第6話 新たな冒険の始まり
城門前には、フィオンとレイナ、そしてディートがいた。
「そういえば、さっき聞き忘れていたが、ディートはどうするんだ? どう考えても今のディートには魔の森――深域は危険だと思うんだが……」
フィオンが戸惑いがちに翔太に尋ねる。レイナは顔を悲しげに曇らせながら、すまなそうにしているディートの咽喉を優しく撫でている。仮に今回の冒険でディートがパーティーからはずれるとしたら、レイナにとって、ディートと一緒に冒険をしない初めての経験となる。だからこれほどレイナは悲しそうにしているのだろう。
だが、心配はいらない。ディートについても問題は昨日の内に解決済みだ。
「うん。それも考えているよ。ディートに【超越級】を作っても使えるかどうか不明だしさ。それでとても良い事思いついたんだ」
「良いこと? お、おい、まさか――」
翔太が悪い笑顔を顔一面に張り付かせる。フィオンが頬を引き攣らせた。凡その想像がついたらしい。
ディートが一目散で逃げようとするのでレイナに頼んで抑え込んでもらう。レイナは事態が飲み込めないのかキョトンとしながらも、ディートを片腕で軽々と抑え込む。
「ジズさん! お願いします」
翔太の呼びかけに眩い光が当たり一面が埋め尽くす。
一柱の非常識なほど眉目秀麗な美しい少女が扇子を片手に持ちつつも佇んでいる。その少女は歳の頃はレイナとさほど変わりはしないだろう。紅色の和服に赤い髪に刺している真っ赤な簪。その外観は時代劇に出てくるお姫様を翔太に連想させる。
彼女は昨日紹介された近衛師団長ベヒモスの副官だ。
赤一色の少女――ジズは片膝をついて翔太に臣下の礼をとる。
ジズを見てフィオンは全身から冷たい汗を滝の様に流し、ディートは観念したのか子犬のようになってしまった。
一方、レイナはジズを見て満面の笑みを浮かべている。テューポにも懐いていたし、レイナは『七つの迷宮』の住人にいたくご執心のようだ。
城門をくぐってエルドベルグ城内に入る人々のほとんどが翔太とジズに奇異の視線を向けている。明らかにお姫様のような外観のジズがどんな角度からみても庶民にしか見えない翔太に臣下の礼をとっていれば、そんな視線を向けるのも無理はないと言えよう。
「我が主! この度は妾を呼んでいただき、これに勝る喜びはありませ――」
「ジ、ジズさん。僕が昨日頼んでいた事お願いできますか?」
ジズの言葉が最後まで紡がれる前に何とか遮り用件をいう。冷遇されたことは、地球でもこの世界でも散々経験がある。だが、このように敬われるのには全く慣れていないし、性にも合わない。
「もちろんです。それではディート様、失礼いたします」
そういうと、ジズは紅の粒子となりディートの身体一面を覆う。紅の光が辺り一面を埋め尽す。徐々に赤色の光は薄れていき、真っ赤な美しい毛並をもつ一匹の狼が佇んでいた。
あまりの美しさに、レイナが『わぁ~~』と歓声を上げる。
これは昨日、『七つの迷宮』の7階層を訪れた際に、駄目元でテューポに相談したときに提案された事だ。
ベヒモスの副官――ジズは全ての物質への憑依を可能とするスキルを持っている。このスキルを使えば、憑依した者をジズの意のままに操る事も可能であるし、逆に今回のディートのように憑依された者の意思を奪わずに力のみを与える事も可能となる。要は神憑りのようなものだろう。
例のごとく、発動を認識してしまった翔太は《憑依》のスキルをラーニングする。凄まじい負荷が翔太を襲う。だがこれも当初の予想の範疇だ。
《憑依》のスキルは決して自ら使おうとは思わない。テューポがいうには《憑依》は高度精神生命体しか使用ができないらしい。精神生命体でもない翔太が使ったら、碌な事にならないと明確に予想できるからだ。
ではなぜ、態々スキルをラーニングしたのかというと、スキルの進化のための生贄にしようと考えたからだ。進化に使える可能性がある以上、強力な特殊スキルはあって困るものではない。
翔太は改めて《解析》スキルで、パーティーメンバーのステータスを見る。
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ステータス フィオン・ダブリン・ヤルンヴィド
レベル 50
才能 50
体力 642
筋力 643
反射神経 545
魔力 0
魔力の強さ 0
知能 20
EXP 12389/200000
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(フィオンのステータスを見たのは初めてかもしれない。これ、人間種では最強クラスだよね。
スキルも見たいけど……止めておこう。レイナとフィオンのステータスはあらかじめ自己申告がある。だから勝手に見てもさほどの問題はない。だけどスキルは奥の手だといつかフィオンが言っていた。その奥の手を覗き見することはフィオンの信頼を裏切る行為だろう。後で、やんわりフィオンの口から聞き出す事にしよう)
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ステータス レイナ・シンクレア・ヤルンヴィド
レベル 1
才能 500
体力 1502
筋力 1504
反射神経 1505
魔力 1001
魔力の強さ 1002
知能 1003
EXP 0/10
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(改めてみると、凄まじいステータス値だよね。人外になったフィオンの2倍以上もあるし。これでレベルまで上がったら……手が付けられなくなるな……もうレイナをからかうのは止めよう。殺される――)
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ステータス ディートバルト
レベル 40
才能 100
体力 2504
筋力 2899
反射神経 3007
魔力 2201
魔力の強さ 2302
知能 2403
EXP 38654/110000
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(…………み、見なかった事にしよう。そうしよう。テューポさん! 力を貸すだけの憑依ではジズさんの能力は二、三段階落ちるって言ってたよね。ジズさん、どんだけ強いのよ。
……今度、テューポさん達も《解析》を使う必要があるかも。見るのはとんでもなく怖いけど――)
あまりにも途轍もない戦力に身を震わせる翔太。そんな翔太を見て不思議な顔をしているフィオンにこの戦力について伝えようかとも思った。だが、これ以上フィオンの心労をかけたくない。これ以上心労をかければ冗談なく、ストレスで毛が薄くなりそうだ……。
気を取り直して、フィオンとレイナ、ディートに視線を向ける。二人と一匹は真剣な顔で頷いた。
門をくぐるとアルが欠伸をしていた。
「アルさん。お勤めご苦労様です」
翔太が声をかけると、アルはいつものような爽やかな笑顔を翔太達に向けてくる。
「おお、ショウタ。なんだ、反抗期はもう終わったのか! 随分と早い卒業だな!」
そんな意味不明な事を口走りながら、背中をバンバンと叩かれた。いくつもの疑問符が宙に舞っている翔太をよそに、フィオンとアルが肩を叩きあい挨拶をしていた。
「ショウタ、反抗期だったの?」
レイナが好奇心旺盛な目で翔太を見つめる。今のレイナは目の前に新鮮な魚をぶら下げられた腹を空かした猫のようだ。しつこく、『反抗期』について聞いて来る。
「さあ……」
翔太は肩を竦めていると、フィオンとアルの挨拶は終了したらしい。アルに暫しの別れを告げ、城門を通り過ぎる。
翔太達が城門を出ると、申し合せたように風が吹き翔太達の旅立ちを出迎える。
そして、三人と一匹の冒険が再び始まる。




