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少年期 第十四話
王都へ向かい旅立ってから四日の夜、今のところ順調には進んでいると思う。
一緒に向かっているメンバー的にも男女二人ずつというのもあり、うまいことやれていると思う。
一応俺とメルは正式な冒険者ではないが、戦闘経験があるので多少の事では問題ないだろう。
王都までは街道も整備されており、よく物語に出てくるような盗賊の心配も少ない。全くないとまではいいきれない所が少しこの世界の怖いところではあるが……
しかしこの世界での旅というものは思っていたよりも案外快適である。それはやはり魔術というものの存在が大きいと感じている。まあ日本での旅のような快適さはもちろんないが、必要ならば水なども準備することも出来る。
王都までは、野宿や村の宿を利用して向かう事になる訳だが、一応一日鳥馬を走ららせれば宿のある村や町に辿り着くことが出来るので特に心配はしていない。
しかし、この四日の間、予定していた村の宿に泊まる事は無かった。
旅慣れぬ俺達は、いってしまえば楽しんでいたのだ。保護者等がいない子供達だけの旅を。
最初に言い出したのはマールだった。
「ねえ、宿に泊まりつつ王都を目指す予定だったけど、どうせなら野宿とかもしてみない?」
この言葉を皮切りに、ラス、俺と賛同していき、少々困った顔をしたメルも最後にはそれに応じる形となった。
一応、何かあった時の為、野宿用の準備をしてきていたというのもあるだろう。
そのおかげもあって、予定より早いペースで進めてはいる。
だが、後悔していないとは流石に言えない状況だった。
「明日は一階宿を取らないか? 王都までの距離はこの四日の間に予想していた以上に稼げているし、一度ゆっくりと休んだ方がいいと思うんだ」
言い出したのはもちろん俺だ。
この世界に来る前は日本で暮らしていた俺、キャンプ等でない限りこのような野宿等勿論した事は無かった。この世界に生まれてからももちろんそんな経験はない。何せうちは貴族で、なおかつ領主の家なのだから、そう野宿があったりしたらビックリものである。
こういう事もあり流石に四日続けてとなると俺の精神力は付きかけていたのだ。
野宿となるとやはり不寝番が必要となる事も関係しているだろう。
これは交代で行う事になってはいるが、眠い中起きないと行けなかったりするのはやはりつらいものが有る。当番は二人一組である。
この当番を決めるのも、すこし面倒だった。男女で分けるべきか、混合にするべきか。
結果は男女混合の形をとる事となった。男が見張れない状況を作る訳にはいかないという事でこうなったのだが、大して戦う力を持っていないラスでは特に意味をなさないからだ。
そういう事もあり、ラスとメルリナのペア、俺とマールのペアという組み合わせで、俺以外の者達でこれは決まり切っているかのように満場一致で決まってしまった。
多数決とは怖いものである。
まあそうなったからと言って今日まで危険な状況も無かったので問題はない感じではあるが。
それと、俺がこれを提案したのにはもう一つ理由があった。
それは勿論、トイレや湯あみの為である。
野宿だからトイレはその辺にすればいいと思うだろ? 男だけの旅だったら俺はそれでも問題が無いと思う。しかし、女子二人がいる旅なのだ。気にしないという事自体出来ないものだ。
小の方ならまだいい、だが大はいかん。
トイレのような気が緩む瞬間がある時危険にさらされると偉大な冒険者は言ったそうだ。
それは俺にだってわかる。おそらくこの偉大な冒険者は困ったことになったのだろう。だからこのような格言を残したに違いない。
それに危険なのは魔物だけではない、野外で危険なのはそんなものより虫類なのだ。
日本にももちろんスズメバチなどを筆頭とする危険な毒を盛った虫もした。
しかしこの世界ではそれすらもかすむようなドクムシが多く存在する。
そういう事もあり、トイレという行為に対しても見張りが必要になるのだ。
