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リモート  作者: 飛鳥 友
第4章 今回は孤独な殺し屋……はたして彼は死地を乗り越えることが出来るのか?
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王立水族館

14.王立水族館

「じゃあ手筈通りにな……。」


「うん、わかった……蝦夷から出て来たばかりでどこも行ったことないし、水族館なんてロマンチックだからぜひ行きたいわーって言えば、一緒に行ってくれるよ。」


「ああ、恐らく大丈夫だろう。観光案内を見ると、王立水族館は広大な敷地に屋外施設など充実しているようだが、蝦夷から畿南迄連邦中の海の生物を展示しているため、生育環境から屋内でも飼育が必要な生き物が多いわけだ。だから屋内展示場が敷地内に点在している。


 こういった施設内では遠方から警護することは難しい。弥恵との同伴だから護衛がじかに張り付いたりしないだろうが、それでも同じ建屋内を一定距離で追随していくはずだ。見張っていればいずれ護衛するやつら全員の顔を拝めるだろう。土市か新八どちらかの姿が認められれば、当りと言う事になる。


 水族館で始末してもいいし、後で別の場所で暗殺してもいい。どちらにしても、まずは土市か新八を始末する必要性がある。」


 大臣が最初のデートからいきなりホテルへ行きたがる可能性もあるのだが、昼の早い時間からなので、まずはどこかの施設へ立ち寄るだろうと推定。王都の観光案内から遊園地と動物園と水族館を吟味し、屋内施設が点在している王立水族館を選定した。


 映画館は中が暗いので、屋内施設ではあるが人物の特定が困難と考え除外した。

 


 弥恵は馬車ターミナルから議事堂行きの乗合馬車に乗り込み、逸樹は水族館がある海浜公園行の乗合馬車に乗る。貸し切り馬車で弥恵の後を付けて行く方が安全なのだが目立つと警戒されるし、大臣を始末する段になった場合、大臣の後をつけていた人物がいたと御者に証言される恐れもある為、乗合馬車を使って弥恵と打ち合わせた水族館へ直接向かうことにした。


(それにしてもお前……全くの別人だな?)


(ああ……今回はこれまでのような簡易的な変装ではなく、顔型を使った本格的な変装だ。敵はプロ中のプロ……超一流の殺し屋土市か新八だ。含み綿や入れ歯にかつらを使った簡易変装は、一般人に対しては効果があるが、一流の殺し屋相手には通じない。向こうも俺の顔を知っているからな。


 だが……変装するにも変装を解くにも時間がかかるのが難点だ。)


(そうだな……顔だけじゃなく手や腕迄、色々と塗ったくって作り替えていたな。弥恵にも手伝ってもらって、3時間くらいかかったか?デート時間が午後からで助かったな。そうでなければ朝の5時くらいから早起きして……なんてことになっていた。)


(平和な世の中で、手のひらに剣ダコを持っているのは冒険者か殺し屋くらいだ。更に腕や手の筋肉のつき方も変わってくるから、達人なら遠くから見てもそれと判る。


 遠目から見て大まかな雰囲気から警戒すべき相手かどうか判断し、警戒するとなったら顔の識別や仕草まで細かく観察して分析する……こちらに危険性を及ぼすような相手であるかどうかをな……歩き方にも癖が出やすいのだが……これは子供のころから一般人のような歩き方を、厳しく仕込まれた。)


(はあー……そうか……でもだったら土市や新八って奴らも、こういった本格的な変装をしているんじゃあないのか?お互いに素性を完全にわからなくしていたなら、見つからないかも知れないが、見つけることもできないぞ。)


(ああ……だから大臣を少し刺激して、警護の者の動きを観察するつもりでいる。)

(刺激?)


(弥恵が大臣に対して工作をするはずだ。)

(工作?)


(軽い毒を盛ったり、刺激がある液体を首筋に塗りこんだりする。毒を盛る際は、弁当など手作りの食事を持っていっても、向こうは警戒して手をつけないだろうし、仮に食べたとしても後で異常をきたせば真っ先に疑われる。弥恵が用意した食べ物や飲み物以外で、毒を体に入れる必要性がある。)


(となると……チュー……とかか?口紅に混ぜてある毒なんて……昔スパイ映画で見た記憶があるな。女は唇に薄いビニールを貼ってあって、自分は毒に侵されないみたいな……)


(ほう……そんな手順が?今後の参考にさせてもらおう。それでも弥恵には、知らぬ男とチューなどさせるつもりはないがね。指弾と言って、毒が入った小さなカプセルを指ではじいて標的の口の中に入れたり、首筋に当ててカプセルが破れて、皮膚が刺激されたりするわけだ。


 だが……警戒して見られている中では非常に難しい。標的の射撃ポイントが複数ある屋外であれば、周囲へ神経が集中させられるからな……隙を見て行うしかない。

 大臣が慌てた時の護衛たちの動きを見て、土市や新八がまぎれていないか判断することになるな。)


