表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リモート  作者: 飛鳥 友
第3章 またまた超人見知りの少年は、窮地を脱出できるのだろうか……
56/192

大きな収入

14.大きな収入


「あっ、おにい……お帰り。どこへ行っていたの?いくら冒険の旅って言っても、10日近くも戻ってこないから心配していたんだよ。」


 未払いの給料を取り立てて、ようやく宿に戻れたのはすでに9日後の夕方になっていた。双葉は一人旅館の中庭で、池の鯉にパンくずの餌やりをしていた。


「悪い……ジャックに騙されて、人買いに売られるところだった。」

「ええーっ……人買いに売られたの?」

「おいおい……人聞きの悪いことを言うな……あれは潜入捜査だといっただろ?」


「でも……何も聞かされていなかったから……国境で停車するときだって、一緒に乗っていた正雄が教えてくれたから、足首の手錠に挟んだメモを見つけられたけど、正雄がいなかったらあの場で騒動を起こせたかどうかわからないよ。」


「ありゃーそうか……経験が浅いから罠とかを見た眼で見破ることはできなくても、微妙な感触の違いを瞬時に感じ取って避ける能力は持っていると感じていたのだがな……直接体感しないといけないのかな?


 敵を騙すにはまず味方からと言ってだな、前にも言ったがお前に小芝居をさせるのは無理と判断して……」

 ジャックが何も知らせずに、美都夫を人買いの手に渡したことのいい訳を熱弁し始めた。


(おいおい……また自分を正当化し始めやがったぞ……確かにお前の感覚は鋭いよ。最初にジャックが洞窟出口に仕掛けた網の罠のときだって、踏み込んだ瞬間に違和感を感じたものな。それから……洞窟の罠と同じく体は反応したんだが……井戸の時はすぐ後ろのジャックに突き落とされてしまったけどな。


 だから足首につけたメモにもすぐに気づくだろうと思った……ということなのだろうがな……確かに俺が色々とお前に指示し過ぎたのは確かだ。何とか逃げ出す隙を見出そうとか、トイレ休憩停車の間隔を予想しようとかな……おかげで他のことへの注意が散漫になってしまった。


 その点は俺も猛反省している。次からは、まず現状を詳細に観察してから綿密に分析をして、最良の作戦を考えるさ……。)


(ああ……注意が散漫になってしまったこと自体は、おいらの責任でもあるから気にしないで。それよりも心の声が聞こえたおかげで、心細くなかったから助かったという気持ちの方が大きい。


 もし心の声がなかったなら、おいら一人だけだったら人買いに売られてしまうという恐怖に押しつぶされて、メモに気づいても何も行動できなかったかもしれないからね。


 最初に心の声の声が聞こえた時は、おいらの気が変になっちまったかと思ったり、色々と指図されてうっとおしいとも思ったけど、おかげで死にかけていたおいらが生き延びることが出来たと今では感謝しているよ。)


(そうか……そう言ってもらえると俺も気が楽になる。だが……恐らくお前だったら俺がいなくても、あの苦しい状況下でも妹を助けて生き延びられたのではないかと俺は思っている。


 さっきも言ったが、お前は大きな体をしているし力も強いが、特にそのことを誇示しようとしないし暴力的なことを極端に嫌う。気はやさしいし内向的……よく言えば、だがな……悪く言えば人嫌いで人との接触を拒む……妹以外の人間とは極力関係を持ちたくないとさえ思える。


 それでも市場の店を手伝って繁盛させていたということから、客あしらいには長けていると思われる。見た目は、おっとりしているように見えて感覚が鋭い。罠を瞬間的に感じられるくらいにな……)


(それって……褒めてる?)


(ああ……褒めているさ。だからまんざらジャックが言っていた、お前は超一流の冒険者になれるって言っていたこと、嘘じゃないと思っている。)


(まさか……あれはあの場の……おいらを店にもどさないための体のいい言い訳だよ。おいらが入ると3人の失業者が出てしまうからね。ジャックもそのことを分かっているから……)


(そうとも言えないさ……ジャックとは出会ったばかりだが……うまくやっていけるんじゃあないかね。

 それよりも……いい加減許してやれ……いい訳の種も尽きる頃だろう……)


「だから……ちょっとは危ない思いをしたかもしれないが、俺はお前の身に危険が及ばないか常々監視していたから……だな……お前が乗せられていた馬車は分からなかったがそれでも必死で……。」


 ジャックが今回の作戦で美都夫を騙していたことに対するいい訳を延々と並べていたのだろう、いい加減息切れし始めてきたようだ。


「分ったよジャック……もういい。子供たちは全員無事に保護されたし人買いたちは逮捕できたし、黒幕も分かったんだよね?おいらがその作戦に協力できたことは、光栄だとさえ思っている。おいらでも、人様の役に立つことが出来たと、そう思えるからね。」


