お兄ちゃんとの飲み会を開催しました
居酒屋で、香菜さんと麻さんの兄、そして麻さんが待ち合わせていた。
居酒屋に入ると、店員が香菜さんに聞いてきた。
「いらっしゃいませ。お1人ですか?」
香菜さんが答えた。
「あ、いえ、待ち合わせで。ガタイの良い男性なんですけど……。吉田ぁ……」
「あ、はい。予約された吉田様ですね。こちらです」
案内されて、4人しか座れない、仕切られた個室空間に通される。既に兄は飲んでいた。席に座りながら香菜さんが言う。
「もう飲んでたんですか?」
「ああ、喉が渇いたから」
「何か食べ物をオーダーしました?」
「あ、ポテトと焼き鳥だけオーダーしておいたよ」
香菜さんが店のオーダー用タブレットを覗き込んだ。
兄が聞いた。
「何飲むの?」
「私はね。烏龍茶です」
「飲まないの?」
「仕事で毎日飲んでいるから。肝臓がヤバいから」
「あーそうだよね。俺はぁ、もういっぱい。その焼酎をカートに入れてくれる?」
香菜さんが驚いて言う。
すでに空のビールジョッキが2つ並んでいたからだ。
「え?ペースが早くないですか?」
「いいだろう?俺やっと南央美の束縛から逃れたんだ。小遣いもろくになかったんだ」
「南央美さんがいなくなって、お金がまた使えるよになったわけなんですね?」
「ああ。店をオープンさせるのに、節約していたからな」
香菜さんが不思議に思い聞いた。
「それで、その貯めたお金はどうなったの」
「せんぶ、あげた」
「あげた?」
「上げたって、幾ら?」
「うーん、二人で1000万貯めたんだけど。全部あげたんだ」
「なんで?全部あげたの?」
せつなそうな顔で兄が言う。
「可愛そうだろう?」
「何が可哀想なの?」
「南央美と子供がさ。これから大変だろう?生活がさ」
「でも、南央美さんは、新しい男と住んでいるんでしょう?」
「でも、可愛そうだからさ。俺はこれからまた自分で働けば良い」
香菜さんが聞く。
「南央美さんが、好きなんですね」
「好きは、好きだよ」
「じゃ何で別れたんですか?」
「好きだけど、もう女として見られなくて。俺は南央美とは家族になれても、それだけだから。それが南央美は不満でさ。だから南央美は浮気したんだと思う」
香菜さんには理解出来ない。
「どう言う事か分からないわ」
「夫婦って難しいんだよ。まぁまだ婚姻届出してなかったから、夫婦じゃなかったけどさ」
香菜が言う。
「そう言う深い関係になった事ないから、分からないです」
兄が話を変えた。
「それで、なんか頼み事があって、香菜さんは俺と飲みたかったんだろう?何頼み事って何?」
「私、彼がいるんです」
めちゃ興味なさそうに兄が言う。
「あー、そうなんだぁ」
「でもそいつとは別れたいんです。でも私のマンションにい座って出て行ってくれなくて。私が逆に自分のマンションに住めないでいるんです」
「え? そんな事あるの?」
「あるんですよ。驚いちゃいますよね?それでその彼をなんとかしたいんです。協力してもらえないかと思って」
「う――ん。俺みたいな部外者が、香菜さんの問題に立ち入っていいの?」
「お願いします。他に頼る人がいないんです。警察も当てにならないし。だからと言って、私用にお店の男の子を使うわけにもいかなくて。お礼はします」
「そうかぁ。そんなに困っているの?」
「困ってます。もう数ヶ月自分のマンションに帰ってないんです。私のマンションがどんな状態になっているか心配です」
「具体的に、俺は何をしたら良いの?」
「彼氏をマンションから追い出して、二度と私の前に現れないようにして欲しいんです」
兄は無言になった。
しばらく喋ろうとしない兄に、香菜さんが聞いた。
「やっぱり、駄目ですか?」
「駄目じゃないけどさぁ。やっぱり、いいのかなと思って。香菜さんの男関係に、無関係な俺が関わってさ。その彼氏さんは、俺が出てきて、納得するのかなって」
「でも、もう、どうしようもないじゃないですか?」
「なんで、そんな面倒な男と付き合ったの?」
「私、駄目な女なんです」
「自分が駄目な女だから、駄目な男と付き合ったわけ?」
香菜さんが自分の心境を説明した。
「多分、楽なんです。だめな男といると、気楽なんですよ。お金あげてたら、機嫌よくそばに居るし。なんか人間のペットみたいで」
訝しげに兄が言う。
「……人間のペット?」
「そうです。おかしいですよね。私も自分で正気じゃないって思います」
「まぁ、俺に、香菜さんをとやかく言う立場もないし……。でももう変な男と付き合うなよ」
「……出来るかどうか……」
「変な男と付き合わないなら、今回だけ手を貸してやる」
「本当ですか? だったらなんとかそう言う方向で頑張ってみます」
「うーん、返事の内容が弱いな。でも、このままってわけにも行かないからな。明日、一緒に香菜さんのマンションに行こう。俺色々準備しておくよ」
「準備って?」
「まぁ、色々だ。今日はもう良いじゃないか。俺は飲みたいんだ。飲ませてくれ」
香菜さんがハイと言って、オーダー用のタブレットを兄に渡した。
兄が追加の酒をカートに入れた。
そこに遅れて麻さんが現れた。兄が文句を言う。
「遅いぞ」
麻さんは何か不満顔だった。
兄が聞く。
「何かあった」
「洋さんがさぁ。連絡取れなくて……。さっきやっと繋がったら、日曜日にこっち来られなくなったって言うんだ」
香菜さんが驚いて言う。
「え?また?」
兄が言う。
「そう言う事もあるだろう?」
香菜さんが言う。
「それが最近、ドタキャンが多いんですよ」
麻さんが言う。
「うーん。きっと仕事が忙しいんだと思う」
麻さんもオーダー用のブレットを見始めた。




