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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
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第67話 城門にいる魔物を攻略しよう(3)


 翔太が2班のある本陣に着くと全員が無言で翔太に視線を向けてくる。ある者は口をあんぐりとあけ、ある者は驚愕の表情を浮かべ、ある者は額に大量の汗をかき翔太を凝視する。

 S+相当のオークキングを翔太とレイナは赤子の手をひねるかのように屠ったのだ。冒険者達がこの種類の視線を向けるのもさもありなん。


「ショウタ君、君は一体……?」


 フローラが顔を引き攣らせつつ遠慮がちに聞いてくる。


「すいません。ヴァージルさんが攫われました。もうだらだら遊んでいる場合じゃなくなったんです。この場は僕が仕切らせてもらいます」


 翔太の自分勝手でかつ無礼な言葉に2班のほぼ全員が殺気だつ。これが好機とばかりにボリスが息を吹き返した。


「何と言う無礼な態度、許し難し! 皆必死になってオークの殲滅に尽力を尽くしているというのに。それを言うに事欠いてお前が仕切るだと? 平民風情がこの戦場を? 私は皆さんにこの者の拘束を進言いたします」


 さも嘆かわしいというオーバーリアクションをとりながらボリスが叫ぶ。その言葉に数々の同意の声が上がる。

 フローラも翔太に射るような視線を向けてくる。おそらくボリス達に賛同しているというよりは突然戦場で勝手な行動をとる翔太に不快感を示している。そんな所だろう。

 ボリスが得意気に鼻息を荒くする。


(さてここまでは予想通りの反応だね。時間のロスは3分まで。それ以上かかったら、此処に居る全員を昏倒させる。

 ここで大事なのは、マンガや小説で出てくる最悪のラスボスのようにできる限り圧倒的でかつ理不尽に振舞う事)


「貴方達は1班の冒険者の本陣までの避難をお願いいたします。正直言って僕の仲間の戦闘の邪魔です。あ、それと言っときますけど僕話し合うつもり全くないですから。僕の指示に従えないならここで眠ってもらいます。心配しなくてもいいですよ。全部僕と僕の仲間が処理しておきますから。起きたら全てが終わっています」


 2班のメンバーの怒りは頂点に達したようだ。Sクラスらしい冒険者が翔太に剣をむける。


「貴方睡眠不足みたいですね」


 翔太は高速で近づくとデコピンを十分手加減しながらぶつける。翔太に剣を向けていたSクラスの冒険者は吹き飛び、ゴロゴロと地面を転がりながら十メートルほどでやっと止まった。勿論、気絶してピクリとも動かない。

 翔太の姿が2班の面子には残像すら見なかったに違いない。全員の表情から怒りの感情が消えた。そして沈黙が支配する。


「次、誰か睡眠不足の方は?」


 翔太とレイナがオークキングを屠る場面は冒険者達にとってあまりに非現実的で翔太の強さについて今一実感が持てなかったのかもしれない。

だが、やっと今のデコピンで翔太との埋めようもない力の差を理解したのだろう。誰も異議を唱える者はいなくなった。

 翔太に強い視線を向けて来ていたフローラでさえも顔面蒼白となって下を向いてしまう。


(随分呆気ないね。こんなんでギルド本当にやってけるの? ん?)


 一人だけ異議を唱える者がいる。


「貴様……こんな事をしてタダで済むと思っているのか?」


 ロニーが怒りを押し殺したような声で翔太に確認する。


(やっぱり、この人だけは別格だ。SSクラスでないのもフローラさんがいるから自ら上がらないんだろう。他の者とは明らかに格が違う)


「ただで済む? 冒険者ギルドが僕と本気で戦争するだけの勇気があるとも思えませんけど。それにね! 僕も無茶苦茶怒っているんですよおぉぉぉ――――!」

 

 翔太は悪鬼のごとき形相でボリスと目の下に斜めのキズのある男に視線を向けながら地面に着く右足に力をいれる。


 ミシッ! ミシッ! ミシッ――!  


 地面に蜘蛛状にヒビが入って行く。無意識にばら撒かれた人外の殺気。

 あまりの馬鹿げた現象に地面にへたり込むものすら出てきた。ヘクター達エルフはラシェルを除き恍惚の表情を浮かべていたが、それ以外は皆、蒼ざめてわなわなと震えている。

 そして、殺気を振りまく翔太の視線の先にあるボリスと目の下に斜めのキズのある男に自然に全員の視線が集中していく。


「冒険者ギルドの冒険者の中にはオーク共と繋がっている者がいます。その者はヴァージルさんとレイナをオーク達に売り飛ばそうとしていました。

僕はデリックさんとバリーさんから密命を受けてヴァージルさんの警護にあたっていたんです。

 それなのに、僕にくだらない理由で目を逸らす事を強制し、目を離したその僅かな隙に400匹のオークキングとオークジェネラルが襲撃。

 その直後、ヴァージルさんが戦場から姿を消し、レイナただ一人にオークキング6匹とオークジェネラルが20匹もついていた。これを偶然で片付けろと? だとすれば貴方がたの頭がどうかしてる!!」


(ここまでで約1分、後使える時間は2分だけ。2分経てば、目の下に斜めのキズのある男を昏倒して豚共を殲滅する)


 冒険者達の間で騒めきが漏れる。互いに話し合い始めた。


「人間に豚のスパイですって? 冗談でしょう?」


「でも確かに不自然じゃねえか? レイナ様にいきなり大量のオークキングとオークジェネラルが押し寄せたんだぞ。しかもあの貴族がショウタっていう小僧に因縁をつけて来た途端だ。おまけに同時にヴァージルのお嬢もいなくなったんだろ?」


「そうだ明らかに不自然だ。だが今回の事件自体が既に不自然なんだんぜ。なぜ鉄壁ともいえるメガラニカの城門が豚ごときに占拠された? 