これらの事によって俺の精神は実の所かなりすり減っていたのだ。これが先ほどの提案という訳だ。
幸いにも他のメンバーで意を唱える者は居なかった。
少なからず皆も困っていたに違いない。
こうして明日の予定を立てたろ頃で休むこととなる。最初に休むはラスとメルである。
ラスはこの旅でも一番働かなくてはならい、御者という仕事を買って出てくれたというのもあるので、先に休むのか後に休むのか選んでもらう事にした。
そうして選んでもらった結果、先に休む方が良いとの事でこのような順番となった。
テントは一応二組もってきてはいたが、初日以外は面倒だという事で一つしか張っていない。
マール辺りが騒ぐんじゃないかと思っていたのだが、そういう事も無かった。
何気に信頼しあっているメンバーの様だ。
そして見張りを始めてから結構な時間がたったたような感覚だが、まだいうほど時間はたっていないようだ。砂時計を見ると半分以上落ちている状態だ。なにげに静かな何もない夜の時間の進みは遅いようだ。
一応俺達のなかで決まった事は、この砂時計の砂が落ちたら交代だ。
ラスはおそらく野宿の事も考えて用意していたのだろう。夜の半分の時間で砂が落ち切る砂時計をきちんと用意していたのだ。
この場を覗いて辺り一面は闇に閉ざされている。
聞こえるのは虫の囀りと薪の爆ぜる音、それに風の音だ。
耳をすませばこのようにいろいろな音が聞こえはするが、総じていえば静かな夜だった。
俺はふとした拍子にこの静かな夜を終わらせた。
この数日で気になっていた事をマールに聞きたくなったのだ。
「なあ、マールってラスが他の女の子と一緒に寝てるの気にならないのか?」
「……んぁっ? えっ、何? 何?」
「おまえ、今寝てたろ?」
「そ、そんなこと…… 少しはあります。ごめんなさい」
「いや、特に何かあったわけではないので良いよ」
「そっか、でも本当にごめんなさい。それで何かあったわけではないのは解ったんだけど何?」
「いやさ、マールってラスが他の女の子と一緒のテントで寝てる事について気にならないのかなって思ってさ」
「うーん、気になると言えば気になるけど、メルちゃんだしねー。心配するようなことはまず怒らないと思うよ。ラスが無理やり襲ったりしない限りは」
「ラスが襲わない限りはなんだ」
「うんうん、ラスはそんな人間じゃないって事も分かってるしね」
「なるほどなー」
「それよりも、エレク君メルの気持ちには気づいているんでしょ? どうするの? ってエレク君が気になったからこういう質問してきたのかな?」
マールもだいぶ打ち解けてくれるようになった気がする。こんな風に話してくれるようになるまで結構かかった気がするな……
「んー? どちらかというとマールと一緒に寝てる方が気になるな……」
「えっ?」
「お前、寝てるから気づいてないだろうけど、俺お前に抱き枕にされてることあるんだぞ?」
「えl、えぇぇぇっ?」
「うるさいよ、ラス達が起きちゃうだろ!! それに冗談だ」
「へ、変な冗談言わないでよ…… というかエレク君って時々変な冗談言うよね、はぁ」
マールは疲れたような溜息をつく。
「すまんすまん、それでメルの事だったよな…… ちゃんと気づいているよ」
「そうだよね、あれで気づかない人がいたら、一回頭を思い切りはたきたくなると思うよ」
「ああ、そうだな、どんなに鈍感だってあれに気付かないやつはいないだろ」
二人して軽く笑いあった後、マールが聞いてきた。
「それで、エレク君はどうするの?」
「解らない、今俺が言える事はこの位だな」
「身分の差っていうのもあるしね……」
「それもあるけど、俺自身の気持ちが解らないっていうのが大きいんだ。正直メルの好意は嬉しく思うけどさ」
「そもそも、エレク君って好きな人とかの話聞かないけど―――」
少し間をおいて俺の目をしっかりと見つめマールは問い掛けてきた。
「やっぱり貴族で領主様の子供だから、何と言うか結婚する人とか、そういうのもう決まってたりするの?」
「いや、そういうのは決まってないよ。多分決まってないはず。俺そんなこと聞いた事も無いもん」
