第14話 中域の怪物を討伐するぞ!
男の友情のお話です。お楽しみいただければ幸いです。
ショウは興奮で抑えがたい真紅の覇気を周囲に撒き散らしながら中域の怪物を探す。
本来、戦闘で相手に位置を知られるような行為は自殺志願に等しい。だが今回は二つの理由からそれは当てはまらない。
一つ目の理由は、中域の怪物にショウの位置を知らせるためだ。夜が明けた時点――翔太が起きた時点でショウの負けは確定する。とすれば、その前にさっさと見つけ出して処理しなければならない。
二つ目の理由は、ショウの勘だ。この中域の怪物は絶対小細工はしてこないし、ショウも絶対にしてはいけない。そんな気がするのだ。だから、覇気を発し相手に見せつける。まるで自らの成長を見せつける様に!
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中域の怪物がいる凡その場所はすぐに特定することができた。というか、あまりにも凄まじい覇気で、まだかなり遠いにも関わらず位置は丸わかりだった。
本来魔の森中域は魔物の楽園である。特に夜は様々な強力な魔物が跳梁跋扈する魔窟となる。だが今晩は違っていた。ショウが歩をいくら進めても、魔物一匹たりとも出会いはしない。まるで、今晩の魔の森にはショウと中域の怪物しかいないようであった。
そして、魔の森中域のほぼ中央に当たる場所で、ショウは中域の怪物を目視した。
2mを超える巨躯の男。奇妙な模様が刺繍された黒いズボンに、黒いシャツ、ゆったりとして黒いローブを上から着ており、フードを深くかぶっている。エルドベルグのメインストリートですれ違った男だ。そして、あの説明できない現象をショウに引き起こした奴だ。
中域の怪物はフードを深くかぶっており、顔はよく見えないが、その金髪がその発する圧倒的ともいえる漆黒の覇気に反応してユラユラと揺れ動いている。
いつものショウならばここで、多少の無駄話をするところである。だが、今回それは決してしてはならない。それはこれからの戦いを侮辱する事だ。そうショウの中の何かが叫ぶ。
今のショウはまともな戦闘スキルは、《仙術》しかない。《剣術》スキルも過去には使えたような気もするが、少なくとも今は使用不可能だ。翔太が獲得したスキルや、マンティコアからショウが取得したスキルでは、目の前の中域の怪物には傷一つ負わせることはできないだろう。仙術だけで乗り切るしかあるまい。
《硬気功》、《強気功》、《軽気功》をすべて発動させ、それぞれ【体力】、【筋力】、【反射神経】を500だけ上昇させる。
兎も角も、これで一次的とはいえ、ステータスは8000超えをする。目算ではあるが、中域の怪物は平均8000丁度。これで目の前の怪物よりもステータス上は上になった。その感触がある。
もっとも、ショウにはまともに使えるスキルがない。それを鑑みれば、この程度はハンデにすらなるまい。よくてトントンだ。
さて、もう抑えるは限界だ。これからは、楽しい、楽しい闘争の時間。
ショウは、右足と右拳に氣と力を命一杯溜める。右足で地面を全力で蹴り上げる。
ドゴォッ!
地面が爆ぜ一瞬で周囲に巨大なクレータが形成される。その中をショウは真紅の一筋の光線となり神速で中域の怪物に目がけて疾駆する。
右拳を中域の怪物の顔面に叩き込む。中域の怪物はその右拳を左の掌で軽々と受ける。
ドガァァァァァァ!!
ショウの右拳と中域の怪物の左掌が衝突し、その衝撃で大気はビリビリと震え、生じた衝撃波が周囲の一切を消滅させる。まるで、数百発のミサイルが一か所に直撃したように地面は抉りとられ、その威力の絶大さを物語る。同時にショウを凄まじいスキルラーニングの負荷が襲う。
(な……に? 身体が動かねぇ――)
中域の怪物は口角を吊り上げ、ショウの右拳を左後方へ払い、自身の右拳をショウの正中へ突き出した。
ゴウゥゥゥゥゥ!!
死を体現した中域の怪物の右拳が豪風を巻き起こしながら、ショウに迫る。ショウは重たい身体にむち打ち、それを左掌で受けるとともに、左脚を軸にして体を独楽のように回転させた遠心力のたっぷり乗った右回し蹴りを中域の怪物の頭部に衝突させる。
ドゴオォォォォォォォ!!
爆撃を受けたかのような衝撃音を轟かせて直撃した蹴りにより、中域の怪物は後方に弾丸のような速度で地面を抉りながら吹き飛ばされていく。
ショウはすぐに、地面を蹴り、神速で中域の怪物に迫り、無数の拳を衝突させる。人体急所に加え、頭部、胸部、腹部、右前腕、右上腕、左前腕、左上腕、右大腿、右下腿、左大腿、左下腿に氣をたっぷり込めた拳を霰のように浴びせかける。ショウの拳が無数の弾幕となり中域の怪物の身体を地面に深く縫い付ける。
ドドドドドドドドドドドドッ!
間髪入れず、ショウは右脚を天空高く挙げ、それに命一杯の氣を込め、有りっ丈の力で振り下ろす。
ドゴォォォォォォォォォォォォォンッ!!
