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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第二部 建国と変貌編
121/285

第15話 中域の怪物


『中域の怪物』は今晩も魔の森中域をさ迷い歩く。怪物の活動時間は主に夜。別に怪物がアンデッドという訳ではない。単に夜に怪物の求める強者がいるかもしれないというだけだ。

 

怪物はこの世界に生まれ出でてから、奇妙な夢を毎日のようにみる。その夢は色も音も感触すらある妙にリアルな夢。


その夢の中で一番怪物の心を揺さぶるのは怪物が自らの為すべき事を為して倒れているシーンだ。すぐに近くに泣きわめく餓鬼がいる。この餓鬼は本当に最悪な奴だった。邪悪にして冷酷、残忍、魂は氷でできていると思われる程無慈悲。だが、そんな最低な餓鬼でも、怪物にとって生涯で唯一の友であり、弟のような存在だったのだ。

そして、この餓鬼は憎たらしいくらい普段感情を表さない奴でもあった。笑顔どころか怒りや憎しみすらも示す事はない。いつも無表情、それでいて身体の中には凄まじい憤怒と憎悪が渦を巻く。そんな奴だった。

それが、大粒の涙を流して号泣している。その事実に目を見張りながらも、『もう泣くなよ』と言おうとしたが身体が重く、口がうまく動かない。

あと一言しか言えない事がわかるが、怪物は口下手だ。何を伝えて良いのかわからない。本当に『泣くな』でよいのかもわかりはしない。だから、ただ一言『じゃあな』と別れの言葉のみ伝えた。力が抜けて行く、徐々に餓鬼の叫び声が遠くなってゆく。そこで、毎回目が覚める。

その後の気分は最悪だ。そして、怪物は毎回思い、願う。もう一度だけでよい。あの餓鬼と逢いたいと。今度こそ、『泣くな』と伝えたいと。ただ強くそれだけを願う。


               ◆

               ◆

               ◆


 そのような夢を生れ落ちてから毎日のように見続けながらも怪物は成長する。怪物はある王国の王族の第一王子として誕生した。

怪物はただただ強かった。周囲には生まれてこの方敵はいなかった。僅か3歳で騎士団長を捻り潰し、SSクラスの冒険者を一撃のもとで悶絶させた。【称号カード】なるものを作ったときも、ステータス欄は出鱈目に高い数値が並ぶ。【称号】も文字化けし、【才能】欄さえも計測不能だ。怪物は次第に自分が普通の人間ではない事を理解していく。

だが、怪物はその事実に悲観はしなかった。怪物の生きる唯一の目的はもう一度あの餓鬼にあう事だけだ。そのためには力はいくらあっても困るものではない。それに、常に強くあれと何かが怪物を強くかきたてるのだ。


そして、遂に怪物にとって最大の転機が訪れる。それは丁度12歳になり、自らの力を隠すため手加減をするくらいの分別を覚えた頃だ。

怪物はいつものように、趣味の読書をするため書庫から持ってきた本を開く。本の中身は真っ白だった。面食らってページをパラパラとめくるが全て真白だ。狐に化かされたような気分を味わいながらも、本を閉じようとする。だが、突如本にゆっくりとした速度で文字が書き込まれていく。慌てて最初のページを見る。そこには、怪物の今後すべき事が事細かに記載されていた。普通の感覚をしていれば、このような気味の悪い本の指示になど従わず、本は暖炉の薪になっていたことであろう。だが、怪物は普通ではなかったし、なによりも、最後のページの最後の行には餓鬼と会うことができるとあったのだ。躊躇する理由は微塵もなかった。怪物はその日の内に行動を起こす。城を抜け出し、強さを得る|《流離さすらい》を開始した。

 

 迷宮、古代都市の遺跡、海底洞窟、龍種と幻獣種のみが住まうとされる秘境等様々な強力な魔物の巣窟がその本には記載されており、その本にまるで導かれるように怪物は行動を起こす。

