第19話 後始末はマジで面倒くせぇ! (3)
魔の森浅域は魔物で溢れ返ったままだ。魔物の目に光が戻っているが、互いに殺し合いをする気力まではわかないようだ。絡まれても面倒だ。《隠密》スキルを発動させながら進む。
荒野化した無人の中域を進み、炎鬼の根城へ行く。炎鬼の部下が2体見張りをしていたが、ショウを見るやいなや、震えながらも跪く。嫌な予感がショウの全身を駆け巡るが、もう後の祭りだろう。
恭しく炎鬼の部下に案内され、前回連れ来られた応接間の様な部屋に連れてこられる。
部屋の中には、炎鬼、オストロス、白猿王の他に、3体の魔物が跪いていた。
一体は、絢爛豪華な紫色のローブを着こみ、杖を右手に持つ骸骨である。骸骨の目の奥には真っ赤な光が灯り、独特の威圧感を醸し出している。着ているローブも禍々しいオーラを周囲に撒き散らしている。
(この骸骨野郎もかなり強ぇな。炎鬼並の力持ってやがる。本業は魔法使いという所か)
ショウは骸骨の隣に視線を移す。背中に赤色の翼を備えた美しい少女の姿の魔物が視線の先にはいた。少女は、青の半ズボンにヒラヒラした白と青から成る上着を着用しており、全身が僅かに金色に輝いているのも加わり、その美しさをさらに引き立てている。
(此奴も強ぇ。オストロス、白猿王とほぼ互角だろう。この女、おそらく鳥系の魔物か。翼があるしなぁ。それにしても、鬼、犬、猿、鳥って、俺ぁ桃太郎かよ!!)
そんな阿呆な突っ込みを自分に入れならが視線をさらに移す。エルフのような長い耳に、2つの角、蝙蝠のような羽を持つ黒髪の美しい女性が跪いている。女性は黒色の水着のような肌を露出させている官能的な服を着ており、長い黒髪に殊の外似合っている。
(なんだぁ? このエロイ女は? 一応……魔物なのか? 角と羽根がなければ人間種と特別つかねぇぞ。
此奴も強ぇ。オストロスと白猿王程度の力持ってやがる。流石に魔の森ってところは異常だろう。この戦力、部下共も合わせれば魔軍に匹敵するんじゃねぇか? 少し調べる必要はありそうだな)
跪き視線を落としていた炎鬼がショウに視線を向けてきた。このような形式ばった対応が苦手なショウは僅かに顔を顰める。そんなショウに構わず炎鬼はゆっくりと話し始めた。
「ショウ様、この度は中域の怪物の討伐にご尽力くださりありがとうございやした。我等中域の魔物一同深く感謝いたしやす」
「ああ。もう中域の怪物は魔の森中域にはでねぇよ」
「「「「「…………」」」」」
炎鬼達一同から安堵の溜息が漏れる。炎鬼達にはどうあがいても中域の怪物は倒せない。再び、狩られる日々に逆戻りする事がなくなったのだ。炎鬼達の安堵は想像を絶するに違いあるまい。
(さて、アゼルが配下になるかもしれん事をなんと説明するか。どうせベルゼブブとの戦闘でアゼルの覇気を見れば黙っていてもばれるだろう。そこで裏切られても厄介だ。ここで話してそれでも部下になりてぇ奴だけ部下に加えるべきだな。
まったく、実際にはまだアゼルが配下になるかもわからねぇのによ。アゼル野郎一々面倒事持ち込みやがって――)
「そこでだ。テメエらに詫びにゃあならんことがある」
「詫びと仰られますと?」
炎鬼は顔色一つ変えずにショウ言葉を待つ。その炎鬼の目にはショウに対する疑念など欠片もなかった。やりにくい事この上ない。
「中域の怪物は倒した。それは間違いねぇ。だが……」
「…………」
炎鬼はショウの言葉を黙って待つ。他の魔物達もすべて炎鬼に任せる様子だ。微動だにしない。この様子にショウの言葉は少しばかり重くなる。罪悪感などという大層なものを持っているはずもないショウはその自らの反応に若干戸惑いつつも話を続ける。
「中域の怪物は倒したが、死んでねぇ。奴ぁ俺の配下になった」
「「「「「っ!!?」」」」」
魔の森中域の同じ魔物を無差別に狩っていたアゼルを配下にしたのだ。てっきり、怒りに顔を歪めると思っていた。だが、そのショウの予想は見事に裏切られる。
炎鬼達は満面に喜色を湛え、お互いの顔を見ながら何やら話し合い、頷き合っていた。
「あの、超常的な中域の怪物を配下に加えになられるとは……やはりこの御方は――」
「間違いあるまいて。そのような事、世界広といえど、この御方にしかできんじゃろ」
