王都へ
26.王都へ
(じゃあ、出発だ。恐らくキャラバンの指揮者は、昨夜の不審火のことは検問所の役人には届け出ないだろう。
下手に騒ぐと何か不都合なものでも運んでいないかあらぬ疑いをかけられて、通関の審査が長引くだけだからな。飼葉の荷馬車1台だけの被害だし、けが人も出なかったから穏便に済ませようとするはずだ。
早速これから国境の検問だな?何か聞かれるかもしれないが、おどおどしたり怪しげなそぶりはするなよ。荷台を詳細に検査されかねないからな。この荷馬車はいいが、お前と同行しているジャックが乗っている荷馬車まで調べられたら大事だ。証人2人を乗せていることが公になってしまう。)
(ええー?でも……積み荷は何だとか、どこへ行くかとか聞かれたらなんて答えたらいいの?ジャックは何も言っていなかったからね。積み荷は……そりゃあ豚だとは一目で分かるけど……)
(ああ……王都迄の食肉用家畜輸送のキャラバンに紛れ込んでいるようだからな……確かジャックがクエストだといっていただろ?新人の冒険者だと身分証を見せて、忙しい荷主に代わって輸送を、冒険者組合にクエストで依頼されたと答えればいいだろう。紛れもない本当のことだからな。堂々と胸を張って答えるんだぞ。
恐らく通関用の書類とかは全てジャックが持っているはずだから聞かれはしないだろうが、もし聞かれたら必要書類は前の馬車の御者が持っていると答えればいい。こういうところは脛にキズ持つ連中をあぶりだすために、分かっていることをわざわざ聞く場合があるようだからな……注意しろよ。)
(わ……わかった……緊張するー……)
翌朝、日の出とともに準備をしてすぐに出発する。前日同様ジャックの操る荷馬車の後に遅れないようついていくと、5百mも行かないうちに目の前が延々と左右に長く伸びている金網の壁が立ちふさがる。
延々と長く続く街道と、彼方まで広がる荒野の景色は金網越しに見えるが、街道に作られた鉄枠の大きなゲートを通過するには、ゲートを監視している役人への通関手続きが必要な様子だ。
街道脇左には2階建ての建屋があり、そこが役人たちの事務所となっているのだろう。紋付袴姿の正装の役人も多いが、中には鎧兜を装備した兵士たちの姿も見られる。国境警備兵だろう。
役人たちが渡された書類を見ながら、時には荷馬車の中へ乗り込んで調べたり、御者を降ろして身体検査したり、時には書類だけで通したりと抜き打ち検査をしながら、1台ずつ馬車を通していくのが見える。
(ほとんどは、書類をざっと見るだけで通すはずだ。いちいち積み荷を調べていたら大渋滞してしまうからな。)
早朝だというのに、他のキャラバンも合わさり美都夫たちが乗る荷馬車の前にも後ろにも、大行列がすでに並んでいた。役人たちは機敏に動きながら、次々と処理していっているようだ。
(いよいよだね……大丈夫かな……)
行列はゆっくりと進み、やがて一つ前のジャックの荷馬車がゲートに達した。ジャックは書類を手渡しながら、役人に何か説明をしている様子だ。
「新人冒険者の育成を……これは冒険者組合に登録されたクエスト……後続の荷馬車が新人冒険者で15歳……親と早くに死に別れ……」
ジャックが説明している言葉が風に流され、なんとなく伝わってくる。
「じゃあ、ご苦労様でした。」
ジャックの手元へ一部抜き取られた書類の束が返却され、ジャックの荷馬車がゲートを通過していく。どうやら無事荷台を検査されずに済んだ様子だ。そうしていよいよ美都夫たちの荷馬車の番だ。
「新人の冒険者だって?若いのに凄いなあ、冒険者証を見せてくれるかい?」
ジャックに説明を受けているせいか、通関ゲートの役人は、やさしい口調で話しかけてきた。
(ほらっ、ただ冒険者証を見せるんじゃあなく、おはようございますといって見せるんだ。)
「お……おはようございます。」
美都夫が一礼したのち、首から吊っている冒険者証を手に取り役人に提示する。
「本当に15歳なんだね?それにしてはずいぶん体が大きいね……でも確かに顔はまだ幼いか。
いやいや……そんなことはどうでもいいか……積み荷の中身は何ですか?」
役人はまだ子供の美都夫に威圧感を与えないように気を使っているのか、笑顔を見せながら問いかけてきた。
(ほらっ……クエストで豚を王都迄輸送しているんだろ?必要書類は前の馬車の御者が持っていたはずと答えるんだ。落ち着いてな……おどおどするなよ!)
