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少年期 第六話
さて、樹液の採取だがどうしたらいいのだろうか?
サトウカエデのように樹木に傷をつけて採取すればいいのだろうか?
俺が悩んでいるとリチャードさんがそれに気づいたのか説明してくれた。
「これが目的のテーノグースの木なんだけど、この木はちょっと特殊なんだ。 依頼にあったように粘着性の高い樹液が特徴かな。 今まで樹液の採取なんて依頼は無かったからどうしようかかなり迷ったんだけどね」
「迷ったって何をです?」
「うん、だってこんなのこれと言って必要になるのは盾の持ち手がとれてしまった時とかの応急処置位しか用途が無いじゃないか? その場しのぎでとりあえずこれの樹液で固定したりすることはあるけど、それも完全ではないだろう? 自分の身を守るための物だから街に戻ったらちゃんと修理に出すしね」
「あっ、なるほど…… 余り需要がないって事なんですね」
「エレク君は難しい言葉を知っているんだね。 そう、これの樹液なんて欲しがる人はあまり聞かないからね。 というより依頼を見たのは初めてかな」
「そうなんですか、俺からすると色々便利に使えそうなものなのですけどね」
「そうかい? まあそしてこのテーノグースなんだけど木に少し傷をつければ樹液を取ることが出来はするんだけど、それじゃ時間がかかるんだよね。 応急処置的な感じの時はそこまで量は必要ないんだけど採取となると話は別だろう?」
「はい、出来れば結構な量が欲しいと依頼主のラスカレイスも言ってました」
「うんうん、そうだろうね」
「だとしたらどうするんですか?」
「うん、俺が考えているのは枝をそのまま持って帰ればいいんじゃないかと考えてるんだ。 因みにこの樹液はすぐ乾いて固まっちゃう性質があるから樹液だけを持って帰るのは難しいと思う」
「なるほど、すぐ乾いてしまうんですね」
速乾性が高いってことか、確かにそれだと密閉できる容器に入れる前に固まってしまう可能性もあるのかもしれないな。
だとしたら枝を切って持っていくというのは理にかなっているのかもしれない。
「それで、枝なんだけどこの木は見た目からして解ると思うけど、枝もかなり太い。だから樹液も枝の方でどうにかできるかも知れないと思うんだよね」
「確かにそうですね」
「まあちょっと切って調べてみてからって感じだけど」
そう言ってリチャードさんはテーノグースの木の低い位置から伸びている細い枝を断ち切った。
低い位置といっても三メートルくらいの高さである。
リチャードさんはフッっと小さく息を吐いたと思ったら少し助走をつけて飛びあがった。
そして次の瞬間腰から剣を抜き放ち一刀のもと枝を切り落としたのだ。
その枝は太さは五センチほどで、長さは六十センチといったところ。
恐らく若枝なのだろう、このテーノグースの木からしたらまだ細いというかまともというか……
てかこんな太さの枝を一刀で斬り落とせるなんてやはりこの世界の人間の身体能力はおかしいと思う。
いや地球の人も出来たのかもしれないけど、俺はそんなことやったことなかったから何とも言えない。
枝を切り落としたリチャードさんは剣を見てちょっと困った表情を浮かべていた。
「あの、どうかしましたか?」
「いや、問題なく枝を落とすことが出来たんだけど、枝を切った時にね…… この木の樹液が俺の剣に付着しちゃったみたいで、ほら」
そう言い俺に剣を見せてくれる。
確かにリチャードさんの剣には何やら付着していた。
それは半透明のジェル状のものがこびりついたという感じ。
一見すると拭き取ればいいだけ無きがしないでもないそれだが、リチャードさんがその付着した樹液を指ではじいた。
指ではじかれた樹液は硬質な音を立てた。
って乾くの早すぎだろっ!?
