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リモート  作者: 飛鳥 友
第4章 今回は孤独な殺し屋……はたして彼は死地を乗り越えることが出来るのか?
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理由

18.理由

「そうか……傷が癒えたら俺は組織をつぶしに出て行くつもりだが、弥恵はこのままここに留まってもいいんだぞ。俺なんかと一緒に居たら、まともな人生は送れないからな。」

 逸樹が横になっていたベッドで上半身を起こし、ぽつりと漏らす。


「えっ………………いやだよう……逸樹と離れるのは……絶対!あたいはどこへだって付いて行くからね!逸樹が嫌だって言っても、全然かまわない!絶対付いて行く!」

 先ほど迄の満面の笑みは一瞬で消え去り、弥恵は半泣き状態で逸樹に縋りついてきた。


(弥恵を泣かせるなよ……これまでずっと逸樹と一緒にいて、会話の話題もお前との間の事しかなかったのが、新しい仲間が出来て、そちらに気が行っていることに嫉妬でもしているのか?


 だがなあ……傷ついたお前を療養させようと、弥恵が代わりに稼ごうと頑張っているんだろ?金だって尽きようとしていたところだったんだろ?部屋で一日寝ているだけの生活がつまらんのは分かるが……だからと言って頑張っている弥恵に当たることはないじゃないか……)


(そんなんじゃあない……弥恵が幸せに暮らせるなら、このままここに残ったほうがいいと言っただけだ。)


(だから……それがいけないと言っているんだ。弥恵はお前が好きなんだろ?態度どころか言葉に出しても言っているじゃないか……対するお前だって弥恵の事……なのにどうしてだ?歳の差?そんな言い訳じみた理由からじゃないだろ?どうして弥恵をそんなに遠ざけたがる?本当は理由があるんだろ?)


(俺は弥恵の親の仇だ……)

(はあ?仇?どういうことだ?)


(弥恵の父親は畿南国首都を根城にした、人買い組織の親分だった。俺のいた組織が勢力範囲を連邦中へ展開していく中で、勿論敵対組織として対立してきた。向こうは大戦前からの老舗組織で基盤も盤石であったから、親父殿が数回単騎で襲撃して力を弱めようとしたが、都度復活再生して大きな障害となった。


 そこで俺が組織にもぐりこんで、親分の暗殺を命じられた。うちの組織との抗争中は公の場には一切出ずに身を隠していたから、親父殿が何度乗り込んでも始末できず、暗殺に方針を切り替えたんだな。


 うまい事もぐりこんで親分の娘である弥恵……当時9歳の護衛につくことが出来た。弥恵の母親は弥恵が7歳の時に死別していて、一人娘の弥恵は乳母がついて育てられていた。弥恵の父親である親分は、抗争の火種が弥恵にまで及ぶことを危惧して、弥恵と会うことは滅多になかったが、それでも俺は待ち続けた。


 そうして弥恵が10歳の誕生日に、親分が会いに来る事になった。勿論護衛の子分を大勢引き連れてやって来たのだが、弥恵と会う瞬間だけは護衛を外すはずだ……その時をじっと待った。


 そうして親分が蝋燭を10本立てた大きなケーキを持って、そっと弥恵がいる部屋のドアを開けた瞬間……弥恵の横に立っていた俺は神脚を使って親分の喉を掻き斬ったあと、弥恵の横へと戻って来た。勿論弥恵には親分が倒れる場面は見えないよう、廊下の壁側に倒れるよう気を付けたがな。


 周りにいた女中たちの悲鳴が上がると、俺は弥恵を守るふりをして弥恵の目と耳をふさぎ、混乱する廊下を通って表へ出て、乳母に弥恵を預けてから逃走した。


 カリスマ的指導力を誇った親分を失った人買い組織はすぐに壊滅し、代わりに俺がいた組織がその縄張りをそっくりいただき、連邦中を席巻する巨大組織へと発展していった。)


(そ……そんなことを……じゃあ弥恵は、お前が父親を殺したことは知らないのか?それどころか、父親の代から弥恵を護衛する味方だと思っているのか?)