 それは門衛十数人が殺されたからだ。しかもその直後に豚が大軍勢で押し寄せてきた。これは人間側に豚のスパイがいたってことじゃないのか?」


「そんな事はどうでもいい。ヴァージルちゃんが心配だ。俺あの子のファンなんだよ」


「ヴァージルは無事なの? 無事なの? ねえ?」


「知らねえよ。あの貴族野郎にでも聞け? おそらく首謀者か何かだろう?」


 全員の殺気だった視線が翔太からボリスに移る。ボリスは『違う。私は何も知らない』と言いながら泣きそうな顔をしてしゃがみ込んでしまった。目の下に斜めのキズのある男は自分の正体がばれると思ったのだろう。ボリスの傍から離れようと後退っていた。


(低能! 逃げたら自分が犯人だって自白しているようなもんじゃないか……)


 翔太は眼の下に傷のある男が逃げ出すのを待つ。男は翔太達に背を向けて走り出す。それを全員が見たことを確認して動こうとしたがそれには及ばなかった。

フィオンが男の前に立ちはだかったのだ。


「どけ!!」


 目の下にキズのある男は懐からナイフを取り出しフィオンに切りつける。

だがフィオンからすれば素人が刃物を振り回しているに過ぎない。すぐに目の下に傷のある男を取り押さえる。


「お前がレイナを豚共に売り払おうとしてた奴か? ただじゃあすまさねえぞぉ――!!」


 凄まじい殺気を纏いながらフィオンは男の腕をへし折った。ベキと言う嫌な音がして男の絶叫が木霊する。これが決定的だった。2班の全員がボリスと目の下に傷のある男を睨み付け罵声を浴びせる。


(ナイスタイミング、フィオン。これで2分30秒。もう時間は30秒しか使えない)


「大体の事情は把握した。今が正真正銘の緊急事態だという事もな。だからこそ全員で総攻撃を仕掛けるべきなのではないか?」


 アドルフが提案する。皆ヴァージルが大事なのだろう。なんとしても早く助け出したい気持ちが目から読み取れた。


(気持ちは嬉しいけど。それでは意味がない。これからのオーク共の虐殺は身の程をわきまえずレイナを攫おうとした者達に対する報復の意味もある。

次の攻撃をみせつけてレイナを敵にしたことがどれ程愚かな事かをわからせる。そう。骨の髄までね)


「いえ、まだオークキングが40匹以上もいますし、オークジェネラルも300匹以上います。それでは今や壊滅状態となっている一班の冒険者方に多数の犠牲もでるでしょう。

 貴方達二班の冒険者にも少なくない犠牲がでる。豚ごときにこれ以上の犠牲を出せばギルドの名折れですよ」


 アドルフも渋い顔する。翔太の言っている事は全て真実だからだろう。目の前のオークキングは翔太の見たところ討伐推奨クラスがS+、S+以上の冒険者など2班には一握りしかいない。実力では完全にオークキング側に軍配が上がる。

では装備品はどうか。この戦場にいるオークキング達の装備品は【希少級(レア)】が中心であり、【特質級(ユニーク)】を装備しているものすらいる。さらに固体によっては魔法武器らしきものを所持する者もちらほら見られる。

一方冒険者は、Sランク以上の冒険者達でさえ、【上級(ハイ)】が中心であり、【希少級(レア)】を持っているものは稀だ。唯一アドルフだけが【特質級(ユニーク)】を所持しているに過ぎない。魔法武器など一人も持ってはいないだろう。

 つまり、2班の冒険者は実力でも装備品でもオークキングに完全に劣っているということになる。加えて一班の救助をしながら戦う事を強いられるのだ。生還すら絶望的だろう。


「そんな事は分かっている! ではどうすればよいというのだ?」


 アドルフは不愉快そうにムッとしながら翔太に強い眼差しを向ける。


「レイナが一人で殲滅します。その間に僕はヴァージルさんの救助に向かいます」


「馬鹿馬鹿しい! レイナ姫が並はずれた力を有するくらい俺にもわかる。俺ごときには到底及びがつかない領域にいる事もな! 

