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リモート  作者: 飛鳥 友
第3章 またまた超人見知りの少年は、窮地を脱出できるのだろうか……
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証人護送

25.証人護送


 ジャックと美都夫は毎日重いリュックを背負って山道を歩き続け、週に一度だけ売人たちの様子見と食料供給のために洞窟を訪れた。売人たちはそれぞれ協力し合って、洞窟内での共同生活を続けているようだった。


 ジャックたちの気遣いが功を奏したのか大きなトラブルもなく1ヶ月が経過し、逮捕された右大臣の取り調べが順調に進み裁判も開始されることとなり、売人たちが証人として召還される運びとなった。


「さて、これからが勝負だ。」

「しょ……勝負って?」


「右大臣派は何としても、売人の総元締めたちの口封じにかかるだろう。既に売り上げの督促の電話のやり取りや金庫にうなっていた大金などから、右大臣が麻薬の輸入・精製・密売に関わっていたことは明らかになって来てはいるが、やはり証言が一番の証拠になる。


 証人たちを抹殺さえしてしまえば、なんとでも言い逃れできると考えているはずだ。何とか彼らを無事護送して、裁判に出廷させることさえできれば……右大臣が有罪になってしまえば、右大臣派の求心力は一気に下がるはずで、なんの権力もなくなるだろうから、そこまでの頑張りに全てがかかっている。」


 ジャックがいつになく真剣な表情で告げる。


 藁や雑草などで葺いた洞窟のカムフラージュ用の竹製の格子枠に作った扉から中へ入ると、迎えに来る日は告げてあったので、売人たちはすでに洞窟出口までやってきていた。


 右大臣の裁判への証人なので、直接やり取りのあった総元締めたち2人が証人となり裁判に出廷する。他の元締めと客たちは、洞窟で引き続き留守番をすることになり、ジャックたちが持ち運んだ食料入りのリュックを受け取り、洞窟奥まで戻って行った。


 長い洞窟暮らしではあったが、ジャックたちが毎週新鮮な野菜に魚や乾物などを運んだために、肌の色つやも問題なく元気な姿で久しぶりの日の光を楽しんでいるようだ。


 休憩をしながら2時間かけて山を下り、途中待たせておいた貸し切りの乗合馬車に乗り、久しぶりに町へ降りて来た。これから王都までの数日間が山場だが、彼らには作戦があった。



−−−−−−−−−

「これで証人たちはもう安全だね?黒幕さえ捕まってしまえば、もう大丈夫なんでしょ?」


 麻薬の売人たちを山奥の廃ダンジョンまで連れて行った帰りの山道を下り始め、美都夫がジャックに話しかける。これまではほとんど美都夫自身から会話することなどなかったのだが、心の声のアドバイスのおかげか、美都夫は思いついたことをすぐに口に出せるようになってきた。


「ああ……そうなんだが……ちょっと問題があってな……」

「問題って何?」


「裁判だ……右大臣を捕まえることには成功するだろう。俺は直接かかわってはいないが、黒幕からの麻薬の売り上げ状況を確認する電話の合言葉を聞き出してあるからな、それを動かぬ証拠とすれば右大臣を逮捕できるだろう。それから家宅捜索なんかで麻薬密売の台帳とか押収されるのだろうな。


 だがやはり裁判で麻薬密売に関わったやつらからの証言が重要で、右大臣本人が直接指示を出していたとしなければ、失脚させることは難しい。勝手に右大臣の傘の下で秘書たちが悪さをしていた……右大臣は知らなかったなんてことにされてしまったら、大臣自身を罪に問うことすらできなくなるだろう。電話の件位なら、秘書に頼まれたとでも釈明すれば、なんとでもなるからな。


 麻薬密売の総元締めたちの証言が、いかに重要となるか……だが、肝心の証人たちの安全確保が難しい。裁判までは洞窟内で匿っていることは可能だが、裁判は畿東国の王都で行われるから、王都迄彼らを護衛して連れて行かなければならないわけだ。途中襲われる危険性がかなり高い。


 移送ルートや方法は連絡しなくても、裁判の日程が決まっているからある程度の予想はついてしまうからな。下手すると右大臣一派は警察権力を使ってでも道路封鎖して検問しかねないし、かなり厄介だ。俺と美都夫だけで守り切れるかどうか……だが冒険者仲間を頼むのも……ちょっとな……。


 これまでさんざん情報漏洩に悩まされたんだ、今更奴らに協力を仰ぐのは自殺行為だ。」

 ジャックが顔をゆがませる。


(そんなことで悩んでいたのか……洞窟のカムフラージュとか、尾行を混乱させるための策とか、色々と細かいところまで気が行き届くやつだと思っていたが、意外と応用問題は苦手なタイプのようだな。)


(応用問題って?)


(ああ……物事は一つの面からだけ見ていてはだめということだ。使い道は色々と……というか、今回の場合はまさにそのものズバリのいい方策が、あるじゃないか。俺たちはそれを経験しているのだぞ!)


(えっ……何のこと?)