「全くでさぁ。我等は本当に幸運――」
これ以上、身体中痒くなる事態に陥るのは御免被る。炎鬼の言葉をショウは即座に遮った。
「ところで、此奴等は?」
「私は死霊王――ミクトランと申します。どうぞお見知りおきを」
そのショウの言葉に即座に骸骨が反応した。チビ鳥女の『あ~抜け駆け!』という叫び声が聞こえるが、無視して話が進むらしい。
次にエロ黒髪女が一歩前に出る。
「ワタクシは、幻魔王――リリスです。主様、よろしくお願いいたしますね」
ふてくされた顔で、チビ鳥女が自己紹介を始める。
「アタイは、ガルーダの王――カルラといいます。よろしくお願いしましゅ――」
どうやら、緊張で舌を噛んだらしい。改まって挨拶するのが苦手な質なのだろう。そんな様子になぜかノスタルジーを感じ、いつの間にか、カルラの頭を撫でていた。完全に無意識からの行動である。これも翔太の影響であろうか? 良く分からないが、途轍もなく胸糞が悪い。自分自身に吐き気がする。
このショウの行為にチビ鳥女――カルラは紅を散らしたように顔が赤くなった。これを幻魔王――リリスが睨み付けるという翔太と同様の状態になり、猛烈な自己嫌悪に陥りながらも話を続ける。
「それでテメエらも配下希望か?」
リリスが主様と言った事からもこれは明らかであるが、一応尋ねてみる。
「「「はい。ぜひ主(様)のお役に立ちたいと存じます」」」
ショウは頭に右手をあてて顔を顰める。無論強い配下は欲しい。だが、今回は敵が敵だ。中途半端な気持ちの者を配下に加えて足手纏いになってもらっても困る。
「テメエらわかってんのか? 俺の相手は魔神だぞ? そこらへんに出没する悪魔共とは文字通り格が違う」
『魔神』との言葉にミクトラン、リリス、カルラは一瞬ビクッと身体を強張らせるが、すぐに強烈な視線をショウに向けて来た。
「炎鬼から事情を聞いておりますので十分にわかっております。その上で貴方様にお仕えしたいのです」
ミクトランがリリスとカルラを代表し、ショウの言葉に返答する。
「理由は?」
「先ほど、貴方様が魔の森中域でお示しになられたお力故です。
私は元人間。生前から魔道を極めんと励み、それに至れず、リッチとなりました。しかし、未だにその尻尾さえも掴めず、諦めかけていたところでした。ですが、貴方様のお傍に控える事が出来れば、魔道の極地に足を踏み込む事も可能。そう愚考します。
それにすでに魔道にすべてを捧げた身。今更滅びなど恐れましょうか」
今の話が偽りでないなら、ミクトランは魔道を極める事以外、全ての興味がないのだろう。自らの滅びすらミクトランには些細な事なのだ。とすれば、力を与えてやればそれなりの働きをみせるはずである。実力もある事から配下に加わる事を否定する理由はない。
ミクトランにチビ鳥女――カルラが今度こそ遅れは取るまいと発言する。
「アタイも同じです。お示しなられたお力はアタイたちの種族を震え上がらせましたが、同時に強烈な崇敬の念も覚えました。あのお力をお示しになられる方にお仕えしたい。それが、アタイの種族全員の意思です。
それにショウ様……優しいし……」
顔がぽっと桜色になりながら話すカルラを見て、先ほど痴態を思い出し、自らの行為に対する嫌悪感が襲う。見なかった事にし、ショウは考える。
カルラ達は中域でのあの戦闘を見て配下に加わる事を決心したらしい。とすれば、炎鬼に魔神との戦闘を聞いている以上、あの戦闘と同程度の衝突が未来にあることも十分覚悟ができているはずだ。ならば、配下に加わる事を許可しても問題はない。
リリスは先を越したカルラに刺すような視線を向けながら、すぐにショウに向き直り、話始める。
「ワタクシは個人的にショウ様にお仕えしたくこの場所に訪れました」
(個人的? 種族の意思じゃねぇということか? まあ、どうでもよいことではあるが……)
「個人的という事は種族全体の意思じゃあねぇって事でいいのか?」
リリスはゆっくり首を横に振る。
「いえ、種族全体の了解はとっております。あくまで今日ここに来たのはワタクシの意思という事を知っていただきたかったからです」
「わりいな。俺にはテメエが言いてぇことがよくわからねぇ。何がいいてぇ?」
「それは、ワタクシが主様をお慕い申し上げているからです」