瞬間接着剤かよって位の勢いの速乾性だった。
「凄い速さで固まっちゃうんですね……」
「ああ、多分剣速も関係しちゃってるのかもしれないね。 木に傷をつけて樹液を流す場合はもう少しゆっくりと乾くよ」
ああ、なるほど風をあてると乾くのが早くなるみたいな感じか。
それにしてもこれは凄いとしか言えないな……
「そのこびりついた樹液はおとすことできるんですか?」
「んー? 削ったりすれば平気じゃないか?」
「なるほど、そのままじゃ鞘に収まらない気がしたので心配しましたけど平気そうならよかったです」
「あっ、確かに……」
俺の指摘で気づいたのか剣を眺めて鞘にとりあえず納めようとしてみるリチャードさん。
「あっ、途中で止まっちゃうな」
やはりというか、樹液が付着してしまったところ以上剣が収まる事は無かった。
枝にも樹液は結構あることが分かったので採取自体はこれでおそらく大丈夫だろう。
俺はそれが解ったのでなるべく細めのリチャードさんが断ち切った程度の枝を探して風の魔術で枝をスパッと何本か切り落とした。
どれも大きさは似たような感じでそれが計五本ほどになったところで採取を終えた。
初め俺が魔術を使った事にリチャードさんは驚いていたが、六歳の頃から習いだしたのを説明したら「流石は貴族の家だなー」と変な関心をしつつ納得してくれた。
勿論ちゃんと詠唱して魔術を使ったのでそれ以上には驚かれていない。
採取も終え、リチャードさんは何とか剣に付着した樹液を削り落とすことに成功した。
俺達は目的を達せ舌という事で森から出るために来た道を着た時よりも慎重に歩いている。
荷物が増えたこともあるが、目的を達成した後は気がゆるんだりして要らないミスをしたりする事もあるそうだ。
荷物はリチャードさんが全て持ってくれている。
計五本のえだを縄でひとまとめにして初めから持っていた革袋に入れている。
枝の方が長いので革袋からはみ出しているが特に問題はなさそうな感じだ。
太さも長さもそこそこあるので重量は結構ありそうだけどそれを苦にしている様子もないのでおそらく大丈夫なのであろう。
今の俺だったら、いやこの身体になる前の俺でも早々に音を上げている気がする。
慎重に森を抜けるために進んでいると、リチャードさんが立ち止まり俺に泊まれと言いたげに右手を後ろに突き出し警戒を強めた。
チラリと俺を見やり止まってる事を確認したリチャードさんは荷物を地面におろし腰につるされた剣の柄に手を掛けた。
「エレク君、どうやらこのまま何事もなくとはいかなくなったようだ。 敵はワグラン、おそらく六匹かな」
「六匹って、大丈夫ですか?」
「ああ、ワグランが相手なら問題ないよ」
「俺が手伝えることありますか?」
「いや、大丈夫、あまり離れないように気を付けてくれればそれでいい」
「了解です」
俺はリチャードさんに言われた通り、邪魔にならないが離れすぎていない位置に移動する。
アンも剣を抜いている。
俺も念のため腰につるした短剣の柄を握る。
ガサガサと草木をかき分ける音が近づいてくる。
やがてその音が大きくなり揺れるのが目で捉えられた。
俺達が今いる場所は息も通ってきたことにより多少動きがとれるがそれでも広いとは言えない場所だ。
草木を分け顔をのぞかせたのは、痩せこけた犬のような顔を持ちながら二息歩行であるく魔物だった。
初めて見る魔物、はっきり言って超怖い。
というか人型って…‥
武器をもったり、鎧を装着したりはしていない、ある意味素っ裸の魔物。
まあ毛むくじゃらなので素っ裸とか関係ないのかもしれない
その魔物ワグランは一匹目が現れたと思ったらぞろぞろと現れる。
リチャードさんの言ったように六匹だった。
どうしてあんなに離れていたのに分かったのか不思議に思ったが今はそれどころではない。
俺は意識を切り替えて警戒態勢に入る。
短剣はいつでも抜ける状態、いざとなったら魔術も使える。