(まあ、そうだろうな……弥恵と再会したのは、俺が蝦夷国へ戻ってから数週間経ってからのことだ。人買い組織の子供の輸送も畿南国まで伸びて、一大キャラバンとなりつつあった。当時は連邦の締め付けもさほど厳しくはなく、荷馬車隊が連邦の端から端まで運航していたんだが、最近は各支部単位で輸送しているがね。


 当時から運航スケジュール表は俺の所にも来ていたが、運航日だけを注目していればよかったのだが、その回だけは要注意と表紙に大きく書かれ、輸送される子供の名前欄に赤丸を施してあった。


 壊滅させた元対立組織の親分の娘であり、しかも美少女と言うことでプレミア付きの高値で販売されるよう、しかも元の組織の残党が取り返しに来かねないということで、厳重警戒の意味で通達されたようだ。


 いくら任務とはいえ、さすがに自分が護衛していた少女が人買いに売られて何処かのひひ爺の元へいくのは忍びなかったので、親父殿に彼女を逃がしてやってくれと頼みに行った。


 だが親父殿は折角の儲け口をふいにするつもりはないと、きっぱり断ってきた。仕方がないので俺がそれまでに殺しの仕事でためた蓄えを全て出して弥恵を買うといったら、しぶしぶ承知してくれた。


 勿論買い手が組織の者であることが公になったら、内部で売り買いを重ねて値を釣り上げるつもりだと誤解されかねないから、元の組織の残党に見せかけて輸送時に俺が襲い掛かって、弥恵を逃がすという算段となった。


 弥恵の乗る荷馬車だけを襲撃して、護衛を気絶させ弥恵を逃がしてやったわけだが……ところが弥恵は一歩もその場を離れようとはしなかった。仕方がないので素知らぬ顔で元護衛の俺が出て行って、乳母のところまで連れて行ってやると言ってやったが、すぐに乳母が買収されて人買いへ売られてしまったんだと分かった。


 施設へ送るしかないと思っていたんだが、弥恵がどうしても俺から離れようとしないし、無理にはがそうとすると錯乱して泣きわめきだすものだから、仕方なく蝦夷国まで連れ帰ってきて、気持ちが落ち着くまでは俺が育てることにした。それが1年2年と時が経ち……今では嫁に出すまで……と言うことになったわけだ。


 もちろん冒険者にするつもりはなく、寮がある高校と大学まで行かせて自立させるつもりだったんだが、俺に拾われた当初から陰で一人で特訓して、勝手に俺を推薦人にして組合に冒険者申請して、中学卒業したら冒険者になってしまった。当時の俺は連邦中を駆け回って、新興組織との抗争に日々費やされていたからな。


 弥恵は途中から俺が殺し屋だということに気づいていたらしく、当然ながら冒険者になるわけではなくスナイパーとして俺とコンビを組むと言い出した。俺が断っても勝手に俺の出張先までくっついてきて現場に立ち入るものだから、弥恵を守るために仕方なくコンビを組んで常に見える位置に置いておくことにした。


 俺が弥恵とコンビを組んだことは、組織には報告しなかった……どの道殺し屋個人の相棒や得意技などは、人に教えることはしない……連絡先だけは教えたが……仲間だったやつがいつ他の組織に鞍替えして敵となるかわからないからな。)


(ああ……だから親父殿は殺される前に弥恵を見て……あの時の子だな……と言ったんだな?)


(弥恵は俺のことを自分を救いに来てくれた、白馬に乗った王子様だと勘違いして……それで俺に好意を抱いているだけだ……俺に弥恵の気持ちに答える資格なんかない。)


(ううむ……お前が頑として弥恵と距離を取りたがる理由が、ようやく分かったよ。弥恵には本当のことを言うわけにはいかないからな……だが、どうするんだ?弥恵はお前と離れるつもりはなさそうだぞ。)


(このままサーティンヒルズで療養して……ここの生活が弥恵に向いていると分かったなら、弥恵とはお別れだ。)


(無理だな……お前が消えたら弥恵はお前を探してどこまでも行くぞ。かえって危険じゃないのか?)


(大丈夫だ……別れ際に本当のことを明かすつもりだ。そうして弥恵が親の敵として俺を殺そうとするなら、殺されるつもりだ。それが本望なんだが……いくら親の仇でも弥恵を人殺しにするのは忍びないから……出来ればうまい事言いつくろって別れて……組織壊滅時に玉砕する方がいいと思っている。


 恐らく半年先は最終決戦となるだろう……殺し屋組織と人買い組織は壊滅状態で……それでも人買い組織の元締めは残っているし、麻薬密売組織だけでも十分巨大だ。しかも秘技を使える殺し屋が一人残っているしな。それら全てを相手にするのは、俺一人の手には余る……玉砕覚悟で突っ込んでいくしかない。)


(弥恵に真実を打ち明けてから、お前へ死地に出向くというのか?はあー……参ったな……俺迄巻き添えにするつもりか?)


