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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第二部 建国と変貌編
118/285

第12話 エルドベルグの支部長に恩を売りに行くぞ

 ショウは夢を見ていた。それは色、音、触感さえある妙にリアルな夢。懐かしいが二度と思い出したくはない夢。ショウが屑中の屑だったときの夢。


 ショウは旅をしていた。目的は強くなるため。あの糞ッたれな奴らにこの世の地獄を見せるために! 

 身に宿る憤怒と憎悪で頭が熱く腫れ上がるように痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。

 その頭の痛みのままに、目につくモノは全て殺し、壊した。闘いを挑んでくるものも、仲間を庇おうとする者も、慈悲を求めるものも全て平等に殺し、壊した。

 そんな日々を過ごすうちに、頭の痛みは増していく。一方で、妙に冷静にもなっていった。

 もう、前のように目につくモノを殺し、壊したりはしない。ただショウに歯向かう愚か者のみをターゲットにするようになっていった。別に倫理観に目覚めたなどという唾を吐きかけたくなるような事が理由ではない。ただ、歯向かってくる愚者のみを殺した方がより効率が良い事に気が付いたからだ。殺し尽くせば、情報が周囲に広まらず、強者が湧いてこない。それに気づいたからだ。

 その日も同様に、歯向かってくる愚か者を平等に殺し、壊していた。今回のショウに歯向かう愚か者は、奴隷商の屑共だった。とは言え、ショウよりは屑ではなかったわけであるが。街にいた数百匹の愚か者を殺し、壊し尽くし最後の一匹となったとき、その奴隷商の親玉はある奴隷の餓鬼の兄妹を人質にとり命乞いを始めた。どうやら、奴隷の解放運動でもしていると勘違いしたのだろう。

勿論、兄妹がどうなろうと知った事がないショウはその奴隷商を殺し、壊そうとした。奴隷商は恐怖で狂乱し、その妹の前で兄を殺す。その奴隷商の親玉を殺し、壊した後、その妹がショウを見ているのに気付く。殺し、壊そうと思い手を振り上げ、その妹を見る。その妹目の中にあるものはショウが今抱いているものとそっくりだった。急に興味が出て殺すのを止める。いつか強くなってショウを殺しに来るかもしれないから。

 奴隷商が住んでいた豚小屋を立ち去ろうとするが、その妹はショウの後を付いて来る。目の中にショウと同様の色を宿しながら。ただ、付いて来る。どこまでも…………。


               ◆

               ◆

               ◆



 意識が徐々にはっきりしてゆく。宿屋キャメロンの翔太の部屋の天井の木目が見える。気分は最悪だ。酷い夢をずっと見ていたらしい。しかも、その悪夢があまりにもリアルすぎるというオマケ付きだ。

 もっとも、夢の内容は100%ショウの記憶にはない事だ。まるで見知らぬ人物の中にショウの魂が入り経験した。そんな錯覚さえ覚える夢だった。昨日の不思議な夢もショウの記憶には欠片もなかった。なぜこのような夢を見たのかを考えるが、切っ掛けすらつかめない。

 頭を左右に振って気持ちを切り替える。これ以上考えても時間の無駄だろう。


(翔太のやつ、今日はやけに早く寝やがったなぁ。……デリックに命じられたのか。俺をお呼びという訳か。面倒くせぇ。このままバックレるか? 

 いや、中域の鬼と猿と犬は中々根性がありそうだ。色々裏技使えば、少なくとも根性なしの翔太よりは使えるようになんだろ。

 なんせ、俺の敵はあのベルゼブブだ。使える駒は多い事にこしたことはねぇ)


 ベッドから身体を起し、黒いズボンに身体に密着する黒いシャツに着替え、その上からローブを身に着ける。次いで黒刀に手を伸ばす。だが、ショウの伸ばした手が震え出す――。


(ふ、ふ、ふざけんなよ。あの野郎ぉぉぉ~~~~!! なんちゅうもん作りやがる――。

 【憤怒(サタン)】だと? 『大罪系』の兵器(ウエポン)じゃあねぇか!! ……大方あの野郎は、【超越級(トランセンデンス)レベル4】とでも思ってんだろ。まあ、事実ではあるしなぁ。だが本質じゃあねぇ。これはいわば、卵の状態だ。まだ大した力もねぇが、もし……)