「そっかそっか、それじゃエレク君は好きな人とかいないの?」
「うーん、いると言えばいるのかもしれないし、いないと言えばいないのかもしれない。好きだったことがあるっていうのが正しい感じかな?」
「えっ、そうなんだ!! 意外だよ!! 誰? ねえ誰、誰? 私の知っている人?」
「女ってこういう話好きなのな……」
「うんうん、好き好き!! で、誰なの!?」
「アンだよ」
「メイドさんか~、アンナさん綺麗だもんねー、強いし、素敵だし、それに優しいし、メイドと主の禁断の愛だね!!」
「いや、そんなのは無いから!!」
「あはは、でもさっきの話し方からすると今は違うって感じだよね?」
「ああ、うん、違うというか……」
俺は正直ずっと悩んでいたんだと思う。
俺の精神年齢は多分もう五十歳近い、今は子供として生きているが、昔見たことのあるアニメ化されたマンガで言うなら中身は大人、見た目は子供って感じなのだ。
そんな俺から見たら今二十五歳に位になるアンもまだまだ若く感じてしまう。
マールやメルに至ってはまだまだお子様だ、まあ俺この世界ではお子様なのだが……
そんな子供に抵抗を感じてしまうのは仕方のない事だろう? 多分これはこれからもついてくる悩みなんだろうなとは思わないでもないが、今の俺はそんな感じなのだ。
だからと言って年上の俺の精神年齢位の女性は考えることはないけど。
そのごもやいのやいのマールに問い詰められたり、こっちから聞いてみたりしながら過ごしていたらいつの間にか時間となっていたのでラスとメルを起こす。ラスが幸せそうに寝ていたのでちょっとイラっとして頭を軽くはたいて起こした。軽いやつ当たりである。
特に何事もなかった事を報告した俺とマールはテントへと入りまだ体温で暖かい寝袋へともぐりこんだ。
寝袋から頭を出してあおむけで転がっているとマールが話しかけてきた。
「さっきの話の続きなんだけど、私はラスが好き。この気持ちには嘘はないんだけど、エレク君の話を聞いていてちょっと思ったの」
「何だ急に? 惚気話はもう聞かないぞ?」
「ううん、惚気じゃないと思う。さっきエレク君の話を色々聞いたでしょ? それで私も色々考えてみたら私のこのラスを好きっていう気持ちは恋なのかなって疑問に思ったんだ」
「ふーん、でもどっちでも良いんじゃない? 多分マールが言いたい事は何となく解るよ。ラスの事を男として好きなのか、何となく家族を好きというのと同じなのか、そんな感じなんだろ?」
「多分そうだと思う」
「じゃあさ、ラスにキスされたらマールは嬉しいか?」
「うーん、されたこともした事も無いから解らないよ」
「じゃあ、俺にキスされたら?」
「えっ? それは、えっと……」
「あのさ、すぐに否定してくれ、なんか反応しずらいじゃないか……」
「あ、うん、でもいきなり言うエレク君がいけないと思うな…… でもちょっと嫌かな? あっエレク君を嫌いとかって意味ではないからね」
「そんなのわかってるよ、例えばの話だよ。でもラスに対しては解らないだったけど俺に対しては嫌っていう気持ちがあるならそれで良いんじゃないか?」
「そっか、そうだよね……」
「ああ、それに俺達はまだ成人してるわけでもないから焦る必要もないだろ? これからだって時間はあるんだしさ」
「エレク君ってさ、なんだかすごく大人だよね」
「そうか?」
「これも貴族の家に生まれてしっかりとした教育を受けてるからなのかな?」
「さあ? それは解らないな」
流石に中身が五十近いおっさんだなんてことは言えないよな……
「そっか、まあいいや!! 今日はエレク君の色々な事が聞けて嬉しかったよ」
「まあ俺もマールとこうやって二人きりで話したのって何気に初めてだから楽しかったよ。それじゃそろそろ寝ようぜ」
「うん」
「それじゃおやすみ」
「おやすみなさい」
この数日の見張りの中でも多少の会話はしていたけど今日のようにお互いに深く突っ込んだ話をしたのは初めての事だった。
今までは漠然としたマールの事しか知らなかったけど、今日話したことで少しはマールの事を知れたような気がした。
