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闇にのぼる  作者: ブレイン


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5/5

これから

案内されたのは、それぞれ別の部屋だった。重厚な扉を開けた瞬間——思わず足が止まる。


「……広」


 思わず声が漏れた。部屋の中は、一人で使うには明らかに広すぎた。


 大きなベッドに、ふかふかそうなソファ。

 木製の机と椅子、見たこともない装飾の棚。

 床には分厚い絨毯が敷かれていて、足音がほとんど響かない。


 窓の外には、見知らぬ街並みが広がっていた。


 ——明らかに、日本じゃない。


「……なんやねん、これ」


 さっきまでの出来事が、じわじわと現実味を帯びてくる。


 帰れない。戦うしかない。

 そんな言葉が、頭の中をぐるぐる回る。


 ——コンコン。ノックの音がした。


「黒川、俺やけど」


 山本の声だった。

 扉を開けると、山本と田中が立っていた。


「みんな、俺の部屋集まってる」


「……そっか」


 ここに一人でいるのも、正直きつかった。


「今行くわ」


 廊下を歩く。赤い絨毯が長く伸びていて、いかにも城って感じがした。

 山本の部屋に入ると、すでに全員が集まっていた。


「お、来た来た」


 小林が手を振る。


「やっぱ落ち着かんよな、一人やと」


「……まあな」


 部屋の広さは、どこも同じくらいらしい。九人いてもまだ余裕がある。

 でも、落ち着くかと言われたら、全然そんなことはなかった。


「……異世界か」


 ぽつりと、小林が呟く。

 その一言で、空気が一気に重くなる。


「いや、意味わからんやろほんまに」


 木村が苛立ったように言う。


「ほんで、帰られへんとかどうなってんねん」


不安からみんな苛立ってる

 そんな空気だった。


「現実的に考えたら」


 佐藤が静かに口を開く。


「今すぐ帰る方法がない、っていうのは……あり得る話だ」


「はあ?」


「俺たちがいた世界と、ここは明らかに違う」


「その間を行き来する技術が簡単にあるとは思えへん」


「……だからって納得できるか?」


 木村が睨むように言う。


「できるわけないやろ」


 短く答える。

 それで、会話は一度途切れた。


「……なあ」


 田中が低い声で言う。


「結局、どうすんねん」


 それが、本題だった。


「戦うしかないって話やろ、あれ」


「まあ……そうやな」


 小林が苦笑する。


「断ったらなんかやばそうやしなぁ」


「笑い事ちゃうぞ」


 佐藤が淡々と返す。


「でも、事実やろ」


 重い現実が、そのまま言葉になった。


 しばらくの沈黙のあと——


「俺は、やる」


 山本が、はっきりと言った。


 全員の視線が集まる。


「……本気か?」


 木村が聞く。


「本気や」


 迷いはなかった。


「そりゃ戦いたないけど、……やるしかないやろ」


「……お前らしいな」


 小林が少し笑う。


「でもまあ、そうなるよな」


「俺も、やるわ」


 田中が続く。


「どうせ逃げ場ないしな」


「……私も」


 中村が小さく頷く。

 少しずつ、流れができていく。


「……それしかないか」


 話は、そのまま流れていく。

 どう動くか。

 どう戦うか。

 そんな話に変わっていった。


 その中で、俺は一人。さっきの王の言葉を思い返していた。


 “これで奴らにも——”


 あれは、一体何だったのか。

 ……気のせいかもしれない。でも。どうしても、引っかかった。

 ——あの言い方は、“魔物”に対してのものとしては違和感があった。


 考えても答えは出ない。

 それでも、頭から離れなかった。


 ◇


「……で、どうする?」


 小林が空気を変えるように言う。


「このまま各部屋戻る?」


「……いや」


 山本が少し考えてから口を開く。


「今日は……一緒におった方がええやろ」


「一緒に?」


「特に女子」


 その言葉に、中村と加藤が少し驚いた顔をする。


「何もないとは思うけど」


 山本が続ける。


「ここ、どこかも分からん場所やしな」


「……たしかに」


 田中が頷く。


「何かあってからじゃ遅いしな」


「いやもう十分なんかあってるけどな」


 小林がぼそっと言う。


 少しだけ、空気が緩む。


「じゃあ……ここで寝る?」


 中村が控えめに聞く。


「広さ的には余裕あるし」


 ベッドも広く、床に寝るとしても問題はなさそうだ。


「俺はええで」


 木村が言う。


「一人は正直きつい」


「同じく」


 小林もすぐに乗る。


「決まりやな」


 山本がまとめるように言った。結局、そのまま全員でこの部屋に泊まることになった。電気は消されて、部屋は暗くなる。

 普段なら、こういうときは騒いでるはずなのに。今日は、誰もそんな気分じゃなかった。


「……なあ」


 誰かが小さく呟く。でも、その先は続かなかった。沈黙が、部屋を満たす。


 慣れない天井。

 知らない場所。

 そして——帰れない現実。


 目を閉じても、すぐには眠れなかった。

 それでも、いつの間にか意識は落ちていった。


 ◇


 翌朝。


「起きろ、勇者たちよ」


 低い声で目が覚めた。

 部屋の扉が開いていて、数人の兵士が立っていた。


「これより、訓練を開始する」


 あまりにもあっさりとした言葉だった。


「……は?」


 小林が寝ぼけた声を出す。


「もうかよ……」


「準備を整えろ。案内する」


 こちらの都合なんて関係ない。そんな言い方だった。昨日のことが、夢じゃなかったと突きつけられる。


「……行くしかないな」


 山本が静かに言う。誰も反論しなかった。


 こうして——


 俺たちの“勇者としての生活”が、始まった。

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