たとえ無詠唱を晒すことになっても自分、アンやリチャードさんが危険にさらされるようならすぐにでも魔術を発動できるように魔術のイメージを固める。
そんな状況の中先に動きを見せたのはワグランだった。
牙をむき出しに遠吠えをあげるワグラン。
その次の瞬間六匹が一斉にリチャードさんに向けて走り寄る。
しかしリチャードさんは焦っていなかった。
向かってくるワグランに対し剣を横に一閃。
ルークとの訓練により俺も多少は戦えるのだろう。
リチャードさんの動き自体は目で追うことが出来た。
恐らく模擬戦だったらかわすことはできると思う。
だが今の俺だったら多分今の一閃で斬られていたと思う。
ワグランも同じだった。
前を進んでいたワグラン達三匹がまとめてリチャードさんの一閃のもと地に伏した。
仲間を斬られてワグランは止まるかと思ったがお構いなしにリチャードさんに詰め寄る。
残りは三匹。
武器を持っている分リチャードさんの方がリーチは長い。
それにも構わず詰め寄るワグラン。
頭はあまりよくないようだな。
リチャードさん爪を振り下ろすワグラン。
それを無駄な動きを見せず、身体を少しずらしかわすと同時に横に剣を振り抜く。
そして続くワグランに振り抜いた剣を戻すことで切り裂く。
残りは一匹。
最後の一匹もそのままリチャードさんに向かうも袈裟斬りによって地に伏した。
時間にして一分もたっていないだろう。
大した危険もなく魔物との初めての邂逅は終わった。
しかし、この世界に着て戦えるようにはなったとはいえ、今すぐこれだけのことが出来るかと聞かれれば出来ないと答えるだろう。
これだけできるリチャードさんですら四級、この上の階級は一体どんな人たちなのか……
そういえばフィア先生は三級の冒険者だったはずだ。
フィア先生は魔術士なのでまた勝手は違うのだろうがこの位の事は出来るのかもしれないな。
なんせ魔術の詠唱を止めることもままならなかったくらいだし……
戦闘が終わりワグランの討伐証拠となる部位である左耳を落とし終えたリチャードさんは考え事をしていて固まっていた俺に声を掛ける。
「エレク君大丈夫かい?」
「あっ、はい、何も問題はありません」
「そうか、それならよかった」
「はい、ご心配おかけしました。 魔物を見るのが初めてだったので緊張していたみたいです」
「なるほど、確かにその年齢で初めて魔物を見るのならその反応も納得だよ。 普通なら魔物と対峙するようになるのは十二歳で冒険者と認められてからが多いからね。 時折こんな感じで同行中に魔物と遭遇しちゃうこともあるけど滅多にある事ではないしね。 まあでもリーダーのいないワグランで良かったよ」
「ん? リーダーって?」
「うん、ワグランは今回の様に群れて行動していることが多いんだけど、リーダー個体が率いている群れになると討伐難度があがってしまうんだ。 今回のワグランはただ襲ってきただけだったのは気付いていたかい?」
「あっ、はい、一斉に向かって来ていましたね」
「うんうん、よく見てたね。 まあ一斉に襲ってくるのはリーダー個体が率いる群れでも同じではあるんだけど、その場合はただ襲ってくるだけでなくリーダーにより統率された動きで襲ってくるんだ。 いわゆる連携というものだね。 そうなると俺一人では勝てなかったかもしれないね」
「えっ? そうなんですか? リチャードさんにはかなり余裕があったように見えましたけど」
「余裕なんてないさ、こっちだって命懸けだからね。 まあただ向かってくるだけだったから何とかなっただけだよ」
「なる程…… 俺でも何れは戦えるようになるんでしょうか?」
「ああ、うん、さっきのワグラン程度なら四級にでもなればどうにかなると思うよ。 ただリーダー個体が率いている群れの時は無理しちゃだめだね。 ワグランのリーダーは狡猾だからね……」
「狡猾?」
リチャードさんは移動の支度をしながら俺の質問に答えてくれた。
