宣告
「これより、お前たちはこの国の勇者として——」
王の言葉が、広間に響く。
そのまま話が進みそうになった、その時だった。
「……ちょっと待ってください」
声を上げたのは、山本だった。
一瞬、空気が止まる。
兵士たちの視線が、一斉にこちらへ向く。
でも山本は、気にせず続けた。
「さっきの話……まだ分かないことだらけなんですけど」
「……ほう。なんでも聞くがよい。答えられる範囲で答えよう」
「じゃあ——」
山本が一瞬言葉を選んでから、はっきりと口にする。
「僕ら、元の世界に帰れるんですか?」
その一言で、空気が変わった。
ざわつきが広がる。
「それや!それ一番大事やろ!」
「帰られへんとか、ないよな……?」
「いや、あるわけないやろ……?」
口々に声が上がる。
全員が、同じことを思っていた。
王は、少しの間だけ沈黙した。
そして——
「現時点では、不可能だ」
あまりにもあっさりと、そう言った。
「……は?」
「いや、ちょっと待ってくださいよ!」
「どういうことなん!?」
一気に騒ぎが大きくなる。
「無理って何!?勝手に呼んどいてそれはないやろ!」
「帰せや!」
木村が声を荒げる。
他のやつらも、抑えきれずに言葉をぶつけていく。
当然だ。納得できるわけがない。
「だまれ」
低い声だった。
でも、その一言で空気が凍りついた。
さっきまで騒いでいたのが嘘みたいに、誰も声を出せなくなる。
王は、ゆっくりとこちらを見下ろした。
「我々も、好きでこのようなことをしているわけではない。だが、この世界は危機に瀕している。そのために、お前たちの力が必要なのだ」
淡々とした口調。
でもその奥に、はっきりとした圧があった。
「元の世界へ戻る術は、現時点では存在しない、だが——」
一瞬、言葉を区切る。
「魔王を倒せば、可能性はある」
「……それって」
小林が呟く。
「つまり、戦えってことやろ」
誰も否定しなかった。
「ふざけんなよ……」
木村が、低く言う。
「なんで俺らが、そんなことせなあかんねん」
その言葉に、王はほんのわずかに目を細めた。
「無論、強制はせぬ」
一瞬だけ、空気が緩む。
だが——
「だが、この世界で生きる以上、無関係ではいられぬ」
静かに、続ける。
「魔物は人を襲う。守られぬ者は、ただ死ぬのみだ」
その言葉は、あまりにも冷たかった。
「衣も、食も、住まいもすべてを保障するのは、この国だ」
「その意味が分かるな?」
誰も、何も言えなかった。
それは、選択肢があるようで、最初から、なかった。
重い沈黙が落ちる。
その中で、王が再び口を開く。
「……他に聞きたいことはあるか?」
その問いに、すぐに答えられる者はいなかった。
ただ一つ。
さっきの言葉が、頭から離れない。
“これで奴らにも——”
あれは、一体なんだったのか。
「……いえ」
結局、誰も何も言えなかった。
「そうか」
王は小さく頷く。
「ならば、今日は休むがよい」
手を軽く振ると、兵士たちが動き出す。
「部屋へ案内しろ」
俺たちは、そのまま広間を出ることになった。誰も、言葉を発さない。
ただ——
さっきまでの現実が、重くのしかかっていた。
帰れない。
戦うしかない。
そして——
何かを、隠されている。
それだけが、はっきりしていた。