 

 最初に訪れたのは迷宮都市にある迷宮だった。100層までは楽勝で実につまらなかった。だが、100層を超えた途端急に魔物が強くなった。

生まれてからずっと退屈していた怪物は自らを傷つける存在がいるという事実に歓喜した。それからは只、迷宮の魔物を狩り続けた。階層にいるすべての魔物を狩り続けた。

 魔物が怪物を見て逃げる様になる頃には最終階層まで到達してしまった。そこで待っていたフロアボスは途轍もなく強かった。数本の頭部から火、水、雷、氷、光、闇属性の様々なブレスを吐く。加えて巨大な図体の割にとんでもなく俊敏だった。

 フロアボスをなんとか倒し迷宮を完全制覇したときに怪物は人間種を超えた。


 次が古代都市遺跡だ。ふざけた強さの魔物がゴキブリのようにウジャウジャ湧いて出てきた。迷宮都市の迷宮に住む魔物がスライム程度にしか感じられなくなっていた怪物はさらに戦闘に熱中する。次々に古代都市遺跡に住む守護者たちを屠っていき遂に、最強の守護者までたどり着く。その守護者は口で表現するのもはばかれるようなおぞましい姿をしていた。そして、その強さは桁違いだった。その姿と力はそもそもアースガルズ大陸の生物ではないようにすら思えた。

そして、激闘の末その守護者を倒したとき怪物は生物の限界を超えた。


 海底洞窟はさらに強力な魔物の巣窟だった。しかも、洞窟の中は通常よりも重力がかなり高いらしく、当初は動くのすら困難を極めた。その中で修業を行う内に、身体を動かす事について無駄な動作が怪物から消えた。敵を屠る事だけに特化して戦闘が行われるようになってゆく。

 そして、海底洞窟の最奥に行きつく。そこにはある(ぬし)がいた。その(ぬし)は古代都市遺跡の最強の守護者よりも醜悪であり、強さの桁が違った。怪物は闘いを挑むが、何度も敗北しそうになった。その度に何とか退却し、勝負を挑む。これを繰り返す。

 やっとの事で主に勝利したとき怪物はアースガルズ大陸最強となった。


 神託の本の指し示す最後の龍種と幻獣種の秘境は、一番意味がなかった。なにせ、龍種や幻獣種でさえも怪物を見ると一目散で逃げ出したからだ。

 だが、さすがは神託の本である。龍王との出会いは怪物に新たな道を示すことになる。それは異世界の化物――悪魔の事だ。この世界に敵がいなくなった今、新たな敵を見つけなければならなくなっていた。これは怪物にとって大きな収穫であった。

 

 神託の本は全てを見通していたらしい、怪物は以後、本の導きのままに行動を起こすと、行く先々に悪魔が襲いかかって来た。だが、思ったほど手応えはない。確かに龍種や幻獣種よりはかなり強いと思うが、古代遺跡の守護者や海底洞窟の主と比べれば月と鼈であった。

 怪物の感覚では、古代遺跡の守護者と海底洞窟の主はアースガルズ大陸の生物とはどこか違っていた。さらに、どことなく悪魔に近い存在のような気もした。弱い敵ばかりで退屈な事もあり、怪物は初めて悪魔という存在、古代遺跡の守護者、海底洞窟の主という存在に疑問を持った。


 だが、その疑問も長くは続かない。立ち寄った先の街にある悪魔が出現した。その悪魔は人間に混じって昼食を食べていた。そして、怪物を見るやいなや席を勢いよく立ち上がり、目を大きく見開き、何やら訳が分からない言葉を発した。それに構わず、いつも通り狩ろうとしたが、その悪魔は今までの悪魔とは何もかもが違っていた。怪物は呆気なく敗北をして命からがら逃げだした。