ショウの右脚の踵が中域の怪物ごと大地に突き刺さり、大地は絶叫を上げる。地面には巨大な裂け目ができ中域の怪物をその大きな口の中へ誘う。
思ったとおりステータス上はショウの方が僅かに上を言っているようである。能力が近接した者同士ではその僅かが勝敗を決する。このまま畳みかけようと、全身の氣を練り、右拳を強く握り、右脚に力を溜める。そのとき――。
「《無限壊拳》」
静かなゾッとするような声が地面の割れ目から聞こえる。途轍もない力の渦がショウの身体を蹂躙する。スキルラーニングの際の負荷だ。
「ぐっ!」
ショウの全身を多数の毒虫がウゾウゾと這い上がる。そんな悪寒に襲われ、ショウの本能がけたたましく警鐘を鳴らす。
(くそっ! 次に来る攻撃はまともに食らえば即死亡だ)
直ぐに地面を蹴って後方へ移動する。そのショウの感覚は見事に的中する。同時にショウの左半分が吹き飛び、ショウの血肉が花吹雪のように空中に舞い散る。何とか頭と心臓は外せた。地面にドサッと仰向けに倒れる。
七転八倒の痛みに耐えながらも、打開策を考える。だが全く思いつかない。今中域の怪物から攻撃されれば、勝負は一瞬で決する。ショウの敗北として。
だが、中域の怪物はゆっくり地面の割れ目から姿を見せ、首をコキリと動かしたり、腕を回したりして動作の確認をしている。
瀕死と言わぬまでも、一時的な行動不能には追い込めたと思っていた。それが、無傷。おそらく何かのスキルだろう。ステータスで上に行ったくらいでは、トントンにすら持ち込めないらしい。それほど所持するスキルの強さの差は大きいのだろう。
中域の怪物は止めを刺しに来なかった。ショウの傷はもう完全に癒えている。再び戦闘が始まる。しかし……。
その後の戦いはもはや戦いとはとても呼べなかった。ショウの渾身の氣を込めた右拳は軽々と防がれる。練るに練った氣を充満させた蹴りも同様だ。中域の怪物は、まるで子供をあやすがごとくショウの攻撃を受け続けた。先ほどショウを瀕死の傷を負わせたスキルも一向に使う気配がない。もはや、中域の怪物が遊んでいるのは明らかだった。
蹴りを中域の怪物の頸部に叩き込んだとき、足首を掴まれ、地面に叩きつけられる。それも、明らかに手加減されてだ。おそらくこれは絶望的な状況なのだろう。
だが、この一連の状況は、ショウに今までと異なる感覚を呼び起していた。それは懐かしいが決して思い出してはならない感覚。ショウは少しずつ己を取り戻して行く。憤怒と憎悪の化身という己の本質を――。
ショウはのそりと起き上がり、三日月状に口角を吊り上げて、中域の怪物に視線を向ける。中域の怪物に初めて動揺が走る。それは、恐れでは決してなかったけれど……。
ショウは考える。認めるしかあるまい。中域の怪物は今のショウよりも強い。だが、ショウに勝てるかはまた別問題だ。敵を舐めて、戦いを汚すような愚者にはショウは倒せない。ショウもこの戦いをもう楽しまない。大体、なぜ、戦いが楽しみだなどと思っていたのだろうか。もともと、戦いを楽しむような性ではなかったはずだ。ただ、目の前の愚者を殺す。それだけに全てを賭け、全てを捧げる。その魂さえも――。これがショウの本質なはずだ。そして、愚者には一切の慈悲を認めはしない――。
ショウはゆっくり、中域の怪物へ歩を進める。中域の怪物も今まで遊び半分の雰囲気から焼け付く様な覇気を纏う正真正銘の怪物へと変貌を遂げている。
中域の怪物が地面を蹴ってショウに豪風を纏いながらも接近し、鳩尾に右正拳をぶち当てる。
ブシュッ
ショウの鳩尾に中域の怪物の右拳が凄まじい衝撃音を響かせながらめり込んだ。ショウは口から真っ赤な血を吹き出しながらも、ニタリと邪悪に顔を歪め、腹部に深くめり込んでいる右腕に左腕をからませ左手でガッチリ掴む。
「捕まえたぁ」
「っ!!?」
中域の怪物は顔を引き攣らせた。そんな絶好の隙を今のショウが見逃すはずもない。有りっ丈の氣を込め、《雷光》を右肘に纏わせる。そして、《強氣功》と《雷光》を馴染ませる。《強氣功》の限界突破により、《雷光》の能力上昇ドーピングにも限界突破の効果を付与しようという算段だ。成功するかどうかは不明だがやってみる価値はある。
ショウは、右肘を中域の怪物の右腕に振り下ろす。
ゴジャリ!
