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少年期 第十三話
王都への旅立ちを三日後に控え俺は入念な確認を行っていた。
そんな時、初日以外姿を見せる事のなかったレネが急に姿を現したのだ。
急にである、時折声だけかけてくることもありそれには一応慣れてきたと言ってもいいだろう。だが姿を急に現すのは反則だと思う。俺が驚いて声を上げてしまったのは仕方のない事だろう。
俺の驚いた声を聞きつけたアンが部屋の扉をノックする。
「エレク様、どうかいたしましたか?」
最近二人で行動しているときなど少し砕けた感じで接してくれるようになってきたアンではあるが、仕事モードの時はやはり少し硬い感じだ。
って、そんな事を考えている状況じゃない。何か言い訳をと俺は扉越しにアンへと返事をした。
「いや、何でもない、虫がいたから驚いただけだよ」
「虫、ですか? 何事もないようでしたら良かったです。何かありましたらお声をおかけください」
どうにかごまかすことが出来たようだ。
「ねえ、虫って僕のこと―?」
「レネ以外に何がいるっていうんだよ」
一応、扉の外にはアンが控えているので小声でレネに対して言葉を返す。
「ひどいなぁ、折角この愛らしい姿を見せに出てきてあげたのに、エレクレールってこういうのが好きなんでしょ?」
何を勘違いしているのか、この虫は変なことを言いだす。まあ嫌いではないけど……
「べ、別に好きとかじゃないからっ」
何処のツンデレキャラだよって感じの返答をしてしまったような気がしないでもないが事実を伝える必要がこいつにはある。なので俺はきっぱりと言い切った。言い切ったはずだ。
「だって僕が姿を決めるために深層意識を覗いた時、結構な比重でこの姿があったんだけど? だから僕はそれを模倣したんだよ」
「比重が重いからと言って好きとは関係ないんだよ。それに俺の知っているキャラならもっとレネより大きいはずだけど?」
「それはほら、まだ僕の条件が整ってないからしょうがないよ。でもいつかはエレクレールの思い描いている姿になれると思うよ」
屈託のない笑顔でそう言い切るレネである。
「それより、俺の事はエレクで良いよ。エレクレールじゃ長いだろ?」
「うーん、別に気にならないけど…… そうだ雄介ってのはどう?」
「却下だ。てかそんな事も分かるのかよ……」
「うん、本当雄介を見ているのは飽きないよ」
「まあなんだ、その名前は昔の名前だからあまり思い出させないでくれ…… 今はエレクレール、エレクとしてこの世界で生きているのが俺なんだし、確かにこのエレクになる前は田浦雄介だったかもしれないけど、今はエレクなんだ。」
「……うん、わかった。いじわるするつもりは無いからね。でもこれだけは言わせて、エレクはエレクであって田浦雄介でもあるんだよ。あのことがあったから今のエレクがあるのかもしれないけど、そうでなかったとしても本当の君自身というものは変わらないと思うよ。だからエレクとして、田浦雄介として、どちらも否定せずにいて欲しいな」
この不思議精霊がいうように、俺は田浦雄介という記憶をもってエレクレールとして生まれ変わった。昔からの性格もおそらく変わってはいないと思う。なので否定をするつもりは無いけど…… まあでもレネは俺の深層意識を見たことがあるのだ。一応忠告として受け取っておこう。
でも何でレネは九に姿を現したんだろうか?
「なあ、レネは何で急に姿を現したんだ?」
「え? さっきも言ったじゃん。エレクにこの愛らしい姿を見せるために出てきたって」
「は? 本当にそれだけのために?」
「うん、それが八割だね」
「他にも理由があるんじゃないか!! それで後の二割は?」
「それは、うーん、まあ言っても問題ないかな? ちょっと今日一日エレクから離れようと思って」
「ほほう、というかずっと離れてくれてもいいんだけど?」
「またまたー、僕がいないと寂しくなっちゃうでしょ?」
「いや、全然ならん! で、なんか用事でもあるのか?」
「用事って程のものじゃないけど、この地をしばらく離れる事になるからね。一応自分より格の高い精霊に挨拶に行ってこようかなって思ったんだ」
「それって重要な事じゃないのか?」
「いや? 全然。それに現状だともしかしたら僕の方が格は上になってるかもしれないしね」
またもやレネは訳の分からない事を言い出した。格ってなんなんだろう? まあレネは微精霊ってやつよりは格が上なのかもしれないけど…… 俺にはさっぱり解らない世界だな。まあこの世界の事自体未だによくわからんが。
「そうそう、それで言っておくことがあるんだけど、僕がいない間はエレク少し弱くなると思うから無茶とかしないでね」
俺が少し思案していたら急に告げられた。いきなり告げるにしては大問題な発言である。
レネがいないと俺が弱くなるってのはどういう事だ!?