(ふうん……簡単に知った顔を探すと言う訳にはいかないようだな……)



 潮の香りが漂う海浜公園は、緑豊かな小高い丘を中心として作られていた。馬車を降りて公園入口から丘を登って行くと、やがて広大な海岸線が見えてくる。丘から海岸までは丘を下ってから、まだ砂浜が数十mは続いているようだが、その間遮蔽物がないため、丘の頂上では広大な景色が一望できた。


 丘からそのまま海岸へ降りられる道と、右手方向には大きな白亜の建物が見え、水族館行との行き先表示板が立っている。左手方向には港行の行き先表示板が立っているようだ。


 議事堂を経由せず直接やってきたため、まだ十分な余裕があると思われたが、現場確認のためにも優美な景色鑑賞は後回しにして、水族館へと向かった。


 水族館は砂浜が途切れた岩場の湾に面して作られており、高い塀に囲まれた入り口から中へ入ると、すぐ両脇がカニやヒトデなどが飼育された、海辺の生態系を観察できる大きな水槽がいくつも並べられているエリアとなっていた。


 畿東国だけではなく、蝦夷国に畿西国に畿南国……それぞれの地域に住む特有の海生生物たちが区分けされて展示されているようだ。


 入門した建物を出ると屋外施設になり、まっすぐに進むとイルカショーが行われるプールだが……ショーの時間は決まっているようで、10時、13時、16時と3時間おきと書かれた時刻表が、道標の看板と一緒に掲示されている。


 右手に行くとシロクマにセイウチ、ペンギンなど諸外国の寒い地方に住む動物たちが飼育されている建物があり、左手にはなんとイルカやカツオにマグロなどが泳ぐ姿を間近で見られる、巨大水槽がある建物に続くようだ。巨大なジンベエザメが泳ぐ水槽もあると、大々的に観光案内に書かれていたところだ。


(待ち受けるとしたら、やはり屋内施設なのか?護衛も一緒に同じ建物に入るしか、なくなるからな。)


(ああ……だが……入門してすぐの建物もそうだったが、寒い地方に住む動物を展示している建物も、水槽やガラスが多すぎる。シロクマやセイウチを展示している区画も、檻で囲うのではなく大きなガラスで遮蔽されていた。あれでは戦えない。)


(寒い地方の生き物だからな……部屋を密閉して展示場へはガラスで遮蔽……保冷のために中に大きな氷の柱を置いているから仕方がないさ。一応頑丈そうな鉄製の柵で間敷きられてはいるようだな。巨大水槽だって、泳いでいるところを見せるには、プールのように上からだけと言う訳にはいかないさ。


 それよりも戦う……?だって?見つけたらすぐに戦うのか?)


(土市や新八を見かけたなら、すぐに始末しなければまずい。彼らには親父殿が俺の裏切りを疑って、始末しようと画策していたことが伝わっている可能性だってある。だから俺が生きていることが分かれば、親父殿が俺に殺されたということがすぐにわかってしまう。そうなればすぐさま組織中に通達が行き、俺が裏切り者として追手がかかってしまう。そうなる前に、この場で殺すしかない。


 幸いにも奴らは弥恵の顔を知らないからな……プロ同士……互いの顔までは知っていても、相棒や得意技などは知られないよう気を付けているからな。


 一発で始末できればいいが、斬り合いになれば周囲も破壊してしまう場合がありえる。ガラスが割れて飛び散ると、周りの客にも迷惑をかけてしまう恐れがあるからな。それに……足元が濡れてしまえば、神脚も使えなくなってしまう。そうなると不利だ。


 加えて両面がガラス張りだから、こちらがいくら気を付けていたとしても、向こう側の通路から先に見つけられてしまう恐れがある。いくら変装していても、大臣や弥恵の後をつけていることを察しられたら警戒されてしまう。そうなるとますます見極めが難しくなるから、巨大水槽がある建物は不向きだな。)


(おお……殺し屋のくせに、周りの客のことを気遣うわけか……)

(前にも言ったように、俺は殺し屋だが悪党しか殺さない。)


(そうか……最低限のこだわりだな……だとするとイルカショーのプールか?イルカショーは水面から飛びあがって吊られたボールをつついたり、輪くぐりをしたりする出し物だからな。


 だが……あっちもかなりの水しぶきが上がって、プール近くの観客席は水浸しになってしまう場合があるぞ。ショーの過激さにもよるだろうが……)


(ううむ……まずは次のショーを見てみるしかないな……あと10分後だ)

(そうか……だがまだ弥恵たちは来ていないようだな……ショーに間に合ったとしてぶっつけ本番か?)