「くっ……クエストで豚を王都迄輸送する途中です。必要書類は……たっ多分……前の馬車に……」
「ああ……そうだったね。書類は見せてもらっているから手続きは問題ない。でも感心だね、幼い妹さんがいるんだって?学費を稼いでいるんだ……妹思いの優しいお兄さんだね。大変だろうけど頑張ってね。
じゃあ、行っていいよ……安全運転でね。」
最後は満面の笑みを見せながら、役人は通関を済ませてくれた。急いでジャックの後を追い、鞭を鳴らす。
(ジャックの奴ー……おいらの歳から双葉のことまで……必要ないのに個人情報を漏らしたようだね……後で文句を言ってやらなくっちゃ。)
(まあまあ、これも作戦のうちだ。)
(作戦って?)
(速やかに通関するための作戦さ。見ていてわかるとおりに、怪しい怪しくないにかかわらず抜き取りで荷馬車の荷を役人が乗り込んで調べていただろ?もちろん書類の不備や御者が怪しい行動をとった荷馬車は、ほぼ確実に調べられるのだろうが、抜き取り検査は拒めない。義務だからな。
ジャックが乗る荷馬車が調べられないよう、後続のこっちの荷馬車に注意を向けるようジャックがわざとお前の身の上話をしたわけだ。不幸な境遇の新人冒険者を育てていますとか言ってな。
そうすればジャックの誠実さが伝わるだろ?最悪荷台を調べる順番だったとしても、後続の新人冒険者の方の荷台を調べる可能性が高い……新人に経験を積ませる……とか考えてくれるわけだ。
お前の個人情報が漏れたのは気の毒だが、これに嘘や誇張があったりすると、役人がお前に話しかけた時にその態度から気づかれてしまう恐れがあるから正直に伝えるしかなかったし、あらかじめお前に言っておくと、お前の態度から打ち合わせしたことがバレてしまいかねない。そうなるとかえって怪しまれるからな。
無事に通関するためには必要な行動だったと考えて、勘弁してやれ。)
(ふうん……じゃあ仕方がないのか……でもすごいね。心の声さんは、こんなことまで分かってしまうんだね?本当に人の心が読めるみたい……)
(だから……心が読めるわけでも何でもない。前にも言ったがおかしなこと、疑問を持ったことをそのままにしておきたくないだけだ。聞けるときにはすぐに聞いて確かめるし、聞けない時にはどうしてそうなのか自分の中で考えてあらゆる可能性を推測してみるわけだ。
さっきちらほらジャックの会話が聞こえて来ただろ?どうして美都夫のことを話していたのか、不思議じゃないか?……ジャックは決して無駄話をするタイプではないからな。話すからには目的がある筈だ……それは何だ?と何度も何度も問いかけると、さっき話したような推測が出来るし、恐らく正しいだろうと思える。)
(ふうん……そうか……聞けない時には自分でじっくり考えるんだね?次からやってみようっと……)
キャラバンは畿東国に入ってからは順調に進み、3晩野営をして午前中に王都までたどり着いた。野営の最中は美都夫の魔法で雨を降らせ続けさせていたのは言うまでもない。キャラバンには最初の不審火以外の異常は起こらず、何事もなく王都の市場近くの家畜の屠?場へ向かうことが出来た。
「じゃあ俺は乗合馬車のターミナルへ行って、貸し切りの馬車を連れてくるから、荷は降ろさずにそのまま待っていてくれ。降ろすと中の証人の存在がバレてしまうからな。」
他の荷馬車が積み荷の受け渡しをしている最中に、ジャックは乗合馬車をチャーターするために馬車ターミナルを探しに行ってしまった。残された美都夫は鶏を積んだ偽装荷馬車の御者席に座り、一人番をしている。
「おーい……積み荷を降ろさなくてもいいのか?屠?場の受け渡し時間は、もうすぐ終わるぞ。」
同じキャラバンだった御者がやってきて、受付時間終了が迫っていることを教えてくれる。
(ど……どうしよう……)
(相棒が受け渡しの書類を持ったまま何処かへ行ってしまって、手続きができないと答えておけばいい。ジャックが戻ってくるまでは、なにがあっても荷を下ろすことは出来ないからな。)
「そ……その……相棒が……書類を持ったまま行ってしまって……おいら……初めてだから……」
「なんだ……新人さんか?そういやずいぶんと若いな。相棒がどこか行っちまったのかい?引き渡し書類がないんじゃあ、どうしようもないな。早く相棒が戻ってくるといいな。待っている間、これでも食べていろ。」
御者は笑顔を見せると去り際に、持っていたリンゴのような形をした果物を手渡してくれた。
(おおー……みずみずしくて甘いしうまいなこれ……干し肉と煎り米だけの毎日だったから、果物の甘みは一層うまく感じるな。ジャックももう少し気を利かせて、果物や野菜も持ってきていたらよかったよな。)
(うん、おいしいね。果物なんて……父さんが生きていた時にも食べたことなかったな……市場で買って帰って双葉にも食べさせてあげよう。ジャックにも……多分ジャックは移動中は最低限の食事をすることしか考えていないんだよ。トイレ休憩とか頻繁だとキャラバンに迷惑かけてしまうからね。