リリスのふっくら艶のある透き通る声が室内に美しく響く。
「ああ? 俺はテメエとは初対面のはずだが?」
適当な事を言う奴は好きではないし、配下にもしたくはない。それは必要最低限の条件だ。ショウの声に怒気が籠っているのに気付いてはいるのだろうが、それにまったく動じもせず、リリスは恍惚したような熱をたっぷり含んだ目つきでショウを見つめる。
「実際に会った回数など問題ではありませんわ。貴方のお姿を一度でも見れば十分でございます。あの真紅のオーラ、思い出すだけで、全身がしびれるような幸福感に満たされますぅぅ」
リリスは、頬を紅色に染め遠くの音楽に聞き入っているような心持ちでうっとりしている。だが、ショウは今のリリスの言葉に少なからず驚いていた。
(真紅のオーラ? 此奴、あれが俺のオーラだとわかったのか? 確かに、上空にはアゼルのオーラと俺のオーラしかなかった。所詮2択だ。ヤマ勘でも当たるには当たる。だが、此奴の今のセリフ、勘でいった素振りは全くなかった。此奴の特殊能力か。ならば、この手の能力は貴重だ。是非とも欲しい人材ではあるが……)
「なぜ、真紅のオーラが俺のものだとわかった?」
「喜んでお答えいたしますわ。ワタクシの目には特殊な能力があります。生物、無生物に限らず、その存在の真理を見る能力です。その目には主様のお姿がはっきりと…………」
リリスは口を半ば開いてエクスタシーにわなないている様子だ。ショウは目の前の変態に構わず、思考を再開する。
(生物、無生物の真理を見る? そんなふざけたことは俺のスキル《解析》でも不可能だ。もしそれが真実なら貴重なんてもんじゃねぇぞ! 此奴にかかれば、いかなる擬態能力も、全てが丸裸同然なんだからなぁ。それに真理を見れるなら、俺の記憶にかかった靄の先も見えるかもしれねぇ。俺が一体何者なのかもわかるかもしれねぇ)
「それで、お前目には真紅のオーラを纏った俺の姿はどう写った?」
リリスは悪戯っぽく笑いながら、ショウの背中に両腕を絡ませショウの耳元に顔を近づける。
「それは――秘密です」
リリスの声がなまめかしくショウの耳を襲う。周囲の者達はリリスのこの奇行に絶句している。当然だ。ショウでさえも、一瞬思考が完全に停止して、真白となったくらいだ。
(ちっ。配下にしなければ教えねぇという腹か……俺に選択肢はねぇ。俺には知らねばならんことが多すぎる)
「勝手にしろ」
吐き捨てるに言い、抱き付いているリリスをゆっくり離す。勿論気づかっているのではなく、機嫌を損ねられては困るからだ。気に食わないが、今リリスはショウにとって最も必要な魔物だ。少なくとも、ショウの記憶の霧が晴れるまでは――。リリスも残念そうにショウから離れ再び跪く。カルラが射殺す様な視線をリリスに向けるがリリスは気にする様子もない。
話が脱線してしまった。先に進めることにしよう。炎鬼に視線を向ける。
「さっき言った通りだ。俺は中域の怪物の討伐という目的は果たしていねぇ。だから、今回俺の配下になるかはお前らの選択に任せる」
(多分、過去の俺なら問答無用で配下にしていただろうよ。配下を駒としかみていなかったみてぇだからなぁ。だが、俺は昔の田宮翔太じゃねぇ。俺はショウだ。同じ道を歩む必要性を俺は感じねぇ)
炎鬼達はショウのその言葉に考えるまでもなく返答した。
「いえ、配下にしていただきたく存じやす。俺っち達もそこのリリスの姉さんと同じでさぁ。あの戦いを見て貴方に惚れこんだんです。最後までついて行かせてくだせぇ」
オストロスも白猿王も同じらしく強い意思を感じる。
「わかった。よろしく頼む」
ショウは右手を突き出す。これも過去の田宮翔太なら絶対にしなかった事だ。炎鬼達は些か呆気にとられていたが、弾かれた様にショウの右手を取った。
堅い握手を済ませると、炎鬼達から頼み事があった。それは、炎鬼達の部下達も配下に加えてほしいという事だ。ショウの見たところ、炎鬼の部下はこの上なく優秀だ。【才能】という強さのリミットさえ外してやれば、十分使えるようになるだろう。そして、オストロスと白猿王の部下も同様だろう。配下になる事を否定する理由は何もない。
結果的に、炎鬼、オストロス、白猿王、ミクトラン、カルラ、リリスとその部下達がショウの配下になる事が決まった。