「どういうこと?」
「ほら僕は精霊だよ? それもエレク専属の!! エレクが今まで無詠唱で魔術を使って行けたのは僕のサポートがあったからなんだよ? だからそれがなくなったらエレクは無詠唱で魔術が使えないって事さ」
「へ? そうなの?」
「うん、試してみる? 今から僕はエレクのサポートをしないから無詠唱で魔術を使ってみなよ」
俺はレネの申し出の通り魔術を発動させようと意識する。
まあ今は部屋の中だし危険が無いように軽く風を起こす程度の魔術にしておこう。
……
…………
うん、何も起こらかった。どうやらレネの言ってる事は本当の様だ。
試しに詠唱をしてみる。
「プファーディ・プファーディ・ドゥスセーペプファーディ・モーパ」
何度かの詠唱を繰り返した後、俺の臨んだ結果が現れる。
そよ風が副程度の初級魔術だ。
確かに無詠唱では魔術を使えなかったが詠唱をしてならば使うことが出来る。
それほど大したことには感じないというのが事実ではあるが魔術言語を完全には理解していない俺からすると多少は問題にはなるってかんじかな?
まあ、レネが言っていた事は検証することが出来た。
一応事前に知らせてくれて置いただけ助かった感じだろうか?
「たしかに無詠唱でまじゅつつかえないな。だけど王都へ旅立つまでは依頼もする気もないし特に問題ないと思うぞ」
「うん、それなら良いんだ。それじゃちょっと行ってくるよ」
そういうとレネは俺の返事を待たずに行ってしまった。
窓とか閉まっていたんだけどどうやって出たんだろうか? 謎である。しかしレネの事は深く考えたらいけない気がしたので俺は荷物の確認をするのだった。
レネは陽が落ちる前には帰ってきた。
本当に特に何もない一日だったのでレネが居ても居なくても変わらない感じであった。
昼間に一応検証したし、害がある訳ではないのでレネは今しばらくこのままにさせて置いてあげようというのが結局俺の出した答えだ。
そして日が過ぎ、王都へと出立の日となった。
今俺が向かっているのはラスの家である。まあラスの言えというよりはリンディール商会へとだが。
今日の出立の為リンディール商会は馬車ならぬ鳥車を用意してくれた。
立派な物ではないが、俺達の年齢で用意できるようなものではない物だ。それに俺とマール、それと何故来ることになったメルで乗り合わせる事になる。
御者は一応ラスが務めることになるがこれは交代したりしながら行く予定だ。
メルとラス達とは事前に顔合わせさせてあるので問題はないだろう。
いや問題はあるか……
俺とメルが知り合いという事で俺が紹介することになったのだが、その時のメルが大げさに事を話したため俺はラスとマールに暫くからかわれることになった。
今も時折からかわれたりする。
それで突いた俺のあだ名は王子様だ…… この世界でもピンチのヒロインを救うのは王子と相場が決まっているらしい。
まあメルは俺のヒロインではないと思う。好意のようなものを向けられ少しうれしくは思うがなんか少し違う気がしている。純粋な好意というのとは少し違うそんな感じだ。
かれこれ俺はもう昔と今を合わせると五十年近く生きてるという事になる。
「うわー、考えなければよかった……」
ついつい独り言が漏れてしまった。
当たりを見回すも俺の声が届く距離に人はいなかった。
ほっと息を吐きながらリンディール商会へと向かった。
リンディール商会へと着いた俺は、入り口付近を掃除していた店員に軽く挨拶をし、裏口へと回った。裏口と言っても表通りから外れているだけだ。
裏口へと着くとそこにはすでに三人そろって鳥車に荷物を積み込んでいた。
俺は手を上げ声を掛けようとしたところ、マールが気付き先に声を上げた。
「エレク君おはようー、後はエレク君の荷物だけだよー」
マールの声に俺は今日までに何とか開発を間に合わせたキャスターを付けたケースを引きずり近づいた。
俺の荷物にいち早く気が付いたのはやはりラスであった。さすがに商人の家の子供というだけはある。
詰め寄って質問してくるラスに少しうんざりしながら軽く説明をして俺も荷物を積み込んだ。
キャスターについては旅すがら詳しく話すという事で納得したらしい。
そして準備が出来た俺達は、見送ってくれるラスの家族に手を振り旅立った。
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