そんな事を考えながら俺の意識は薄れていった。
次の朝、テントを解体し、軽く朝食を食べた後出発した。
忘れ物は無いはずだ。
俺はラスの隣に座り、鳥の扱いを聞いていた。
女子二人は後ろで何やらきゃっきゃっと話している。
会話までは聞き取れないが楽しそうにしているので問題はないだろう。
そんな感じで進み、昼過ぎごろの時間帯に宿のある町へと到着した。
今日はもうこの後進むことはしないで町でゆっくりと過ごす事になる。
最初に行う事は宿の確保だ。さすがに宿が確保できなかったら俣野塾になってしまうので最優先で宿へと向かった。
宿の前で鳥車を降りると、宿の小間使いと思われる俺達よりも少し年上位の少年が素早く表れ、ラスに話しかけていた。
どうやら鳥車を預かってくれるようだ。
ラスはちゃんと鳥車を預かってくれる宿を考えていたらしい。
俺は宿に泊まる時鳥車はどうするんだろうな? と考えていたくらいだったのにしっかりしたものだ。
宿は何事もなくとることが出来た、男女で一部屋ずつ、久々に何も気にせず眠ることが出来そうだ。一応これでも女子の隣で寝るという事が気になっていたのだ。
宿をとった俺達は大事な物だけ部屋に運び入れ、その後町へと繰り出した。
そう大きな町ではなく、まだ昼間という事もあり、様々な屋台や露店などが並んでいる。
屋台に並ぶ食べ物の料金はフィファイスより少し安い感じだろうか? 小銅貨三枚くらいからあるようだ。
俺は小銅貨五枚の串焼きみたいなものを一本買ってみた。
触感は何だか筋張っている肉、味は微妙な塩味の実の味付けでお世辞にもうまいとは言えない感じだった。日本円の価値として五十円くらいの価値ではあるが、これは高いと考えるべきか、そう追うと考えるべきか悩む値段だった。
この町はどうやら革細工が主な産業のようで、革を扱った店が多く見られた。
この町でも特にこれといった事は無く、久々のベッドでゆっくりと体を休め次の朝出発した。
ちなみに宿での夕飯も筋張った肉だった。
どうやらこの辺でよく出る動物の肉らしいが、興味が無かったのであまり頭には入っていない。
最初の四日間で予定より距離を詰め、時間に余裕がある俺達だったが、その後の町なども一泊だけしてすぐに出発という形をとっていた。
なんせ特に面白みがある町や村ではなかったので。
野宿もしたりした。
今まで特に危険もなかった事もあり、見張りのペアを男女で分けたりもした。
俺からすると男同士とかの方が気楽でいいと思ってしまったが、困ったこともあった。
それは次の日女子たちがなんか変なテンションだった事だ。
俺とラスは訳も分からず首を傾げてしまう状況だったが、これといった問題ではなかった。
最初王都までの旅は二週間を予定していたが今のペースだと二日ほど早く到着しそうな感じだ。
しかし順調に進んだのはここまでだった。
王都まであと一日程度の場所に着て突然の大雨、それと強風に襲われてしまったのだ。何というか日本で言う台風のようなものである。
幸いにもすぐに村があったのでそこで逗留することとなった。
日本で時折来る台風は一日くらいあれば通り過ぎてくれるものだが、こちらのこれはしばらく続いた。村人に聞くと年に数回ある事だそうだ。
外は嵐で、宿の外に出ることも出来ない。
二日経った現在、ラスとマールとメルは部屋でなにやら遊んでいるようだ。
俺がこれまでに作りだしたなかでも魔術を用いて仕上げた特別仕様のトランプだ。
これはぶっちゃけて言ってしまえば売り物にすることが出来ない物である。色々試行錯誤して、日本で買えるプラスチック製のものに近づけてあるとても苦労した一品なのだ。
そして俺はというと、宿内に併設されている酒場のような場所へと一人できていた。
この嵐のせいか、他にもぱらぱらと客がいる。
俺はそんな中奥の方にある席へと座っている。他の客から距離を置きたいというのが理由だ。
そして俺はレネと話していた。
ぶっちゃけ端から見てしまうと独り言である。なるべく目立たないように小声で話すレネとの会話。内容はこの嵐についてである。
「それで、この嵐なんだけど、あとどれくらい続くんだ?」