(お前は勝手に俺の中に入ってきて、心の声なんてやっているだけだろう!俺が頼んだわけじゃあない!)


(そうは言っても俺のおかげで回復魔法は使えるようになったし、それで命が助かっただろ?重症の弥恵だって救うことが出来たし、攻撃魔法だって随分と役に立ったぞ!飛翔する秘技を使える殺し屋相手に、全く手が出なかったときだって、俺が教えた中級魔法の呪文で対抗できたじゃないか。


 勝手に……は随分だな……少しは感謝しろよ……。)


(感謝はしているさ、最初は弥恵に殺されるなら本望だって勘違いしていたのを諭してもらったし、何より弥恵を助けられたのはよかった。有難いと思っているさ。)


(お前は……何でもかんでも弥恵弥恵……だよな……それだけ愛しているんだから……親の仇であることは隠して、知らん顔して弥恵とうまくやって行けばいいんじゃないのか?弥恵だって、多分そのほうが幸せだぞ。


 命の恩人であり最愛の人であるお前が、実は親の仇だったなんて知ったなら……相当ショックを受けるぞ。

 告白なんてしないほうがいい……。)


(しかし、そうしない限り、弥恵は俺についてきてしまう。真実を話さずに弥恵とともに生きるなんてこと、俺には絶対できない。恨まれたってかまわない、俺は傷が癒えたら弥恵に本当のことを告げる。


 ちょっと前までは弥恵に、俺以外に親しい知人や頼る相手などいなかったが、今なら大丈夫だ。ここでなら弥恵は幸せに暮らしていける。)


(そうは言ってもだな……俺がここへ来るよう勧めたのは、お前も殺し屋稼業から足を洗って弥恵と一緒になってくれるのがいいと考えたからこそ……ここだったら目立たずに怪我の療養もできるし、組織の報復を恐れずに済むんじゃあないかと考えてだな……)


(組織を甘く見ないほうがいい。確かに今は混乱しているから追手をかけている余裕はないかもしれないが、そんな状態も永くは続かないだろう。すぐに体勢を立て直したのち、組織にたてつくものは必ず探し出し報復する。地の果てまでも追い続けて根絶やししようとするはずだ。


 俺はこれまで、その役割を担ってきたのだからよく分かる。弥恵にこの先平穏な人生を送らせるためにも、組織は完全に潰しておく必要性がある。若しくは最大の裏切り者と見られている、俺が殺されるかだな……)


(はいはい……分かりました。弥恵の幸せがお前の一番の願いなのはようく理解した。だが……俺の占い結果を話しただろ?おおよそ半年先には、麻薬密売組織の黒幕がお縄にかかるって……だったら、お前たちはこのままここに隠れていさえすれば……)


(そうはいかないだろ……俺が行動しなければ、黒幕迄捜査が行きつかない場合だってあり得る訳だろ?確実に黒幕を葬るためにも、正体を暴く為の行動を起こす必要性がある。親父殿仕込みの秘技を使える殺し屋の残った一人を始末する必要性もあるしな。


 その結果……俺が生き残った場合は、殺し屋稼業は引退するさ。どこか地の果てでひっそりと一人で暮らす。)


(はあー……そうなるのか……何が何でも弥恵と別れて行動するつもりだな?)

(弥恵はここで冒険者として生きていくのが一番幸せなんだ……)


(俺はお前が勝手に弥恵の幸せを、定義しないほうがいいと思っているけれどな……)

(うるさい、黙れ……)

 逸樹は縋り付く弥恵を無視して横になると、壁の方へ向き直ってそのまま目を閉じた。



「何だって?リハビリを開始するのを遅らせろとはどういうことだ?」


「いや……だから……さっきから説明しているだろ?俺が王都へ行けなければならない用事が出来た。この時期を外すことは出来ない重要な要件だ。俺がいない間にリハビリを開始して、君の傷口が開いてしまった場合、残していく巫女たちだけでは治療は困難だろう。


 悪いが俺が帰ってくるまで、リハビリは控えていてくれ。なにも1日中ベッドで寝ているよう言っているのではない、歩行訓練程度であれば問題ないが、君の性格を考えるとすぐにでも激しい運動をしかねないからね。万一を考えて、冒険者としての訓練は差し控えていてくれと言っているだけだ。


