第51話 受付嬢のお姉さんを迎えに行こう
5分ほどヴァージルを迎えに行く時間に遅刻してしまった。だが翔太は全く慌ててはいない。理由は簡単。ヴァージルの騎士オットーがギルドハウスに迎えに行く手筈になっているからだ。
ギルドハウスに入ると1階ロビーにヴァージルとオットー、メイド――カミラ、執事――アントンが揃い踏みしていた。
「皆さん。お待たせしてしまい申し訳ありません」
翔太が遅れたことにつき頭を下げるが、ヴァージル以外の3人は特に気にした様子もなかった。
「気にするな。ショウタ。では、行くとしよう」
ヴァージルも何処に向かうのか聞いて来ないので、すでにオットーから説明を受けているものと思われる。
ギルドハウスを出ようとする際、笑顔のヴァージルに靴を踏みつけられる。謝罪もないことから多分故意だろう。徐々にヴァージルがレイナ化しているようで少し不安である。
もっとも、こうした過激なスキンシップはあくまで翔太に対してだけで、オットー達にはこぼれるような笑顔を振りまいていたわけだが。
ギルドハウスを出るとすぐに、スキル《隠密》で姿を消す。
メイド――カミラが顔を顰め、ヴァージルがギョッとした顔で辺りをキョロキョロと見回す。オットーと執事――アントンが驚いていない事から翔太がスキルを発動させたのだと判断したようだ。無言でオットーの隣を歩いていた。
その後オットーの屋敷に到着してもヴァージルの翔太に対する態度だけは戻らなかった。終始笑みを浮かべてはいるが翔太に向けられる視線には強烈な非難が含まれていた。
夕食を3人で食べる。オットーとヴァージルの楽しそうな談話の光景は、まさに恋人同士の団欒であった。
お邪魔虫――翔太はひたすら食べるのに集中していた。別に二人が羨ましかったわけではない。断じてない。
二人前をペロッと平らげて、デザートに手を伸ばすがヴァージルの塵を見るような目により阻まれた。
食後に突然、オットーから心臓に悪いことを聞かれる。
「ショウタは大切な人はいないのか?」
「大切な人ですか? いますよ」
翔太は即答した。別にこれは知られても問題ない情報だ。誰でも大切な人の一人くらいいるだろうから。だがそれを聞いていた二人の反応は激しかった。
「「どんな人だ(です?)」」
二人につめ寄られて答えに困る翔太。
ヴァージルは翔太が異世界人である事を知っている。だがそれを前提として話すと、オットーには限りなく不自然に聞こえるだろう。だから、適当に誤魔化す事にした。
「僕の子供の頃からの親友ですよ」
「それは女性か?」
再びのオットーの地雷質問。翔太は苦笑いをしながら頷く。
「はい。僕と同じ歳の女の子です」
その翔太の答えに二人の反応は対象的となった。オットーはさらに興味がありそうに身を乗り出す。ヴァージルは無表情、無言となりボッソと呟く。
「ヒマリさんですか?」
「はい。ヒマリ・ツキミヤです」
オットーは興味津々で質問を翔太に浴びせて来る。
「ヒマリさんとはどういう人なのだ? 綺麗な人なのか?」
翔太は数日ぶりに日葵の知識を引き出そうとする。これほど長期間顔をみなかったのは、小学生に日葵と知り会ってから初めてかもしれない。少し懐かしくなりながら話し始める。
「そうですね。反則的に綺麗な子ですよ。それでいてそれを全く理解していないから、昔から散々引っ掻き回されました。
誤解されやすい態度をすぐとる子なので、いつも僕がとばっちりを受けていましたね。
優しい子ではあるんですが、依存性も強くて、気が弱いところがあります。
偶々同日に複数の友達に誘われて断り方を真剣に鏡の前で練習していました。見てて、滅茶苦茶気味悪かったですね。
それから――」
「わかりました! もういいです! ショウタさんにとってヒマリさんがどれ程大切なのかはもう十分わかりましたから」
オットーはまだまだ興味津々で聞きたそうだったが、ヴァージルが強い口調で翔太の言葉を遮り、強制的にこの話を終わらせた。
もう何も話す気もない素振りでヴァージルは黙々と夕食を食べ終えて、自分の部屋に戻ってしまった。ヴァージルは現在賊に狙われてシリアスになっているのだろう。そっとしておくのが一番だ。
残されたオットーと日葵やヴァージルについて語り合った。
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夕食を終えオットーに割り当てられた部屋へと戻る。ヴァージルの部屋の両脇にオットーと翔太の部屋がある。
ヴァージルの部屋の中には窓がなく外界との唯一の接点が出入口のドアとなる。翔太はヴァージルの部屋のドアの前の廊下で寝ようと思っていた。
廊下の床に翔太は座り込む。
アイテムボックスから、『七つの迷宮』のコントローラーを取り出し、『7階層』に設定し『認識』のスイッチをONにする。目を閉じながら、体内の【魔力】と【体力】を指輪に流し込む。そして久々に過去の日葵との地球での日常を思いだす。
どうやらオットーに日葵の事を話しているうちに、少し昔が懐かしくなったらしい。あの楽しかった頃が……。
疲れていたのか意識はすぐに刈り取られた。
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数時間後、気配が近づくのを感じ意識を瞬時に覚醒させる。ステータスが上昇するにつれ、このように自分の身体をある程度コントロールできるようになってきていた。
翔太が飛び起きると、ヴァージルが翔太に近づこうとしている光景が視界に飛び込んで来た。彼女は翔太の動きによほど驚いたのか咄嗟に数歩後退している。
ヴァージルは手に毛布を持っている。翔太に毛布をかけてくれようとしたのかもしれない。だがオットーの手前そのような行為はあまりよろしくない。日葵と同じで無意識にこのような他人に誤解させやすい事をしてしまう人なのだ。
「どうしたんです? ヴァージルさん、眠れないんですか? 明日も仕事ですし、目を瞑っているだけでも疲れは結構とれますよ」
翔太は毛布などいらないという雰囲気を醸し出しながらヴァージルに自分の部屋へ戻るように無言の指示を送る。ヴァージルは毛布をギュッと握り、奥歯をかみしめる仕草をすると、大きく頷き部屋へ再び入って行った。
再び翔太は壁に背中をくっつけて眠りにつく。不思議と夢は何も見なかった。