曰くワグランのリーダーはかなり知能を持っているようで、ただ群れているだけのワグランに作戦というものを与えるみたいだ。
しかもその作戦とは仲間の命を顧みない鬼畜な作戦が多いらしい。
リチャードさんが戦った事のある群れの話ではあったが胸糞悪いものだった。
リーダーである自分は動かず仲間を嗾ける。
それだけならまだいいのだが、仲間を捨て駒にする事を厭わず、仲間ごとまとめて冒険者に攻撃したりすることもあるらしい。
それにより仲間が死んだとしても気にしないし、時には自爆攻撃をさせたりもするらしい。
聞いただけでも厄介だと思う。
ちなみに通常のワグランは魔術を使う事は無いがワグランのリーダーになると魔術を使ってきたりするみたいだ。
その魔術により自爆させるという事らしい。
厳密には魔術と少し違うと思うと言っていたがはっきり言って俺にはよくわからない事だ。
出来れば今後ワグランのリーダーとは出会いたくないものだ。
ワグランの群れと出会った後はこれと言って何かが起こる事は無かった。
森を無事に抜け、平原でも問題は怒らなかった。
平原では野兎のような生き物をリチャードさんがさくっと狩っていた。
今日の夕飯にするらしい。
野兎のような生き物だけど一応それも魔物らしい。
危険度は低く、食料として駆られることの多い魔物だそうだ。
ちなみに魔物と動物の違いについても教えてもらえた。
動物と違い魔物は魔力を持っていて、さらに魔核というものが取れるようだ。
今日出会ったワグランや野兎みたいな魔物等だと魔核が小さすぎて取り出す手間の方が大きく利益にならないから取らないみたいだけど。
魔核は魔道具等に使われるもので便利なものという感じみたいだな。
俺の知識の中で言うならば使い捨ての乾電池みたいな印象だろうか?
このようにリチャードさんには色々な話をしてもらいながらフィファイスへと戻った。
街へ着いた頃には陽が傾き辺りをオレンジ色に染め上げていた。
行きと同様に門衛さんに同行許可証を提示して戻った事の確認をしサインをもらう。
その足で冒険者協会に行き受付の人に同行許可証を渡し、リチャードさんが本日あったことなどを説明する。
それらのやり取りを終えてやっと解散となった。
「リチャードさん、今日はどうもありがとうございました。 とても勉強になりました」
「俺なんかが役に立ったようでよかったよ。 このまま冒険者を目指すかはわからないけど、続ける様だったらまたどこかで出会うかもしれないね。 その時はまた声でもかけてくれよ」
「はい、解りました」
「成人してるならこの後一杯誘うところなんだけどね、はははっ」
「それじゃ成人した後にまたって事で」
「ああ、それじゃ頑張れよ!!」
「はい、では」
リチャードさんとはこうして笑顔で別れた。
この後はアンと共に屋敷に戻るだけだ。
屋敷に戻る道中、今日あったことについて話し合った。
アンもどうやら今日遭遇したワグラン程度ならどうにでもなるようだ。
そう考えると俺はまだまだって事だな。
ていうかまだ九歳なんだ出来なくて当たり前か。
この世界の常識がおかしすぎてよくわからなくなるな。
今回のラスの依頼は、ワグランとの邂逅があったくらいで後は特筆するような事は無かった。
今度ラスと会う時には今日の話でも聞かせてやるとしよう。
あっ、マールがいる時じゃないとへそを曲げそうだからマールがいる時だな。
屋敷につくころには完全に陽が落ちていた。
気付くと3000PV達成していました!!
拙作に目を通してくれありがとうございます。
ブックマークをしてくれている方も徐々にですが増えてきて嬉しい限りです。
次回の更新は出来れば10月3日、火曜日の朝に間に合うようにしたいと思いますが仕事の方が立て込んでいる為解らないのが現状です。
なるべくなら週に五話くらいは更新したいのですけどね……
あと話数が間違っていたのでこっそり修正です。
ご感想、ご意見お待ちしております。