(ジャックに教えてやれ……)

(へえ……そうか……そうだよね?)

 美都夫がジャックに近づき、小声である方策を提案した。

−−−−−−−−−



「げっ……なんだこの臭い荷馬車は……」

 鶏や豚などの鳴き声がする家畜用の運搬馬車の荷台へ案内され、麻薬密売の総元締めたちが鼻をつまむ。


 彼らに逃亡の意思はないと分かっているので、もう拘束はしていない。有罪が確定している彼らだが、右大臣派が権力を持っている間は、国内どころか連邦中どこに逃げても安全な場所など存在しないことが分かっているので、少なくとも裁判が終了するまでは逃亡の危険性はないという判断だ。


「悪いが、この荷台に隠れて王都迄行ってもらう。勿論中の檻は家畜とは別になっているから安心してくれ。


 この移送方法は人買いたちのアイデアだが、一網打尽にして消滅してしまったので、俺たちが使わせてもらうことにした。ただの家畜運搬の隊列に紛れていくから、まず見つからないだろう。臭いのは馬車を運転するこちらも同じだ。お互い命が大切なので、多少は我慢だ……いいな?」


 人買いたちが子供を移送するために使っていた偽装荷馬車を使用して、麻薬売人の総元締めたちを王都迄移送することにしたのだ。荷馬車は警察が押収していたのを、こっそり借りてきた。大きな警察倉庫の隅に保管してあった、5台中1台を借りて来たのだ。


 美都夫たちが乗っていた鶏用の偽装台車がそれで、豚を積んでいるのはただの荷馬車で、地元の業者が王都へ家畜を運ぶのを、ジャックがカムフラージュのために請け負ってきたのだ。偽装荷馬車の積み荷の鶏も、同様に王都迄の運搬を請け負った荷馬車から詰め替えたものだ。


 こういった家畜運搬などもクエストとして存在することに、美都夫も驚いていた。


 麻薬の密売人たちの総元締めと元締め1人を荷台に詰め込み、荷台の後方から鶏が詰まった檻を通路部分に押し込んで埋めていく。こうすることにより、荷台前方にいる人の収容部分は、鶏たちに邪魔されて後方からは全く見えなくなってしまう。改めて人買いたちの巧妙さに、皆感心するばかりであった。


 鶏と売人たちを乗せた荷馬車をジャックが操り、豚を積んだダミーの荷馬車を美都夫が操り、市場裏の出荷ターミナルへとやって来た。そこには数十台の荷馬車が並んでいて、今まさに王都に向けて出発せんとしているところだ。ジャックがこの地域からの家畜の運搬業者を探して、同行させてもらうことをお願いしたのだ。


 たとえ本日、この家畜運搬のキャラバンの中に、売人の総元締めを移送する馬車がまぎれているという情報が流れていたとしても、1台1台調べていくうちに逃げる隙があるので、見つけ出すことは困難であろう。

 美都夫も安心して手綱を握り、ジャックの荷馬車の後についていく。



 途中2回休憩をして、日付が変わる時間になってサッカーグランドほどもありそうな、街道脇の芝生の空き地にキャラバンが停車していく。街道の両脇もそうだが、空き地のそこかしこに柱が整然と並んで立てられており、それぞれの柱の上部には輝照石が取り付けられて、芝生を照らしている。


「どうやらここは、国境の検問前の駐車場のようだ。人買いたちのキャラバンは早朝から出発したからその日のうちに検問に達したが、このキャラバンは出発が昼近くになっていたから、国境の検閲は明日の早朝からになりそうだな。国境を越えてから野営するか、越える前に野営するかの違いだから、大した違いではない。


 総元締めたちはかわいそうだが出してはやれないので、食べ物だけ小窓からいれてやって休ませよう。床は完全に間仕切りして布団を敷いておいてやったから、お前が運ばれたときよりは快適なはずだ。」


 キャラバンの馬車たちに習い駐車場に荷馬車を停車させた後、ジャックがキャラバンの指揮者のところへ確認に行って戻って来た。偽装荷馬車を使うことになってから金物店へ行って鉄板を購入し、人収納部分の床上15センチまで鉄板を貼って家畜側と間仕切りを完璧にして、更に床に布団を敷いておいたのだ。


 1畳程度の広さはある為、快適とは言えないまでも大人2人何とか過ごせる空間ではある。ジャックと美都夫もテントや寝袋などあるわけでもなく、荷馬車の御者席でそのまま仮眠するのだから、幌に覆われていて風に当たらなくて済む分だけ、荷台の中の方がましかもしれないと思えた。


 干し芋と煎り米に竹筒に入った水を小窓から入れてやり、ジャックと美都夫も同じ携帯食を食べて就寝した。



(うん?なんだ……)

 深夜時間になって、何か物音がするので自然と目が覚めた。


(変なにおいもするな……焦げ臭いぞ……ジャックを起こせ!)


