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リモート  作者: 飛鳥 友
第4章 今回は孤独な殺し屋……はたして彼は死地を乗り越えることが出来るのか?
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戦闘

15.戦闘

(き……来た……。)


(ああ……ようやくだな……イルカショーの開演20分前だ。ぎりぎり席が取れるくらいの時間だろうな。)


(観光案内にイルカショーの時間が書いてあったから、それに合わせてきたようだな……貸し切りの馬車だと時間読みが出来るからな……だが、今まで何をしていたんだ?移動時間を考慮しても2時間はあったはず。

 俺なら2時間あれば十分……)


(はあー……お前は……そう言うのをゲスの勘繰りと言うんだぞ!

 弥恵の頭を見てみろ……いつもなら後ろで束ねているだけなんだが、今日は日本髪を結って行ったからな。


 かんざしを付けているだろ?朝は何もつけていかなかった……先端が鋭利なものは警戒されると考えたからな。時間があるときは買い物に誘うのが手口だから……色味から言うと、恐らくサンゴかな……かなり高価なもののはずだ。馴染みの子のヘルプで着いただけの弥恵だが、大臣の奴め気があるのかもしれんな。


 最悪今日は無理でも、また誘われる可能性があるというのは安心材料だ。)


(はあー……お前って本当に弥恵のこと信じているんだな……俺は別に、いやらしいことを想像していた訳じゃない。お前を不安にさせて、本当の気持ちに気づかせたいと思っているだけだ。殺し屋なんて商売も辞めさせたいと思っているしな……どこか遠くの田舎にでも身を隠せば……何とかならんのか?)


(組織はそんなに甘いものじゃない。特に俺がいた組織はな……連邦の大臣までもが黒幕となっていることを考えてみろ!畿東国中心とはいえ、蝦夷国、畿西国、畿南国全て……連邦中に組織の目が光っているんだ。

 逃れる術はない。潰さなければ安心して生きてなんか行けやしないさ。)


(はあー……まいったねえ……)


(俺はいいさ……土市や新八相手でも、何とか戦えるからな。だが弥恵は……嫁に出すには、組織から完全に抜けさせる必要性がある。そういった意味では……今回のようなことがなくても、いずれは組織とやり合うしかなかったのかもしれないな。)


(そんなことないだろ?殺し屋たちにだって家族はいるはずだ。まさか家族全員が殺し屋……なんてことはないはずだろ?)


(殺し屋は……やはりその手を血で汚しているからな……家族なんて持たない。親父殿だって、結婚していた訳じゃあない。道三は……仕事上の旅先で知り合った行きずり女との間にできた子だ。弱みになる為、引き取って育てただけだな……案の定その女は、対立組織に攫われて殺された。


 当然ながらその対立組織は跡形もなく消滅させたけれどな……残された道三は幸いにも男だったから、孤児だった俺と一緒に殺し屋としての英才教育を施した。)


(じゃあお前が弥恵をひろって育てていることは……殺し屋としては致命傷にもなりかねないということか?)


(そうとも言えるが、今では弥恵は俺の大切な家族だ。身を守れるよう闘う術も教えたし、殺しの相棒になりたいと言ってきたときも断らなかった。そのほうがより一緒に居られるから安全だからな。


 だが……弥恵はやはり女の子だからな……幸せにするために、いずれは嫁に出したいという気持ちがあるし、その為の蓄えもしている。)


(はあー……複雑な親心だねえ……だから普段は質素倹約な生活をしているわけだな?俺はお前が引退して弥恵と一緒になることが、何よりも彼女の幸せだと思っているがねえ……そう言った発想はない訳ね?)


(だから……いくら悪党とはいえ、何人もの人を手にかけている俺にはそんな資格はない……)


(別に殺し屋のままで、弥恵と一緒になれと言っているつもりはないよ。どうせ組織を裏切ったことになっちまって、身を守るために潰すしかないわけだろ?引退するつもりなんだろ?堅気に戻ってから弥恵と第2の人生を送ればいい。)


(そんな簡単には割り切れんさ……俺の両手は血で染まっているからな……)


(お前の気が変わ……)

(しっ……弥恵たちが席を探し始めたぞ……やはり遅い時間だから席は最上段しか残っていない。しかも2席となりで空いている場所はわずかだ……恐らく出入り口から一番遠い場所の席へ座るはずだ。)


(えっ?どうしてだ?出入り口に近い席の方が、ショーが終わって出る時も便利だろ?万一襲われたときにも、すぐに逃げ出すことが出来るしな……)


(それは襲い掛かる方にも好都合だからだ……出入り口に近い場所のほうが事を終えた後に、すぐに逃げ去ることが出来るからな……人を殺すんだ……しかもこんな衆人監視のもとで……大騒ぎになるだろ?


