第20話 後始末はマジで面倒くせぇ! (4)
次は炎鬼達の【才能】値の上昇と拠点の件だ。
拠点の件は実に簡単な理由だ。炎鬼は偶々深域の絶壁を根城にしていたから助かったが、ほとんどの種族はショウとアゼルの喧嘩で根城が吹き飛んでしまった。つまり、住居がないわけだ。加えて、ショウの配下に入ったのだ。他種族との密接な交流の場も必要であろう。そこで、ショウの配下の魔物が住む拠点が是非とも必要となったのである。加えて、この魔の森中域は魔物達の聖地らしく、できる限り離れたくはないという事だ。それを聞いてやるのも主の役目と考える。
ショウは、この問題を『七つの迷宮』で処理しようと考えている。1~3階層は管理者がおらずまだ未使用なのだ。『七つの迷宮』の実質的な管理者であるテューポに頼むことでクリアできるはずだ。
「テューポ出てきな!」
例のごとく眩い光につつまれ龍執事――テューポが登場する。
「主よ。お呼び頂き光栄にございます」
臣下の礼をとるテューポ。昼間テューポに会った事がある炎鬼、オストロス、白猿王は耐性ができたのか、額に冷たい汗を垂らすだけで済んだ。だが、ミクトラン、カルラはそうはいなかった。予想に反せず、跪いて震えるという昼間のオストロス達と全く同じような状態となる。
もっともリリスは、テューポを見て酔ったようにうっとりと赤い表情を浮かべていた。一々リアクションが読みにくい奴である。
「テューポ、此奴等の根城、『七つの迷宮』でどうにかならないか?」
「主よ。可能でございます。今、1階層が開いておりますのでそこを利用するといたします。それでどのようになさいますか?」
「此奴等にとってこの魔森は特別らしい。できる限り、魔の森を再現させる方向で頼む」
「では、指輪に魔の森の情報を吸収していただけますかな。認識は私の方で済ませておきましょう」
(ビンゴ! テューポは指輪の機能を実質的に支配している。そのくらい出来ると思っていた。これで面倒事が一つ減る。後は――)
「わかった。指輪の基本情報の吸収は直ぐにでも行おう。認識と構築は任せた」
「承りました。主よ。それで、この者達の住まいの方はどういたしましょう? ここの場所を忠実に構成した方がよろしいので?」
炎鬼達はショウとテューポが何を言っているのか全く理解できないのだろう。終始ポカーンとしていた。
「いや、根城自体は現代地球のような方向でいいんじゃないか? 根城は7階層の情報で構成しな!」
「かしこまりました。そのように取り計らいましょう。
ときに主よ。私から提案があるのですがよろしいですかな?」
テューポから提案というのも珍しい。
まださほど関わってはいないが、テューポは冷静に見えて、翔太やショウが絡むと無茶苦茶する奴だ。もしかすると、テューポ達召喚された者も召喚者――翔太の思考パターンに影響を受けるのかもしれない。
「ああ。構わねぇよ。言ってみな!」
嫌な予感しかしないが、聞くだけならただであろう。もっとも、聞いて引き返せるのかはまた別の問題であるのだが……。
「ありがとうございます。では僭越ながら、先刻の主の戦闘で、ここら一帯が丁度何もなくなりました。そこで、この場所に国を作ってみたらどうか。そう愚考いたします」
「く、国だぁ? 国民はどうすんだよ? 民がいなければそもそも国など作れねぇだろう?」
(嫌な予感がする。嫌な予感がする。嫌な予感がする。これはマジでヤバイやつだ。翔太と同様出鱈目な臭いがする)
「いるではありませんか? 中域は魔物の楽園なのでしょう? 中域に住まう魔物には理性がある様子。彼らを民として構成すれば何ら問題はありますまい」
テューポの意図がサッパリ読めない。テューポは翔太とショウの事だけしか考えていない。ショウ達以外などどうでもよい。そういう思考の持ち主だ。よって、『七つの迷宮』を必要以上に聖域化などしない。だから、テューポの意図が聖域である『七つの迷宮』に住まう住人を制限したいなどという単純な理由ではないのは間違いない。
加えて、そのような理由なら態々国を作れと言う意味が分からない。炎鬼達に『七つの迷宮』の住民を限るのは他の方法でも達成可能なのだから。聞いても決して教えてはくれまい。はぐらかされるだけだ。わかっているのは、テューポが翔太とショウにそれが最適だと判断したという事くらいだ。
