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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
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第52話 受付のお姉さんを護衛しよう(1)

 朝の陽ざしと鳥の鳴き声で意識は徐々にはっきりしてくる。目を少しずつ開ける。眩しい光に目を鳴らし、背伸びをして腕時計見るとまだ午前5時だ。それなのにメイドさん達はもう活発に動いている。

 

 暫らく、ヴァージルの部屋の前で昨日買った魔法の本を読んでいた。案の定、全てが曖昧であまり参考にはならなかった。だが新たにわかった事も確かにある。

 魔法には大きく分けて①世界の物理現象を操る一般魔法、②精霊と契約して奇跡を行使する精霊魔法、③失われた魔法――古代魔法、④決して触れてはいけない禁忌魔法の4つがある。①から④に行くほど超常的な奇跡を行使することになるらしい。

 さらに威力について区分があり、それはスキルと全く同じらしい。つまり第1級(初級)、第2級(中級)、第3級(上級)、第4級(最上級)、第5級(伝説級)、第6級(神級)、第7級(超越級)の7つの等級がある。

 翔太の予想通り、魔法は体外の力――世界の力を利用して奇跡を起こす。それが本から一応読み取れた。体内の力を利用するスキルとは根本から異なる。だから取得にも負荷はかからないし発動時の【魔力】の消費だけで事足りる。

 ちなみに、【魔力】はゲームでいうMPのようなもので、休息をとれば回復することを確認できた。ステータスの【魔力】は最大値が表示されている。おそらくHPが【体力】であることも間違いはあるまい。


 翔太が知っている魔法は《火球(ファイアボール)》と《大地の鋭棘(グランドスピン)》だが、いずれも一般魔法の第1級(初級)だったらしい。道理で威力が貧弱なはずである。

 魔法の本の基本骨子は確かに書いてはあった。だがそれは無茶苦茶であり、新しい魔法の取得は他の魔法の発動を実際にみなければ無理であると予想される。エルフという種族は魔法に特化していると聞く。一度冒険者としてエルフの国に行ってみるべきかもしれない。それまで、魔法は封印すべきだ。兎に角今のままでは使えなさすぎる。

 とすれば、翔太が魔法を学んでレイナに教えることは断念するほかない。魔法によるレイナ強化計画は当面不可能と考えるべきだ。


 そうなのだ。今翔太はレイナを強化しようと考えている。今回のレイナの誘拐未遂には心底肝が冷えきった。危なっかしすぎるのだ。レイナが自分の身を守れるよう早く強くなってもらわなければならない。

 フィオンが言うにはレイナは【才能】自体は獣王国でもトップクラスらしい。加えて、レイナの家系は特殊であり、レベルが20に到達するとハイビーストへ進化することが可能。ハイビーストまで進化すれば【才能】の値も完全に人間種を超える。とすればやる事は簡単だ。レベルを20まで上げてさっさと、ハイビーストになってもらう。翔太の見立てでは1か月あればレベル20には到達できると思われる。

 だがパワーレベリング――高レベルプレイヤーの力を借りて、通常より早いスピードで経験値稼ぎをする行為を行うにしても、今のレイナでは翔太が気を緩めた隙に死亡する可能性も否定しきれない。

 今のレイナでも一撃で敵を屠れる程の力が必要なのである。魔法が駄目だった以上、今回の悪巧みが最後の希望なのだ。


               ◆

               ◆

               ◆


 そこまで考えているとヴァージルとオットーも起床し部屋から出て来る。昨日の夜の突き放すような翔太の態度のせいかヴァージルがどこか余所余所しい。

 オットーは爽やかなイケメンスマイルを振りまいている。この笑顔をみれば大抵の女性は確実に頬を染めるだろう。気の弱いものなら卒倒するかもしれない。

 オットー達と共に一階の食堂へ行くとアントンが居たので挨拶をする。


「おはようございます。アントンさん」


「おはようございます。ショウタ殿」


 アントンは翔太に近づくとマジマジと顔を眺める。


「アントンさん?」


 アントンのやや不躾な態度に戸惑いながら尋ねる翔太。


「どうやら、大分お疲れの様子。お湯を浴びてはいかがですか?」


 翔太は自分の身体を改めて確認する。確かに昨日は宿屋キャメロンに泊まらなかったのでお湯浴びをしていない。

 『お湯浴び』とは、地球のお風呂のようなものである。宿屋キャメロンにも1階にその専用の部屋がある。ただし浴槽はなく魔法で温度を維持されたお湯を桶に取りお湯を浴びるだけだ。

フィオン大先生の説明では、このアースガルズ大陸では浴槽に入る習慣はない。異世界人達も幾度となくお風呂を開発し普及させようとしたが習慣という壁に阻まれ断念したらしい。

 自分の身体を嗅いで見ると確かに汗臭い。今はヴァージルの傍にはオットー、アントン、カミラがいる。襲撃されても攫われることは万が一にもあるまい。言葉に甘えるとしよう。そう考え、メイドの一人に案内され、『お湯浴び所』へ向かう。


               ◆

               ◆

               ◆


 『お湯浴び所』はキャメロンとは比べられないくらい豪華な装飾がなされ、床は大理石のような石が一面に張り巡らされている。

メガネをポケットに入れ裸になる。お湯を身体に浴び、絹のタオルでごしごし身体を洗う。サッパリして格別の気分だった。

 身体を拭き、アイテムボックスからエルドベルグで買った予備の服を着る。黒のゆったりとしたズボンに身体に密着するような黒のシャツだ。黒にした理由は翔太の《隠密スキル》の性能を上げるためである。

