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リモート  作者: 飛鳥 友
第4章 今回は孤独な殺し屋……はたして彼は死地を乗り越えることが出来るのか?
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サーティンヒルズ

17.サーティンヒルズ

「ほお……特定のパーティに属さずに、様々な地域を転々としてらっしゃる……いわゆる流れの冒険者ですかね?それでも逸樹さんはA+級の剣士で、弥恵さんはA級のスナイパーであると……すごいですね。


 通常なら流れ……と言いますか、暫定参加の冒険者はメインの仕事は割り当てられずに、いわゆるサポート専任となる為、クエスト清算時の評価点も低く抑えられ、レベルアップに時間がかかるのが常です。

 にも拘らずA級とは……驚きました。以前はどこかの大きなパーティに所属していたのですか?」


 口ひげを蓄えた、さわやかな風貌で巨漢の男性は、目を輝かせながら遠路はるばる訪ねてきてくれた男女を順に眺めた。


 畿東国王都から駅馬車を乗り継ぎ、3日かけて逸樹たちは畿西国の首都までやってきたのだ。心の声の指示通りに、冒険者組合に立ち寄り冒険者証の移動手続きを済ませると、さりげなく首都で一番大きな冒険者パーティはどこか聞いて、サーティンヒルズを紹介されたのだった。


「いえ……居住地も蝦夷国内を転々としておりまして……冒険者になった当初から、流れを続けております。ですので……クエスト経験もさほど多くは……実を申しますと、これまでに十数クエストしかこなしてはおりません。冒険者レベルに関しましては……冒険者組合での定期レベル査定によるものです。


 あまりにクエスト実績が少ないため、年度ごとに再認定しなければならないのです。その結果です……」

 逸樹が少し恥ずかしそうにしているように見えるよう頭を掻く。


(それだって力をセーブしての評価なんだろ?本当ならS級以上のはずだよな?)


「ほお……それはますます素晴らしい……冒険者組合のレベル査定評価は、クエスト清算時の功績評価に比べると、格段に厳しい評価値と聞きますからね。そうなると実質A+級+αの剣士と実質A級+αのスナイパーと言うことになりますね……これは大変だ……。


 うちでは流れの冒険者でも真摯にクエストをこなしていただけるのであれば、拒まむことはありません。今現在、凄腕の弓使いが仲間とはぐれて、うちに滞在することになったのですが、彼はチームに参加する意思はないようで自ら雑用を買って出ております。


 その才能が惜しいので、子供たちの指導だけでもお願いしようと画策していたところでして……A級のスナイパーが1時的にでも参加していただけることは非常にありがたい。勿論A+級の剣士は大きな戦力になりますし、チームをお任せすることもあるかもしれません。


 現在うちには124名の冒険者が参加して巨大ファームを形成していて、王宮付の冒険者パーティでもあります。どのようないきさつがあって、パーティを転々と渡り歩くことになったのか知りませんが、是非ともこのファームを永住の地として、選択いただければありがたい……。


 私はこのヒルズの代表の、サーティンと申します。」

 サーティンは満面の笑顔を見せ、立ち上がって右手を差し出した。


「私は逸樹……こっちは娘の弥恵と申します。よ……」


「いえいえ……夫婦!夫婦です!逸樹とあたいは夫婦……ですよ!」

 逸樹が自己紹介して手を差し出そうとするのを、弥恵が遮る。どうやら親子と言われたことを訂正したい様子だ。2人の間に割って入って来た。


「弥恵……なんということを……」


「いいじゃない……あたいは逸樹の娘じゃないんだからさ……親子なんて言ってごまかさなくたって……。」

 睨みつける逸樹を、弥恵は笑顔でとりなす。


「まあまあ……色々と事情がある男女は、ここサーティンヒルズにもたくさんいます……特に冒険者は居住地が一定していない場合も多いのでね……変な詮索はしませんから……。