「そ……そうか……だったらよかった。肉屋の女主人にも言ったが、お前は冒険者に向いている。


 どうだろう……普通ならある程度体が出来上がってから……高校を卒業するくらいの歳になって、それから冒険者組合に登録するのだが、美都夫の場合は体は十分すぎるほど成長している……まだ大きくなりそうではあるけどな。


 行きそびれた小学校の途中からやり直すことも可能ではあるが、いっそのこと冒険者にならないか?冒険者だったら学歴なんか関係ないからな。貧しくて家の手伝いで幼い兄弟たちの面倒を見なければならないとかで、小学校さえもろくに行けなかった奴らが、結構ごろごろいる世界だ。


 美都夫の場合はまだ文字が読めるから、その中では学がある方だと俺は思っている。中学卒業後の歳でさえあれば、組合に登録申請可能だから、美都夫さえよかったら冒険者になって俺と組まないか?」

 そういいながらジャックは細い目を更に細くして、右手を差し出した。


(うーん……やはりジャックは本気で考えていたようだな、これから小学校からやり直すのも手ではあるが、ただでも体の大きなお前が、小学生に混じって授業を受けるのは違和感がありすぎるな。


 学校を出た後のことを考えても……ジャックとともに冒険者をやるのは悪くはない。だがその前に……取り返した未払いの給料……ジャックの分け前が……半分くらいは要求するのかな?お前ひとりじゃ一銭ももらえなかったんだろうから……ジャックの交渉のおかげで頂けたんだから、それくらいあきらめろよ。


 分割払いになったから、出来れば今手元にある20万Gはこちらに頂きたいところだ。部屋を借りたり家具をそろえたり、双葉を学校へやったりするのにある程度の金が必要になるからな。まずは、その点を確認しておこう。ジャックは悪い奴ではなさそうだから、来月からの支払い分からの分配で承知してくれるとは思う。)


(そ……そうだったね……20万Gはジャックが持っているんだったね。)


「じゃ……ジャック……その……まずはおいらの未払いの給料……取り戻してくれたお金のことなんだけどね……すごく感謝しているし……ジャックの交渉のおかげで取り戻せたんだから、当然ジャックに分け前が必要だと思っている。


 半分……でいいかな?それでその……今回頂いた20万Gはおいらが全てもらっていいかな?部屋を借りたりするのに、結構な金がかかりそうだし、双葉の学校の手配もしなければならないから……ジャックの取り分は来月の分からということに……。」

 美都夫が言いにくそうに、ジャックの顔色をうかがいながら交渉する。


「ああ……そうだった……20万G……ほれ……落とさないように大事に懐にしまっておけよ。


 分け前?これは美都夫が3年間働いた正当な給料だ、全額美都夫が受け取る権利がある。だから来月以降の分割払い分も含めて全て美都夫のもんだ。俺はいらない……というか、人買いの捜査に協力してもらった礼金を支払いたいくらいだ。それだって冒険者になってクエストを引き受ければ、次回からは報奨金が頂ける。


 そうだったな……冒険者になるならないよりも……まずは住むところを探すのが先だな?ようし……まだ日があるから……一寸部屋を見に行こう。俺の知り合いに不動産屋がいるからな。」

 ジャックは懐から札束を取り出し全て美都夫に手渡すと、中庭の裏門から外へ出て行こうとする。


(はあ……ジャックは本当にいいやつだな……分け前はいらないってさ……助かったな。じゃあ、双葉も連れて部屋を見に行こう。)

(うん……)


「双葉……一緒においで……部屋を見に行くぞ。」

「えーっ?そのお金……どうしたの?」

 双葉はジャックから美都夫が受け取った大量の札束を見て、目を丸くしている。


「これはおいらが3年間働いた給料だよ。店のご主人がおいらを騙して払おうとしなかったのを、ジャックが取り戻してくれた。しかもかなり多めにね……これで双葉は学校へ行けるぞ。」

 美都夫は大事そうに札束を、作務衣の懐にしまい込んだ。


「えーっ、やったあ!」

 双葉は飛び上がって喜び、スキップしながらついて来た。



「ご……ご兄妹?親子かと思いました……ずいぶんと年の離れた……。」


「いや……年は5つしか違わないらしい。兄貴の方が成長し過ぎのようだな。それよりもいい部屋あるかな?」


「はいそれはもう……まだお若いですから、台所付きの2間とか……いかがでしょうか?」


 ジャックが知り合いという不動産屋は、市場とは反対方向の繁華街と離れた場所にあった。こちらは官庁街のようで、レンガ造りの3階建ての建物が建ち並んでいる。

 不動産屋の若い店員は、間取りが書かれた台帳を繰りながら、客の要望を聞き取りにかかった。


(どうする?2間か3部屋か……台所便所風呂付がいいんだが……)

(えっそんな高級な部屋……共同便所でいいし、風呂は銭湯で十分だよ、旅館じゃあるまいし。)


(そんなけち臭いこと言うなよ……20万Gあるんだろ?まだこれから45万G入ってくるんだぞ!)