否定したいところではあるが、確かに面白い試みであることも確かだ。テューポが進言したことだ。翔太とショウの不利になるような事であることは決してあるまい。
「炎鬼、この中域に住まう者で、人間以上の理性を持つ者はどれほどいる?」
炎鬼はショウとテューポの話について行けないらしく、ただ問われるままに答える。
「へい。中域に住まうものなら、力の優劣を度外視すれば、9割以上が人間以上の高い理性をもちまさぁ。ただ、言葉を交わせないもの等は多いと思いやすが……ところで、国というのは、一体……」
炎鬼もショウ達の荒唐無稽な話について行こうと必死らしく、尋ねて来るが、ショウ達はそれを無視して話を続ける。
「ほら見ろ、言葉を交わせないなら意味ねぇじゃねぇか? 国など無理に決まってんだろ」
ショウの言葉にいつも無表情なテューポの口角が吊り上がる。あまりの豹変ぶりにショウは背筋に冷たい氷を押し付けられたような強烈な悪寒を味わう。そのテューポの笑顔には自重という言葉など皆無であったからだ。
「主よ。問題ありません。それが、アドルフの能力向上を達成する鍵ともなるのです」
アドルフを『様』付けで呼ばない時点で、もう籠絡は完了しているのだろう。アドルフは忠実な配下の一人という訳だ。
「能力向上の鍵……それは――」
テューポに言われずとも、ショウもそれは最初に思いついていた。ただ、あまりにヤバすぎて使おうという決心がつかなかっただけだ。確かに、【才能】の値を上げるよい方法がなければ、炎鬼達に選ばせる事も視野に入れていた。だが――。
「はい。『眷属契約』でございます」
『眷属契約』。この契約のヤバさは、過去の記憶をほとんど失ったショウでさえも覚えていたくらいだ。禁忌中の禁忌だろう。
この頃、気付いたことがある。ショウが覚えているのは、ショウが過去に最重要だと考えていたことだけだ。おそらく、【活神】で三欲を沈めても10%の確率で狂うという事実を覚えてなかったのは過去の田宮翔太が大して重要と考えていなかったからだと思われる。過去の田宮翔太は他人がどうなろうと知った事ではない。そんな人物らしかった。要は、正真正銘の屑野郎だったということだ。
その過去の屑な田宮翔太ですら『眷属契約』のヤバさは覚えていた。エミーとケトの行ったような単なる『主従の契約』ではない。この『眷属契約』は『魂の牢獄』ともいわれる最悪の契約。主が魂を吸収し、融合し、その魂の一部を眷属に与える。つまり、魂を主に人質にとられ、永遠に服従を誓わされる契約だ。一度結べばその契約により主に逆らう事などできはしない。主が死ぬまで永遠の忠誠を誓わせられる。しかも、主の魂が滅びれば、眷属も滅びるというおまけつきだ。だから、この契約は寿命の概念がそもそもない高位の神々や悪魔のみが行ってよい契約となっている。
ショウなどの人間は、寿命がせいぜい100年程しかない。この寿命に配下をつき合わせて良いとはどうしても思えなかった。
「それは、できねぇ。俺の寿命は100年足らず、此奴等の寿命はその数倍、へたすりゃ、数十倍はある。それは此奴等に死ねと言ってるようなもんだ」
過去の田宮翔太ならば問答無用で契約を結んでいたのだろうが、如何せん、今は田宮翔太ではなく、ショウだ。最終手段として炎鬼達に選ばせようとも思ってはいたが、いざとなると、例え炎鬼達が望んでもすることは出来ない。特に、自ら配下になりたいという者に眷属契約を結ぶなど今のショウには無理な話だ。甘いと言われようと無理なものはしょうがない。
本来、ショウはラシェルを守るために田宮翔太が生み出した『最悪』のはずだ。これが『最悪』の選択とはとても思えない。これなら昔の田宮翔太の方がよほど『最悪』だろう。もしかしたら、微妙にその翔太とショウの役割分担には綻びが見られるのかもしれない。それならば、ショウが生み出された理由は一体何なのだろうか。
思考が僅かにそれたところで、テューポの言葉で引き戻される。
「主はいくつか勘違いをなされていらっしゃる」
「勘違いだと?」
この『眷属契約』の記憶には誤りはないはずだ。怪訝な顔で聞き返す。
「はい。主の寿命は100年程度ではありません。むしろ、寿命があるとはとても思えません。それはこのテューポと主との魂にある程度の繋がりがあるからわかることです」
(っ!? 俺の寿命が100年じゃねぇ? 寿命がねぇ? おい、おい、さすがにそれはねぇだろう!)