骨が砕けるおぞましい音が周囲に響き渡り中域の怪物の右上腕部はあらぬ方向へ曲がり、肉が抉れ、骨がむき出しとなる。どうやら成功したようだ。これで、怪物を傷つける事が可能であることがわかった。後は――。
「ちっ!」
中域の怪物は舌打ちをしてショウから離れようとする。だが、まるで縫い付けられているように右腕はショウの腹部から外れない。
「だ~~めぇ。逃がさねぇよぉ~」
ショウは顔一面を狂気に染め上げながら、右掌底を中域の怪物の眉間に打ち当てる。勿論、これに効果がないことは先ほどの攻撃で実証済みだ。だから――。
ショウの氣を込めた掌底が中域の怪物の眉間に衝突すると同時に、《雷光》を右掌底に全力で纏わせた。
バチチチィィィッ!
ショウの右腕は右肘から一瞬で炭化し崩れ落ちる。
「ぐおおおぉぉぉ!!」
ステータスの上昇したショウの腕を一瞬で消し炭にするほどの電撃だ。それを近距離で叩きこまれたのだ。中域の怪物もさすがに無事では済まなかった。顔の左半分から肉の焼けこげる匂いが周囲に漂う。中域の怪物は初めて苦痛で顔を歪めているようだ。
だが、ショウはこれを見てむしろ興ざめしていた。痛がる暇があるなら、敵の喉笛を喰いちぎる方法を考えるべきだ。自らの指が一本たりとも動かなくなるその瞬間まで。それが戦闘というものなのだから。
兎も角も再び、愚者に隙にできた。今のショウの最強の一撃を叩き込むべきだろう。右脚に力を溜め、細胞一つ、一つに氣を染み込ませる。加えて、ショウの真紅の覇気も染み込ませて細胞内で混ぜ合わせる。氣と覇気は水と油。決して本来まじりあう事はない。それをショウはグッチャグチャにかき混ぜ無理やり結合させる。それは徐々に一つの形を形成して行く。そして――。
「《三龍発勁――改》ぃぃ!!」
左脚を軸にして真紅に染まった右脚に遠心力をたっぷりと乗せ中域の怪物へ撃ち付ける。加えて、衝突すると同時に《雷光》を右脚に全力で纏わせた。
ドガガガガガァァァァァァァァァァ!!
中域の怪物の脇腹に右脚の脛が食い込むと同時に、全力で纏った《雷光》の効果により、ショウの膝から下は一瞬で燃え落ち炭となり崩れ落ちる。
中域の怪物は身体をクの字にして、途轍もない速度で吹き飛んでいき、魔の森中域の端――深域の高い壁に衝突する。
ドゴオオオォォォォォォォォォォォォォォ!!!
衝突と同時に、劈くような轟音と、中域全体を揺るがす地響きと、全てを吹き飛ばす衝撃波が周囲を蹂躙する。
全てが終わった後、深域の高い絶壁には深いトンネルのような穴ができていた。おそらく、中域の怪物が衝突してできたトンネルだ。その中に、中域の怪物がいるのは間違いないだろう。
ショウは中域の怪物とは違う。闘いに無駄な感傷はしないし、止めを躊躇ったりはしない。いかに弱き相手であっても遊んだりはしない。
十数秒で傷は完璧に癒える。すぐに、中域の怪物がいると推測される深域の高い絶壁に開いた深いトンネルの中に移動する。勿論、止めを刺すためだ。
中域の怪物はすぐに見つかった。途轍もなく頑丈な身体をしているらしく、まだ息があった。それどころか、あれほどの力を込めた一撃だったにも関わらず、原型をとどめている。さらに、ショウと同様、再生スキルも有するようで、顔の火傷はすでにほぼ癒えていた。もっとも、再生スキルの強さはショウ程ではないのだろう。すでに指先一つ動かない様子だ。勝負は決した。後は殺すだけ。
ショウは中域の怪物へ視線を向ける。中域の怪物の着ていた黒いローブは先ほどの戦闘で消し炭になったらしく、その顔が露わになっていた。
顔の造形はとんでもなく整っており、その闇に輝く金髪と相まってさらにその美しさを引き立てている。美しさだけ言えばフィオン以上かも知れない。だが、鷹の様に鋭く射抜くような目と皮肉に歪んだ表情がフィオンと異なり碌な性格をしていない人物である事を窺わせる。
ショウは右拳に氣を溜め、構えの姿勢から右手の拳を脇の下まで引き息をゆっくり吐いてゆく。勿論止めを刺すためだ。あとは、右拳を神速で突き出すだけでショウは勝利する。しかし、なぜかそれができない。まるで石のように固まって右拳はピクリとも動かせない。
中域の怪物はショウを見上げながら、皮肉に表情を歪めながら薄ら笑いを浮かべている。その他者を過剰に苛立たせる表情にショウは見覚えがあるような気がした。その表情を見たとき何かが堰を切って溢れだしてきそうになった。そんな訳の分からない感情をショウは首を振り必死で振り払う。こんな所で、妄想に取りつかれればそれは即死を意味する。だから、今度こそ殺そうと右拳に力を込める。
頬に熱いものが伝っているのに気付く。そして、それは留めなくショウの目から溢れ出して止まらない。自分自身でも説明できない感情がショウの心に渦を巻き、荒れ狂う。
中域の怪物が呆れた様な声色でただ一言呟いた。
「泣くなよ。餓鬼」