(残りの金がきちんと支払われるかはまだ分からないだろ?あるだけで計画を立てなきゃ。)


(堅実だな……この世界の家賃相場は俺には分からないが……いくらくらいだ?)

(おいらだって知らないよ。)


「台所風呂便所付きで、2LDKの物件はあるか?」


「はい、それはもう……新築のちょうどいい物件がありますよ。こちらなら、乗合馬車の停留場から徒歩5分ですし、小学校、中学校も20分以内で歩いていくことが出来ます。しかも上水道や下水道も完備している地域ですから、大変便利ですよ……ご覧になりますか?」


「ああ……頼むよ。」

 美都夫の思惑とは裏腹に、勝手に話は進んでいっているようだ。



「うわー……きれいなおうち……。」

 案内されたのは真新しい木の香りがする、2階建ての木造アパートだった。


「中も明るいし、部屋も広ーい……。」

 10畳ほどの板張りリビングに2畳くらいの台所、ふろとトイレは別になっているのはありがたく、6畳間の畳部屋が2間、リビングから直接入ることが出来るような造りだ。


(双葉も気に入っているようだし、ここにするか?)

(で……でも……高いんじゃないの?家賃……)


「ここで、家賃はいくらになる?」


「はい、少々お高めで……月々3000Gとなります。ご契約の際はほかに敷金と礼金あわせて5ヶ月分必要となります。いかがでしょうか?人気のある物件で、ぐずぐずしているとすぐに埋まってしまいますけど?」

 不動産屋の若い店員は、自信満々な笑みを浮かべてジャックの顔色を窺った。


「ああそうか……敷金は保証金だから必要として……3ヶ月分か?礼金は大家への礼金だから、払わなくてもいいだろ?剛三にジャックがそう言っていたといえば良い。

 そうなると4ヶ月分を今ここで支払えば、いいことになるな?明日からでも入れるか?」


「はい……そそそれはもう……今晩寝ずにきれいに掃除しておきますです……。」

 若い不動産屋店員は少々戸惑ったが、それでも即断に感謝し、揉み手をして笑顔を浮かべた。


「ここは、いい物件だと思うぞ。首都からはちょっと離れているが、畿南国では第2の都市だからそれなりに家賃は高い。新築でこの家賃なら文句はないだろ?ほれ……4ヶ月分……1万2千G払っておけ。」


(えっ?いや……でも……どうして4ヶ月分も一度に……?)


(保証金というのは、家賃の滞納とか借りている奴が部屋を汚くしたり障子を破いてしまったりとか……そいつが出た後で部屋を極力元通りにするための金だ。汚い部屋のままだと、次の借り手がつかないからな。きれいに使ってさえいれば、出ていくときに戻ってくることだってある。


 礼金というのはジャックが言っていた通りに、このアパートの大家さんに部屋を借りる時のお礼に支払うもので、これは戻ってこない。それでも部屋は常に埋まっている訳じゃあないから、大家さんだってぎりぎりで運営していると考えると、礼金だって重要な収入源であるはずだ。だから払わなくて済むのはありがたいね。


 ジャックの知り合いの不動産屋というのは、嘘じゃないようだな。


 3000Gはお前が取り戻した20万Gからしては安く感じるだろうが、お前の後に入った店員はひと月6000Gで働いているんだから、普通に働けば給料の半分が部屋代なんてことになってしまって、余裕のない生活になる。だから高級アパートということに間違いないだろうが、十分払えるんだからいいんじゃないか?


 双葉を通わせる学校にも近いようだし、便利だろ?)


(うーん……そうなんだよね……双葉の勉強部屋だってあるし……分ったよ……)


「この部屋にします。」

 美都夫はそう言いながら懐から札束を取り出して、1万2千G支払った。


「ありがとうございます、では……この契約書のここの部分にご契約者様、こちらには連帯保証人様のお名前とご印鑑が必要となります。」


「えっ?連帯保証人?」

「ああ……そいつは問題ない、俺がなってやるからな。」

 ジャックは契約書を自分で受け取り、連帯保証人欄に自筆で署名し懐からハンコを取り出して押した。


「ありがとう……ジャック……。」

 美都夫は自分の名前を契約書に記入し、ハンコは次郎が勝手に作った美都夫のハンコをもらってきたのを使った。


「ようし……じゃあ次は家具だな……」

 ジャックと一緒に今度は市場へ向かい、家具屋に行ってタンスに布団とちゃぶ台など、一揃い買いそろえた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