(大臣との待ち合わせ場所経由だから、恐らく昼イチには間に合わないだろう。16時からの3公演目がねらい目だな。2時ころに来て、次回までは他の展示場を見て時間を潰すのではないかな。)


(16時からショーを見て、それから食事して……となるとホテルに行っている時間が無くなるから、シロクマやペンギンだけ見てショーは取りやめにして、まずはホテル……なんてことにならないといいが……)


(お前は……なんとしてもそういった情事に持っていきたいようだな……だが大丈夫だ……イルカショーのことは観光案内にも記載されていたから、弥恵には必ず見に行くよう指示しておいただろ?うまくやるさ。)


(そうだったな……弥恵の接客能力に期待だな……まあ、あれだけの美人だ……無理やり……なんてことして嫌われると困るから今回はあきらめる……と考えてくれると期待してはいるけどな……)


(ふうむ……イルカショーはプールの周囲は3mほどの高さまでガラス張りで、周囲に水しぶきが飛び散らないよう工夫されているようだな。あれなら最前列にでも座らない限りは、床の濡れは気にしなくてもいいだろう。最前列は……イルカがジャンプしたときの水しぶきではないが着水時の大波の影響で、プールからあふれてガラスの仕切り版の隙間から通路まで水浸しにしていたようだったからな。)


 ショーは約1時間ほどで終了。プール内でジャンプしたり飼育員を背に乗せて泳ぐイルカショーのほかに、プール脇のステージでアザラシやオットセイの曲芸や、トドなどの大型海獣の芸などを催して、時間を忘れさせるほどの面白さで子供たちが大興奮していた。


 20m四方くらいの正方形プール上方を巨大なガラスで囲ったような構造をしており、周囲に階段状に観客席が設けられ、すり鉢状のステージとなっている。


 周囲状況確認のために最上段に陣取ってみていたが開演30分前にはほぼ満席だったようで、ようやく最上段の通路近くの角に1席だけ見つけたと言ったほうが、正しい表現となる。


(ショーは終わったが、このままここで陣取っているのかい?確かに最上段の席であれば見通しは効くが……)


(まさか……次のショーまでまだ2時間もあるんだ。さすがにここで待っているような異常な客と思われてもかなわん……しかも最前列を場所取りするならまだしも、最後まで空いていそうな最後列だからな。そういった客は警戒される一番手だから、残っているわけにはいかない。


 次も始まる10分前くらいに来て、仕方なく最後列に座る体にしておくのがいいだろう。そろそろ弥恵たちが来る時間だろうから、入門ゲートがある展示場に行って、来るのを確かめたほうがいいだろう。)


(宿から国会議事堂近くの馬車停迄、乗合馬車だと35分から40分くらいだったな?貸し切りだと20分もかからないのが、停留所ごとに停まって行くからな……そこから海浜公園まで来るから、大体1時間は俺たちよりも遅くなる計算だったな……待ち合わせ時間含めて、確かにいい頃合いかも知れんな……)


 急ぎ足で入門ゲートを出た最初の展示会場へ向かう。まだ日が高い時間であり、多くの客がゲートから入門して中へ入って行く流れの為、客の流れに逆らって入り口へ向かうこととなった。



(もう30分はここで待っているが、弥恵はやって来ないな……人ごみの中でも目立つように、真っ赤な着物を着させていたわけだから、見落とすことはあり得ない。そうなると……既に入門していて、どこかの展示ブースを回っているのじゃあないか?)


(いや……議事堂から海浜公園まで貸し切り馬車を使ったとしても30分はかかる。大臣は若い女性と一緒のところを見られたくはないはずだから、簡単な変装をして馬車に乗る可能性が高い。自家用馬車は奥さんにバレバレだから使えないはずだ……となると馬車ターミナルまで一旦向かって馬車を貸切る必要性がある。


 回り道になるし、弥恵には道を歩くときはゆっくり歩くよう言ってあるから、すでに着いているとは考えにくい。たとえ着いていたとしても、事を起こすのはイルカショーのプールになるから、ショーの時間になったら行けばいい。弥恵は俺の変装した姿を知っているから、俺を見つけられなければ行動を起こさないはずだ。)


(そうか……でもここでじっとしているのも怪しまれないか?)


(ヒトデやカニなど珍しそうに唸りながら、鑑賞しているふりをするしかないな。複数人だと適当なうんちくをかましたいところだが、一人で呟いていると変なおじさんと思われかねないから、心の声の出番はないな。

 じっと見ながらぐるぐる回っているしかない。まあ……そんなに時間はかからないはずだ……)



 ところがその後、1時間待っても真っ赤な着物を着た美女は現れなかった。


(おいおい……そろそろイルカショーのプールに行かなくちゃならないんじゃないか?客足がずいぶん増えてきているからな……さっきはラッキーだったけど、下手したら満席で中へ入れないなんてことに……)


(仕方がない……弥恵たちがやって来なければ、イルカショーに行っても意味がないだろ?)

(やはりホテルへ直行……なんてことになってやしないか?)

(ば……馬鹿言うな!)


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