 そうだ……宿舎は……家族向けの3間の平屋に空きがありますから、そこをお使いください。すぐに案内させます……おーい……。」


 歳の差カップルを親子と誤魔化そうとしていると感じたのか、サーティンは深く事情を問いただそうともせずに、宿舎を割り当てると申し出た。


「いや、あのその……夫婦ではありませんから……弥恵は実の子ではないにしても、本当の娘のようにして育ててきて……」

 それでも逸樹は何とか訂正しようと試みる。


(まあまあ……弥恵との関係なんてどうでもいいだろ?それよりもお願いすることがあるはずだろ?)

(あっ…………ああ……そうだったな……)


「それでその……来たばかりで申し訳ないのですが……実は以前参加していたチームで仲間たちと揉め事があり……深手を追ってしまったのです。とりあえず初級の治癒魔法を使って止血はしたのですが、傷口が深く肺まで達しているため治りが遅く、ちょっと激しく動くと傷口が開いてしまうありさまで……。


 ここで治療できれば有難いのですが……」

 逸樹が言いにくそうにしながらも、サーティンに背を向けてシャツの裾をあげて傷口をさらして見せた。


「はあー……背中から斜め上に……鋭利な刃物で刺されていますね。肺まで達しているとなると、かなりの重傷だ。しかも背中からとなると、強い殺意が感じられますね。


 本来なら警察へ届けるような事件となるところですが……流れ者だけで構成する冒険者パーティだと、ちょっとしたことで揉め事になるようですね。特に美しいご婦人を帯同しているとなると……色々あるでしょうな。分かりました……うちには上級神官もおりますから、内々で治療させましょう。


 下手に届け出て、その相手に居場所が知れ渡っても困るでしょうからね。」

 弥恵との関係を親子と自己紹介したことも含め、逸樹たちの事情をいい風に解釈したサーティンは笑顔を見せ、警察には届けずに治療すると言ってくれた。


「お呼びでしょうか?」


「ああ……彼らは今日からうちに滞在してれることになった。A+級の剣士とA級のスナイパーだ、大きな戦力となりそうだ。とりあえず、家族用の3DKの宿舎に空きがあったはずだから、そこへ案内してくれ。

 荷物を置いたら、けがの治療があるから教会へも案内して、都志郎を呼んで治療してもらってくれ。」


「はい、わかりました。」

 ちょうど事務員らしき若い青年が部屋に入って来たので、サーティンは2人の案内をするよう申し付けた。



「かなりひどいようですね……中途半端な治療をして……激しく動き回るものだから……下手したら死んでいたそうです……傷口をふさぐのは、どなたがやったんですかね?」


 まだきれいな平屋の宿舎を割り当てられ、とりあえず鞄だけ置いてそのまま教会へと連れてこられた。神官に背を向けて傷口を見せると、神官は手のひらを傷口から上方へ滑るように掲げ、厳しい表情に変わった。


 神官であるフォーティンが横の巫女に耳打ちをして、巫女が代わりに逸樹に問いかける。人見知りが激しいので、初見の逸樹たちに対し直接の会話はできないのだ。


「けがの治療は自分で……だが止血までしかできなかった。中級の治癒魔法までなら使えるのだが……。」


「そうだよ……あたいの大きな傷も逸樹はすぐに魔法で治してくれたんだ……でも自分で自分は治せないみたいで……あたいがちゃんと呪文を覚えられたらよかったんだけど……。」

 逸樹の答えに弥恵がかぶせる。


「自分で自分に治癒魔法はかけられないですからね……回復魔法もそうですが、治療系魔法は自分の体力と魔力を使って患者に体力を分け与えて治癒力を飛躍的に高めて治します。だから自分で自分にかけても魔力を消費するだけで、体力が増えて治癒力が上がるなんてことにはならないので、せいぜい初級魔法で傷口を塞ぐのが精いっぱいなのです。