 ショウは思わず身を震わせる。ショウも翔太の頭のネジが緩いのはわかっていた。だが、ここまでぶっ飛んでいるとも思わなかったのだ。これでは翔太の頭にネジがあるのかさえ疑わしい。

 阿呆のなした事で一々動揺するのも馬鹿馬鹿しい。気を取り直して、自分自信に《解析》スキルを発動させる。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――

ステータス   ショウタ タミヤ

レベル         81

才能         ――

体力        7920

筋力        7943

反射神経      7958

魔力        7889

魔力の強さ     7901

知能        7933

EXP  7400/1550000

―――――――――――――――――――――――――――――――――――


(やっぱりな。本来、《武器能力上昇限界突破》のスキルでも取得していねぇと、5000以上は武器による能力上昇はねぇはずだ。だが、俺のステータスは才能以外全て、5000以上なのにも関わらず1500増えている。大罪系兵器(ウエポン)の恩恵というわけか。これでまだ卵の段階だっていうんだからなぁ。

それにしても、一応この兵器(ウエポン)も俺を持ち主と認めたわけか。あんな、日和見馬鹿野郎と一緒にされるのは若干癪に障るが、これでベルゼブブとステータス上は同等クラスになったはずだ。今回は感謝でもしておくか)


 【憤怒(サタン)】の鞘を腰につけた刀装着用の専用ベルトに装着する。翔太はメガネをかけたまま寝たらしい。溜息を軽くつき、メガネを外し、ポケットにしまい、紐で髪を縛る。これで準備は完了した。部屋を出て鍵を閉め、キャメロンの1階に行く。


 キャメロン一階の食堂で夕食を食べている冒険者共の視線がショウに集まるのを感じる。鬱陶しいので、威圧すると皆慌てて目を逸らした。

 外に出ると、もうすっかり薄暗くなっており、眩い月と星の光があたりを照らしている。雲一つない晴天なのだろう。

 夢でも同じような風景を見た気がする。柄にもなく感傷に浸りながらも、メインストリートまでの道を行く。

 面倒な奴が向こうからやって来る。ショウに与えられている時間は限られている。これ以上トリケラトプス女に関わって時間を無駄にするのは御免被る。だから、目も合わせず通り過ぎるとしよう。

 面倒な奴の隣を通り過ぎようとすると案の定、声を掛けられる。


「ショウ、良かった。やっと会えた」


 ショウは面倒そうに肩越しに振り返り、面倒な奴――フローラに視線を向ける。


「俺に何か用か?」


 ショウの突き放したような言葉と声色にフローラは一瞬泣きそうな顔になるが、直ぐに誰が見ても作り笑いと分かる笑みを浮かべる。

 

「この前の礼を言いたくて。それとこの前、ヴァージルと……」


 言葉が徐々に小さくなり、終いには消えてしまった。相変わらず鬱陶しい奴だ。


「…………」


 この女と関わるべき理由は既にない。ショウはもう構わず歩を進める。

しかし、フローラは無言でただショウの後をついてくる。


(ちっ! マジでめんどくせぇ奴に目をつけられたもんだ)


               ◆

               ◆

               ◆


 ついにギルドハウス前に着く。ギルド前にはアドルフと、意外な事に優男チェスまでいた。ショウはアドルフに右手を軽く挙げる。


「よう。アドルフ」


「ああ、よろしく頼む」


 アドルフも軽く頭を下げる。その様子を複雑な表情で見るチェス。


「チェス。テメエまでなぜいる?」


「アドルフの兄さんにショウちゃんに鍛えてもらっているって聞いて僕もお願いできないかと――」


「いやだね。他を当たりな」


 チェスは断られる事を予想していたのかあまりショックを受けた様子はない。それどころか、さらに曇りだらけの嫌な笑みを増してゆく。また、億劫な事態になりそうである。


「まあ、まあ、そう言わずに。僕を部下にすれば役立つと思うよ」


 アドルフがショウの配下になった事はアドルフ本人から聞いたと思われる。だが、通常、フローラのようにアドルフを止める事はあれ、態々自ら部下になろうとは思わないだろう。