ショウは咄嗟に否定しようとテューポを見るが、その顔は極めて真剣であり、冗談を言っている様子など皆無だ。まあ、テューポが冗談を言う姿など想像もできないが……間違いなく本心からの言葉と判断してよいと思われる。
(……嘘なわけねぇか……テューポはこと俺と翔太については純粋だ。絶対に嘘などつかねぇ。
まったく、一体俺は過去で何をしたんだ? 比喩ではなく本当に人間止めちまってたとはな――)
そうだ。ショウの寿命が100年ではない。それはもはやショウが人間ではない事を意味する。生まれたとき田宮翔太は確かに人間であった。それに間違いはない。その後何かがあって、人間を止めた。そう考えるべきだろう。その何かがあったところは特に霧がかかったように何もわからないわけであるが……。
兎も角、それならば眷属契約を結ぶ事に不都合はない。意思の絶対服従の制約は、儀式契約も組み合わせる事で何とかなる。とはいえ、眷属契約は禁忌の契約、それほど甘いものではあるまい。結べば、二度とショウには逆らう事はできなくなる。だが、その程度なら選択を炎鬼にゆだねても良いと思われる。
「わかった。それなら『眷属契約』を結んでも問題はない。すぐにでもとりかかろう」
時間もない。もうじき、翔太が起きる。話を進めよう。炎鬼達に向かって最後の問いかけをしようとするがテューポに遮られる。
「主のもう一つの勘違いでございます。眷属契約を結ぶのは主ではありません。私か、私の配下の者となります」
「テメエが眷属契約を結ぶ?」
「左様でございます」
テューポは一面に嫌な笑みを張り付かせている。碌な事を考えていないのが丸わかりだ。
(此奴。また厄介な事を考えてやがるな……だが、此奴が眷属契約を結べば、間違いなく炎鬼達の意思の絶対服従は解除されねぇ。
テューポは俺と翔太以外には実に冷静だ。そして、それは冷酷である事も意味する。此奴にとって俺達以外はどうなろうと知った事ではない。そして、召喚された者が召喚者の思考パターンに影響されるとすれば、これも俺の――田宮翔太の本質か……)
「ワタクシは是非、ショウ様と契約を結びたいと存じます」
呆気にとられている炎鬼達をよそに、リリスが前に進み出て進言する。リリスは今まで浮かべていた恍惚の表情を消し、決死の形相となっている。
無論、テューポの凄まじい威圧を含んだ視線がリリスに向けられる。流石のリリスも苦しそうに顔を歪めたが、震えながらも、ショウに頭を垂れる。
「心配せんでも、テメエらは俺が契約する。テメエらの部下までは無理だが、それは大目に見な」
「主!! 御考え直しください!」
テューポから非難のたっぷり含んだ言葉が飛ぶ。
「わりいな、テューポ、もう決めたことだ。眷属契約の事、教えてくれて礼をいう」
ショウの言葉にテューポは歯軋りをしながらも、それ以上異を唱える事はしなかった。ショウが一度決めたことは決して覆さない事がわかっているからかもしれない。威圧を当たりに撒き散らしながらも、後ろに控える。
ショウは炎鬼達に視線を向け、口を開いた。
「テメエらに選ばせてやる。この契約は『眷属契約』。別名、『魂の牢獄』。結べば俺と魂レベルで同化し、死ぬまで、いや、死んでも解放されることはない。今後、この俺と共に生きる事が強制される。俺に寿命がない以上無限にな! 無論、テメエらの意思の絶対服従は解除させてもらう。俺は、ロボットなどほしくはねぇしよぉ。
さあ選びなぁ~~。テメエらはまだ引き返せる。俺も中域の怪物を殺していねぇ。テメエらを縛るもんは何もねぇ」
今回の選択は前回の配下になるか否かの選択とは重みが違う。配下になるか否かは、ベルゼブブを倒せば従う義務はなくなり解放される。今回の眷属契約は永続の契約だ。ショウに寿命がない以上、ショウが滅びるまで付き合わなければならない。それはある意味で地獄だ。死とは解放でもあるのだから。そう簡単に出せる答えではないだろう。そう思っていた。しかし――。
「俺っちはお願いいたしやす。俺っちは端っから貴方に生涯仕えてぇと考えていやした。今仰られた話しではそれは何ら変わりはないのでありんしょう? それなら答えは決まっておりんす」
炎鬼は躊躇いなど欠片もなく、ショウに視線を送る。そして、その目には強い決意に満ちていた。そして、他の魔物も同じだった。
「同じく。俺もそうさせて頂きたい」
「儂もですじゃ」
オストロスと白猿王が応える。それに遅れをとるまいと、ミクトラン、カルラ、リリスが肯定する。
「私もです」
「アタイも、アタイも」
ショウはあまりの目の前の馬鹿達に呆れを通り越して笑いが込み上げて来ていた。怖いはずだ。恐ろしいはずだ。不安なはずだ。自らの魂が良く分からない存在に握られるのだから。それなのに、こうも簡単に肯定する。此奴等は真の大馬鹿者だろう。
だが、ショウがほしいのは小利口だがすぐ裏切るような奴ではない。馬鹿でも最後までショウの子供のような意地に付き合ってくれる奴らだ。
もう、これ以上の言葉は無用だし無粋だ。早速、行動に移したい。だが、実際に行動に移す前に、やらなければならない事がある。この眷属契約の成功率を高める努力だ。成功率を高める一番の方法は等級を上げる事だろう。
そして、今後スキル《契約》は何度も使用する事が予想される。このスキル《契約》自体の能力の把握をする事も極めて有用だと思われる。テューポに実験台となってもらおう。スキル《契約》を発動し、羊皮紙を出す。内容を『田宮翔太がテューポに10G与える』という内容を書き込み、効力を発生させる。眩い光がショウとテューポを包み、ショウは機械人形のようにアイテムボックスから10Gを取り出しテューポに与えた。
(よし、成功だ。テューポを相手にスキル《契約》の実験をしつつ、第8級――深淵系にしてしまおう)
その後、テューポを相手に様々な条件でスキル《契約》を発動し、第8級――深淵系まで等級を上げた。