『エレク達がいう魔術で干渉すれば今にも終わらせることが出来るけどこれは現実的ではないかなー、このままだとあと二日でこの嵐は去ると思うよ』
「魔術で干渉なんてできるんだ?」
『うん、僕達も滅多にする事じゃないけどね、嵐が長く続いて飽きた時とかくらいかな?』
「そっか、それで嵐が去るのも分かったりするなんて精霊って便利なんだな」
『それはこの辺の微精霊たちが今までの経験上からくる推測になってしまってるけどね。大体いつもこの位の日数で過ぎ去るって事だけだよ』
「それよりさ、フィファイスの街ではこのような嵐今まで見た事も無かったけど、何でここではこんな嵐になってるんだ?」
『それはこの辺の地形のせいだね。詳しく説明しなくてもエレクなら何となく把握できるんじゃないかな?』
「なるほど、まあ何となくわかったよ」
『それよりさ、あのマールって人間と話していた事が僕は気になるな』
「お前な…… そういうのはもういいよ。マールで十分お腹いっぱいだ」
『むぅ、残念だなー』
「まあ、嵐の情報助かったよ」
『どういたしまして』
レネとの話を終えた俺は部屋へと戻り、ラス達と遊んだ。
朝早く起きた俺は、ラスが起きないように静かに起きて外へと向かった。レネが話してくれた通り、二日経った今日、嵐が嘘のように雲一つない青空が広がっていた。
道がぬかるんでいるのでさらにあと二日は逗留することになるだろう。
嵐のせいで予定した日数を超えてしまったが、日数的にはもともと余裕をもっての旅だったのでここで時間を取られても大丈夫ではある。
入学するための試験は年が明けてからすぐなのでまだまだ日数はある。
王都にある学院はどれもアイズの月第七日に入学試験が行われる。この世界では一月とかではなく昔いた人の名前が月の名前になっているそうだ。アイズの月は一月、因みに俺の誕生日はクレシアの月だ。ってあれ? そういえば今日って俺の誕生日じゃないか?
フィファイスを出たのがクレシアの月第三日で予定では王都につくのが第十五日だったはずだ。
当初の予定では順調に進んだ場合であるが王都で俺の誕生日を軽く祝ってくれるという話になっていたのだ。王都への到着と俺の誕生日を祝した祝いとして。
今までの日数を考えると今日は第十六日なる。まさしく俺の誕生日である。
まあ別に祝って欲しいというものでもないので雲一つない青空に背を向けへやへともどっていった。
時間的には昼過ぎであろうか? 俺はメルに誘われ村を見て回っていた。
この村にはこれと言った徳さんは無いようだ。まあすぐの距離に王都があるのでこれと言った徳さん等なくても問題ないのだろう。
食材なんかも王都から運ばれてきたりするようで、村という規模であるがとても潤っているようだった。屋台の食べ物も少し高くなっているがこの前食べた串焼きよりは美味しかった。
そんなこんなでメルとの散歩を終えた俺達は宿へと戻った。
まだ夕飯の時間まで少しあるし、おそらくこのままトランプなどをして時間を過ごすのだろうと思いつつ部屋の扉を開けた時だった。
「「誕生日おめでとう」」
ラスとマールが口をそろえて言ってきたのだ。
扉を開けた瞬間だったから少々驚いてしまった。
そのすぐ後にメルが「エレク君おめでとう」と後ろから声を掛けたのをきっかけに俺は驚きから立ち直った。
「あ、そのなんだ? ちょっと驚いた…… なんていうか、その、ありがとう」
すこしどぎまぎした受け答えになってしまったが感謝の気持ちは伝えることが出来た。
今日をもって俺も十二歳だ。この世界では一応ちゃんと働ける年齢になったという事だ。
まあ日本で言う十六歳みたいなものだ。
冒険者にも準五級という扱いではなく五級として扱ってもらえるようになり、依頼もちゃんと受けられるようになる年齢である。この世界では明確な規定などは無いらしいが一般的にお酒を飲みだすのも十二歳からという風習もある。禁止されている訳では無いので十歳で飲んでも怒られはしないが何と言うか生暖かい目で見られたりするらしい。
いうなれば背伸びしている子供ってかんじなのだろうか?