「ジャック……ジャック……変な臭いがする。」

 キャラバンの商人たちが大勢いるので、下手に騒げないため小声で隣に停車している馬車の御者席で寝ているジャックを呼ぶ。


「ああそうだな……俺も今目が覚めた。焦げ臭い……俺が様子を見てくるから、ちょっとこっちの御者席へ来ていてくれ。何かあったら、この荷馬車だけで元の町まで逃げろ!いいな?」


「分った……気を付けてね。」

 ジャックが辺りに注意しながら、あまり騒ぎ立てないようゆっくりと歩いていき、美都夫はジャックの代わりに総元締めたちを乗せた鶏の偽装台車の御者席へ移る。


(もしかしたら……怪しいのは手あたり次第調べるか、それが無理なら火を付けて燃やしてしまうつもりかもしれないな……焦げ臭い匂いが漂ってくるということはこっちが風下だからで、燃え広がるよう風上の先頭の荷馬車に火をつけたんじゃあないかな?とんでもない連中だ。)


(えっ?まさか……たった2人の証人のために、そんな大それたことしないでしょ?もし見つかったら大変なことになっちゃうよ。)


(証人が裁判に出廷したほうが、大変なことになるんだよ。右大臣派の権力さえあれば、この程度の事件はもみ消す自信があるのだろう。


 家畜を積んだ大きなキャラバンだから、火気厳禁と言われただろ?こんなに密集して荷馬車を停めるんだから、間違って火が幌に燃え移ったら大変だからな。だからお前たちは調理も湯を沸かすことも禁じられて、日が暮れて気温が下がっても暖を取ることもできず、携帯食だけで食事を済ませたじゃないか。


 他の御者たちだって同じはずだ。煙草ですらちょっと離れた国境の検問所の喫煙所まで、走って行って吸えと言われただろ?……お前は未成年だから吸わないけどな。密売人の総元締めたちは幌の中だから、誰にも咎められずに吸っていたようだが、周りから丸見えの御者たちはそんな大それたことはしやしない。


 だから火の気が全くないはずのこの停車場で、火事が起こること自体が異常なんだ。)


(そうか……でも大きな火事でなければ、水流の魔法で消せるから大丈夫だよ。一緒に行けばよかったかな?)


(いや……手元から水が放たれる水流の魔法は使うべきではない。魔法を使う奴がここに居ると、教えるようなものだからな。ただの荷馬車の御者が魔法なんか使ったら、怪しいだろ?積み荷はなんだ?ということになる。だから、水流魔法はこの場では禁止だ。


 幸いにも今夜は月も星も出てない曇り空だ。途中雨は降らなかったが、湿っぽい風は流れてきていたから、雨が降ったとしても怪しまれないだろう。中級魔法だが、なるべく広範囲に雨を降らせられないか?)


(ええー……魔道騎士として錫杖という武器も振るうから、攻撃魔法は初級のなるべく呪文が短いものだけ覚えればいいって言っていたじゃないか……だから初級しか覚えていないの知ってるでしょ?ランニングに素振りと……体を鍛えるだけでも大変なんだから……。)


(俺だって常に正解ばかり言えるとは限らない、すまないが訂正させてもらう。


 それに攻撃魔法は……だぞ。回復系の魔法は中級・上級も逼迫した状況では必要となり得るから、覚えておけと言っただろ?雨を降らせるというのは攻撃系のいわゆる黒魔法ではない。天候型の白魔法だ……現に今は御者席に座っているだけだから、ゆっくりと呪文を唱えることが出来るはずだろ?)


(そりゃあそうだけど……分かったよ、魔導書は常に携行しているからね。えーと……天候系魔法だね?)


「えーと……この世界のあらゆるものに恵みを与える天の神よ、その大いなる力を少しだけ……」


 美都夫は多少不満げだったが、それでも懐から魔導書を取り出して天候系呪文のページを繰り、読み上げ始めた。数回読み上げただけでは何の変化もなかったが、そのうちにそらで唱えられるようになり、何度もあきらめずに繰り返して発するうちに一粒二粒の水滴が落ちてきて、やがて連続していき雨が強まり始めた。


「やったー……降って来たみたいだよ。」


(ああそうだな……これで治まってくれるといいんだが……)

 雨はそのまま降り続け、十数分後に一つの影が馬車に近づいて来た。


「ふあー……馬用の飼葉を積んだ荷馬車が燃え上がっていた。周りには他の家畜用の飼料を積んだ荷馬車もあったから急いで避難させていたら、都合よく雨が降って来たので荷台1台燃やしただけで治まったよ。


 荷馬車の御者がキャラバンの指揮者からえらい剣幕で怒られていたが、絶対に馬車付近でタバコなんて吸っていないと言い張るんだ。隣の荷馬車の御者と一緒に喫煙所まで行ってキセルをふかせて戻ってきたら、すでに火が出ていたと主張した。不審火だな……誰かが火をつけた可能性が高い。


 雨は……美都夫の魔法か?いくら何でも早々都合よく降ってくるはずはないからな。ありがとう、よくやった。」

 御者席に上がってきたジャックが、満面の笑みを見せた。


本作品を読んでくださり、ありがとうございます。よいお年をお迎えください。

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