荷台の証人たちとも公平に同じ食事を……)
(そうだな……意外といい推理だな。)
「おお……待たせたな。じゃあ積み荷の引き渡しをしよう。受付終了時間まで10分ほどだからぎりぎりだな……まあ大丈夫だ、焦らなくてもいい。今係員を呼んでくるから待っていてくれ。」
しばらくしてジャックが走って戻って来た。恐らく屠?場の外に貸し切り馬車を待たせてあるのだろう。
(もしかするとキャラバンのほかの荷馬車の積み荷の引き渡しが終了するのを、待っていたのかもしれないな。
荷台から2人の男が出てくるんだからな、なんか変だと勘ぐられるわな……そうならないよう皆が引き上げるのを待っていたのかもしれない。まだまだ王都についたからと言って、気が抜けないということだな。)
(そうだね……あたりに人は……もうキャラバンの荷馬車は全部引き上げたし、他の業者さんもいないね。もうすぐ受付終了時間だからね……)
「鶏と豚……依頼があった家畜はこれだけです。病気にもかかった様子はないし、無事に運んできていますよ。どちらに降ろしましょうかね?」
すぐにジャックが数人の係り員たちと戻って来た。
「じゃあ鶏がこちらで、豚はあっちの引き渡し場になります。それぞれ誘導するからついてきてください。」
係員に誘導され、美都夫が馬車を操り引き渡し場へ進む。
3階建てくらいの大きな倉庫のような建物の大きなシャッターから馬車ごと入って行くと、中は豚の鳴き声であふれていた。大きな体育館位の建物の中は意外と天井が低く、荷馬車の背後の扉を開けて豚を降ろすと、豚はまとめられて一つの間仕切りに納められた。
「降ろした豚はどうなるんですか?」
「ここは3階建てになっていて、今降ろされた豚は荷馬車ごとに分けられて一旦1階で保管される。1日置いて病気などにかかっていないことを確認してから2階へ送られ、そこでは豚の種類と大きさごとに区分けされる。それを経てから1日食事を与えずにおいて、3階が屠?場になっている。見学していくかい?」
美都夫が尋ねた係員が、親切に見学に誘ってくれた。
(やめてくれ……俺は血には弱いから……屠?場の中は見たくない……)
(ふーんそうなの……せっかくの機会なのに……でも仕方ないね。)
「ありがとうございます。でも連れがいるので……」
「そうかい、興味があったらいつでもおいで……。」
親切な係員さんに頭を下げて荷馬車ごと引き渡し場を出ていくと、シャッターを出たすぐ外でジャックが待っていてくれた。
「荷馬車はここで預かってくれるから向こうの駐車場に停めて、乗合馬車に乗って行くぞ。家畜の糞にまみれた荷馬車で裁判者に横付けもできないからな。」
ジャックに促され荷馬車を駐車場に停め、屠?場外へ出ると大きな馬車に、すでに2人の密売人の総元締めたちが乗り込んでいた。2人とも拘束もされていないのに逃げ出さないのは、それだけ黒幕が自由になることを恐れているのだと容易に想像できた。
2人ともに深編笠の虚無僧姿に変装している。顔を見られたくないがための変装だ。下手に顔を隠すよりもこのほうが自然だとジャックが、出発前に着替えさせていたのだ。
「じゃあ、出発だ。王立裁判所へ行ってくれ。」
ジャックがのぞき窓越しに御者に行き先を告げ、貸し切りの馬車が出発した。
「裁判所までは馬車で30分ほどのはずだ。裁判は明日の早朝から行われる予定だが、証人は安全のために前日の15時から裁判所で身柄を預かってくれる。裁判所へ入ってしまえば、警備が厳重だから安全と言えるだろう。警備員は無作為に割り当てられ、総数が多いのでとても全員買収はできないはずだ。
常に複数人数で対応する決まりのようだしね。」
「そうか……ようやく手足を伸ばして寝られるな。」
ジャックの言葉に、最初に捕まえた若い元締めが大きく息を吐く。
(やれやれだね……)
(おいっ!裁判所へ入ってしまえば安全なら、そこへたどり着く寸前が一番危険ということだぞ!奴らだって必死だ。死に物狂いでやってくるかもしれない。貸し切り馬車とはいえ……馬車で直接乗り付けるのは危険かもしれないぞ。狙撃の名手に狙われたりする可能性が高い。ジャックに忠告しておけ!小声でな!)
「じゃ……ジャック。直接裁判所の前に馬車で乗り付けたりすると、狙撃手に狙われたりしない?」
美都夫が隣に座っているジャックに小声で耳打ちする。
「ああ……その為に顔を見られないよう、変装させたつもりでいるのだがな……。裏通りを通っているようだが、このほうが近道なのかな?多分次の角を曲がると裁判所だ、着いたら駆け込むぞ、準備はいいか?」
ジャックが客車の窓から外の様子を伺いながら皆に告げた丁度その時、嫌悪感を感じるくらい甲高い金属の擦過音とともに馬車が急停車した。
あけましておめでとうございます。今年も作品を読んでいただいて、ありがとうございます。
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