 だが、この事は退屈という言葉を怪物から忘れさせてくれた。再び、海底洞窟へ行き、強力な敵を倒して力を蓄える。


               ◆

               ◆

               ◆


 そして、遂に本の最後の章に来た。そこには、ビフレスト王国、エルドベルグ近隣の魔の森――中域で夜に修行せよと記載されていた。再度疑問がわく。なぜ夜間なのだろうか。それに、なぜ、今更中域なのだろうか。そんな疑問を振り払い怪物は修行を開始する。


 中域の魔物は弱かった。いや弱すぎた。こんな場所では修業にはならない。だが、今更本の神託を疑う程、怪物に道が残されているわけではない。エルドベルグの宿屋キャメロンに泊まり、昼間睡眠をとり、夜間に中域の魔物を狩る。これを繰り返した。

 

 こうして、半年がたったときだった。

 もうじき夜明けも近い。そう考え中域の魔物狩を早々に切り上げ、エルドベルグまで戻って来た。宿泊先の宿屋にむけて、エルドベルグのメインストリートを歩いているとき、ある男に出会う。怪物と比べれば貧弱極まりない体躯に過ぎないが、その男が海底洞窟の(ぬし)程の強さを持つことが本能でわかった。 もっとも、海底洞窟の(ぬし)を強いと感じていたのは遥か昔の話である。今の怪物では相手にもならない。男に興味を失い通り過ぎようとした。

 通り過ぎる際にその男の顔を見たとき、生まれてから今まで経験した事のない感情が怪物を襲った。だが、目の前の男には会った事など一度もないのだ。気のせいだと判断しそのまま通り過ぎる。

 暫らく歩いて、暖かい液体が頬を伝っているのが気づいた。それが涙だと知り怪物は驚愕する。怪物は今まで涙を流したことなど一度もなかったから。

 この不可解な涙なるものについて考えながらも怪物は宿泊先の宿屋へ向かう。


               ◆

               ◆

               ◆


 そして、ついに本の神託の指し示す最後のページの最後の行――運命の日である。怪物は心を躍らせながらも、魔の森中域をさ迷う。

 今度こそあの餓鬼に逢うために。そして、あのとき、言えなかった言葉を今度こそ伝えるために――。



 怪物が中域を目的の強者を求めて歩き始めて暫らくすると、魔の森深域の方から非常識に巨大な覇気が立ち昇るのが見えた。その真紅の覇気は徐々にある形を形成してゆく。すなわち、3つの頭を持つ龍。その龍の覇気が怪物に魂さえ凍えるような視線を向けてくる。

 通常ならばその覇気を一目見れば一目散で宿屋のベッドへ帰り毛布を頭からかぶって震えることだろう。いかなる強者であっても、警戒心を全開にして様子を窺うことだろう。だが、如何せん。怪物は普通ではなかった。むしろ狂喜に身を震わせていたのである。

 だってそうだろう? あんな特殊な覇気をもつものなど、いくら『世界広し』といえ、あの餓鬼以外いやしない。

 やっと、生まれてから常に存在した心の渇きが満たされるかもしれない。そう考え、怪物は心の底から歓喜した。

 だが、夢と同様。友と会うのにもそれなりの儀式が必要なのだ。もっとも、やり過ぎて餓鬼が興奮し、手が付けられなくなる恐れがあるが、そのときはそのときだ。怪物の生きる目的は餓鬼に逢い、あのとき言えなかった事を伝える事だけ。餓鬼に殺されるならむしろ本望だろう。

 そう考え歩を進める。だが、いくら儀式――おままごとの戦闘だとはいえ、久々の餓鬼との勝負だ。自らの覇気を抑えきれなくなる。

 怪物達の覇気を見て魔の森中域の魔物達が一目散で浅域へ避難していくのがわかった。じきに魔の森中域には怪物と餓鬼以外いなくなるだろう。



 さらに歩を進めると、そこには数日前エルドベルグのメインストリートですれ違った奴がいた。偶然とは恐ろしいものだ。すでに逢っていたとは。だが、これで怪物の生きる目的の一つが果された。あとは、一言伝えればもう思い残す事はない。