 なあに……畿東国王都へ出張で行ってくるだけで滞在期間はせいぜい2,3日だけだ。往復の日程を考慮して10日足らず……これまで3ヶ月半我慢していたんだ。もう10日くらいどうと言うことはないだろ?」


 治療の甲斐あって逸樹の傷が完治し、ようやくリハビリが開始できると思っていた矢先に、フォーティンが宿舎にやってきて、リハビリの延期を通達された。


「馬鹿な……当初の見立てでは2、3ヶ月間は療養が必要と言っていたのに、実質3ヶ月半もかかっているんだぞ。更に10日も待てるものか!」

 逸樹がベッドから飛びあがって、大声で叫ぶ。


「ほらほら……無理すると傷口が開くぞ。それは治療を開始して1週間ほどした時点で経過もよく、先の見通しが立ったと話しただけなのに無理して、手桶を担いで水汲みなんて激しい運動をしたからだ。


 君は少しでも早く体を元通りにしたいと、日常生活に支障はきたさなくなるだろうと言った俺の言葉を勝手に拡大解釈して、無理をしてしまった……おかげで治療のやり直しとなり、余計な時間がかかってしまった。


 無理していなければ2ヶ月程度の療養で、リハビリを始められていたのかもしれないのだ。それだったら、今回の俺の出張など関係なかっただろうにね……自分の行いが招いた結果だから、甘んじて受けるしかないだろ?」


 いきりたつ逸樹に対し、フォーティンはあくまでも冷静に答える。人見知りの激しいフォーティンだが、逸樹の治療を3ヶ月以上も続けていたためすでに顔なじみで、日常会話は全く問題がない。


「そうだよ逸樹……無理はよくないよ。先生の言うことをきちんと聞いて、療養しないと……」


 弥恵も一緒になって、逸樹をなだめる。組織から追われているのは弥恵も判ってはいるが、ここなら追手がかかりにくいことは弥恵も理解しているのか、今の平和な時を少しでも長くしておきたいと思っているのだろう。もしかすると逸樹の傷が癒えたら、また戦いの場に戻ることになることを危惧しているのかもしれない。


「王都への出張の目的は、なんだい?どうしても、今行く必要性がある用事なのかい?」

 仕方なく、逸樹は論点を変えようとする。


「ああ……うちの流派の寺院の大僧正様が即身仏となられたので、そのお祝いとお目通りに行く。即身仏として祭られることになると寺院地下に安置され、一部のお世話をするもの以外近づけなくなってしまうからな。

 この時期を逃すわけにはいかないんだ……悪いね。」


 時期を延ばすよう逸樹がお願いすることを察したフォーティンは、申し訳なさそうに小さく首を横に振る。


「だったら俺も一緒に……そうすれば万一傷口が開いたとしても、すぐに応急処置できるだろ?」


「えっ……いや……まあ、そうだが……まあ、確かに小旅行くらいだったら十分可能なくらいに回復はしているけれどもな……でも、寺院の式典なんて退屈だぞ。俺と別行動をとって、その間に運動をすることは許可できない。傷口が開いた場合に、すぐに対応できないからね。


 一緒に行ったとしても運動できるのは、宿にいる早朝と夕食後……いや……夕食後は知り合いの僧侶たちと飲みに行くから……早朝の時間だけだ。しかも俺が早起き出来たら……の条件付き。それでもいいのかい?」

 フォーティンは天井を見上げながら、考え考え答えた。


(やめておけ、畿東国の王都なんかに行ったら、組織の連中にばったり出くわさないとも限らない。フォーティンと一緒だと、変装もできないだろ?万一手配写真でも回っていたら、どうするんだ?いくらお前が凄腕でも病み上がりで、大勢に囲まれたら逃げ切れやしないぞ。


 さらにフォーティン迄一緒に巻き込むことになりかねない、やめておいた方が無難だ。)


「ああそうか……一緒に行っても訓練の時間が思ったほど稼げないのなら、やめておいた方が無難だな。」


「そうだよ……逸樹が寺院へ行って神妙にお祈りするなんて……ちょっと想像できないもの、無理だよ。」

 弥恵も一緒にやめたほうがいいと告げる。もしかするとこのままお別れになってしまうかもしれないと、警戒しているのかもしれない。


「分った……じゃあ後10日だけは我慢するよ。」

「ああ、そうしてくれ。」


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