 兎も角、チェスの意図が全く読めない。アドルフは悪魔共に仲間が殺されたという事情があった。これに対しチェスにはそれがない。ショウの部下になる理由が何もないのだ。流石にブレインの構成員という事はないであろうが、思考が全く読めないものを部下にする程、阿呆ではない。


「部下だぁ? なぜ、俺がテメエを部下にしなければならねぇ」


「いえねぇ。僕もアドルフの兄さんと同様、ショウちゃんの行きつく先が見てみたくてさ。

 あとは純粋に強くなりたいからかな。僕弱すぎるし。今回のオーク騒動でそれを嫌というほど思い知ったのさぁ。そんなところで駄目?」


「駄目だ。それだけで部下になど普通なんねぇだろ。テメエの目的は何だ?」


 ショウも面倒な女と鬱陶しい男に絡まれて機嫌が徐々に最悪に向かって行く。


 ショウの問いに初めてチェスが困ったような表情を浮かべた。


「本当に目的はないんだけどな。強くなりたいのとショウちゃんが辿り着いた先を傍で見てみたいというのは本当さ」


 チェスが真剣な表情でショウを見つめる。チェスが戦闘以外でこのような表情をした事は翔太の記憶から判断しても、今まで見たことがない。もしかしたら、チェスのこの言葉自体には嘘はないのかもしれない。そこで、チェスがショウの部下になる事のメリットを考えてみる事にする。

 まず、チェスがブレインの関係者である事があり得る。先のオーク戦で陰謀を捻り潰した中心人物である翔太を監視するためだ。だが、チェスはオーク戦殲滅戦では、メガラニカで防衛の陣頭指揮を執っており、ヘクターと協力してメガラニカから市民を非難させている。

 仮に、ブレインや悪魔の関係者ならばメガラニカから市民を逃がすような行動に協力はしないだろう。しかも、デリックと共に行動していたことから、ラシェルの行動を把握していたと推測される。仮にブレインの関係者ならば、あのピックとかいう豚貴族にラシェルの居場所を伝えたはずだ。加えて、SSクラスの冒険者であり、富、名声、財力もあるチェスがブレインなどの組織に加担するメリットも限りなく低い。

 次がデリック等の冒険者ギルドの幹部にショウを監視するように命じられたことがありうる。これが実際には一番確率が高い。だが、これは別にショウにとってダメージがない。冒険者ギルドはブレインからラシェルを保護することを目的としている。要はショウと目的は同じなのだ。そのギルドに監視されようがショウには何も痛まない。

 チェスがビフレスト王国の間者である可能性もなくはないが、これもビフレスト王国がラシェルの保護を目的とすることから、ショウが痛まないのは同じだ。

つまり、どの角度からみてもチェスが部下になってショウが困る事はないに等しいのだ。


(良く分からん奴だ。妙に気が付く奴だし、情報収取など使えるは確かだろう。これっぽっちも信用はできねぇが。少し様子を見てみるか。裏切りそうなら殺せば良い。

 しかし……成り行きとは言え、フローラやロニーを助け、こんな得体のしれん奴を部下にしようとする。俺は一体どうしちまったんだ?)


「チェス。勝手にしな。だが、おかしな態度をとればすぐに殺す」


「OK! ありがとう~~恩に切るさぁ~」


 フローラは同じSSクラスの冒険者のアドルフに加えてチェスまでショウの部下になると聞き、混乱の極致にあるのだろう。終始、ブツブツと何やら呟いていた。壮絶に気持ちが悪い。放っておこう。

 気を取り直してショウはギルドハウスの建物内へ入っていく。

 ギルドハウス内に入ると、冒険者達の好奇心の目が一転にショウ達に集まる。SSクラスが3人も一緒に歩いているのだ。何か大事があったと思うのも当然かもしれない。キャメロンと同様に冒険者達を威圧し視線をショウ達から外させる。