 どおりで中途半端に……ですが装備から見て、剣士さまとお見受けいたしました。剣士なのに回復魔法まで使えるのでしょうか?しかも中級まで……凄いですね……」

 これには巫女もフォーティンも目をむいた。


「いやあ……聞きかじりの魔法呪文を死にそうだった時に唱えてみたら、なんとうまくいったというだけのことだ。僧侶や神官の修業をしたことなんかない……死に物狂いの力……と言ったところだろうな。」


「そうですか……ですがご立派です……ついでにお連れ様の傷まで治してさしあげたんですものね……おかげで相当無理をしたようですね……これは簡単には治らないそうです……。」


「へっ?」


「深手を負ってから恐らく10日は経過しているようで、その間ほぼ毎日体の中の傷を初級魔法で塞いでいたようですが、無理して動き回ったから接合した部分が大きく引きちぎれたりして、内部に血だまりが出来ているし、傷口も乱れてしまっているそうです。よくこんな状態で平気で動けていたと……大した精神力ですね。


 もう初級魔法で暫定治療はできない状態のようです。本格的な治療に切り替える判断は正解と言えますが、中級魔法を使ってでも、簡単につなぎ合わせられるような状態ではなくなっているようです……。


 ですが安心してください、他流派のものではありますが、フォーティンさんは秘伝の呪文を使えます……最上級魔法を使って、ちゃんと治せるそうです……。


 そうですね……今日から毎日治療するとして、2週間もあればきれいに縫合できるということです。でもすぐに激しく動けばまた傷口が開いてしまうでしょうから、2、3ヶ月間はおとなしく養生して……それからだそうです……リハビリを始められるのは……それくらいの重傷ということです……よろしいですか?」


 巫女は、じっと逸樹の目を見ながらフォーティンの代わりに説明した。


(はあー……3ヶ月も動けないということか?)


(仕方がないだろ?簡単に止血するだけで無理をし過ぎたのが悪かったんだ……だが……ここに居れば目立たないから、組織にも気づかれないんじゃないか?)


(それはそうだろうけど……)


「じゃあ逸樹のけがが治るまで、あたいが冒険者やって稼ぐからね。おとなしくしてるんだよ。」

 弥恵が胸をドンと叩いた。


 蝦夷国で殺し屋組織の元締めである親父殿を倒した後、隠れ家へ戻っている暇がなかったので、所持金は残り僅か。畿東国への船便に大金を使ったのが響いて来たのだが、サーティンヒルズに厄介になっている限り宿代はただであり、しかも冒険者としてクエストに参加すれば、その分稼がせてくれるのだ。



「じゃあ行ってくるね。」

「ああ……くれぐれも気をつけてな!」


「逸樹だって……絶対無理しちゃだめだよ……昨日も水汲みなんてやろうとして……傷口が開いて途中で蹲ってたんだって?家事はあたいが全部するから、逸樹はおとなしく教会で治療した後はベッドで寝てなくちゃだめだよ。」


 サーティンヒルズに来てから1週間が経過し、逸樹の傷の状態も良好で痛みがなく普通に歩くことが出来るようになった途端、天秤棒で水桶を担いで持って来ようとしたらバランスを崩して転び、折角ふさがりかけた傷口が開いて動けなくなってしまった。


 弥恵一人を働かせられないと、家事くらいやろうとしたのが裏目に出たのだ。勿論フォーティンに大目玉を食らって、部屋でおとなしく療養できないなら教会に入院させると言われてしまった。


 弥恵はスナイパーとして、サーティンがリーダーをしているチームに所属して、クエストをこなすことになった。と言ってもクエストは月に2回だけで、クエスト以外の日は近くの森へ行ってそれぞれ個別の訓練と、連係プレーの確認を、平日は毎日休まず行っているようだ。


