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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第二部 建国と変貌編
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第173話 友との別れ

 足音が迫ってくる。一応コマンダーだったモノを観察する。

 これでも一応生きている。とは言えかなりギリギリだ。これ以上やれば確実に死ぬ。それはコマンダーに救いを与える事に等しい。だから今はこれで止めておく。

 少年少女達に満面の笑みを向けると、全員が涙と鼻水を垂れ流しながら命乞いをし始めた。


 扉がバンッと開かれ少年少女達の救世主が多数現れる。全員この部屋で起こった出来事が読み取れず面食らっているようだ。

 もっとも、殆どの者が翔太に剣を向けていることからも、本質は理解しているのだろう。


「お前、ショウタか?」


 デリックが躊躇いがちに尋ねて来る。


「あ? 見てわからない?」


 今の翔太は回復スキルにより、ゾンビのような状態らから逃れている。一目見てわかることを一々聞くな。煩わしいことこの上ない。

 ともあれボチボチ潮時だ。さっさとカサンドラを連れてこの場をとんずらしよう。


 カサンドラを抱き上げると、デリックとアゼルに視線を向ける。

 二人とも僕の顔を見た瞬間、顔を強張らせ、体を硬直してしまう。


「デリック、もう僕は君らの貴族ごっこには付き合わない。

 あとはあの夜の無能な甘ちゃんにでも頼むんだね」


 僕の言葉にデリックは暫し、目を大きく見開き口をパクパクさせていたが、言葉を口から絞り出す。


「この部屋で何があった?」


「そいつらに僕の大好きな奴が奪われ、大事な奴が殺された。それだけだよ」


 僕は部屋の片隅で震えている少年少女に、次いで冒険者達に救助された意識を失ったままのヴァージルとオットーに視線を向ける。


「ヴァ、ヴァージルがか? そんなの絶対あり得ん!」


 まただ。顔が自然に歪むのがわかる。以前翔太はヴァージルを憎むに憎んで、今の翔太にバトンを渡したんだろう。ヴァージルの名前を出されるだけでゲロが吐きそうな嫌悪感と憎悪で気が狂いそうになる。


「嘘だと思うなら、そこで震えているゴミ虫にでも聞きなよ?」


「「「「「「……」」」」」」


 部屋中の視線が少年、少女に集中する。


「デリック様、この悪魔憑きの家畜を早く殺してください。此奴はタビタを――」


 保護された赤色ドレスの少女――ヘルゲが喚きたてる。

 馬鹿だろうか? 田宮翔太が殺すことを拒絶したのはあくまでヴァージルとオットーだけだ。ヘルゲを殺すことに何ら躊躇いはない。無造作にノコギリを投げつけるが、アゼルに掴み取られる。

 残念だ。非常に残念だが、アゼルの本質は翔太にもわかっている。今の此奴(・・・・)はショウに近い。即ち太陽に照らされた光の下で生きるもの。血と闇に生きる翔太とは決して分かり合うことなどできない。


「餓鬼、お前……」


 ギョッとして思わず目を見張る。てっきり周囲の奴らと同様、翔太に怒りを向けて来るのかと思っていたのだ。しかし、翔太に向けられるアゼルの瞳にあったのは明日から世界が消えるような悲痛な感情。

……そういえば田宮翔太があの心象世界で眠りにつく最後の瞬間、名を呼んだのがアゼルだった。理由は不明だが以前の翔太はアゼルに親友にも似た感情を抱いていた。全てに裏切られ続けた翔太にとってまさに(けが)されていない残された大切な宝物だったのだろう。

 甘い奴だ。どうしょうもなく甘い奴だ。だからこそ、アゼルにはその思いだけは伝えようと思う。そしてそれは今の田宮翔太の義務であり、アゼルとの決定的な決別の瞬間となる。

 アゼルに向き直り、その揺れ動く瞳を見つめる。


「『アゼル、ばいばい』。これが田宮翔太の最後の言葉だよ」


 アゼルは暫し呆けたような表情で翔太を見ていたが、ドサリと床に膝を付き崩れ落ちる。

 アゼルの脇を通り過ぎるとき、アゼルの目尻に涙が滲んでいるのが見えたような気がした。


               ◆

               ◆

               ◆


 部屋を出てイルザが連れて行かれた部屋へ行く。イルザも翔太のようにゾンビ化していると思ってはいたが、意外や意外。自爆した最初の傷以外全くの無傷だった。この館の趣旨はいわば『神の意思』のサークル活動。ストレスが溜まった少年少女のストレス解消のための手段。もしくは平民の犯罪者を傷つける事で厄を払うお祓いのようなもの。だとすれば、コマンダー達ホストが勝手に傷つけるのは本来の趣旨に反する。翔太の場合はあまりに痛みを感じず生意気だからコマンダーがムキになっただけなのだろう。そして、その生意気な翔太のおかげで奴らの注意の全てが翔太に集中していたのだ。

 イルザの両手、両足の錠を引きちぎると、肩に担ぐ。

 イルザは貴族の手先となって翔太を嵌めようとした人物だ。本来、イルザを助ける義理など今の翔太にはない。しかし、彼女の救助は変質前の翔太が望んだ数少ない願望。見捨てることはできない。

 カサンドラとイルザを両手に抱えて扉から廊下へ出ると窓際に移動し、ガラスを割って外へ出る。

外はインクをぶちまけたように夜が黒く染まっていた。

 一度、宿屋キャメロンに戻らなければならない。あそこには幾つか、残してきた荷物がある。デリック達がどのような行動に出るかはわからないが既に翔太があの貴族の餓鬼を殺していることくらい餓鬼共から聞いているだろう。

 正直、貴族でもトップクラスに信じられたヴァージルとオットーがあれだ。貴族は今後蚤の毛ほど信じない方がよかろう。デリック達は翔太がニュクスとアイテールの王だと勘違いしている節がある。ならば、正面切って報復攻撃はしてはこないとは思う。

 だがあの場所は『神の意思』の連中にとって他者に見せたくはない場所のはず。今後、翔太の口を塞ぐため貴族達の闇討ちは十分考えられる。今回のように進化で身動き一つ取れず再び拷問など御免被る。もう今晩以降キャメロンには戻らない方が吉だろう。最後の自室という訳だ。屋根の上を高速で移動し、窓から宿屋キャメロンの自室へ入る。


お読みいただきありがとうございます。

二部ラストまであと数話です。よろしくお願いいたします。

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