 大抵の殺し屋は、まず事を終えた後の逃げ道の確保を最優先にする。仇討ちで本懐を遂げるわけではないのだからな……自分が無事に逃げられない場所では仕事をしない。)


(はあー……そうですか……勉強になります。)


 逸樹の予想通り、弥恵たちは出入り口から一番遠い場所の席へ隣り合わせで腰かけた。逸樹はそこから10席ほど開けた席に陣取る。しかし周囲を見回しても、護衛と思しき者は一人も見つからなかった。


(これで……どうするつもりだ?土市か新八という組織の殺し屋がついていなければ、大臣が人買い組織の黒幕であるという確証は得られないんだろ?だがなあ……俺の占いは超高確で当たるからな……)


(少し待っていろ……弥恵が事を起こすはずだ……ショーが終わる頃合いを見越してな……退場していく人々に紛れて、騒ぎを起こすはずだ。その時に、人の流れに逆らって動くやつを見極めればいい。)

(なるほど……)



 水面から数mほどの高さに吊られた大玉へ向かうイルカのジャンプに火の輪くぐり、アシカショーなどが行われ、ショーもほぼ終盤。象アザラシによるコミカルなショーに差し掛かったころには、最前部に陣取っていた客がそろそろ動き始めていた。


 すり鉢状のステージへの出入り口は、最上部まで登らなければいけないので、混雑を避けるために先に出て行こうとしているのだ。恐らく昼イチのショーを見た客が早めに来ていて最前列を占めていたのだろう。目当てはメインのイルカショーなので、かぶりつきで見て十分堪能したはずだ。


「きゃあーっ!大丈夫?ねっ、どうしたの?」


 すり鉢の下から上へと流れる人の流れがある程度出来上がってきたところで、最上段の最奥の方から悲鳴が上がる。真っ赤な着物姿の女が、隣の男の体をゆすりながら叫んでいるのだ。


(弥恵だ……恐らく眠り薬で大臣を眠らせたのだろう。)

(おお……すぐに大臣のもとに駆け寄って行くやつが護衛だな?そいつらが土市か新八であれば当りだ。)


(いや……俺もそう考えていた……だがそうではなかったようだな……)

(どういうことだ?エース級の殺し屋が、人買いの黒幕についているはずではなかったのか?ここには奴らはいないというのか?)


(いや、居た……恐らく土市か新八だ……)

(居たんだろ?どいつだ?今どこにいる?)


(一瞬で消えた……)

(はあ?)


(弥恵が叫んだ途端に大臣を挟んで俺たちと反対側の、10席ほど向こうに陣取っていた男が突然消えた……)

(神脚か?どこへ飛んだ?)


(いや、神脚ではない。神脚なら出現した場所が見えるはずだ。視界内しか飛べないからな。)

(じゃあ一体どこに……)


(分らない……今探している。)

(どうするんだ?)


(どうするも何も……何も起こらなければ、弥恵がもう一度何かするはずだ……だが……奴がどこかで身構えているとしたなら……今度は弥恵が危険だ。)


「いやっ!な……なに?」

 弥恵が巾着袋の中から銀色に光るものを取り出した瞬間、何かが飛んできてそれを弾き飛ばした。


(ちいっ……上か……)

(上?上って……ここは屋外ステージだから、天井はないぞ。)


(ああ……恐らく奴は上空高くに浮いているはずだ……神脚を横方向ではなく縦方向に使っているのだろうな……しかも長い時間上空に滞在できるようだ……)


(なるほど……高く飛んで……高空に行って上昇気流を捕まえられたなら……パラセイルとか……いわゆる大凧だな……そこまで大きくなくてもムササビみたいに服の袖とズボンの側面迄つなげてヒレみたいになっている、飛行道具を見たことがある。そんな装備を着けているのかな……。


 いや……だが……高いところから飛び降りて滞空時間を長くするならともかく、地上からそんな高く飛びあがれないだろ?羽があるわけでもあるまいし……。)


(分らん……どうやって高くまで飛びあがったのかわからんが……恐らくかなり上空に奴はいるはずだ。)


(見えないのか?場所さえわかればなんとかなるだろ?お前には無理でも弥恵の弓なら百発百中だろ?こんなすごい奥義を使うんだから、間違いなく護衛は土市か新八なんだろ?すぐに弥恵の元へ行って土市達を確認したことを伝え、弥恵に上空の護衛を始末させれば大臣をひねるのは簡単だな……)


(そう簡単にはいかない……)

(えっ?どうしてだ?)


(弓を高く打ち上げるのは難しい……真上に向けては弓を引くことすら難しい……本来横方向へ飛ばすものだからな。弓を引いている姿を想像してみろ、左手を伸ばして弓を構え、右手の肘を曲げて弦を引く。この時に体の幅も使えるが、上へ向けて引こうとすると肩の高さが同じだから距離が足りず弦を引く力が入らない。


 斜め上なら体を反らせば何とかなるが、真上となると難しい。無理に右手を伸ばして下に引いても狙いなんて定まるはずもないし、力が入らないから何十mも飛ばせない。引力に逆らって飛ばさねばならんのだからな……敵ははるか上空だ……攻撃するのは不可能だ。)


(じゃあどうするんだよ……弥恵が狙われたんだろ?)


(いや……さっきは弥恵がおとりの鏡を取り出しただけだ。金属鏡で縦長だから、ぱっと見は刃物に見間違える。狙いの正確性から、恐らく敵は望遠鏡を着けているはずだから既に気がついているだろう。弥恵を敵と認識したなら、とっくにやられているさ。


 大臣のお気に入りだからな……確証がない限りは手が出せないはずだ。)


(奴はどのあたりにいるんだ?)