事前に十一歳の時にちょっと豪勢に祝ってもらっていた事もあり、プレゼント等の用意は無かったが、この日は皆でお酒を飲むこととなった。
メルだけは俺にお守り的な何かを用意してくれていた。
守りの魔術が掛けられているそうだ。
こうして俺の誕生日も祝ってもらい、それから二日目の朝俺達は王都へ向かっての旅を再開した。
まだ道は少しぬかるんでいるものの、旅に支障があるという訳ではない。
ゆっくりと鳥車を進め村を出た。
そしてその日の夕方、こんなの必要あるのかと思う巨大な城壁が目に映る。
王都である。
王都への入り口である門の前には少しの列ができていた。
ラスはその列の最後尾へと鳥車をつけた。
列の流れはそこそこ早く、しばらく待つと俺達の順番となる。
「王都へは何をしに?」
「来月の入学試験を受けに来ました」
「君たちみんなそうなのかね?」
「「「「はい」」」」
みんな揃って返事すると門衛の人はにこやかに頷く。
「身分を証明できるものは持っているかね?」
門衛の言葉に、ラスは商業組合証を、俺とメルとマールは冒険者証を提示する。
マールはこの日の為に一応冒険者証を作っていた。
それらを確認した門衛は「試験頑張れよ」と言い俺達を通してくれた。
どうやら特に厳しい審査とかはないようだ。こんな事で大丈夫なのだろうか? まあフィファイスの街も厳しい審査がある訳ではないのだが。
この日はすぐに空いてる宿を探して一泊することとなった。
明日からは各自で自分のとまるところを探すことになるので実質的には皆で行動するのは今日までとなる。
何とか宿を見つけて、先日の事に凝りもせず皆で祝杯を挙げた。
王都到着祝いという事である。
実は俺の誕生日の次の日ラスが二日酔いになったりで大変だったりしたのだが、そんな事は気にしないようだ。
祝杯は楽しく過ぎ、いつも通り男女で別れた部屋に戻る。
部屋に戻った俺とラスは旅を振り返り色々話をしているうち、いつのまにか寝落ちてしまっていたようだ。
どうやら女子たちも同じようで、朝皆とそんな話をして別れた。
とりあえずはしばらくの滞在先の確保である。
宿の確保のため向かったのは王都の冒険者協会だ。
冒険者協会では冒険者たちに宿の紹介などしてくれたりもするし、この街にある宿等にも詳しいのでそれを利用するというのが一つと、十二歳となった俺は冒険者証の書き換えが必要になるからだ。
フィファイスの街よりも大きい冒険者協会の受付へと向かう。
流石は王都というだけの事はあり冒険者協会に入ってすぐ目に映る受付は横に長く六人の受付が並んで座っていた。一応受付一人一人の場所がパーテーションで区切られブースの様になっていた。
その中の割と綺麗めなお姉さんのいる受付へと向かった。
「本日の要件は何でしょう?」
「冒険者証の書き換えをお願いしたくて」
「わかりました。冒険者証を提示してください」
「はい」
俺は首にかけた冒険者証を外し受付のおねーさんに渡した。
「エレクレール・フォールダイン、登録名はエレクですね。――えっ?フォールダイン?」
受付のおねーさんは目を見開いて驚いているようだ。
この冒険者証、普通ではこのような詳しい個人情報は出ないのだが然るべき機関の特殊な機械のようなものを通すと登録時に書いた情報が事細かく表示されるようになっている。
普通に見るだけなら、登録名、階級が記されているだけである。
因みに登録名はエレクで登録してある。これはまあ好きな名前で良いのだが一般的に呼び名などで登録されることが多い。聞いた話ではこの世界ではそう言われないのかもしれないが中二病てきな名前で登録する者も居るようだ。
驚き固まっている受付のおねーさんに俺が声御かけると「す、すみませんでした」と言い作業を再開してくれた。
冒険者証を返されると受付のおねーさんが説明を始める。
暫く長ったらしい説明の後に一呼吸おいて受付のおねーさんが言った。
「では本日より五級の冒険者です。今までとは違い様々な依頼を受けられるようになりますが無理はしないようにお願いします」
「はい、それとですね、この辺で安めの宿ってありますか? 暫く泊まれる宿がいいのですが」
「宿、ですか?」
何とも腑に落ちない感じで俺を見つめてくる受付のおねーさん。
これはあれだろうか? 貴族、それもフォールダインの名を持つ一級貴族である俺が安い宿を探しているという事が通常で考えればおかしなことだろうからか?
