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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
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第66話 城門にいる魔物を攻略しよう(2)


 予想通りフィオンは【雷切】の上昇した力を使い一瞬で翔太とレイナの下に来た。

 レイナも翔太の普段とは違う殺伐とした雰囲気を察知したのか、無言で以後心地が悪そうにしている。怒られるとでも思っているのかもしれない。到着したフィオンに助けを求める様に視線を向けている。


「ショウタ、どうした?」


「ヴァージルさんがこのどさくさの騒ぎに紛れてオーク共に拉致された。フィオン、レイナ、ディード、僕に力を貸してほしい」


 頭を深く下げる。ショウタの目には地面が写る。

 これから翔太がやろうとしていることは、レイナを僅かに危険に晒す行為だ。ほんの僅かだが、規格外の存在になったレイナが膝を土に着ける一握りの可能性。

 だがそうでもしないと、ヴァージルを助ける事はできない。


「詳しく話せ! 時間がないんだろ!」


 反射的に顔を上げる翔太。二人と一匹は真剣な顔で翔太の目を見つめていた。ここで翔太の計画をすべて簡潔に伝えなければならない。

 今後のラシェルの安全のためにもこの戦場の舞台から退場してもらわなければならない者達がいる。眼の下に斜めのキズのある男共だ。

 今回ボリスが翔太にチョッカイを出して来て目を逸らした僅かな間にヴァージルがいなくなりレイナが襲われた。これを偶然と片付ける程翔太は愚かではない。


「フィオン、目の下にキズのある男が動き出した。

 レイナだけが突然20匹のオークナイトと6匹のオークキングという敵方の最大戦力に取り囲まれたのも彼奴らが原因。彼奴らをこの戦場から直ちに排除する」


 フィオンは翔太の言葉の意味を理解し怒りを露わにした。

 当然だ。これは人間という種族の汚い裏切行為なのだ。今フィオンの中に渦巻いている激しい怒りは想像を絶するだろう。

 レイナは状況が飲み込めないらしくキョトンとしていた。


「では直ちに2班に戻ろう!」


 フィオンは胸の中でグツグツと憎悪を煮えたぎらせているのだろう。悪鬼の形相で翔太を促す。


「その前に、レイナとフィオンに僕の今後の作戦について聞いて欲しい。人前では話せない事なんだ」

 

 そう。まだ計画には続きがあるのだ。それをこの誰もいない戦場で話す。

 次に翔太が発する言葉はレイナを危険に晒す行為、衆人環視の前で口にはできない。

 

 それはレイナによる敵オーク一切の殲滅だ。

 【フラゲルム・デイ】の能力を全力解放する。

 レイナに逆らう事の愚かさを徹底的に魂の底まで馬鹿な賊共に思い知らせる。最強ウエポン――【フラゲルム・デイ】の全力解放だ。翔太の予測では数分でオーク共は殲滅されることになる。

 残りは城内にいる100体前後のオークのみ。後は翔太がすべて引き受けても御釣りがくる。


「……説明してくれ!」


 フィオンは翔太の話を聞いてくれる様子だ。時間がない。迅速に説明しよう。


「今から2班に戻り、目の下にキズのある男を拘束。その際にアドルフさんを説得する。

 説得に失敗したら本作戦の指揮を委譲してもらう。その際の総指揮権は僕が無理矢理奪ってヘクターさんに委譲する。ここまでいい?」


 総指揮権をフィオンではなく、ヘクターに委譲するのは二つの理由からなる。

まず、フィオンは次から話す作戦においてより重要な役割がある。1班と2班の指揮などやっている場合ではなくなるのだ。


 2つ目の理由は、ヘクターを総指揮官とすればラシェルを戦場から遠ざけやすくなるはずだ。

 勿論、冒険者は人間族が多くヘクターを総指揮官とすることに反対するであろうし、命令にも従うまい。

 だから、冒険者達に徹底的に恐怖を植え付ける。翔太によりヘクターが無理矢理、指揮を執る事を命じられた事にすればよいのだ。そうすれば、ヘクターの行動は全て翔太の命令によることになり、万が一ラシェルの事で馬鹿な貴族共が因縁をつけてきてもそれは翔太にだけしか向かない。翔太ならば戦うなり逃げるなりなんとでもなるのだから。