翔太の髪は長い。水で濡れると顔に張り付いて壮絶に気持ちが悪い。


(もうそろそろ、髪切らなきゃね。でも床屋ってどこにあるんだろ? この世界の人、オシャレな人が多いし、床屋自体はあるはずだよ)


 アイテムボックスから魔物を縛る太い紐を取り出し、細くちぎりそれで髪の毛を後ろで縛る。いつも髪が目の前にあるのでそれがなくなるのは少し寂しい。



 『お湯浴び所』を出ると、案内のメイドが恭しく佇んでいた。貴族でない翔太に対しても客と言うだけでこのような畏まった態度をとるのだ。オットーの家臣は皆礼儀正しく好感が持てる。

案内してくれたメイドは頭を上げ翔太に視線に向ける。その途端、無表情となった。暫らく翔太の顔を息もつかずに呆然と見つめて来る。


「あ、あの……」


「す、すいません。ショウタ様ですよね?」


 メイドは呆然としていたことが恥ずかしいのか頬を赤く染めながら翔太を上目づかいで見つめて来る。


(僕以外に誰がいるっていうのさ……お姉さんなりのジョークなのかな? お姉さん。すいません。僕そんな高等なスキルないです)


「はい。ショウタです」


 素直に答えることにした。メイドのお姉さんは、相変わらず頬を染めたまま1階食堂まで案内してくれる。


(お姉さん……。歩くとき手と足を同時に出してるよ。緊張してるのかな? でも行くときはそんな素振りなかったし……)


 すれ違うメイド達もまるで珍獣でも見るような視線を翔太に向けてくる。とても息苦しい。


(さっきからなんなのさ!)


 一階ロビーへ行くとアントンとすれ違った。アントンも翔太の顔を見たとき、一瞬表情を崩したが、すぐに元に戻る。このときのアントンの表情はメイド達のような驚きの表情ではなく、何やら複数の感情が現れていたように翔太には見えた。もっともほんの一瞬であったから、気のせいかもしれない。

アントンはメイドに翔太は自分が食堂まで案内すると告げる。メイドはどこか残念そうにお辞儀をして翔太の前から姿を消した。


               ◆

               ◆

               ◆


 食堂まで案内される。食堂の入り口には最強メイド――カミラがいたが、やはり未確認生物でも見るかのような不可思議な視線を翔太に向けてくる。


(ま、また~? 僕の顔に変なものついているとか? 寝ている間に落書きされた? いや、いや、いや。そんな馬鹿な。ヴァージルさん、オットーさんとは少し前に部屋の前で会ったけど何も言ってなかったし)


 食堂に入るとヴァージルとオットーは他の者以上の過剰な反応を示した。オットーは食堂のテーブルに並べられたナイフを手に取り翔太に向けつつ、アントンを睨み付ける。ヴァージルもいつでも戦闘に移行できるように身構えている。


「貴様、誰だ? 僕は屋敷に入る事を許可したつもりはないぞ! アントン! ヴァージルさんがいつ襲われるかもしれないこの大事な時期になぜ許可なしに僕の知らない人物を屋敷に入れた?」


 翔太はご無体な扱いに心で血の涙を流しながら、納得いかない一連の扱いの理由を探る。

だが、一向に思い当る節はない。翔太が説明しようと言葉を発しかけるがアントンがそれを手で制した。任せろというジェスチャーだ。


「この方はショウタ殿です」


「「はい?」」


 オットーとヴァージルの声が綺麗にハモり、思わず翔太の顔を二度見する。似たもの夫婦とはまさにこの事である。

翔太であるとわかり、オットーはナイフをテーブルに置き安堵の表情を浮かべる。

一方、ヴァージルは思わず『うわーっ! うわーっ!』と声を上げながらブツブツ呟いている。正直不気味極まりない。


「驚いたな――、ショウタ。そんな顔していたんだな。普段顔がメガネや髪で隠れて見えなかったよ。今のままの方が断然良いぞ」


(メガネ? ああ、そうかメガネを外して髪を縛ったからか。伊達メガネだから外しても違和感ないんだよね。でもそこまで驚く事かな? さほど変わらないと思うけど……)


 このメガネは中学校に入学するときに姉――柚希に貰ったものだ。というより半場強制的に着用を強制されていた。視力が悪くないからと外すと、剣の修行と称した姉の折檻が待っていたのだ。まあこれで姉――柚希がこの世で一番苦手な生き物になったのだが……別に今近くに柚希はいない。メガネを外しても全く問題はないだろう。ただいつもの癖で付けているだけなのだ。


「そんなことないです! ショウタさんは、前の方がいいと思います。いえ、絶対に前の姿に戻すべきです!」


 ヴァージルが必死の形相で声を嵐のように浴びせかけてきた。


(確かに、メガネ外すと、お姉ちゃんだけじゃなく、日葵ちゃんや蒼まで嫌な顔するんだ。僕は普通だと思うんだけど、他の人にはメガネ外したときの僕の顔はお化けかなにかに見えるらしい。

オットーさんは外した方がいいと言ってたけど、滅茶苦茶いい人だからね。僕に気を使ってくれているんだろう)


 翔太はメガネを掛けて髪紐をほどく。オットーは残念そうにしていたが、ヴァージルはほっと溜息を吐いていた。それを見てよほど見るに堪えない顔だったのかと思い陰鬱な気持ちになる翔太。

 だが気を取り直して朝食をとった。すまなそうに翔太を見るヴァージルに疑問を抱きつつ腹に食事を詰め仕込み、ヴァージルをオットーと共に警護しながら冒険者ギルドハウスへ送っていく。




 お読みいただきありがとうございます。

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