33. アイリィの決意
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イグロニス王立魔法官学院の学院長エメラルダから皇女の従者兼護衛役としてアイリィの入学を打診された翌日。
リナは、回答を伝えるべく、本日はいつもより早めにタリスマンの営業を開始した。
早朝から冒険者が幾つかのアイテムを購入しに来たが直ぐに落ち着き、店内が静かさを取り戻したところで扉の鈴が予定していた来客を告げた。
「いらっしゃいませ!」
アイリィが元気に挨拶を伝えると、先日来訪してきた学院長が訪れた。
彼女は真っ直ぐな瞳で二人を見据え、先日の回答を聞きに来ましたという雰囲気を感じさせている。
「先日のお答えを伺いに参りました」
リナはアイリィに目配せをしてタリスマンを一時閉店にするよう意志を伝える。
「どうぞ奥へお越しください」
学院長と秘書を奥の部屋に招き入れ、席につかせて本日の打ち合わせについて二人へと告げる。
「先日のお答えはアイリィに一存しています、彼女の口から直接お聞きください」
アイリィは学院長の目を真っ直ぐと見据え、一呼吸置いて自身の気持ちを正直に伝えるべく声を挙げた。
「今回のご依頼、お受けさせていただきます」
リナは、アイリィが出す答えを予想していたのか軽く頷いていた。
「ありがとうございます!これで問題解決の糸口が見えました」
冷静沈着だった学院長が喜びのあまり何時もより大きめな声でお礼の言葉を述べた。
そんな自身の態度に気付いたのか少し落ち着きを取り戻しつつこれからの契約について話し合いを続ける。
「失礼しました、それでは諸条件等ございましたら、事前にお伝え下さい」
リナは、相手の言葉を待っていたかと言わんばかりに自身の考えを述べ始めた。
「では、アイリィが学園に行くことについて、私から幾つかの条件がある」
「伺いましょう」
「今回の護衛受諾の条件として皇女に失礼な態度や最悪体罰等を加えても教育行為として何があっても不問とすること。アイリィに対してそちらの国家が処罰等を加えようとした場合、私がイグロニスに向かい交渉を行う、これを書面で残してくれ」
「何故そのような条件を?」
「相手は相当我儘な皇女様なのだろう?貴方達が手を焼く程の人物だ。だから普通に接した時にちょっとした事で不敬行為など言い出してアイリィが処罰され兼ねないからな」
「なるほど…確かにご進言の通りですね」
「次にもうひとりの従者として、戦士系か出来ればタンク職に近い能力を持った人物を側に置くこと。もちろん信頼がおけるかなりの手練れをな」
「その理由は何故でしょうか?」
「アイリィは魔法に関してはエキスパートだ、ただ強力な戦士や暗殺者が複数人と対峙した場合には、一人では対処出来ないからだ」
「相手は王族を亡き者にしようとする輩です。最悪の場合、対象を殺害しても問題はございませんが…」
「理由あってアイリィは人を殺せないんだ。だから代わりに戦って最悪始末してくれる人が欲しい」
「…わかりました、ご提示の条件も含め国王様に進言させていただきます」
「最後にアイリィの武器となる杖の持ち込みは許可してくれ」
「そちらに関しては問題ないかと存じます」
「よし、それじゃあ取引成立だ。前金を用意してからこちらにアイリィの迎えを寄越してくれ」
「承知しました。それでは諸々の手続きがございますので、本日はこちらで失礼させていただきます」
商談が決定した学院長は、善は急げとばかりにタリスマンを後にする。
挨拶も早々に彼女はイグロニスへの帰路へ向かうようだ。
入口に用意しておいた馬車に乗り込み、国に帰って諸々の手続きを行って早速皇女含めた入学手続きなどを進めて行くのであろう。
静けさを取り戻した店内で、リナとアイリィはこれからの事について話し合うことにした。
「アイリィ、とりあえず必要な物考えて荷物を纏める準備はしておくんだな」
「え、もう準備始めるんですか?」
「ああ、恐らくだが一週間以内に迎えに来るだろうな、早けりゃ五日だ」
「それは早いですね…イグロニスまで片道二日はかかるでしょうけど、即日迎えを送るんでしょうか」
「学院長の焦り方から相当急いでいるんだろうな、国に戻ったら即手続きを終わらせて迎えを寄越すだろうな」
「そうなんですね、一旦店を開けてから余暇の時間で準備を始めます」
「そうそう、杖はフェニックス・キャリバーを持って行っていいぞ」
フェニックス・キャリバーとは、リナが以前愛用していた先端で円を描き、装飾で不死鳥の飾りつけが施されているこの国でも二番目の強さを持つ最強杖の一つだ。
マエストロクラスの魔法力を制御できる高級杖でもある。
「あんな高価な杖を持っていっていいんですか?」
「あれはアイリィに与えた杖だからな、能力も十二分に発揮できるだろうし、魔法能力開放も常時四段階までは自由に使っていい。危険な時は最大まで許可する」
「師匠なんだか大盤振る舞いですね…どうしたんですか?」
「大事な妹分が他所の国で頑張ろうとしてるんだ、万全の耐性で送ってあげるのが姉としての努めだろう」
アイリィは師匠の心意気を聞いて少しだけ涙が零れそうになる。
自分をここまで育ててくれて更に学校に行きたいという願いに対して全力で応援してくれる姉に心が震えない訳が無い。
「おいおい、泣くなよ…先日も言ったとおりアイリィを学校に通わせたいって、私の我儘も含んでるんだ、だったら全力で応援するべきだろう」
「だって…だってお姉ちゃん」
リナは、涙が止まらなくなったアイリィの頭を自身の胸元に寄せてゆっくりとそして優しく頭を撫でて落ち着かせようとする。
まるで昔からずっとそうしてきたように、静かに彼女の心が落ち着きを取り戻すまで続けて待つ。
二人だけの静かな時間が時を刻み、やがて落ち着いたのかアイリィは笑顔でリナに気持ちを伝える。
「お姉ちゃんの心意気に応えて、私も頑張ります!」
「そうだな、学園生活を十分謳歌してきな。こっちの事は気にしなくていい、アイリィが帰って来るまで店を開けて待っているから」
「はい!」
力強く返事を返したアイリィはいつもの元気を見せ始めた。
そんな妹分に笑顔で答えるリナは、ある事を思いつき彼女へ伝える。
「ついでにアイリィ、その姫様の我儘な所をビッシリ躾けてやれ」
「え!?私がですか?」
「皇女と言う立場を理解せず、ただ本人がやりたい事に対して周囲を巻き込んで迷惑を掛けるような人物だから、まずは皇族のあり方を叩き込んでやるんだ」
「私は普通の魔法店員なんですよ…そんな教育係なんて無理です」
「そうか?アイリィは年齢の割にしっかりしてるし、教育係としても十分やっていけると思うぞ?」
「お姉ちゃんがそう言うなら頑張ってみますけど…失敗しても知りませんよ?」
「大丈夫だ、何かあった時は私が責任を取る、そう言ったろ?」
「わかりました、じゃあ我儘姫様をガツンと教育してきます!」
二人で今後の事を話し合い、目標が決まったところでタリスマンの通常営業を再開してその日一日は終了した。
アイリィの心にはこれから起こる波乱万丈の学園生活に期待と不安を巡らせながら迎えが来るのを待ち望んでいた。
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