「しかし、そんな無茶したらお前――少なからず恨みを買うぞ!」


 フィオンは翔太とラシェルが知り合いであることを知っている。だから、ヘクター達エルフと翔太が知り会いである事も知っている。それで翔太の意図に気が付いたのだろう。苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

「別にいいよ。その場合には力でねじ伏せる。それよりも僕の大切な人が傷つくのを見るのは真っ平ごめんだ」


 フィオンは戸惑いつつも大きく頷く。どの道この混乱を収めるのはそれしかないのはわかっているのだろう。


「ここからが大事だ。アドルフさんの説得に成功するか、無理矢理指揮権をヘクターさんに委譲した後、僕はヴァージルさんを直ちに助けに向かう。オーク残党はレイナに対処してもらうことになる。

 だが、ただの対処では駄目だ。レイナに逆らう事の愚かしさを賊共の魂に刻み付けなければならない。すなわち、【フラゲルム・デイ】の全力の解放を行う」


「「…………」」


 フィオンとレイナは無言で頷く。

 英雄になれるチャンスとで思っているのかもしれない。レイナは目を輝かせつつ喜んで了承する。フィオンもさほど驚かず、あっさりと了解してしまった。

だが、レイナも、フィオンさえもミジンコ程も理解していない。【フラゲルム・デイ】の真の恐ろしさ、真のおぞましさを理解すれば、目を輝かせるなど到底ありえないのだ。


 【第8――深淵級】まで到達し【心眼100%開放】を得た翔太にも、【フラゲルム・デイ】の完成形態が読めなかった。完成するはずの武器の機能には【進化】など、本来存在するはずがないのだ。

 そして500を超えた翔太の【知能】が一つの極悪な可能性を導き出す。この武器を作るとき、翔太は一心不乱にレイナのためだけを思って作った。その際に無意識に翔太は自分の【魔力】や【体力】――生命力を大量に金属に流し込んでしまっていた。その結果この【フラゲルム・デイ】は大きく変質し想定していたものとは似ても似つかない武器へと変質したのだ。

 もともと、金属を生むという事は鍛冶師にとって、子供を産むことに等しい。だが【フラゲルム・デイ】はまだ生まれてすらいない。いわば分厚い卵の殻の中だ。


 【フラゲルム・デイ】を作る際にこの殻を破るキーを翔太は当然の前提として設定してしまっていた。それはレイナの進化だろう。この【フラゲルム・デイ】は危なっかしいレイナがレベル20まで上がるためのいわば補助輪役だったのだから。そして、レイナがレベル20に上がり進化が起これば、【フラゲルム・デイ】は本当の意味で産声を上げる事になる。だが、それはレイナをフィオン達、獣人とは別の異なる生物へ変えてしまう事を意味する。そう翔太は演算した。

だから今回のオーク事件が済み次第【進化】の機能がない【フラゲルム・デイ】と交換しようと思っていたのだ。

 だが翔太のそんな日和見主義がこの事態を招いた。ヴァージルを危険に晒した。会議室で翔太が気絶でもさせてデリックに預ければ、ヴァージルには一切危険が及ばなかったはずだ。今後翔太のつまらない選択ミスでレイナを危険に晒さないためにも、レイナをつまらない戦争等に利用させないためにも、レイナにチョッカイを出す気すら起きない程強くしてやれば良い。思い知らせてやればよい。

 だから尋ねる。悪魔の囁きを――。


「レイナ……そう簡単に了解してもらっても困るんだよ。君は決断しなければならない。君が【フラゲルム・デイ】を全力解放すれば、君が憧れる勇者や英雄でさえ裸足で逃げ出す存在へと生まれ変わる。

 これは僕の単なる予想だけどさ。君たちの信仰する獣王国の神よりも強くなる可能性さえある。いやきっとそうなる」


「どういう……事だ?」


 フィオンは翔太と関わって耐性がついたのか大して驚かない。ただ恐ろしい程シリアスな表情で僕にその言葉の意図を尋ねてくる。

一方、レイナは期待と不安が入り混じった顔をしていた。


「時間がないから簡単にしか説明できない。

僕の演算ではこの【フラゲルム・デイ】を全力解放すれば、レイナはレベル20まで上がり進化が始まる。

 進化が始まれば【フラゲルム・デイ】と魂レベルで同化することになるんだ。今までは一方的に【フラゲルム・デイ】が力を外から貸してくれた。だが今度は違う。肉体そのものを【フラゲルム・デイ】をより適切に扱えるように最適化させる。