 だが400匹のオークキングとオークジェネラルを一班の救助を行いながら殲滅するなど我らが王とて不可能だ。出来るはずがない」


「出来ますよ。それに貴方は勘違いしている。

レイナが殲滅するのは、ここの城門前の全てのオークを殲滅するという事です」


「っ!? ……くくく……ふ――ざけるな――!! できるわけなかろう――!!」


 アドルフは声が怒りに震えるのを抑えきれない様子だ。


「もう時間もありませんね。最初に言ったはずです。僕は話し合うつもりはないと――」


 翔太の身体から可視できる程の殺気が纏わりつき大気を震わす。アドルフもSSクラスの冒険者、顔を顰めながらも膝は地面につかなかった。

 だが反発したところで強制的に眠らされるだけだと悟ったのだろう。もう何も意を唱えなかった。


(既に3分が経過した。

 ヴァージルさんの安全見込み時間はあと7分。ここからが僕にとって本当の正念場だ。

 街中までの移動もそれなりの時間がかかる。それに街中でヴァージルさんを探すとなるとさらに多くの時間が必要となるはずだ。時間は一秒たりとも無駄にはできない。だから僕も覚悟を決めなきゃ)


 スキル《雷光》の特殊な使い方。それは《雷光》を一度使ったときから思い付いてはいた。だがあまりにも危険が伴うので実際の使用リストからは除外していたのだ。《雷光》は雷を武器に纏わせてスピードと威力をあげる技である。ではそれを身体に纏わせたらどうなるのか? 理論上、翔太の肉体の能力は著しく上昇するはずだ。

 もっとも翔太には雷耐性があるわけではない。通常雷を生身の人間が纏ったらどうなるか想像はたやすい。特に翔太の雷はバジリスクさえも炭化させるくらいの威力を持つ。だからこれは雷の調節がカギとなる。限界まで威力を抑え体に纏わす。

 《雷光》を限界まで威力を抑えて全身に馴染ませる。電気が全身を駆け巡る。身体の内部を熱い力の塊が荒れ狂う。少しずつ身体が雷を受け入れていく。


(くうっ! やっぱり辛いや。でも何とかなるレベルだ。少なくとも今ヴァージルさんが置かれている状況より楽なのは間違いない。

 この痛みは僕が受けるべき罰なのかもしれない。約束を二度も破った僕への――)


「レイナ、フィオン、後はお願い。僕はヴァージルさんを助けに行くよ」


「わかったわ。任せて!」


 レイナが翔太の言葉に極度に緊張した顔で頷く。


「おう。必ずヴァージルを助け出せよ!」


 フィオンも翔太に子供のような笑顔を向けながら返答する。

フィオンの返答を合図に翔太は動き出す。だが先ほどまでとはそのスピードが全く異なっていた。一瞬で城門付近まで移動する。

 すぐに城門付近におけるオークの位置情報をその出鱈目な視力で把握しようとする。

 雷を纏っているからだろう。さらに視力が良くなり、思考が早くなっているようだ。

 一瞬で可視可能なすべての城門付近のオークの位置情報を把握できた。城門付近のオークと翔太との距離はかなり近い。


(城門におけるオーク83匹の位置情報を完全把握。後の個体は城門の陰に隠れているのか目視不可。もしくはもういないのかもしれないけど……。

 これだけオークに近すぎると《炎弾》は危険だ。使えば人質ごと焼き殺すなんてことも十分あり得る。でも刀で一体ずつ殲滅するのも愚の骨頂だ。

今はとにかく時間が惜しい。《毒吐息》を使おう)


 《毒吐息》を全力で発動させる。翔太の口の前に緑色の毒々しい球体が出現し大きさを増してゆく、その大きさが翔太と同じくらいに達したときその球体の巨大化が止まった。


(どうやらこれが最大らしいね。少し使うのは不安だけど、この近接した距離ならかなりの数が殲滅可能だと思う)


 翔太は位置把握した城門付近のオークへ《毒吐息》をぶつけるよう念じる。

緑色の球体は幾つもの大蛇の緑霧となり敵を求めて超高速で広がっていく。緑霧の大蛇はその咢をオークの喉笛に、腕に、脚に、胴体に、頭に、深々と突き立てる。

 突き刺さった緑霧の大蛇の咢はオークの身体を内部から溶かしていく。数十秒で位置把握した83体のオークは全てドロドロの液体まで溶かされてしまった。


(っ!? たった一回の《毒吐息》のスキル行使で83体のオークを殲滅? なんちゅう出鱈目スキル! 近接戦闘で毒耐性が無いものには無敵を誇るスキルだ。だってあんな霧の蛇なんて僕でも防ぎようないし……。

 兎に角、2分で城門付近のオークの殲滅が完了した。あとは街内からヴァージルさんを見つけるだけ。あと5分は使える。やっとスキルの事を考えられるくらいの精神的余裕がでてきた)


 城門付近のオークは全て《毒吐息》で殲滅した。どうやらオーク共は城門を移動中だったらしく、城門は開けられたままだった。

 城門を壊すことも考慮に入れていた翔太にとっては時間の節約となる嬉しい誤算だ。人質だった人達がオークの溶かされた死体の上で腰を抜かしていた。


(ごめんね。でも今はヴァージルさんを見つけなきゃ)


 罪悪感を覚えつつも人質を尻目に城門を通り過ぎる。


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