厳しかったですけど、ここでの生活も楽しいですよ」
「私に気を使ってくれるのはありがたいが、これはアイリィへの依頼でもある。もし行きたいと言うなら誰か助っ人を頼んで不在期間の店はなんとかする。答えは任せるからよく考えてから返事を伝えるんだな」
「本当にいいんですか?私に委ねてもらって」
「ああ、学校生活を楽しむ機会にもなりそうだからよく考えるといい」
「…わかりました。リナお姉ちゃん…ありがとう」
頭に乗せた帽子を左手で深く被り自身の表情が見えないように顔を赤らめ少し恥ずかしそうにしながら店の奥に戻って行き、妹分の娘にポツリと呟く。
「なんか…久しぶりにその呼び方されると恥ずいな…」
師匠の言葉から魔法学校へ行ってこいとも取れる雰囲気を感じながら、明日の返答について考えるアイリィであった。
小さな王国の最強魔法店は水、日曜日の19時から21時頃で更新予定。