 餓鬼は怪物の事を覚えてはいなかった。だが、夢を毎日のように見ている怪物でも逢って餓鬼だと気付かなかったのだ。姿かたちがかなり変わってしまった怪物の事をわからなくても無理もない。



 先制したのは餓鬼だった。凄まじい速さで右拳を顔面に叩き込んできた。左手で受ける。それで、今の餓鬼の強さを凡そ把握した。ステータス上は怪物より上。だが、夢では餓鬼は極めて狡猾だった。初めて闘う相手に殴りかかるなど絶対にしない。通常ならスキルや魔法で様子を見て来るところだろう。とすれば、考えられる理由は今使えるスキルが餓鬼にはない。これで間違いあるまい。

怪物には、《不滅の盾(イージス)》というスキルがある。このスキルを発動中は一定の物理攻撃は常に無効となるのだ。具体的には、スキル保持者の【体力】+800以下の攻撃はいかなる攻撃も通じない。怪物の【体力】は7900だ。つまり、筋力8700以下の攻撃はいかなる攻撃も物理攻撃である限り怪物には通じないことになる。餓鬼の今の筋力は先ほどの攻撃から8500以下と推定される。つまり、怪物を倒せる手段が今の餓鬼にはない。


(悪いな、餓鬼。今回は俺の勝だ)


 餓鬼に右正拳を撃つが、餓鬼に呆気なく避けられ、右回し蹴りをくらってしまう。加えて、しこたま殴られた。踵落としのおまけまでもらった。相変わらず無茶苦茶する奴だ。

 久々の強者に嬉しくなる。それが友――餓鬼なのだ。これほど心が躍るものはない。それで、友――餓鬼にとっておきのスキルを見せてやることにする。


「《無限壊拳》」


 このスキルは一定の条件を満たす限り、いかなるものも壊せないものはないというスキルだ。この一定の条件とは、相手の【体力】がスキル使用者の【筋力】+1000未満であることだ。つまり、スキル使用者の【筋力】+1000以上の【体力】があるものには効果がないのだが、怪物の筋力は8008。9008以上の【体力】がない限り効果はある。さらに、神話級(ゴッズ)以下の武器、防具、アイテムは問答無用で破壊できる効果と、距離無効効果がある。中々使えるスキルなわけだ。

 

 《無限壊拳》を使用したはいいが、肝が冷えた。餓鬼の半身が吹き飛んだのだ。殺してしまったかとかなり焦ったが、十数秒で治癒してしまった。おそらく怪物同様《再生》スキルを持つと思われる。もっとも、怪物とはレベルが別次元だが……。

 

 それから、壊さないように気を付けて攻撃を唯受け流していたが、餓鬼の表情から徐々に熱が消え行く。どんどん、無表情になり、遂には能面のようになった。餓鬼がこの手の表情をするときは大抵、心中は憤怒と憎悪が踊り狂っているのだ。この手の顔色をする餓鬼に何度殺されかけた事か……。

 だから、足首をもって地面に叩きつけた。地面は巨大なクレータができたが、餓鬼なら心配はないだろう。

 

 ここからが悪夢の開始であった。餓鬼はノソリと立ち上がり、口角を三日月状に吊り上げる。まるで、怪物を以前圧倒した悪魔のような表情を顔一面に張り付かせる。

 悪い予感が的中した。餓鬼がキレた。相も変らず、キレやすい奴で困る。こうなっては、餓鬼を一時的に戦闘不能にするしか方法がない。

 餓鬼の再生スキルなら怪物の全力も十分耐えられるだろう。そう考え右腕を鳩尾に叩き込む。しかし……。


 餓鬼は口から真っ赤な血を吹き出しながらも、ニタリと邪悪に顔を歪める。それを見て、怪物の心に生まれて初めてともいえる濃い不安が影を落とす。もっとも、夢ではよくあった事なのだが……。

