そして、クリスマスの後
麻さんはあのクリスマスの後、すぐに家に戻った。
もう後数日で年が終わる頃、香菜さんが、麻さんの家に来て、雄叫びを上げた。
「折角両想になったのに、遠距離恋愛かぃ!」
麻さんがケロッとして言う。
「賃貸契約に2年縛りがあって。2年借りるしか無い部屋だったらしく。こっちに戻っても、東京の部屋代を払うようなんだって。洋さんは、2年したら帰って来るって言っているよ」
香菜さんが心配そうに言う。
「でも、それだとあんまり会えないでしょう?」
「そうね。でも洋さんも、ちょくちょくこっちに来てくれるらしいし。私も行くしさ。それに、お互いに一人暮らし初めたばかりだから、しばらく一人もやってみたいじゃん。洋さんは、東京で仕事終わりに、スクールに通い始めたみたいだしさ。こっちにないじゃん、そういうの」
香菜さんは納得する。
「ないな。たしかに無い。そりゃそうかぁ。たしかにね」
そう言いながら、香菜さんが部屋を見渡して言う。
「そう言えば、猫さんがいないけど」
「ああ。猫さん逃げてさ」
「逃げたの?聞いてないよ」
「言い忘れてたわ。逃げてから2週間くらいして。お兄ちゃんのアパートに戻って来たらしい。そのままアパートにいるよ」
香菜さんは気になって聞く。
「で、あの出来損ないの兄は、嫁とはどうしたんだい?」
麻さんが説明する。
「結局、南央美さんとは、別れたよ。子供の遺伝子検査するって言ったら。そんな薄情な男は要らないって言われたらしい」
香菜さんは同情して言う。
「それはそれでショックだな。兄さんは、今どうしているの?」
「アパートに猫さんと住んでいるけど。そろそろ実家に戻るって。契約は切ったから、年内までしかいられないみたい。お店はやっぱり、実家改装して開きたいんだって」
興味深々に香菜さんが聞く。
「ねぇ。本当はどうだったんだろうね?」
「何が?」
「何がって、そりゃ、子供よ。誰の子だったんだろうね?」
「わかんないけど。結局南央美さんは、浮気相手と今住んでいるらしいよ。だからその男の子供だったんじゃない?」
「浮気相手の子だったのかな?」
「でも結局、真相はわかんないよね。その辺、ムズいよね」
香菜さんはお兄ちゃん問題に興味津々の様子だった。香菜さんは少し早口になる。
「でも自分の子じゃなかったなら、お兄さん危なかったね?」
麻さんが笑う。
「まぁ、そうね。でもまぁ仕方ないね。お兄ちゃんだから」
「仕方ないかぁ」
「うん、仕方ない」
麻さんが兄を弁護した。
「でもお兄ちゃんが、今回ママに言ってくれてさ。一人暮らし続ける事られる事になったし。元カレにもお兄ちゃんが諭してくれたし。そこらへんは、感謝してる」
納得したように香菜さんが言う。
「あの兄も、悪いところばかりじゃないって事だよね。今度、その仕方ない兄と、飲みたいなぁ」
麻さんがたずねた。
「なんで?」
「え?ちょっと頼みがあるんだよ」
麻さんが含み笑いをする。
「ふーん。まぁ、香菜さんは美容師免許持っているしねぇ」
「なに?言い方がやらしいよ」
「あれは出来損ないだぞ、良いのか?手間かかるぞ。香菜さんのクズ男センサー働いたか?クズ男好きだからさ」
香菜さんがムキになって言う。
「そんなんじゃないの!そういう事じゃなくてぇ……」
顔をしかめて麻さんが言う。
「それなら安心だけど。だってうちのママがこれまたさぁ。兄には、もれなくママがついてくるよ」
同じく、顔をしかめて香菜さんも言う。
「ママかぁ」
「ママよ」
「あのママは、手強いな」
そして、二人は笑いあった。
香菜さんが、笑うのをやめて言う。
「本当にそう言うことじゃないんだってばぁ。頼みがあるんだよ」
それで後日、飲み会がセッティングされる事になった。