 レイナ、どうする? 少しだけ時間をあげるから、よく考えて」


 フィオンは腕を組んで目を瞑っている。いつもの瞑想かと思ったが、どうやらレイナにすべてを任せるという意思表示らしい。翔太はフィオンに感謝しつつレイナに向き直る。

 レイナは俯いたまま僅かに震えている。不安なのだろう。いつものように頭を撫でてやりたいが、それはできない。こればっかりはレイナが自分で決めなればならない事だからだ。

 しかし、翔太はレイナという人物を完全に見誤っていた。


「やるわ! そんな面白そうなことやるに決まってる!」


 目の中に幾多の星々を煌めかせながら興奮気味に翔太を見つめるレイナ。


「そ、そう……」


 あまりのあっさりとした返答に面食らう翔太。フィオンも呆れたように目を瞑ったまま頭を左右に振っている。


「それにヴァージルさんが拉致されたんでしょう? こんな事で話している場合じゃないわ。私も探したいし……」


 レイナは翔太に意味ありげな視線を送ってくる。


「それは無理だよ。進化が始まれば肉体を作り変えるために活動が急劇に低下するんだ。

 だからフィオンにはその状態のレイナを全力で守ってほしい。レイナにとってこれが生涯で最後の危険だと思うから」


「了解した! レイナは任せろ!」


 フィオンは静かに頷く。フィオンにとっても目に入れても痛くない程可愛がっている姪が全く異なる生物に変化するのだ。不安でないはずがない。

 だがそれ以上に今回のように人間に騙され豚共に攫われる悍ましさの方が遥かに強いのかもしれない。もし、翔太が【フラゲルム・デイ】をレイナに与えなければそうなっていたかもしれないのだから。

 レイナは、ヴァージルを探せない事にかなり不満そうだ。


「それでね。この指輪の使い方わかるよね」


『七つ(セブン)の迷宮(ラビリンス)』をフィオンに渡す。


「ああ、説明書は大雑把には呼んだから使い方は把握しているが」


「じゃあ、フィオンとレイナはこの指輪の中に避難していてよ。

 この指輪、子供の避難の機能もあるらしい。僕の元の世界――地球のイメージを数日間夜寝る前にしてたから、説明書に書かれている事が本当なら、地球の一部が再現されているはずさ。

 第7階層にあるはずだよ。よろしくね!」


 やっとこの指輪――『七つ(セブン)の迷宮(ラビリンス)』を使う機会に恵まれた。今まで実験的にレンガや木材等様々なものを指輪に吸収させ【魔力】と【体力】を込め地球をイメージしてきたが結局、時間がなく翔太は一度も7階層を訪れたことはない。まさか、こんな所でこの指輪を使う事になるとは夢にも思わなかった。

 もっとも、説明書によると設定さえすれば、マーカーで十分らしく指輪まで渡す必要はないが、その設定には時間がかかり、今回はその暇はない。これもヴァージルが攫われることまで想定していなかった。いや、考えたくはなかった翔太のミスだ。今回はあまりにも翔太にミスが多すぎる。


「わ、わかった。第7階層だな。そうさせてもらおう」


もうタイムリミットだ。


「じゃあ僕は一足先に本陣のところへ行くよ。フィオン達は僕から少し離れたところにいて本陣から逃げ出す素振りをみせたものを問答無用に捕えてほしい。十中八九、目の下にキズのある男達だから」


「「「了解ワォーン」」」


「じゃあ、頼んだよ!」


 フィオン、レイナ、ディードは深く頷く。翔太は頷くと2班のある本陣に全速力で疾走する。


(数分ロスした。見たところ捕えられた冒険者は一度、城門前付近に集められ、暫らくしてメガラニカ街内に連れて行かれているようだ。

 ヴァージルさんはあの捕えられている人達の集団にいるんだと思う。捕えられている人達が多すぎるのと位置が悪すぎてこの場所から判別はできないが基本は同じはずだ。つまり、ロスできるのはおそらく後10分程。それですべて片付けなきゃ)



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