 受付はネリーと男性の職員が担当していた。時間も時間だけあってガラガラだ。ヴァージルがいないのは、デリックがショウに気を使った結果であろう。ヴァージルは翔太の事になると勘が鋭い。柚希、日葵、雪の中から日葵を大切な人と言い当てたことからも明らかである。加えて、翔太の素顔を一度見ている。ほぼ確実に今のショウと翔太を同一人物と言い当てる。そうなれば、何かとややこしいし、ショウが今後動き辛くなる。だから、デリックにはショウとヴァージルを合わせないように取り計れと告げてある。

 ネリーの傍までいく。


「ショウだ。デリックに会いたい。取り次げ」


「は、はい。支部長から言付かっています」


 ネリーはショウを見て頬を赤く染めながらも支部長室へ案内してくれる。

そんなネリーとショウのやり取りを視界に入れフローラは膨れっ面でぷいっとそっぽを向くが、放っておくことにする。

 大体、フローラはいつまで付いて来るつもりなのだろうか。まあ、フローラは口調こそ大人びているが中身は餓鬼だ。餓鬼は飽きたら勝手に帰るだろう。そう考え思考からフローラを排除する。

 支部長室に入り応接間に行く。デリックはネリーに下がる様に指示する。同様の状況ではデリックに付き従うのが通常であるのだろう。ネリーは意外な顔をしながらもその指示に従い部屋を出て行った。

 デリックに進められると同時にソファーに腰をかけた。


「よく来たな。ショウ。しかし……見た顔があるんだが」


 デリックに非難の視線を向けられ、チェスが思わず目を逸らし、口笛を吹くが失敗する。ヒューヒューと空気が吹き抜ける音しかしない。此奴は本当にこの世界の住人なのだろうか。20世紀後半の日本から召喚されたと言ってもショウは全く驚かない。


「新米一名と、鬱陶しい狗一匹だ。気にするな!」


 狗扱いされたことにフローラが非難の籠った視線を向けてくるが、スルースキルを発動させる。


「まあいい。ギルドからお前に頼みたい事がある」


 回りくどい事を一切言わずに、単刀直入に言うデリックのおかげで多少ショウのイライラも治まって来た。


「魔の森――中域の怪物の討伐だろう。構わねぇぜ。この借りはいつかキッチリ返してもらう」


 ショウがすんなり引き受けた事が意外なのか。デリックは目を丸くしていた。


「恩に着る。正直、お前をどうやって説得しようと思っていたところだ。これで一息つける」


「まだ、討伐どころか。中域の怪物が何なのかも分かっちゃあいねぇんだ。一息つくんじゃねぇよ」


「違いないな。だが、すんなり引き受けたんだ。勝算はあるんだろ?」


「ああ、今なら魔神クラスが出てきてもどうにかドンパチできんぜ」


(まあ、勝てるかどうかは別問題だがなぁ。あくまで、勝負の土俵に乗ったに過ぎねぇ。なんせ、俺が持つスキルは弱すぎる。まだ勝てはしねぇな……)


 デリックもショウのこの言葉に胸を撫で下ろしていた。記憶では昼間、翔太にかなり脅かされたらしい。再び、メガラニカのようにエルドベルグが戦場になる事に強い危機感を覚えていたのだろう。


「そうか。それは良かった。今日の15時から冒険者の魔の森の立ち入りを禁止した。どれくらいで解除できる?」


「ん~、配下共の修行もある。無駄な時間は使えねぇ。今晩中に片ぁつけるつもりだ」


 デリックは配下という言葉を聞いて、アドルフとチェスに意味深げな視線を送る。アドルフは全く動揺すらしなかったが、チェスは少々気まずそうだった。

 デリックに恩もたっぷり売れた。後は中域のケダモノ達をショウ陣営に抱き込みに行くべきだ。もう話す事もなかろう。席を立ち上がる。

 チェスはデリックに残るように告げられ、助けてくれるようショウに視線を向けてきたが当然無視する。新たな組織に入る上での人間関係の清算は自分で済ませるべきだ。そもそもショウが口を出す事ではない。

 そのままショウ達は支部長室を後にした。



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