「畿西国だったら普通の家庭にもテレビがあるかなあって期待していたけど、サーティンさんの方針で電化製品なんて言う文明の利器は置かないんだって……ショックー。」


 畿西国は畿東国同様テレビ局が2つあるので毎日アニメ三昧と喜んでいた弥恵だったが、サーティンヒルズにはテレビどころか洗濯機すら置いていなかった。便利な生活に慣れるとダンジョンで仲間にはぐれた時に、一人だけで生き延びられなくなると、サーティンの方針で置かないようにしているらしい。


 だから水道も引かずに未だに井戸から桶を担いで、家まで持ち運ばなければならない。食肉の保存のために、電気は引いて冷蔵庫と冷凍庫だけ食堂に置いてあった。



「今回はねえ……水牛系魔物の大群のリーダー格を、50m以上離れた場所から正確に眉間をついて倒したし、ボス魔物も急所を突いて倒すのに貢献したよー……分け前を多めにくれた……。」


 逸樹の寝たきりの生活が1ヶ月ほど経過し、クエストから帰った弥恵が上機嫌で逸樹に報告し、弥恵は冒険者の袋の中から大量の魔物肉を取り出した。


「明日からはねえ……ヒルズ中の弓使いやスナイパーたちと一緒に訓練して、訓練のやり方や射的のコツなんかを教えてほしいって言われた。」


 弥恵含めたクエスト参加者たちに本日の報酬と魔物肉の分配をしている最中に、逸樹のところへサーティンがやってきて依頼され、逸樹は快諾していたのだ。


 弥恵の正確な射撃はサーティンヒルズの中でも群を抜いており、エースとして他チームの弓使いとスナイパーたちとともに訓練して、指導も兼ねる事となったようだ。


「そうか……ダンジョンクエストは楽しいか?」


「そりゃあもちろん……だって相手が魔物だと、仕留めるのも気が楽だからね……。やっぱり人間相手の殺し屋とは、大違いだよ……。それに……沢山の男の人や女の人と、話す機会が増えた……。


 これまでは逸樹以外の人と話すのは、潜入調査の時に標的の関係者たちとだけだったからね。身分を偽って、相手を騙して情報を引き出す目的だったから……でも今は普通に何でも話せる……あっ、でも……もちろんあたい達がプロの殺し屋だってことは話していないよ……だいじょぶだいじょぶ……へへへ。


 でも普通に好きな食べ物とか、着物やかんざしの流行なんか話すことが出来て、ほんと楽しい。まあ、あたいと同じくらいの歳の人はいなくて、女の人でも30過ぎか、中学生以下の子供ばかりだけどね……でもでも全然……楽しいよ……友達、出来るといいな……。


 あっそうだ……あたい達よりも1週間くらい前にやってきた冒険者なんだけど、これが若いのに凄腕の弓使いなんだって。目にも止まらないくらいの速さで連射して、しかも狙いが正確で全て急所に当たるって……。


 信じられる?そんなすごい人いるならあたいの指導なんていらないんじゃない?って言ったら、その人すごい人嫌いでどこのチームにも所属しないで、ご飯炊きと食器の後片付けに共有施設の清掃とお風呂当番とか、雑用だけをしていたって聞いた。


 サーティンさんがねえ……ようやく説得して子供たちへの指導をしてもらう事になったらしいんだけど、聞くとねえ……かわいそうなのよ……ダンジョン内で仲間たちとはぐれて傷ついて死にかけていたところを、偶然居合わせたサーティンさんたちパーティに救われたんだって。それ以来人嫌いだって……。


 歳はあたいより2つ上の22歳だけど……あたいにどうだって勧めてくるおばさんがいたけど、もちろんあたいは断ったよ。あたいには逸樹っていう旦那さんがいるからってね……みんな信じてないんだなぁ……。」


 弥恵が満面の笑みを浮かべながら近況報告する。弥恵がこんなに饒舌に色々と話すのは、逸樹には初めての事であり、それだけ今の生活が弥恵にとって幸せなんだということがひしひしと伝わって来た。


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