第53話 支部長に頼みごとをしよう
ヴァージルを送ってギルドハウスまで来る。今日はデリックに頼み事がある。取り次いでもらえないかとヴァージルに伝えると前回とは異なりすぐに了承がもらえた。
ヴァージルに案内されて支部長室へ入る。デリックは応接間のソファーにどっかと座り翔太を迎えてくれた。
今日ヴァージルは支部長室に入らず受付に戻っていた。それほど重要な要件ではない事を翔太がヴァージルに事前に伝えていたからかもしれない。
「ヴァージルの護衛、ちゃんとこなしてくれているようだな。感謝する」
「いえ、とんでもありません。今日はそのことでお願いがあって参りました」
「お願いか。言ってみな」
デリックはヴァージルが支部長室に入らず受付に戻ってしまった事で翔太とヴァージルが喧嘩したとでも思っているのだろう。愉快そうに弾む声で翔太に尋ねてくる。
(このオッサン、完璧に面白がってる。こういうところ、フィオンそっくりなんだよね)
「はい。実は僕、今カヴァデール店のガルトさんと協力して武器を作っているんです。多分言葉では信じてもらえないと思いますので実物をお見せします。え~と、これだ」
こうなることを見越して、翔太はガルトに頼んで一本だけ昨日偶然完成した【伝説級】の【日本刀モドキ】を貰っていた。
机に置く。
この【日本刀モドキ】を見たときのデリックの反応は劇的だった。
普段冷静で眉一つ動かさないデリックが驚きで目を見張っている。デリックは【日本刀モドキ】を手に取り隅々まで注視する。
調べ終わると溜息を吐き【日本刀モドキ】をテーブルの上に置く。
「これは【伝説級】の武器だな? こんなものどうした?」
「僕が作りました」
「馬鹿をいうな。【伝説級】の武器を作るなど……この武器はドワーフ王国のトップクラスの鍛冶師が数百人規模で、伝説上の金属を惜し気もなく使って初めてできる武器だ」
「そう言われましても事実ですし。このガラクタ、よろしければ差し上げます。材料は軟鉄と鋼ですし、昨日の感覚ではこの程度ならいくらでも作れそうですので」
デリックは頬を引き攣らせ、翔太を注意深く観察する。嘘を言っていない事が分かったのだろう。深いため息を吐いて翔太に【日本刀モドキ】を渡してきた。
「いや、その必要はない。しかし……【伝説級】を作るか。それもいとも簡単に。まあいい。それでお前の頼みとは?」
「はい。今日、ガルトさんとの武器の作成が山場を迎えます。それで今晩だけでいいんです。ヴァージルさんの護衛を代わってもらえないでしょうか?」
「…………」
デリックは最初のニヤけた雰囲気とは打って変って真剣な顔で腕を組み思考の世界に埋没していた。
「あの……」
デリックは翔太の言葉にやっと反応した。
「それは今でなければならないのか?」
この問も予想していた事だ。だから事前に答えも用意してある。
「はい。現在レイナも賊に狙われています。彼女危なっかしくて心配なので護身用にそれなりの武器を作ってあげたいんです」
「そうか。そういう理由なら仕方がないな。だがショウタの代わりが勤まる者は限られてくる。急遽に探すのは無理か……仕方ない今日は俺がヴァージルの護衛を引き受けよう。元々翔太がいなければ俺がやるはずだったんだ。何の問題もない」
「ありがとうございます」
翔太は深く頭を下げる。
「いや、礼を言うには及ばんよ。むしろお前もレイナを守りたいだろうにすまんな」
「いえ、ヴァージルさんも僕にとっては大切な友達ですから」
「そう言ってもらえると助かる。それでお前達はどこに泊まってるんだ?」
「オットーさんのところです。今オットーさん、ヴァージルさんとお付き合いしているらしいので、ご協力をお願いいたしました」
「オ、オットー? そいつはもしかして金髪の女泣かせの優男か?」
「はい。そうだと思います」
デリックは頭を抱えて唸ってしまった。完全に想定外の事態らしい。
「……俺、別に護衛いらねえよなぁ。あの爺さんいるし……」
ブツブツ呟くデリックに時間の惜しい翔太は話を戻すように促す。
「デリックさん?」
「ああ、すまん。すまん。わかった。今晩のヴァージルの護衛は任せろ。俺が責任をもって警護する」
デリックに礼を言い急いで支部長室を出ようとする。今日は時間との勝負なのだ。
翔太が部屋を出るまでデリックはアントンの事についてブツブツ口を動かしていた。
デリックにも苦手なものがあるらしい。デリックに南無と手を合わせながら支部長室を後にする。