「はい、僕は王立魔術学院の入学試験を受けるために来たのですが、試験までの間泊まれる宿を探していまして」
「なるほど、そういう言事でしたか。しかしフォールダインの家の方なら王都に別邸があるのでは?」
フォールダインの件から声を潜めてくれる受付のおねーさんに少し感謝をしつつ俺は答えた。
「なるべくなら家の力を借りずにやっていきたいと考えていまして」
「そういう事ですか、でしたら中央通りを往生へ向かって進むとモレンの花園という宿がありますね。そこは毎年王立魔術学院の入学試験を受ける人たちがよく使っていますよ。その辺には宿が結構ありますので、そこが満室でしてもすぐに他の宿が見つかると思います」
「モレンの花園ですね、ありがとうございます。とりあえずそこを当たってみる事にします」
モレンの花園ってなんていうかちょっといけないお店って感じのネーミングなんだけど大丈夫なんだろうか?
受付のおねーさんに礼を述べ俺は教えてもらった宿へと足を運んだ。
宿自体は何と言うか普通であった。名前のような怪しげな雰囲気などは無くある意味ちょっと期待を裏切られた感じだ。
しかし何と言うかここじゃないという謎な勘が働いた俺はとりあえずあたりを散策することにした。
やがて中央通りから一本逸れた路地でフレウの尻尾停という宿を見つけた。
俺の直感がここだと叫ぶ。
俺が宿の扉を開けると、カランコロンと来客を告げる鐘の音が響く。
そしてそのあとすぐ鐘の音をきいた店の女将と思われる少し恰幅の良いおばちゃんが現れた。
「いらっしゃい、食事かい? それとも宿泊かい?」
「宿泊です。長期の宿泊ってできますか?」
「ああ、部屋あいてるよ、うちは一泊大銅貨一枚と銅貨五枚だよ。」
「ではとりあえず三週間ほどお願いします。料金は前払いの方がいいですか?」
「ちゃんと払ってくれるならどっちでも良いさね」
「では銀貨二枚と大銅貨七枚、先に払っておきます」
「驚いた、あんた計算早いんだね。どうだい家で働かないかい?」
「いいえ、僕王立魔術学院に入学する予定なのですみません」
「そうだったのかい、残念だねぇ、王立魔術学院と言えば卒業できればエリートと呼ばれる学園じゃないかい、計算が早いのも納得だね。そうそう料金は長く滞在してくれ先払いなら銀貨二枚で良いよ、勿論,朝食と夕食もついてるよ」
「そんなに安くしてもらって大丈夫んですか?」
「ちゃんとそれでもうけが出るから大丈夫さね」
「それでしたら、お願いします」
「はいよ、そうそう、湯が欲しいときは桶一杯で銅貨一枚必要になるからね」
「あっ、桶だけ貸してもらえれば大丈夫ですので」
「そうだったね、王立魔術学院を目指してるなら魔術なんて簡単だね。それなら桶が必要ならあそこにいつも置いてあるから好きな時に持って行って構わないよ」
そう言って廊下の奥まった棚を指さす女将さん。
「わかりました」
「じゃあさっそく部屋に案内するよ」
「お願いします」
女将さんは案内しつつ宿の説明をしてくれた。
どうやらこの宿は料理店も営んでいるようで、メインの収益はそっちで上げ要るらしい。
夕飯を部屋で摂るか店の方で摂るか聞かれたが気分で選びたいのでというと女将さんが毎回声を掛けてくれるという事になった。
そして部屋の前に辿り着くと女将さんはとんでもないことを言いだした。
「男を連れ込んでもいいけど、その時は一泊料金追加させてもらうからね」