(分らん……下手に上を向こうものなら、たちどころにこっちの存在に気づかれてしまうからな……さっき攻撃した軌跡から見て……奴は真上に飛んでいるはずだ。恐らく50〜百mは上空にいるのじゃあないかな……一度にそんなに飛べるはずはないから、風に乗って上昇して行ったのかもしれない。)


(ああ……今日は快晴でかなり暑いからな……地表温度が上がって上昇気流が生じていることだろう……それをうまくつかんで飛んでいるということか?そんなこと可能なのか?……それよりも……打つ手がないから黙って手をこまねいているしかないのか?)


(今のところは仕方がないが……このままお開きとなって帰るとなると厄介だな……大臣は1時間ほどは目を覚まさないだろう……そんなすぐに目覚めるような眠り薬は持っていないからな。大臣が動けなくなったなら土市達ではない本来の護衛がやってきて介抱するだろうが、恐らく弥恵は拘束されるだろう。


 取り調べで弥恵が正体をばらす恐れはまずないが、警察で何日も留められる可能性が高いから、弥恵は抵抗しようとするかもしれん。そうなると上空の奴の格好の標的となり、一瞬でやられてしまうだろう。)


(じゃあどうするんだよ……)


(どうするって言われても……俺の持つクナイじゃあ、それこそ上方向には何mも飛ばせない。打つ手なしだ……いや……攻撃魔法ならどうだ?鳥系の魔物相手にするときも、使えるはずだろ?)


(攻撃魔法だって弓矢とそうも変わりはないはずだ。炎の弾を飛ばしても、放物線状に飛んで行って地面に落ちるからな。弓のように弦を引くという動作はないから、その分飛ぶとは思うのだが……それでも通常の初級魔法だとせいぜい20〜30m、中級だって50m飛ばせば狙いなどほとんど定まらない……その分威力があって広範囲に魔法効果は及ぶがね。


 上空の点のような標的に、うまく狙いを定めるのは難しいと思うぞ。お前が日々精進して、魔法の訓練をしていたならともかく、俺が一通り呪文を教えただけで、お前……以降訓練さぼっているよな……)


(大丈夫だ……俺は物覚えがすごくいいし、一度覚えたなら必要と感じたものは決して忘れない……神脚だって親父殿に一度コツを教えてもらっただけで習得したからな。炎系の中級魔法で行くぞ。)


(いよいよ演目も全て終わって、皆帰り支度を始めたところだ。もう待ったなしだから仕方がないな。だが……攻撃を仕掛けたとたんに、こっちの位置も判ってしまうんだからな!向こうははるか上空にいるんだから、こっちを狙い撃つのは、至極簡単だ……一撃で倒さなければ、こっちがやられるぞ!)


(一撃と言うか……数撃放ってやるさ。

 燃え盛る炎を制するマグマの神よ、…………我にその力を…………………極大火炎!……………………極大火炎!………………………………極大火炎!………………………………極大火炎!)


 上空へ伸ばした逸樹の手のひらから、直径1mはある真っ赤な火柱が次々と何本も打ち上がった。火柱は互いに連動するように渦を巻いて混じり合い、より太く大きな火炎に変化していった。


「ぐっ……ぐわー……っ!」


”ジャッバーンッ”悲鳴とともにまっ黒く焦げた物体が空から降ってきて、イルカショーのプールの中へと落ちた。すぐにイルカたちがその物体を鼻先でつついて水面へと持ち上げたが、俯せ状態の人影はピクリとも動こうとしない……倒したのだ。


(やったな……すごいな……初めて使う中級魔法を一発で具現化するわ、一度に4発も打って連携させて、巨大火炎と化した……あれなら上級魔法にも引けを取らないだろう……。しかも……魔法攻撃で倒したんだ。お前にやられたとは、組織は絶対に気がつかないはずだろ?少しは追手の目をくらませられるかもしれないな。


 高空に長く滞在することは出来ても、素早く動き回ることは出来なかったようだな……地上だったら飛んだりして躱すことが出来たかもしれないが、ただ浮かんでいただけだったから距離のある魔法効果でも避けられなかったんだろうな。)


(そうだな……あの技に、竜巻極大火炎と名づけるとするか。そうすれば一度だけの詠唱で可能だろう。)

(そ……そんな簡単なものか?)


(確証はないが……背中の傷の治療の際も最初のうちははっきりと発音していたが、いい加減慣れてくるとごにょごにょと口の中でつぶやく程度でも、効果は得られていたろ?


 恐らく最初のうちは厳格に呪文を一言一句間違えずに正確に、しかも早口で唱える必要性がある……そうしなければ精霊が、どのような魔法効果を期待されているのかわからないのだろうな……それでも魔法効果が確立してしまえば、以降はある程度短縮も可能ではないかと考えている。


 魔法効果のイメージを崩さず明確に伝えることさえできれば、いつでも短縮して唱えることが出来るはずだ。)


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