 餓鬼に右腕をガッチリと掴まれた。


「捕まえたぁ」


 地獄の門番でももっとましな声を出すだろうというような声色を響かせ、怪物の右腕は餓鬼の右肘で簡単にへし折られた。《不滅の盾(イージス)》を発動しているにも関わらずだ。電撃を纏っていた事から何かのスキルを発動しているのだろう。そのスキルの発動により、一時的に【筋力】が8700を超えたと思われる。

 まだ怪物には伝える事が残っている。ここで死ぬわけにはいかない。この餓鬼と関わっているとこういう事ばかりで嫌になる。腕を引き抜いて後方へ退き間合いをとろうとしたが、腕が抜けない。


「だ~~めぇ。逃がさねぇよぉ~」


 再び凶悪な笑顔を張り付かせながら、おぞましい声色で怪物に告げる。この餓鬼は全く変わっていない。勝つためならすべてを利用し、自分の命でさえ簡単に投げ捨てる。この餓鬼のこういう所が怪物は大嫌いだった。

 引き離そうとスキルを発動させようとするが、その前に顔面に掌底を貰う。久々ともいえる痛みが怪物を襲う。


「《三龍発勁――改》ぃぃ!!」


 続いて、餓鬼のこの言葉を聞くと同時に、怪物の脇腹に凄まじい衝撃が生じ、怪物の身体は空中を弾道ミサイルのような速さで飛んでいき、深域の壁に叩きつけられた。


               ◆

               ◆

               ◆


 怪物が餓鬼に吹き飛ばされた先は闇の中だった。多分深域の崖の中だと思われる。

 起き上がろうとするが、指一本動かない。怪物の《再生》スキルでは、動けるようになるまで十数分かかりそうだ。指を銜えてみている餓鬼でもないだろう。怪物の冒険もここまでのようだ。

 だが怪物には不思議と悔いはない。思い返してみれば、怪物は常に餓鬼に逢うためだけにこの世界を生きてきた。それを果たしたのだ。

 確かに、餓鬼にあのとき伝えそこなった言葉を伝えたい。それだけのために今まで生きて来たのだから。実際ついさっきまで、餓鬼に殺される前に伝えようと思っていた。だが、本当に伝えて良いのだろうか。それを伝えて変に夢の事実を思い出し餓鬼が苦しみはしないか。仮に思い出せば餓鬼は確実に苦しむだろう。

餓鬼は天邪鬼だ。表面と内面が全く一致していない。いつも強がってはいるが、どれほど心が細いかは十分理解している。怪物を殺した後で夢の事実を思いだせば、せいせいするとかいいながら、しっかり死ぬまで傷つく奴だ。はっきりとは覚えていないが、過去に仲間が死んだときもそうだったような気がする。いつも強がって憎たらしいほど表情を崩さない。だが、その目には常に自責の念があった。

 唯一表面と内面が一致したのを見たのはあの怪物が死んだときだけだ。

…………ああそうか。だから、あの言葉を怪物は伝えたかったのだ。天邪鬼な餓鬼が素直になった唯一ともいえる瞬間だったから。だって、そんなのあんまりだろう? 唯一素直になった瞬間が、悲しくて泣いた瞬間など。だから、不器用な親友にこれ以上泣いて欲しくはなかったのだ。ただ素直に笑ってもらいたかったのだ。だから、怪物は――。


 すぐに餓鬼が怪物の前に現れた。案の定、餓鬼は直ぐに怪物を殺そうとする。だが意外にも何時まで経っても死は訪れない。

 そこで気づく。餓鬼の目から涙が溢れていることに――。

 全くこの餓鬼は無自覚で素直じゃない。殺そうとしている者の前で泣く等、表面と内面が一致していないにも程がある。もう怪物がかける言葉一つだけだ。


「泣くなよ。餓鬼」


 そこで、怪物は生まれてからずっと伝えたかった言葉を餓鬼に伝えた。



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