「あの…… ちょっと待ってください…… 俺、俺、男ですからっ!!」
「えっ? お嬢ちゃんじゃなかったのかい?」
「ほら、俺って言葉が乱れちゃってますが、さっきから僕って言ってましたよね?」
「僕っていう女の子もいるじゃないかい、まあそんな可愛い見た目してるんだから間違われても仕方ないさね」
女将さんはごうかいにわらいつつ扉の鍵を開け俺に手渡してきた。
「宿から出かける時は鍵をちゃんと書けて私に預けておくれ、無くされでもしたら壊さないといけないから大変なんだ」
「わかりました……」
「まあむくれないむくれない、今日の夕飯サービスするから」
「それなら……」
女将さんとのやり取りを終え俺は部屋へと足を踏み入れる。
広さはさほど広いわけではないが掃除などは行き届いており、ベッドのシーツも清潔そうで、値段の割には良い部屋のように感じる。とりあえず背負って持ってこれる荷物今日は持って歩いていたのでそれを部屋の隅におろした。
部屋も決まった事だし、一回ラスと合流しとくかな。
入ったばかりの部屋を貴重品だけ持って後にした。
扉に鍵を閉め廊下を進み階段を二階分降りる。
どうやら部屋は各階に三部屋ずつあるようだ。一階部分は料理店となっていて、二階と三階に計六部屋という造りになっているぽい。
俺が停まる部屋は三階の真ん中の部屋だ。出来れば一番奥が良かったけど贅沢は言えないな。
一階の受付で女将さんに部屋の鍵をわたし、夕方ごろ戻ることを告げ、昨日宿泊していた宿へと向かった。
宿の機能の部屋に戻るとラスが居たので、宿が決まったことを告げる。
ラスはこのままここの宿を使うようで、この部屋をそのまま借りるそうだ。
暫くすると、マールとメルも戻ってきた。
二人も別に行動してから冒険者組合に行ったり店を見て回ったり宿を探したりしたそうだ。
マールはこのままラスとこの宿で止まるらしい。聞く事は無かったがもしかするとこの部屋は二人部屋だからマールと一緒にって事なのかもしれない。
メルは冒険者組合で俺のように宿を聞き、そこで進められた宿に決めたそうだ。
女の子一人の宿泊になるので、王都でも安全性が高い宿を進められたようだ。その分ちょっと値段が高かったようで涙目であったが安全には変えられないという事だろう。
馬車に積んでいた荷物を受け取り、再びみんなと別れ、屋台などを覗き見しつつフレウの尻尾停へと戻る。
受付で鍵を受け取り部屋へと戻り重い荷物を部屋の隅へと置いた。
流石にいろいろあった生活かれもたまっていたのでだらしなくベッドに転がる。
これから始まる王都での生活に期待を膨らませつつ少しの仮眠をとった。
少し長くなってしまいましたが、少年編はこれで完結です。
文字数的に二話に分けた方がいい気もしましたが……(誤字とか修正の時文字が多いと大変そうです)
学園編に入る前にサイドストーリー的な物を入れるか分かりませんが次回から一応王都の学園編という事になります。
予定としては13日の月曜日から学園編をスタートさせたいと思っています。
学園編はなるべく時間を固定して更新できたらと思っていますが汝にするかはまだ決めていません。
今まで通り06:00更新にするのが濃厚な気がしますが、12:00になるかも知れません。
学園編は月、水、金で更新していく予定です。
ご意見、ご感想お待ちしております。




